メモライズド〜追撃〜

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2007年09月08日

●オープニング

●奪われた記憶にカオスの影が?
 セルナーからの使者が襲われ、深く傷付いた。
 その謎を探るべく冒険者たちが調査を進めていったのだが――。

 記憶を引き出す事の出来る魔法、リシーブメモリーを使う事の出来る魔女の協力を得る事が出来た冒険者たちは記憶を奪われたという使者の中にある断片的な情報を引き出す事に成功した。

 カオスニアン
 ゴーレム
 黒いゴーレムグライダー
 恐獣
 船
 二騎
 海路封鎖
 海上騎士団
 迎撃
 派遣

 かろうじて単語しか引き出す事が出来なかったものの、その単語ひとつひとつに大きな意味を持っていた事は明らかだった。
 特に、メイの国にとってはカオスニアンと恐獣という言葉がどれだけの意味を持つのかを知っている。

 更にゴーレム、そして黒いゴーレムグライダー。
 この二つはセルナー領では深刻な話題である事。
 怪鳥と呼ばれた、黒いゴーレムグライダー墜落事件については【白馬に乗ったお嬢様――辺境遊撃隊】の依頼報告書に詳細が書かれているので資料として一度目を通しておくといいかも知れない。

 他の単語について海上騎士団以外は、敵の事なのか味方の事なのかは現時点では確認することが出来ない。

●襲撃予想地点のズレとカオスニアンの襲撃。
 セルナーの使者が襲撃を受けたであろう予測地点にほど近い街道からコーマ河を渡る橋に異変があった。どうやら改修工事が行われていて、迂回しなければならなかったのである。
 なぜこのタイミングに改修工事を行っていたのか、迂回して調査を進めていた冒険者たちはそこでカオスニアンと恐獣の襲撃を受けたという報告を受けた官憲らがその調査にあたっていたのを目撃するのだった。

 使者の記憶の断片と、迂回した橋で調査されていたカオスニアン襲撃事件。二つはやはり重なっているのだろうか?
 また彼の記憶から引き出されたゴーレムと黒いゴーレムグライダー。
 更に船や海上騎士団という、『海』を連想させる言葉――。
 これらは一体どういう繋がりになるのだろうか。

 使者はまだ深い眠りについたまま目覚める気配はない。
 今出来る事といえば、セルナー領に赴き事情を説明して使者を迎えに来てもらいその護衛に着くか、迂回した橋で襲撃を受けたというカオスニアンと恐獣の情報を官憲らから得る事。
 或いはメイディアの港で海上騎士団からセルナー領海の異変や噂などが無いか聴取する、または回収された怪鳥のパーツが眠るゴーレム工房での情報整理。
 やれる事はいくつかあるのだが、調査日数は限られている。
 限られた時間をいかに使って有用な情報を得る事が出来るかが今回の大きなポイントとなるだろう。

 いくつもの事件が複雑に絡み合い、そしてひとつの道へと続いていくのか。
 謎はまだ、謎のままなのである――。

●今回の参加者

 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●水面下
 セルナー領からの使者セトテ。彼が命をかけてメイディアにやってきたのは、やはりメイの国にとって重要な事だった。
 しかし重要だったからこそ何者かの襲撃を受け、腕を切り落とされ、目をえぐられ、記憶まで消されてしまっていたのである。
 その余りにも酷い残虐行為に対し憤りを覚えるも、謎を解き明かすには圧倒的に情報が足りなすぎた。
 しかし魔女の助けと、前回必死の治療を施して一命をとりとめた事でいくつかの『失われた記憶』の一端を垣間見る事が出来た。

