ウタウタイの宴

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月12日〜09月17日

リプレイ公開日:2007年09月13日

●オープニング

●いよいよ音楽祭!
 一年に一度開かれる村興しイベント、音楽祭。
 その音楽祭も数える事、十数回。もう随分メイの国のローカルイベントとしては浸透しつつあるお祭りである。
 特にメイの国には吟遊詩人や踊り子といった歌や踊りを生業としてきたり、たしなむ者が少なからずおり、音楽は割と身近な存在だった。
 また古くから歌というのは、自然や精霊と通じ合う手段として使われてきた。今は娯楽としての歌や踊りがあるが、その歴史を辿るとシャーマニックな行為でもあった事が伺える。
 そんな人々の身近な音楽をより楽しみ、より多くの人たちと分かち合い、音楽を通じてふれあいながら親善を深めようというのがこの村の音楽祭の目的でもある。

 今回はユニウスだけでなく、先日悪気は無かったものの妙な事件の犯人として登場したジャイアント二人組やこの日の為に不死鳥の如く集結し復活を遂げた『シフール合唱団』が祭りのステージに立つという。
 また、多くのバードやダンサーたちも村に続々と集まってきているらしい。当日飛び入り参加も受け付けているから気軽にステージに立って歌や踊りを即興でこなしてセッションしたりコーラスしたりという事も会場によっては可能となっている。

●人が集まる所、官憲あり?
 今回は特別大きなイベントという事もあり、人の出入りが激しい。毎年規模が大きくなってくる事から、トラブルや事件などが発生する確立が年々高くなってきていた。
 楽しむだけならいいが、祭りである以上『ハメを外してしまう』人が時々出てくる、という訳だ。
 そこで、最近は大きなイベントだけは村人たちのボランティアで成り立つ自警団だけでは足りず、冒険者ギルドや官憲らが出張警備にあたったりする事もある。
 今回は官憲チームからモーリィ他三名が担当に選ばれた。
 そして、冒険者ギルドからも警備依頼が舞い込んできた、という訳である。

 なお、参考資料として【シフール合唱団を守れ!】という依頼では、シフール合唱団が身内と同族の恨みを買い嫌がらせを受けたという事もあり、今回限定復活したシフール合唱団のガードなども警備計画書にはチェックされている。
 また、今回はメインステージと第二ステージ、二つのステージが設置され、それぞれ違う組で分かれて警備する必要がある。
 人が多いのはもちろんメインの方だが、第二ステージも意外なアーティストらが参加をしているとあってそれを目当てにやってくる者や穴場的な意味合いを兼ねてやってくる者が結構な数やってくる。

●ユニウスのステージは――?
 ユニも当然参加するのだが、彼は今回開会式として先日完成したウタウタイの弓矢を持って『メイ式鳴弦の儀』を行う予定である。
 これは初日の朝、一番初めにメインステージで行われるもので、かなり注目度も高いと思われる。
 また、彼は二日目の夜にリュートベイルによる弾き語りを予定していた。こちらもメインステージで行われる予定だ。

 さて。ここで、これまで彼が復元したアイテムの数々を紹介しておこう。
 先ずはオーク木材と羊の腸を使ってのリュートベイルがふたつ。今回の音楽祭にはこのうち一つが演奏に使用される。
 そして同じくオーク木材と弦には麻をよって漆塗りされた、文字通り漆黒の聖弓、通称ウタウタイの弓こと、メイ式鳴弦の弓がひとつ。
 また、その鳴弦の弓とセットとして彼が用意したのは鹿の角を使って、矢を放つと笛の様に音色が響き渡る特製の蟇目矢(ひきめや)。
 更に現在は鹿の角や骨、筋などを使ってのユニ特製の角弓(つのゆみ)が製作中――となっている。

 精力的に活動を続ける彼の噂はこの音楽祭でも注目されており、開会式や二日目のステージなどでは混雑が予想される。
 シフール合唱団だけでなく、彼のステージにも警備のチェックが強化されていた。
 なお、お騒がせジャイアント二人組は初日の夜に第二ステージであるとの事。
 何かと話題の多い今回の音楽祭、何事も無ければいいのだが‥‥?

