メモライズド〜忘却〜
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月16日〜08月21日
リプレイ公開日:2007年08月17日
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●オープニング
●忘却の使者――。
セルナー領からある特命を受けた使者がメイディアにやってきた。
しかしここに来る途中で何者かに強襲を受け、彼は深く傷付いて息も絶え絶えの状態。
しかも重傷を負っただけでなく、彼は重要な言伝の記憶と文書を『消されて』いた。
それは意識を取り戻した後に彼が証言している時に判明したもので、途中の記憶がばっさりと抜け落ちていたのだ。
戦闘による一時的なショック症状のひとつかも知れないがこの世界には――忘却の魔法という、呪いにも似た作用を持つ魔法が存在するらしい。実際にあるのかはわからないが、とにかく今現実に彼が記憶を失っている事は間違いない。
どんな内容だったのかを思い出せないでいる彼は苦悩し、使者としての不甲斐なさを恥じた。
しかしどんなに悔やんでも自力で記憶を取り戻す事は、この傷付いた体では難しい。
どうすればいいか、正直彼もわからないような状態だ。
今回は記憶を失った使者の体力を回復させ、セルナー領に返してあげる事と同時に特命を受けなおす事が出来るなら受ける、というものだ。
彼の記憶は戻らないままだが、特命と共に公文書などを『記憶を奪った』者に奪われている可能性もあり、場合によっては奪還作戦へとシフトする可能性もある。
また、途中で戦闘があったという事は、その現場を再度見直させれば(ショック症状であれば)記憶の一部が戻る可能性もある。
●奪われた記憶を取り戻す為に出来ること。
実はここで新たな情報が得られた。実はこのセルナーからの使いは二名の早馬でやって来ていたというのだ。
ところがそのうちの一人は強襲にあい、それから姿を消してしまっていた。乱闘の最中に殺されてしまったのかも知れないし、逃げ帰ったのかもしれないし、別のルートでメイディアへと移動しているかも知れない。
だがどちらにせよ、現時点ではメイディアには到着していない。
傷付いた彼に事情を話し、送り返す事を急務とするが、彼は一体何に襲われ、どうして記憶を失ったのだろうか。
●鮮血の魔女、再び。
記憶を奪う魔法が(もし本当に)あるのならば、その記憶を呼び覚ます魔法もあるのではないか?
そう考えた学者の見解から、それを得意とするとある魔法使いの名前が浮かび上がった。
永遠の若さを欲し、その研究の中で『命と時間』に関する知識を幅広く収集していた双子の魔女だ。
だが、その魔女は死んだ筈だ。まさか血を取り込んだ何か別の力によって、死の淵から生き返ったのだろうか?
いや、違う。
――『そちら』の魔女ではない。
双子の魔女の生き残り。
彼女を探し出し、失われた記憶を取り戻す術を教わるという方法は賛否両論あったものの、ひとつの案として浮上していた。
彼女の持つ、精霊魔法の力。超越の『リシーブメモリー』がこの事件の謎を解き明かす鍵になるのではないかと踏んだのだ。
メイディアに月一程度で現れるという魔女。
既に隠遁として街に姿を現さないと思われていた彼女だが、先日の事件をきっかけに、再び人前に姿を見せていたのである。
しかも以前よりも明るい表情で。
全てのしがらみを断ち切れた訳ではないだろうが、今の彼女はあの村人たちに恐れられていた『魔女』ではなくなっていた。
以前関わった者でもすぐにはわからない位、さっぱりと垢抜けた雰囲気の為、当時の双子の魔女を知っていても恐らく気付かない可能性もある。
そして、丁度この日。
メイディアに買出しに来ていた彼女を発見したという情報が飛び込んできた。
魔女の力を借りるか、否か。
そして使者が襲われた理由は、奪われた記憶と或いは――文書は、どこにどのように持ち去られたのか。
事件の謎を解く鍵は、戦乱の世を照らす光になるだろうか?