 今回は使者の容態を確認する事からはじまった。
「‥‥さすが、若いからなのかしら。傷も大分よくなってきているみたい」
 月下部 有里(eb4494)は、ふぅ、と短い溜息を洩らしながら自身の汗を拭き取った。
 状況はほとんど変わらない。判明した事といえば、上半身はかなり酷いやられ方をしているが、下半身には深い傷が無かった事。
 そして体力が有り余っている若い肉体だからか、傷の治りが見た目の傷跡からは想像できない程回復力があった事。
 そして、『痛み止め』を投与されていた事だ――。
 メイの国でも大麻類は、古くから鎮静剤として使用されていた。現時点でどの程度の量が栽培されているとかというデータは不明。医学用に使用される量はかなり少量である事のみ、確認されているに至る。
 状況的に見ると、王宮側の意向で官憲サイドの押収、管理がされているという見方が最も有力か。
 とはいえ、最近では天界の医学を学んでいる医者も多くなり、元々天界からの人間である月下部にとっても馴染みあるものが使われていた事は新鮮な驚きでもあり、古くから賢人たちが学術と共に、ごく少量とはいえ『麻薬』を扱っている事に納得もしていた。
 噂によると、カオスニアンが使役する恐獣も一種の『麻薬』で飼い慣らしているらしい。また、麻の栽培や自然大麻の群生なども確認されている事から、ある程度の認識でいう『麻薬』は存在していると言っていいだろう。
 人の人格すら破壊する麻薬は、時として人の命を救う存在にもなる。何度も人の生き死にを見てきた彼女にとって、『それ』を手にする事は自分自身にも患者自身にも覚悟をもって挑む最終手段にも似た感情を植え付けられるモノだった。
 つまり――。
 それだけセトテの容態は酷いものだったといえた。
「それでも‥‥」
 彼の失われた記憶と再び目覚めるまでの空白の時間は無情すぎる。
 メイディアのどこかで行われているであろう――黒い衝動が――今にも噴出してきそうな緊張感だけが、冒険者たちを焦燥させた。

●女性官憲モーリィの証言
 現在絶好調、好評多忙中な真っ赤な髪の女性官憲が煙管を吹かしながら現場でてきぱきと指示を送っている。再捜査をしているようだ。
 ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)とルメリア・アドミナル(ea8594)はそんな現場に乗り込んで話を聞くことになるのだが‥‥。
「おいおい、そんな所に行くんじゃないよ! 何やってんのさ、一般人を入れるんじゃない、ボサッとしてんな!」
「あの、すみません」
「ん? なんだい、こっちは忙しいんだ。あんたらに構っている暇はないんだよ」
「実は先日この橋の付近であったというカオスニアンと恐獣の襲撃事件について聞きたい事があるんですけど」
「お。もしかして重要参考人登場かい! こりゃあいい、ちょっと話を聞かせてもらおうか」
「いや、こちらが聞きたいのですけれど‥‥」
「ははは、まあまあ、こっちこっち。ほらほら、女が来たからって目をきらきらさせてんじゃないよ、お前たちは引き続き調査! サボったら承知しないからね!」
 やや勘違いされている気配ながらも、モーリィに明かせる程度の情報開示をしつつ事実確認の為に証言を求める二人。
 それによると、確かに先日この橋の周辺で襲撃事件があったらしい。現時点では、この橋からどちら側に犯人が移動したかを調査しているという。
 また、元々街道からの橋の修復については官憲らにも工事の通達があり、数名の冒険者が工事の警備などを担当していたらしい。報告書には不備も無く、滞りなくほぼ予定通り工事が終了した事が判明した。
「という事は、橋の工事は最初から予定通り進んでいた、という事ですわね。それは我々一般人にも知ることが出来ましたでしょうか?」
「出来たんじゃないか? 流通関係には特に注意が渡っていたはずさ」
「流通‥‥ですか。例えばの話ですが、それってカオスニアンたちにも予定や計画が知られていたという事にもなるのかしら」
「知ることは誰にでも出来るだろうけど、そもそも、わざわざメイディアにそんな奴らを入れたりはしないからな。事情を知る事は可能かと言われると可能としか」
「ですよね。という事は、彼らは最初からこの橋に迂回する事を知っていた可能性もある訳ですね」
「だが、迂回するルートはこっちだけじゃない。お前達の言い方じゃあ、まるで使者がこっちに『誘導』されてきたみたいな言い方じゃないか」
「‥‥い、いえ、そういう訳では」
「誘導。そうですわ、確かに、なぜこちらの橋に回ったのか。そして何故この橋にカオスニアンと恐獣がいたのか。もし、橋の工事の情報を事前に知っていて、こちらに迂回する使者を待ち構えていたとしたら」
 誘導したのは、一体誰なのか――?
 新たな謎が彼女たちを待ち構えていた。