●今回の参加者

 ea0017 クリスタル・ヤヴァ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●歌え! 踊れ! 音楽祭!
 遂に音楽祭が開催される。
 待ちに待った、この一年の努力と成果を披露する為のステージとして、演奏者や踊り子たちが歌を歌い、踊り続ける熱狂の二日間だ。
 メインステージと第二ステージのオープニングアクトはそれぞれ、メインステージでユニウスによる『メイ式鳴弦の儀』、そして第二ステージでは三台のパーカッションで繰り広げられるドラムセッションである。
「いよいよですわね」
 これまでのユニの楽器や歌唱、演奏を見て、聞いて来たルメリア・アドミナル(ea8594)にとって、この日はその一つの集大成である事に感慨深いものを感じていた。
 同じ班で、ルメリア同様にここまで来たか、というような表情で夜明けを迎えたイェーガー・ラタイン(ea6382)も、楽しみ半分緊張半分といった感覚で立ち上がる。
「何事もなく終わるのが最上ですが‥‥」
 雀尾 煉淡(ec0844)も同班の導 蛍石(eb9949)と巡回ルートの打ち合わせをしながらやや心配そうな声をあげた。
 そんな心配そうな表情から一転、ふわふわと羽ばたきながらしふしふしふと喉の調子を確認しているクリスタル・ヤヴァ(ea0017)にレフェツィア・セヴェナ(ea0356)が笑いかけている。
「みんな楽しみに待ってるんだもん、僕たちだけじゃない、自警団や官憲さんたちもいてくれるし、大丈夫。きっと、大丈夫だよ」
「しっふしっふふ しふしふふー」
「‥‥そうだな、その為に集まったんだ」
 三人チームとなった最後の一人、オルステッド・ブライオン(ea2449)は肯いた。
 誰ともなしに、ゆっくりと全員が立ち上がる。
 先日までのぐずついた天気から、歓喜へと咽びあがるような朝靄が草原から立ち上っていた。

●開会式と黒い影
 入場がはじまり、人々の列がぞろぞろとステージへと向かっていく。
「思ったよりも、人が集まってきますね」
 屋外のステージなので天気によってばらつきがあるらしいのだが、そういう時は奥の手を使って――タネを明かすと天候操作魔法を使って――いい感じの天気にしてしまうのが恒例のイベントだったりする。
 その為にウィザードやスクロールを呼んだり借りたりしてくるのだが、今回は昨日までの曇天から一気に晴れ間が覗き、一安心といった主催陣営だった。冒険者の中にそういう類のスキルやアイテムを持っていれば別途謝礼をつけてお願いする所であったが、どうやら冒険者の中には今回いなかったようである。
 会場の方はというと、徐々に席は埋まっていき、開会式までにかなりの観客動員数を集めていた。
 メインステージ裏ではユニとルメリア、そしてイェーガーがいよいよ迫る開会式を前に軽く会話を交わす。
「緊張、していますか」
「‥‥少しね、でも、楽しみだったから。やれるだけの事をやってみようと思っているよ」
「応援しておりますわ、ユニウス様」
「ありがとう、ルメリア。ああ、そうだ、イェーガー‥‥」
「どうしました?」
「いや、先日の話なんだが、君は確かカオスを討つ弓が欲しいと言っていたね」
「はい」
「全く方法がない、という訳ではないかも知れない――」
「と、いう事は‥‥」
「ユニウス様、お時間ですわ」
「ああ、わかった、今出るよ。話の続きは開会式が終わってからでもさせてもらうよ。それじゃあ」
 そういうと、ユニはにっこりと笑って見せた。