●リプレイ本文
●手探りから始まるものがたり
状況は実に切迫していた。しかし一番大事な部分がすっぽりと抜け落ちている。
そんなどうしようもない状態からのスタートを余儀なくされた冒険者たち。
しかし手の打ちようが無い、という訳ではなかった。やれる事は、必ずあるはずだ。
「記憶喪失かぁ‥‥何が原因なんだろね」
フォーリィ・クライト(eb0754)は医師でもある月下部 有里(eb4494)と共に使者の容態を診る為病院へと向かった。
「容態を把握しておくのが大事よね。まず、現状がどの程度のものかを実際に把握しておく必要があるわ」
更なる治療が必要であるなら、或いは安静にしなければならないのならどの程度の期間が必要なのか、とにかく診ないことには判断の仕様がないと考えたからだ。
しかし、使者の眠る病室に入室した二人は思った以上の酷い怪我の具合を見て、言葉を失ってしまう。
担当医によると、激しい痛みを訴えながら悶絶し、何日も眠れずに叫び声にも似た苦悶の声をあげていたらしい。
それでも奇跡的に彼は生きていた。今は眠ってはいるが、また目覚めたら――その痛みに苦しむ姿は想像に難しくない。
フォーリィはもちろん月下部でさえも、これでよく生きていられたものだと思うほどの容態だったのである。
片目を失い、片腕は肘あたりから失われていた。出血多量でショック死していてもおかしくないような惨状だったのだ。
「相当の数がこの使者さんを襲ったと見ていいね」
「ええ、これは‥‥見ただけでも波状の切断面や円錐上の突起物の打撲痕、背中の方も見てみないとわからないけど、少なくとも四人程度は直接彼を狙っていたみたい。ただ、不思議なのは多分、全員違う武器を持っていたという事」
「全員が違う武器を持っていた? となると、賊の仕業なのかな」
一方、魔女を探す担当に回ったのはグレナム・ファルゲン(eb4322)だ。フィリッパ・オーギュスト(eb1004)もその情報や特徴を聞きながら似顔絵を描く事でそれに協力する。
魔女のよく行くという買い付け先を聞いて回り、更に最近彼女がよく来る店や定期的に来るならメイディアの門番がその顔を覚えているだろうという事で各々詳しい話を聞くことにしたのだが、少々気がかりな事がある。
確かに、いや、恐らくその彼女は『魔女』には違いないのだが、来るたびに若返っているように感じるという。
だから、はじめ見た印象と最近の印象ではまるで違うように思えるらしい。これはよく彼女が利用する店の店員、店主なども同じような返答をしている事から気のせい、というだけで終わらせられない妙な情報だった。
とはいえ、いくらファンタジックな世界であるここアトランティスの地においても、実際に若返る事などは物理的に不可能である。
――が、あの伝説の魔女の事、何かしらの仕掛けがあるのかも知れない。
しかし魔女はグレナムたちが訪れる少し前に入れ違いで買い物を終えたらしい。二人は門番に魔女らしき人物が街を出たかどうかを尋ねるが、まだ見かけていないらしかった。
グレナムはもし見かけたら冒険者ギルドの者が探しているので、ギルドに立ち寄って欲しいという伝言を残し出来るだけ引き止めてもらいたい旨をお願いする事になった。
「店の方には伝えているが、さて、今度はどこを当たろうか」
●使者の詳細と魔女の行方。
使者の情報であれば王宮側に問い合わせれば明らかになるのではないかと考えたのはベアトリーセ・メーベルト(ec1201)だった。
連絡手段を講じることが出来ないかを確かめにメリル・スカルラッティ(ec2869)も彼女について行く事にした。
そこでは重傷を負った彼に関する情報が、ようやく少しずつだが、明らかになってきたのである。
使者である彼はセルナー領でもう七年ほど使者を務めている男で、名前はセトテというらしい。年齢は二十二歳。
若いがかなりの経験を持ち、信頼もある。今回は彼の能力の高さから信頼を得て使者に任命され出されたのではないかという答えが返って来た。
「使者としてとても優秀な方のようですね。そして、セトテさんもその仕事に自信を持っていた筈。今回こんな事になって、きっとショックを受けているでしょうね」
だが残念な事に、今回遣されたというもう一人の方は身元が確認されていない為、メイディアではわからないという。
それでも、何一つ情報を得られなかった訳では無い。
「二十二歳で重要な任務を任されているって事は、相当頑張ったんだね」
「そうね、単純に考えると十五の頃から使者を務めている事になるわ」
元々使者を務めていた家の息子だったのだろうか? かなり若い時から経験を積んでいたようである。
「でももう一人の使者はやっぱりこっちに向かってきていないみたい。さて、ここから魔女さんを先に探すか、もう一人の使者さんの行方を追うか、困りましたわね」
ベアトリーセはそう言うと、仕方ない、と一度全員で情報交換をする為に集合地点へと歩を進めた。
使者の容態を見て来たフォーリィと月下部組。魔女探しをしていたグレナム、フィリッパ組。そして使者の情報を集めていたベアトリーセとメリル組。
三組が顔を見合わせるまでもなく、ほとんど全員暗い表情であった。
先ずは容態報告を入れる月下部たち。
「今すぐ使者の方を病院から移動させるのは、無理だと思うわ。かなり深手を負っているし、傷口からみてもその治りはかなり遅いと見ていいわね」
「最悪、あの人は生きてセルナーに帰れるかわからないって‥‥」
フォーリィはまるで自分の事のように、悔しそうな顔を浮かべ、奥歯を噛み締める。