●黒い怪鳥、その後。
 ゴーレム工房へと足を運んだのはシュバルツ・バルト(eb4155)と月下部の二人だった。辺境遊撃隊がセルナー領沿岸で回収した、黒いゴーレムグライダーの話自体は事件前からの噂話でもかなり広まっていたし、回収そのものも報告書として公開されている。
 もちろん詳細については軍事機密扱いにはなるが、事実確認程度なら可能だろう。
 果たして、ゴーレムグライダーはその後修復されたのだろうか?
「工房長? 今は忙しいからボクが代わりに行って来いって。で、話はなんだっけ?」
 ニコニコ笑いながら綺麗なお姉さんが好き、などと頬を赤らめる少年は頭を掻く。少年といっても、もう大人だ。体が、少しだけ成長の遅い、少年風――といった所だろうか。
 それはともかく、彼のいう事によると、完全な修復は不可能なのではないかという結論が下されたらしい。回収されたパーツは機体の形状判別程度には復元されたが、墜落した時点で精霊核などの重要な部品がかなり欠如していた為、再び飛ばす事は出来ないのだという。
 現在は修復計画が解消され、機体も解体されてしまったとの事。
「もう、見ることも出来ないのでしょうか?」
「現物はね、機体復元した時のスケッチなら残っているけど‥‥」
「え――そ、それです! それを見せてください!」

「こ、これは‥‥」
「あら、この形、どこかで‥‥」
 月下部はいつか、古い白黒映画で見た、懐かしいような風貌の機影に記憶の欠片を振り絞った。
「そう、確か、水上飛行艇だったかしら」
「それってどういう?」
「なるほど、そう‥‥そういう事。ゴーレムグライダーは確か木製だったはずよね?」
 思わずうなるようにうなずく月下部。対するシュバルツは見慣れぬ形状の『それ』に眉をひそめる。
「ええ、そうだったと」
「これは飛行艇といって、水面に浮く船のような胴体を持った飛行機なのよ。複翼機と聞いていたから、クラシカルなものを想像していたけど、まさか本当にこんな‥‥」
 その復元されたボディはまさしく水上飛行艇の『それ』だった。
 ゴーレムグライダーは利点もあれど、高度や速度、パワー、航続距離など様々な問題が常に付きまとう非常にナーバスな使用条件がボトルネックとなる代物だ。
 ゴーレムシップ以外のゴーレム兵器は基本的に海を渡ることは不可能に近い(素体のみなら浮く機体もある)が、この機体は飛ばなくても機体そのものが水上で『浮く』為、沈むことも無く移動する事が出来るのである。
 つまり、浮かべばゴーレムシップ、飛べばゴーレムグライダーというハイブリッド機構を持ち合わせている機体だったのである!
「バの国のものだとして、もしこんなものが量産されていたとしたら、大変な事になるわね‥‥」
 あの事件以来、怪鳥の噂は聞こえてこない。
 もし大量に量産されていたとしたら海に囲まれているメイの国にとっては脅威になるが‥‥。
「それは――無理じゃないかな」
 少年はあっさりと否定する。理由はバの国のゴーレム生産能力にあるという。少なくとも、メイの国で修復不可能なレベルのものをバの国が作れる訳が無い、というのだ。
 少年の話でしかないので、そうとも違うとも言えない所だが、彼の言う事も一理ある。
 もし、月下部が思うように量産されていたとしたら、先ず間違いなく港町は甚大な被害を受けるだろう。つまり、メイディアもその標的に真っ先に狙われるはずなのだ。
 にも関わらず、あれからぱったりと姿を見せなかった事から、『まだ』バの国にはそこまでの技術が確保出来ていない状況だと言えるのである。
 相手が空から来るのなら、こちらも空へ上がるつもり、というのが彼の意見だが。それを実現出来るのは。
「ドラグーン‥‥」
 シュバルツと月下部は噂に聞く、翼を持つ竜騎士――ドラグーン――を思い浮かべるのだった。

 戦いは、いずれ天空(そら)へと駆け上がるのだろうか。

●海の噂
 港と海上騎士団や漁師などに海の噂を聞き込みに行ったのはトール・ウッド(ea1919)とフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)。
 怪鳥目撃からはじまった回収作業などを手伝ったのはセルナー領の漁師ギルドだった。その話はメイディアにも届いており、また寄港していた輸送船などの船員たちからも様々な海の噂を聞き出す事に成功。
 まとめると、こうだ。