「むむむ! いかにもあやしい人影発見!」
 上空から哨戒していたクリスタルは、あからさまに怪しげな黒いマントに身を包んだ人影を発見する。フードもすっぽり被っていて、上空からは表情を読み取る事が出来ないが‥‥。
 このタイミングだと相手に悟られる事無く眠らせてしまう事は出来るが、見かけだけで悪事を働いている訳ではないので少し考えてから、同じ班のオルステッドとレフェツィアに報告を入れる。
「真っ黒いフードの、マントのあっやしーいのがいるよ!」
「‥‥わかった、引き続きクリスタルさんは上空を見て回っていてくれ。黒マントの男はレフェツィアさんとあたる」
「了解、まだ近くにいるはずだから自警団の人たちとか官憲さんたちにも目をつけられているかも知れないけど」
「‥‥一応、念のためという事もあるからな‥‥」
 クリスタルと離れ、彼女の言っていた黒マントを探しているオルステッドとレフェツィア。とはいえ、探す間もなく、すぐに見つける事が出来た。それだけ、朝方には目立つ格好だったという訳だ。
 逆に、だからこそ、この場にはやや不似合いで違和感のある格好であるとも言える。
「‥‥祭りの場には相応しくない格好だが、どのような御用かな」
「お前は、何だ」
 ――返って来た『答え』に、一瞬耳を疑う二人。
 クリスタルの情報と、見た目に完全に騙された。その黒マントは、『男』ではなかったのである。
「今日は催事があってね、警備を強めているところに、キミがやってきたって訳。いくらなんでも、その格好で、怪しくないなんて言い張るつもりはないよね?」
「もちろん、知っていたさ。その為に来たのだ」
「‥‥その割には、随分‥‥」
「ふう、やれやれ」
 問答無用で今にも斬りかかりそうな勢いのオルステッドに、いつもとは違う厳しい表情で対峙するレフェツィアの前で嘆息すると、フードをゆっくりと下ろす女性。
「これでいいか。日光が苦手で、どうしてもこういう分厚い服を用意しないとならないのだ」
 もし、この女性への問答がルメリア班か導班であったら、少しは穏やかに事が収まったかも知れないが。
「あまり騒がしいのは好きじゃないのだがな‥‥」
 初老、よりも随分若いような、若作りといえばいいのだろうか。深みのある大人の中に、じわりと滲み出る魔力。
 直感で彼女がウィザードである事だけは理解出来た。
 しかし。
「止まってもらわないと、こっちだって、困るんですけど!」
「‥‥やるしかないか‥‥」
 動かれる前に沈黙させるしか、対処のしようが無い事を、いくつもの戦いの中で体が覚えていた。
 魔法を発動されたら、一気に終わる。
 二人は肯くと、撹乱させるように散開してどちらかは囮、どちらかは本命を惑わせて一気に決着をつけようと間合いを合わせる!
「長年生きていると、面倒が増えるばかりね‥‥姉さん‥‥」
 女性は呟くように詠唱をはじめる。
 だが、オルステッドが一歩、完全にリードしていた。『何か』が発動される前に懐に飛び込んで仕込みの杖をスライドさせて柄の腹でみぞおちを狙ったのである!
 その瞬間――。
 オルステッドとレフェツィアは突然、今まで味わったことの無い『恐怖』に襲われた!
「な!?」
 一瞬で悟る。既に、『何か』は発動してしまっていたのだ。
 だが、一体何が起こったのか、理解出来るまでに、僅かな時間が必要だった。
「‥‥くっ‥‥」
 完全に視界が奪われていたのである。朝の日差しも眩しい快晴だった筈なのだ。にも関わらず、完全に――夜よりも深い闇――飲まれてしまっていたのだ。視力の良い二人の眼を持ってしても、女性の姿を捉えることは不可能だった!
 それでも――。
「そこか!」
 刃を引き抜いてから、斜め上に切り上げるオルステッド。
 だが、その感触は浅すぎた。僅かにマントに触れた程度か、果たして。
「悪いが、私は戦いに来たわけではなく、知り合いに会いに来ただけなのでね。そこで大人しくしているんだな」
 声だけは聞こえる。そして、ゆっくりと風の感覚も。
「待て‥‥!」
 オルステッドの声に、レフェツィアもおそるおそる声をかける。
「お、オルステッドさん?」
「しばらく待つか、ゆっくり後ろにさがれ。そうすれば元に戻る」
 声はかなり遠くに行ってしまっていた。
 二人は声を掛け合うと、そこからゆっくりと足元に気をつけながら下がる。完全に闇に閉ざされると、距離感がまるで掴めなくなってしまう。それでも、何とか引き下がっていくと、急に視界が変化していくのが理解出来た。
 そして、ようやくオルステッドたちは自分達に何が起こったのかを理解したのである。
 辺りを見回すが、既に女性の姿は無かった。
「逃がした、の‥‥?」