それを聞きながら、今度は使者の情報を探し集めていたベアトリーセが口を開いた。
「その使者の事ですが、少しだけ王宮でも情報を得る事ができました。名前はセトテ、二十二歳。セルナー領の専属使者さんのようで、実績は七年ほど、かなりの信頼を得ているらしく重要な文書などを運んできた事もあったとか」
「それから、もう一人の使者の方は到着の報告はなくて、身元の確認が出来ないからわからないって」
ほんの些細な情報が、今はとにかく大事だった。ベアトリーセとメリルの報告は手探り状態の今の冒険者たちにはかなりの糸口になる可能性はある。
更に、魔女探しを担当していたグレナムとフィリッパは確かに魔女はメイディアに来ている事、しかし入れ違いだった事、そしてまだ街の外には出ていないらしい事までを報告する。
「もう一人の使者の行方がまったくわからない事と‥‥セトテさんでしたっけ? 容態もかなり悪いという事から情報を彼から引き出すのは難しそうですね」
「今は眠ってるよ、でも、意識を取り戻すかどうかはわからない。むしろ、今、意識を取り戻したらまた地獄のような痛みが全身を襲って、今度こそ本当に死んでしまうかも‥‥」
フィリッパにフォーリィは厳しい表情で返してみせる。
「という事は魔女殿を呼んでも、セトテ殿から記憶を取り戻せる保証はないという訳か」
首を振りながらグレナムはゆっくりと溜息を吐いた。
傷口から襲撃場所の特定を予想しようと思っていたが、使者たちは基本的に『裏道』をほとんど使わないという事をベアトリーセは教えてもらっていた。
「つまり、こちらからセルナーへと向かう街道を北上していけば、戦闘の痕跡やもう一人の使者の行方を探るヒントは得られるかも知れないと。そういう事です〜」
早馬の速度と地図、そして傷口の状態から逆算して予想地点を算出する月下部とフィリッパ。二人の見解はほぼ一致した。
「‥‥これは‥‥!」
●眠り続ける使者と魔女と冒険者たち。
そこで冒険者らは情報を整理し、先ずは月下部が使者セトテの治療に集中し延命してもらい、グレナムは引き続き魔女の情報と彼女の確保を続ける事になった。
残った四人はメイディアからセルナーへと続く街道を北上し、使者が襲われたであろう襲撃予想地点へと向かう事にしたのである。
恐らく、その襲われた場所に失われた情報の欠片が残されていると判断した為だ。
「その前に、王宮の方に、使者さんの状況を知らせる証明書などを発行してもらいましょう」
ベアトリーセは出発前に王宮に寄って、報告書を証明書代わりに発行してもらう事をすり合わせる。
発行には少しかかりそうで、即時発行という訳にはいかななった。
しかしながら、一応は約束を取り付けて、冒険者たちは月下部とグレナムをメイディアに残し出発する。
「いくら私でも、失われた目や腕を生やす事は出来ない。魔法でも、無理だものね。出来る事といえば、彼を何としても延命させる事だけ‥‥でも‥‥いいえ、私は医者なのだから。彼を、セトテさんを絶対に死なせたりはしないわ――」
鎮痛剤を練りながら、月下部は呟く。
彼の運命をここで終わりにする訳にはいかない。本人が望もうと、望まなくとも、月下部は医者であり生きている命を消すという『答え』にだけはたどり着かせたくなかった。
何が何でも、彼を死なせない。そういう強い思いが彼女にはあった。
「じゃないと、何のために医学の道を歩んだのか、わからないものね‥‥」
目の前に患者がいれば、真剣に。真正面から向かい合う。ごくごく当たり前のようで、気がつくと見失っている事が多い天界の現代医療事情を払拭する為、彼女はいつもの優しい表情から医者としての、プロフェッショナルの目に変わっていた。
一方グレナムの方は魔女探しを続けていた。
まだ日が沈むには早い。しかし彼女がメイディアに一泊するかどうかは保証出来ない。
となれば、出来るだけ早く魔女を見つける事が先決であると判断した為だ。
ただし、魔女が素直に受け入れて協力してくれるかどうかは――現段階では不明である事は少々の不安要素ではあった。
●魔女の言葉。
「私を呼ぶのは――お前か」
フードを深く被り、冒険者ギルドの待合室で佇んでいた女性が静かに声をあげる。
「貴殿が双子の魔女と呼ばれた魔女殿か」
「‥‥まだその名を覚えている者がいるとはな」
馬に荷を乗せ、帰宅の準備をしていた魔女を発見した野菜売りの店主が彼女を引き止めて、冒険者ギルドへと送ったのである。
グレナムはゆっくりと整理しながら彼女にその協力を仰ごうと協力を依頼する。
「その使者とやらは眠り続けているのだろう? 眠っている相手に対して私がそれを試したとして、情報を取り出すに至るかは保証できぬな」
「今、懸命に治療を行っています。出来れば、貴殿の力を貸していただけないだろうか」
「ふむ‥‥まさか忌み嫌われた魔女の力を借りようとする人間がいるとはな。いい度胸だ、お前、名前は?」
どうやら魔女は少しだけ興味を持ってくれたらしい。使者の記憶を呼び戻す事が可能かどうかの保証は出来ないと念をおして、承諾してくれたのである。
一方、街道を北上していた冒険者たち。
襲撃予想地点を割り出した時、驚いたのは仕方のない事だった。
というのも、襲撃地点は既にステライド領に入ってから襲われていたからなのだ。
セルナー国境を抜け、つまりそこまでは彼は――いや、正確には『彼ら』は何の問題もなく、通過していた筈なのである。
そして一気に南下した彼らはメイディア北にある大きな河を抜け、かなりの速度でこちらに向かって来ていた筈だ。
しかし、ここでようやく新たな事実が飛び込んできたのである!
