ウタウタイの笛

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2007年10月11日

●オープニング

●完成、ウタウタイの窯。
 先日急ピッチで施工されていたユニウス考案の焼き窯が遂に完成する運びとなった。
 屋外に設置されたそれは様々な用途に使われる多目的な窯として作られ、形状こそ珍しいものの最終的にかなり本格的なものが出来上がった。
 これはユニウスひとりで作り上げた訳でなく、ウタウタイの情熱に感化された村人や魔女、そして何より今まで数々の依頼をこなしてくれた冒険者の協力なくしては完成を見る事は出来なかっただろう。
 過去最大級の盛り上がりをみせた先の村の音楽祭も、彼の働きかけにより多くの動員数を得る事が出来たが、やはり彼ひとりでは成し得なかった。
 ユニは確かに一人の吟遊詩人、復元師、そして考古学者としての面を持つが、彼は言う。
「僕はただのウタウタイさ。冒険者たちの力がなければ、きっと、まだ少しも先に進めていなかったと思う。とても彼ら彼女らには感謝しているよ」
 と――。

 そんな感謝の意味を込めて、ユニは『恩返し』をしたいとずっと思っていた。
 村民たちに、魔女に、そして――冒険者たちに。
 そういう意味で、この窯を作り上げたのである。
 そして、約束どおり、窯の完成パーティを行う事に決まったのだ。

●完成パーティと記念品。
 窯の完成パーティと同じく、最初に焼くものをユニは前もって決めていた。
 以前依頼に参加した冒険者からもちらほらと言われていたように、粘土をこねて成形し乾かした後窯で焼成する事で完成する楽器。
 そう、つまり土で出来た楽器――『オカリナ』を手づくりしようという訳である。
 オカリナは比較的初心者でも一般的な道具と焼くことが出来る環境さえあれば誰でも音の出るオカリナを作ることが出来、ユニはそうして楽器をもっと身近に楽しんでもらおうと安価で提供出来るよう、体験学習コースを開くことにしたのだ。
 音楽を、奏でるだけでなく、自らが自分自身の為。或いは誰かの為に心を込めてこね、練り、形を整え、焼き上げて完成させる事でもっと音楽と密着した生活を送れるようにと。

 その必要な道具、そして窯の完成によって環境も整った。
 そこで特別に今回、窯完成式を祝って無料で体験学習コースを受けてくれる人を募集する事になった。
 そしてユニウスから冒険者ギルドへ、その招待状が送られてきたという訳だ。
 参加は自由、費用は無料。
 ただしボランティアで完成式の人員整理などを手伝ってもらうかも知れないので現地で指示に従ってもらいたい、との事。
 野外の全天候型の焼き窯なので雨風で壊れたりする事はないだろうが、雨天の場合製作中のオカリナが充分な乾燥を得られないかも知れない。もしウェザーコントロールを得ている者がいるのなら、天候を見つつ協力をしてもらいたいとも。

 ともかく、メイの国ではあまり見かけることの無い体験が出来るとあって、しかも毎年音楽祭を行っている音楽の村で楽器製作が気軽に体験できるとあれば話題にもなるだろう。
 記念品に作ってみたり、贈り物として手づくりしたりと楽しみは無限である。
 出来れば多くの人を呼びたいという気持ちもあるようだ。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec3729 女郎花 希魅(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●ある晴れた日の出来事。
 その日はとてもよく晴れた一日だった。風も心地よく、さわやかな風と少しだけ涼しさを含んだ優しい風のハーモニー。
 今日、この日は祝いの日にぴったりの快晴となった。
 標高の高い所によってはもう肌寒く感じるらしいメイの国だが、ユニウスの住んでいる村はまだ暑さの残る夏と秋の季節の変わり目といった感じだった。
「やあ、みんな、良く来てくれたね。ありがとう」
 ユニは冒険者たちを迎えると、パーティのスケジュールなどを説明してくれた。今回冒険者が担当する人員整理はパーティそのものではなく、その後にオープンする工房の方の担当となる。
 今回そのパーティに出席したのはレフェツィア・セヴェナ(ea0356)、イェーガー・ラタイン(ea6382)、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)、結城梢(eb7900)。
 他にも参加したいという冒険者もいたのだが、どうやら日程の都合上どうしても外せないという理由があり参加を断念した者もいたという。