 セルナー領で怪鳥が発見されたのはセルナー領海北海のウドの海沿岸。特に流れ着いた漂着物が多かったのはセルナーでも端の方、永久氷海とよばれる地区にかなり近い海岸だったという。
 潮の流れがそちら側に押しやる為、実際に墜落したのはもっと中央よりだと予想されたものの、バの国からはまるで真逆の位置での発見であり、回収となった。いくらなんでもゴーレムグライダー単体でメイの国横断など考えられない。
 また、ゴーレムグライダーのパイロットだが、打ち所が悪かったのかどうなのか、一時的なショック症状の為か――或いは記憶を消されたか――。
 一部始終の記憶を失っていたらしい。今もセルナー領の病院で入院中だが、意識もはっきりしているし傷もほぼ完治しているらしいのだが、やはり自身が何故海岸に打ち上げられていたのか、わからないという。
「ところで、海路封鎖なんて事が起こり得る状況って、あるかしら?」
 フィオレンティナは気になっていた事をたずねてみる。
「確定情報を元に、危険物や違法の物品、不法侵入や領海侵犯などで一時的な封鎖で流通経路、海路の特定などをする事はあるが通常ではそういう事はないだろうな」
「ふむふむ。ところで変な話ですけど、ゴーレムシップとかで、密かにゴーレムやゴーレムグライダーの輸送なんかをしている船を取り押さえたとかそういう話、聞いてませんか?」
「――――ないな」
「‥‥何、その間‥‥」
 微妙な間で答えた騎士の一人は、今日は暑いな、と言いながら薄っすらと浮かんだ汗を拭って見せた。彼はそういうと突然仕事が残っているなどと言いながら帰っていってしまった。
「あったんだ」
「わかりやすいな、あの男」
「でも、そんな話どこにも出てないよ。大事なら、報告書があがっててもおかしくないのに」
「あの感じからすると、もしかしたら、取り逃したのかもしれんな」
「恥ずかしいから、本当の事を言わなかったのかな? 騎士らしくない騎士さんだね」
「わざわざ汚名を晒す事もないだろう。それよりも気になるのは、セルナーの病院に入院しているというパイロットだな。使者と同じように記憶を失っているなんて、出来すぎている」
「ベアトリーセが直感でそのパイロットが重要だ! って言っていたけど、どうやら当たりかもね。セトテを何とかセルナーに戻してあげて、向こうの病院に再入院させてあげて、そこにいるっていうパイロットの記憶を――」
「確か使者の記憶も誰かが読み取ったと言っていたな」
「それだー!!」

●新たな謎と明かされた真実
 三組は情報収集をまとめる為に集合した。互いの情報を確認しながらも新たに浮かんだ謎や判明した情報の整理をしていく。
「そのパイロットの記憶を、魔女の手で今一度取り戻すと。そういう訳ですわね?」
「黒いゴーレムグライダーについてはそれでかなり情報が出ると思うんだ。量産されているかどうかもわかると思う」
「こっちも新しい情報。工事中だった橋の警備の人間が冒険者だったらしいからギルドに聞いてみたんだけど、確かに当時、使者は橋を迂回していったらしいの。その時は二人だったのを確認しているわ。それで、その時、どちらかが迂回した側の橋の方に行こうともう一人に相談して行ったとか」
「最初は工事の護衛の冒険者が誘導したと予想していたのですが、それは外れでしたわ。もう一人の使者、というのがセトテ様なのかどうかはっきりと覚えていらっしゃらなかったのですが、恐らくその『もう一人の使者』は行方不明になった方のほうではないかと思います」

 しかし――。
「皆、落ち着いて聞いて頂戴。最善を尽くしたのだけれど‥‥彼は――セトテさんは亡くなったわ」
 情報交換をベアトリーセに任せていた月下部がうな垂れるようにして、集合場所にやってきた。
「何てこった‥‥」
「そんな!」
「眠るようにね、最後は痛みを忘れて眠るように亡くなったわ」
「そう、でしたの‥‥まだお若い方でしたのに‥‥」

 こうしてセルナーからの若き使者セトテは静かに息を引き取った。長くは生きられないだろうと覚悟していた医師の月下部でさえ、彼の死はあまりにも重く、痛かった。
 だが、最後は痛みと苦しみから解放されるように、眠りながら死んでいったという彼の思いは果されなければならない。だが同時に彼の死によって闇に葬られた『記憶』も僅かな欠片になってしまった。
 それでも新たな情報を探るべく報告の義務を忘れてはならない。彼の――セトテの死という悲しみと悔しさを受け止め、彼の無念を晴らす為に、今まで集めてきた『欠片』は受け継がれなければならない。
 間もなくして、セトテをセルナー領に送り届けるという任務が生まれる事になるが、残念ながら一時解散という結果を得るに至った。

 しかし今回の情報によって、新しい道が開けてきた。
 また、再び魔女の力を借りる事になる可能性も浮上してきた。
 新たな謎は記憶――メモライズ――を呼び覚ます事になるのだろうか。