「これって、どういう‥‥」
フォーリィは大工の一人に声をかけてみる。
「ああ、先日この橋の補修工事が始まってね、今はここは通り抜け出来ないよ。ここから西側にもう一本橋があるから、迂回して渡ってくれよ」
「補修って、あの、それっていつから始まったんですか?!」
「始まったのはそうだな、一週間ほど前かな。あと十日もすれば工事は終わって、無事通れるようになるから、安心しな」
「一週間、前‥‥ですか」
彼が病院に運ばれてきたのは一週間も経過していない。となれば、迂回してこちらに向かってきたのは容易に想像出来た。
「そうすると、少し予想地点はズレて来ますね」
修正を余儀なくされたフィリッパは再度計算しなおしてみる。
「使者の伝達を遅れさせる為に、誰かがあの橋を壊したのかな?」
メリルは鋭い読みで冒険者たちを戦慄させる。
「わざと、迂回ルートにおびき寄せる為に‥‥」
「うん、そう、やっぱりそっちに匂いが残ってるのね」
愛犬クンパーンを優しく撫で付けながら話し掛けていたベアトリーセも、使者の匂いからほぼ確実に迂回して渡ってきた事を確認する。
「間違いないみたい。使者の二人はこの橋を抜けられずにあっちの方からやって来たらしいですよ〜」
「とにかく、行ってみよう」
フォーリィたちは西側にあるという迂回ルートへと向かう。
●記憶を辿れ!
「今は安定して眠っているわ」
眠っている使者に記憶を呼び覚ます魔法を使って、情報が引き出せるかどうかはわからない。だが、魔女は対象に触れるまでも無く引き出す事が出来るのである。
彼自身が生きていれば、眠っていようが起きていようがほぼ強制的に抜きとる事が出来るのである。もちろん『抵抗しない』という前提付きだが眠っている彼に抵抗など出来る筈も無く。
そして。
「ふむ‥‥完全には取り出せなかったか。どうやらかなり強い力で抜き取られたな」
魔女は何とか断片的にだが彼から記憶を引き出す事に成功したらしい。
それによると、いくつかの単語のみだが衝撃的な言葉が彼女の口から発せられたのだった。
カオスニアン ゴーレム 黒いゴーレムグライダー 恐獣 船 二騎 海路封鎖 海上騎士団 迎撃 派遣。
「今はこの程度しか読めないな、参考になるかどうかはわからぬが」
「参考も何も‥‥もしそれが本当なら、大変な事になるわよ、これは‥‥」
街道の調査をしていた冒険者たちも戻ってくると、信じられない事を月下部とグレナム、そして魔女に伝えなくてはならなかった。
迂回した橋の付近には官憲らがカオスニアンと恐獣による戦闘があった事件の調査を進めていたというのである。
そして、魔女が引き出した衝撃的な単語の数々に一同は絶句した。
役目を終えた彼女は、また何かあれば協力する事を約束し、帰っていった。
彼女の住む森の奥にあるという家へはたまに配達をする店が知っているらしい。
しかしどうやら、この事件。
一筋縄では解決しそうにない。
とはいえ魔女をこれ以上拘束する訳にもいかず、使者の容態も一向に回復せず、期限が来てしまった。
ギルドと王宮に報告に戻る冒険者たち。
だが、このまま終わる事件ではなさそうである。
月下部の治療はその期限ぎりぎりまで最善は尽くした。
後は引き出した情報の整理と使者セトテの容態が回復するのを――今は待つしか術は残されていなかったのである。