ナーガ族の陰謀
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月16日〜08月21日
リプレイ公開日:2007年08月20日
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●オープニング
●レイネ、フェイエス故郷に帰る。
長かったカオスニアンらによる襲撃事件と墓を暴かれ遺骸を持ち去られた事件の両事件は、サミアド砂漠の中央にあったとされる隠しキャンプ内での回収と施設の壊滅によって、幾つかの疑問を残しながらも解決した。
直接村に帰ることが出来なかった為、一時的にメイディアへと帰還したレイネだったが、その魂の安息を求め早急に村へと戻してやりたいと思うといてもたってもいられない。
そしてレイネにとっても、ようやく一区切りが着いたという事でフェイエスを連れて村へと帰ろうとしていた。
今回はそんなナーガ様ご一行を護衛しながら村まで無事に送り届けてもらいたい、というのが任務である。
レイネ、フェイエス、そして回収した遺骸と棺。棺は全部で八個。
遺骸は、冒険者たちにとってはあまり馴染みのない永久死体――いってみれば『ミイラ』の一種である――死蝋と呼ばれるものだった。
朽ちる事無く、肉体は保持されたまま精霊との交わりを得るという考え方で、特殊な生成方法でミイラ化しているらしい。
どのような方法なのかといった内容はナーガ族の極秘事項であり、また精神論が人間達とはまるで違う竜人族のやり方を真似る必要も無かった。彼らには彼らの生き方遣り方があり、レイネはそれに従ってきたまでの事。
●ナーガ族と巨人の関係。
カオスニアンがナーガ族の遺骸を持ち去ったのには恐らく理由があった筈である。
冒険者らはその関係性を、ナーガ族が深く関係するという『巨人』――つまりゴーレムにあるのではないかと考えていた。
ナーガ族が、深く関わるというゴーレム――『ドラグーン』――。
メイの国ではまだ計画すら立てられていない、現時点ではウィルの国でしかロールアウトされていない騎体である。
レイネは巨人の事をほとんど知らなかった事、しかし、ドラゴンホーラーについては当然知っていたが『それ』との関係性はわからない事などを話してくれた。
しかし、それはあくまでもレイネが知らないというだけの話でありナーガ族全体で知らないという訳では無い。
だが確実なのは、ドラグーンが完成するには、確かにナーガ族の手が必要であり、加わっているという事だけだ。
その製法まではレイネの知るところではなかったが、骸が――まるで人体実験のように扱われていた可能性も否定することは出来なかった。回収した遺骸は全て無事に回収する事に成功はしたが、もしこれが悪用されたとしたら、レイネの怒りはリミットブレイクしてカオスの穴にでも一人で突入してしまっていたかもしれない。
だが、『ナーガ族の骸』が奪われた事に意味があるとすれば、やはりカオスニアンにとってもナーガ族が何が何でも『欲しい』対象なのであろう事は予測できる。
カオスニアンの真意はともかく問題はそれが人道的な協力要請などではなく、強奪であり、脅迫であり、強襲であった事である。
温厚な種族であるナーガ族にとって、神経を逆撫でするような行為は、逆鱗に触れるようなものだった。レイネでなくとも、怒りを感じるのは当然の事だったといえた。
●西方戦線の行方。
先日リザベの各砦がカオスニアンと恐獣による大規模攻撃に晒されたという。
直接的にはナーガ族の隠れ里には被害が及ぶ事はなかったらしいが、レイネたちの村が『偶然』発見され、『偶然』遺骸を持ち去られ、そして彼女が遺骸を発見する直前にいわゆる――対カオス戦争が勃発したのには何か関係性があるのではないだろうか。
つまり、カオスニアンらが大規模侵攻をはじめる為の布石として、決戦兵器としてドラグーンを投入しようとしていたのではないか? という事だ。その為のサンプルとして奪われたのではないか。
あくまで一つの可能性であり、仮説であり、確証は何一つ掴めてはいないが。
杞憂であればいいが、彼らカオスニアンの真意がまだ何も明らかにされていない現時点では、レイネたちが関わったあの両事件ですらも何かしらの深い因縁があるようにならない。