 上空から見ていたクリスタルには一目瞭然だったのだが、実は女性が発動させたのはシャドゥフィールドだったらしい。
 いきなり闇が現れたのである。驚いたクリスタルだったが、応援を呼ぼうとして第三班のふたりのところに行って、戻ってきた時にはもう何もかもが元に戻っていたのだった。

●弓の音は響き渡り。
 急いで戻ったオルステッドたち第一班と雀尾たち第三班。
 開会式はすでに始まっていた。
 どうやら混乱は起こっていないらしい。
「完璧にやられちゃったね」
「‥‥ああ‥‥」
 歴戦の冒険者でも、一瞬の隙を、完全に防ぎきる事は不可能である。それは、彼らが人間――この場合、亜人種も含めて――だからで、機械でもエラーが起こり得る以上、決して完全無欠という訳にはいかない。
 二人は、女性よりも恐らく、はるかに経験を積んで何度も死線を垣間見てきているはずである。それでもいともあっさりと二人の同時攻撃を無効化してきたのだ。
 とはいえ、さきほどの一連の状況は事故のようなものだった。その証拠に、あの時、確実にオルステッドの初撃はヒットしていた。
「大変だったね、二人とも」
「ごめん、クリスタルさん! 任せてって言っておいて‥‥いきなりだったから」
「‥‥そういえば、あの黒マント、女の人だったな」
「えっ!?」
「黒いマントのって、あの人ですか?」
 第一班の会話にまじって、導が確認のために聞き返す。
「あっ! あの人だ!」
「ああ、でしたら、大丈夫ですよ。元々、争い事は好まない人です、あの人は」
「知っているの?」
「ええ、以前。ちょっとした依頼で、顔を合わせたことがあります。少しだけ‥‥悲しい思いもしましたが‥‥」
 知り合い、という訳では無い。だが、忘れられない思い出が残っていた。
「そういえば、知り合いに会いに来たって‥‥もしかして導さんに会いに来たのかな?」
「いえ、そうではないみたいですが」

 鳴弦の儀は、メイの文化とはまるで違う文化からの出展という事で一種異様な雰囲気の中で行われた。
 弓から弾かれる弦の響きは、独特で、それでいて不思議な雰囲気を醸し出していた。
 軽くもなく、重くもなく、決して音量は大きくない。
 それでも、文字通り『鳴く』ように響き渡る弓の音は、それこそが邪を祓うと言われている聖なる音色なのだ。
 更に驚いたのは、やはり蟇目矢の存在だった。
 一般的な矢の形とは違い、狩りをする為ではない、矢。存在そのものがメイには馴染みの無い矢から発せられた、笛の音のような高いひゅう、という音色は初速から着弾までに音色を少しずつ変えて、七色の音を放っていったのである。
「なんという‥‥素晴らしいですわ」
「ユニウスさん‥‥」
 ユニの真剣な動きは、観客にもひしひしと伝わっている。神聖な、という表現は、実際にはメイの国民性には難しい感覚だが、精霊崇拝的な意味での一種の『神聖視』の感覚にも似た真剣さは彼の動き一つ、弓の動き、矢の音色ひとつとっても充分に神秘的だった。
 これからの音楽祭の無事を祈り、行われた鳴弦の儀はこうして、静かに始まり、静かに終了した。
 だが、非常に印象深い、イベントの開会式となったのである――。