大きな影が蠢いているように思えるのは、彼らカオスニアンという存在があまりにも不気味で何を考えているのかわからず、そして何より武力で全てをなぎ倒してこようとするその威嚇的な姿勢であった。
その背後に、もっと大きな、影が浮かび上がるかもしれない。
その真相が明らかになるには、もう少し時間が必要である。西方戦線で生死を分かつ戦いが繰り広げられている今はむしろ、ひとつひとつの作戦に先ずは生き残る事が必要なのだから。
その先にある、真実は、生き残り勝利した者だけが知ることが出来るはずだからだ。
●ナーガ族の帰還。
ともかく。
今回は上記の通り、レイネと竜の巫女フェイエスの護衛、それから遺骸(棺)を無事にレイネの村まで輸送する事が目的となる。
前回のサミアド砂漠の隠しキャンプは壊滅状態だが、追撃部隊が用意された可能性はゼロではない。三十体ほどと報告にあったが、倒されたカオスニアンは数えると二十七体しかなかったからである。
西方戦線で大量に投入されている戦力を削いでまでレイネたちを追撃してくるかというと疑問ではあるが、生き残りがいるかも知れないという事は覚えておいてもらいたい。
もちろん、あの戦いですべて打ち倒した、という事も考えられる。それでも少数の部隊が狙ってくる可能性をゼロにして考えるのはあまり得策とはいえない。
何にせよ、充分に警戒しながらの護衛任務となるだろう。
それでなくとも、レイネ、フェイエスは最も(メイではドラゴンという意味で)神に近い存在、竜の眷属であるナーガ様の護衛だ。
気を抜かず、しっかりとこなしてもらいたい。
●リプレイ本文
●竜人族の魂よ
サミアド砂漠中央部にあったカオスニアンの隠しキャンプ。
その正体はカオスニアンにおける砂漠戦の為の中規模施設、つまり言ってみれば一日砦ならぬ七日砦のようなものだった。
上空から発見されにくいように巧妙にカモフラージュされたそこでは、ナーガ族の村を襲い、奪い去った遺骸を保管していたのである。
なぜそんな砂漠のど真ん中に保管されていたのかはわからない。
その答えを知る者はすでにサミアド砂漠に散った。
いや、彼らも本当の意味での我々が望むような『答え』を持ち合わせてはいなかったのかも知れない――。
はじめは巨人(ゴーレム)と黒き者共(カオスニアン)、そして恐獣という最悪の組み合わせでの強襲。
次に狙ったのは、真の目的だったのか、竜人族の遺骸を持ち去るという非道な手口。
レイネはその村の被害者であり、村の代表としての強い意志を持って解決に向け旅立ったのである。
しかしそのレイネの決断こそがそれから巻き起こる事件を呼び起こしたとも言えた。
竜の巫女――白き鱗を持つ竜人、フェイエスの行方不明事件である。結局彼女はリザベで保護され、メイディアに護送された。
その後レイネとフェイエスはメイの人間達の戦いを見つめてきた。
元々ナーガ族は人間とは一線を引いた、達観の姿勢を崩そうとしなかった。理由は単純である、ナーガ族は自らの圧倒的な力を自覚しており、それゆえ大きくパワーバランスを崩しかねない世界の行方を憂い――レイネはこれを、『人間達の時代』と呼んでいたが――人間達との不干渉を決め、表舞台から姿を消し、隠遁とした生活をしていたのである。
全ての竜人がこのような意識を持っていたかは不明だが、少なくとも、レイネの話では人間の時代において、竜人族は関与しないというのは既に定着している当たり前の常識だったのである。
ところがある日突然、見たことも無い巨人が彼女たちを襲った。その巨人こそが、人間の時代における最大にして最強の兵器、ゴーレムだったのである。
そして完全に敵対的行為を続けてきたのが、黒き者共、カオスニアンと恐獣だった。
そのゴーレムに対しレイネは急遽人間達の協力を仰ぐことになってしまう。この事件がきっかけで、つまりゴーレムとカオスニアンの出現において、人間達の時代にナーガ族が関与する『必然』を作り出してしまった、という訳だ。
その襲撃してきた最悪の組み合わせと奪い去られた遺骸、それらを繋ぎ合わせていくと、あまりにも強大な悪の影が密かに動き出したように感じるのは杞憂だったのだろうか?
「人は力を求めますが、同時に敬い改める心を持っていると思います」
イリア・アドミナル(ea2564)はレイネの言う、人間の時代の返還に対して冷静に対応してきた一人だった。
「今世界には、カオスの魔物や、カオスニアンと言う、負けられない敵がおり、彼らと戦う為の力を得る為、ゴーレムと言う巨人を作りましたが、ナーガ様や聖なる竜の方々を害そうと言う者は、まず居りません」
しかしゴーレムは彼女たちの村を襲った――この事実は覆らない。
「もし居るならば――カオスの魔に誑かされた者達です。彼らは巧みに人を操り、力を調和では無く、破壊に向ける、それが彼らの遣り方」
今まさにカオスの者共がリザベの各砦を数の暴力で押し込めようとしている。今がレイネのいう『人間の時代』だからこそ、人はゴーレムを造りだし、必死に『それら』と戦っている。これは事実である。
だが。
巨人に襲われたレイネたちの村を救ったのも、巨人だった事を、彼女は忘れていなかった。
●レイネの夢 フェイエスの夢
「ナーガ族って、別に食べ物の禁忌とかは無いよね? レイネさんとフェイエスさんが苦手な食べ物とかはあるかな?」
リアレス・アルシェル(eb9700)の問いかけに、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)も興味津々の様子。あまり詳しく聞くことの無いナーガ族の日常や習慣はやはり気になる所である。
「特にありませんよ、私は長老によく噛んで食べるように言われますけど、それは関係ないですね」
相変わらずどこかすっとぼけた感じで静かに笑うのはフェイエス。小さな顔に似合わず大きく口を広げて丸飲みしている姿はあまり想像出来ないが、食欲はあるらしい。
またレイネも特に喰わず嫌いというのは無いようで、しかし二人ともに共通しているのは果物が好きだという事である。
酸味のある柑橘系は彼女たちもよく口にしているらしい。
ぱちぱちと爆ぜる焚き火を囲んで、最初の夜はそして、ゆっくりと流れてゆく。
死者の眠る棺を慎重に運んでの移動の為、いつものペースよりもやや抑えて走る荷馬車と護衛の冒険者たち。
セブンリーグブーツで移動していたトール・ウッド(ea1919)にとっても、ハイペースでない分回りの警戒を強めることが出来たし、同じくイリアもこのペースならセブンリーグブーツで移動するに問題ないと判断した。
二日目に入り、やや天候が崩れ始めてきた。曇り空を見上げると、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が呟く。
「これは、軽く一雨きそうですわね‥‥」
「あまり無理をせずに降り始めたら一旦雨宿りでもするか」
同じく戦闘馬にまたがっていたシャルグ・ザーン(ea0827)、音無 響(eb4482)も愛犬ハルと共に肯くように返事をする。
「まあ、涼しくなってきた分だけ移動するのは楽なんだけどね。雨が降るとハルの鼻も少し鈍るからね、匂いが流れやすいから」
雨でぬかるみに馬車の足が取られないという保証もない。街道自体は舗装されているとはいえ、レイネたちの村は途中から森に入っていくルートに突入するのだ。雨足が激しくなれば無理に進むのはリスキーだろう。
案の定、午後一番に大粒の雨が降り出した。通り雨、という感じではないが、本降りという感じでもない。
様子見で休む事を決めた冒険者たち。
早く村に返してあげたいという気持ちは冒険者たちにも理解出来ているが、事が事なだけに無理は禁物である。カオスニアンによる追撃の可能性は完全に潰えた訳ではないのだし。
少し早いが雨宿り休憩を取る面々。
「レイネさん、フェイエスさん、二人ともこれからの夢って何かありますか?」
雑談の合間に、ふっと表情を変えて問い掛けた音無。
「夢、ですか」
フェイエスの不思議そうな表情と対照的に、少しだけ困ったような表情を浮かべるレイネ。
「すまないな、この子は生まれた時から巫女として一生を捧げるようにと厳しく育てられてきた。今も、そしてこれからも巫女で居続けなければならない宿命を持っているのだ」