 ステージを降りたユニを、イェーガーとルメリアは優しく迎えた。
「お疲れ様でしたわ」
「ああ、やはり、緊張してしまったかな」
「とても堂々としていましたよ、とても感動しました」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」
 三人で笑っていると、その背後から、ゆっくりと近付いてくるのは――。
「‥‥なかなか面白い試みだったな」
「あなたは――」
「ん、お前は‥‥どこかで見た顔だな、銀の髪の」
「あなたはあの時の!」
「見に来てくれたんですか、魔女さん」
「お前の晴れ舞台と聞いたものでな、買出しのついでに寄ってみたところだ」
 ユニとルメリアは黒マントの女性を見やると驚いた表情でそれを迎える。ルメリアにとってはとても悲しい記憶の女性で、ユニにとっては救いの手。
 かつて双子の魔女と恐れられた魔女の生き残りが、彼女だ。
 今はユニを助けた時の印象どおり、目つきこそ鋭いものの、以前ほどの怒りに満ちたものは感じない。ルメリアはとある事件で対面したきり会ってはいなかったのだが、その当時よりも生き生きとしている表情に、少しだけ安堵の感情を覚えていた。

●楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき。
 結局その後、昼間から飲んで酔っ払った男性グループ四組ほどの頭を少し冷やしてやって、他に迷子が出たという事で多少の動きがあったものの、大した事件も起こらず終日無事に終了した。
 冒険者たちと官憲チーム、そして自警団の連携は非常にスムーズで、多少のトラブルもものともせず、二日間はあっという間に過ぎていったのである。
 そんな中、クリスタルはシフール合唱団の歌に混じっていったり、ソロでステージに上がれば歌って踊ってと大ハッスル!
 ユニのリュートベイルの演奏なども大いに盛り上がったという。

 祭りは終わって、ユニは冒険者たちに深い礼を入れる。
「本当にありがとう。祭りも大盛況で、また来年も今年以上に盛り上がるように頑張ろうと村人たちも喜んでいたよ」
「それはよかったね〜、しふしふも楽しかった〜!」
「素晴らしい歌と演奏を拝見させていただきましたわ」
「鳴弦の弓や角弓、それにリュートベイル。丹精込めて作り上げた珠玉の数々、目に焼き付けておきました」
「そうだ、イェーガー。例の話なんだが、弓そのものを対カオス用につくる事は出来ないかも知れないが、手段はある。銀の矢を作る事さ」
「銀の、矢ですか」
「昔から銀は魔を祓う、魔を討つと言われているものでね。しかし弓に銀細工を施す、という事は出来るかもしれないが、決定打には成り得ない。だが、鏃に銀を使う事は可能だ、という事だよ」
「なるほど‥‥銀の矢‥‥」
「とはいえ、銀を加工できるほどの銀の量と火力と道具が必要だがね。鍛冶が出来る程度の技術があるようだから、不可能ではないだろうけれど。ヒントにはなったかな」
 銀の矢でカオスを討つ、という逆転の発想は弓そのものでは成し得なかった一つの可能性だった。とはいえ、可能性であり、本当にそれが正解なのかは現時点では不明である。

 こうして祭りは一波乱あったものの、無事に終了し、冒険者らは官憲チームと一緒にメイディアへと帰還していった。

「迷いは断ち切ったようだな」
「はい。僕にはまだ、やる事が残されているようです」
「私も手助け出来ればいいのだがな‥‥」
「いえ、あなたには色々助けられてばかりで、申し訳ないほどですよ。今度の事も、土の事もね」
 宴は過ぎ去り、ウタウタイに新しい風がふこうとしている。
 新たな一歩が、刻まれる日は――近い。