「でも、私はそれを悲しいとは思いませんよ、レイネお姉さま」
フェイエスには強い自分の意志としての不動の心がある。巫女である宿命を、悲運としてではなく、自ら選択した思いで進もうとしていたのである。
「レイネお姉さまこそ、夢に向かって突き進むべきです」
「我は‥‥だが‥‥」
レイネにはフェイエスを守るという使命があった。それはフェイエスが特別な存在だったからで、フェイエスが生きている以上は守り通さねばならない。一連の事件が解決した今、レイネは本来の役目に戻るだけなのだが‥‥。
「ところでお前はその夢とやらはあるというのか」
答えに困ったレイネは逆に問い掛けた音無に質問で返す。彼は深く肯くと、自身の夢について話し出す。
天界の更に外界にあるという、宇宙という世界へ飛び立つという『ウチュウヒコウシ』が彼の夢だ。メイとはまるで違う法則で成り立っている天界でも、更に高度な技術や知識、経験が必要な特殊な職業である事を説明するが、余りにも突飛な話すぎてレイネやフェイエスはもちろん、同じ天界人である奥羽 晶(eb7896)も驚く壮大な夢だった。
しかし音無のそんな夢はメイの中ではまるでおとぎ話のように夢に溢れ、希望に溢れ、遥かな未来を予見させる物語のように皆の胸に伝わった。
「そうそう、お二人にお願いがあるのです」
奥羽は今回の旅の思い出にと、彼女たちにひとつ叶えてもらいたい希望があった。
「レイネさんとフェイエスさんに新しいペットの幼いダッケルに名前を付けて欲しいのですが‥‥」
彼の新しいパートナーとなる、愛犬に名前をつけてもらいたい、というのだ。
「名付けでしたら、レイネお姉さまが適任ですわね。実は私のフェイエスという名前もレイネお姉さまの案を長老が採用したという話を伺ってますし」
レイネはやや言葉に詰まり、恥ずかしさの為か少しだけ頬を赤らめた。
元は運命という名の意味を持つ言葉と信頼を意味する言葉をかけたとされるフェイエスの名。それだけの『意味』を彼女は授かっていたのである。
「あまりそういうのは得意ではないのだがな‥‥どうしてもというのなら、そうだな、スコウスフントとでも呼んでやるといい」
彼女の視線の先には、遠く、森が広がっている。彼女の言葉を読み解くなら、フントは犬を意味し、スコウは森を意味しているらしい。
竜人族の言葉であるかどうかは明言していないが、レイネが早く村に帰りたいという気持ちが森の名を浮かび上がらせたのかも知れない。森の民であるエルフたちもレイネの気持ちは理解出来る。緑深き森は、エルフたちにとっても『還るべき場所』であるからだ。
単にスコウス、と呼ぶのがいいかも知れないが、と一言そえるレイネ。好きに使ってくれ、と締めた。
●雨、あがり。そして――。
「こんな所に本当にナーガ様の村が‥‥?」
初めてその村に着いた者は必ず口にする一言だ。荷馬車から降りたシュタール・アイゼナッハ(ea9387)とフィーノ・ホークアイ(ec1370)は辺りを見回しながら、その村から出てくる全員がナーガ族という光景にただただ驚きを隠せないでいた。
ようやく村に戻ったレイネとフェイエスを迎えた村長らも遺骸の棺を見ると、安心した様子だった。
内心、レイネや遺骸はともかく、フェイエスが戻ってきた、という事の方が彼らにとっては重要な事だったのかも知れないが――。
ともかく村に戻ってきたフェイエスはすぐに身を清めると巫女の正装へと着替えさせられていた。
一方レイネと冒険者たちはナーガ族の棺を埋葬する為に霊園へと向かった。
そして荷馬車からおろされた八個の棺を並べると、レイネは死者を改めて浄化するように静かに『歌い』はじめた。
そして、それは。
それこそが、『ドラゴンホーラー』という、竜族言語とも竜語魔法とも呼ばれるナーガの咆哮に込められた特殊な魔法詠唱言語だったのである。
大地に響き渡るほどの深い音色で吼えるレイネ。
その咆哮がドラゴンホーラーである事を知らない冒険者たちだが、『歌声』は心の奥に染み渡るような感覚を覚えるのだった。
その後、冒険者たちの強い要望で全員で埋葬を手伝う事によって棺は全て再び埋葬された。
「今度はずっとずっと安らかに眠れるといいね」
フィオレンティナだけではない。皆、ようやく取り戻した先祖の魂を鎮める為に丁寧に埋葬を手伝ったのである。心は同じだった。
「レイネ、そして猛き勇者たちよ。我らが先祖の魂を取り戻し、鎮めてくれた事誠に感謝します‥‥」
巫女装束に着替えたフェイエスはそれまでの優しい笑顔から一転、かつてのレイネのように氷のような冷たい表情で、静かに言い放った。レイネもそれを黙って聞いている。
彼女は今、ナーガ族の『白蛇の竜の巫女』としての顔で冒険者たちに接しているのだ。
そして、村長ら村の代表数人とレイネは冒険者たちに深く感謝の礼をした。
●ナーガ族と巨人の関わり、そして。
最後に遺骸を持ち去ったカオスニアンらの件で気になる事が一つあった。
シャルグはあくまで可能性として、一つの考えをレイネに話すことにした。
「以前、レイネ殿は『死者は魔法を使えない』といった類の事を言われたな。だが‥‥我輩の知る限り、生ける死者ズゥンビは、生前覚えていた魔法を使えるのである」
「生ける屍、だと‥‥?」
「左様。カオスの者達の中に、神聖魔法を使えるデビルの類や、ジ・アース出身の(おそらく麻薬で操られた)聖職者が居れば、クリエイトアンデッドという魔法で、ナーガ族の遺体をズゥンビとして利用しようとした可能性がある。生ける死者は、術者の命令に逆らわぬゆえな」
「可能性としては、それで生き返らせたナーガ様を使役してドラゴンホーラーを使わせてドラグーンを‥‥という訳だのぅ」
シュタールも友人知人らの話をまとめながら語る。フィオレンティナもドラグーンの話題に耳を傾けていた。
「ゴーレムが空を飛ぶ‥‥と言うのは本当に怖い。フロートシップなんかに積んで移動してる時に襲われたら、抵抗出来ずに死ぬだけだもの」
リアレスはウィルでロールアウトされたというドラグーンについての噂を聞き、メイの鎧騎士としての正直な思いを話した。
「今までの事情を鑑みれば最早レイネはカオスを赦すまい。お互い敵は同じ、という事になったか。何とも業の深い縁だの」
黒き者共の行ってきた事はレイネら竜人族にとって、許されざる存在になりつつあるのは事実だった。
「だが。なあ、竜人よ。ヌシ等はどう思っておるのだろうな。メイとバを」
人間達の時代の中で諍いを伴う事象について、ナーガたちは不干渉を貫いてきた。しかし今となっては人間達だけでなく、その明確な敵としてのカオスニアンが人間達だけでなくナーガ族をおも攻撃の対象に選んできたという事は間違いない。そうでなければ二度もレイネたちの村は襲われてなどいない筈である。
「人間同士、国同士の諍いに我々が口を出す事はしない。だが、黒き者共が我々の仲間を傷つける事は許せぬ。我ら竜人族の魂を取り返してくれたお前達人間は我らにとっては友、と呼べるのかも知れぬ。その友を傷つける奴らは放ってはおけないが‥‥」
冒険者たちと話すレイネに話しかけるフェイエスは彼女の返事に肯くと、はっきりとそれを口にした。
「レイネ。あなたに使命を与えます――」
「‥‥は」
「もう一度、旅を続けてください。私がどこにも行けない分、あなたは旅をし、人間達の時代をその目で見届けるのです」
「人間達に協力しろ、と?」
「それはレイネ、あなたが自分で決める事。これから先の未来、人間達の時代に我らの力が必要だと思うなら、それに手を貸す事を禁じたりはしたくない。我らの先祖の魂を取り戻し鎮めてくれた人間達に感謝の心があるのなら、自ずと答えが出るはずです」
竜の巫女の使命により、再び旅立つ事を許されたレイネ。
ここから彼女の新しい『人間達の時代』見聞が始まる事になるのだ。
そしてそれが、世界の大きな転換という運命の、一つの小さな歯車として噛み合っていく事になるのかも知れない――。
アトランティス東方、メイの国に。
今、新しい風が吹き始めようとしていた。