 メイの国でも焼き窯というものは無い訳ではないのだが、通常は屋内で使用される事が多い。わざわざ屋外に作る、という事はほとんど無いのが実情である。
 ではどうして屋外に作る事になったのか。
 これはユニの考えでもあり、村の承諾もしっかりと取った上で製作されたのだが、やはりそこには『人を集める為の舞台』という大きな目的があったようである。
 今回、ユニウスと初めて会ったのはリュドミラと結城の二人だったのだが、リュドミラはどうやら焼き物の経験があるようだった。
「リュドミラと申します。この度は野外全天候型・焼き窯の完成、おめでとうございます」
 結城の方はというと、実際のオカリナを見たことがある、という意味では一般的な意味合いで知識を持っていると言えた。
 天界ではプラスティック製のオカリナなどが比較的手頃な価格で入手出来る事もあり、オカリナそのものがどんなものかは大体想像がついていたのである。
「一応、オカリナに関しては、一般的な知識はありますけど、どうすればいい音が出るとか言うのは分からないですので」
「そうか。君もあちらから降りて来たのか、それならきっと大丈夫だ」
「そうでしょうか。でも、頑張りますね」
「ああ、楽しみに待っていてくれよ。レフェツィアもイェーガーも、そしてリュドミラも結城も。今日はとにかく楽しんでいってくれ」

 パーティといっても村の身内が集まって酒や料理を振舞うホームパーティの延長みたいなものだ。
 元々この村にはそこまで財力は無く、苦しい財政の中、それでも元気を無くさない為に自身を奮い立たせる勇気や意識を高める為に、鼓舞する為の音楽が広まっていったのだ。
 常に明るくいたい、ありたいと願った先に、音楽があり、それと共に子供達は育ち、大きく広がっていったのである。
 この村出身の踊り子や演奏家は意外とおり、だが、正式な音楽学校などの出身でない為大きな舞台にこそ立っていないが実力は相当のものを持っていた。
「音楽に溢れた村‥‥素敵ですね」
 技術や理論こそ無く、見様見真似のコピー演奏がほとんどだったが、もっと根本的な『学問』に近づけていけば飛躍的に向上するとは思うのだが、どうしてもまだその段階まで踏み出すことが出来ずにいた。
「ああ、もっと、こう、そうだな‥‥心の底から音楽を学びたいと思ってくれる人々が増えてくれれば面白い事が出来そうな気がするのだけれど、中々上手くはいってくれないよ」
「もっと、面白そうな事、ですか」
「もちろん今だって、これからオカリナの製作を通じて音楽の楽しさを触れてもらう事がとても大切だと思っている。だけどね、思うんだ。メイで新しい『音楽』を作り上げたいと。メイの国の音楽をね」
 ――彼の遠い、遠い目標。
 メイの国の音楽を目覚めさせる事。
 いや、新しい技術と知識と、革新的な要素によって生み出される、メイの国のニュースタンダードを生み出す事。
 それこそが彼の願う『想いの先』だ。

 ユニウスたちの元いた世界、天界とアトランティス東方・メイの国を繋ぎ、そしてそこから生み出される双方のエッセンスを融合した新しい音楽の創造。
 それは。
 この世界の『未来』に欠かせない、ひとつの可能性。ひとつの回答だと、ユニは思っていた。
 今すぐじゃなくていい、この先、どんな事があってもやり遂げたい強い願いだ。
 その為にすべき事を、彼はやり続けていくしかない。
 イェーガーと結城は、そんな彼の強い思いに惹かれていた。イェーガーは『作り手』を護る為の存在として。結城は同じ天界の人間として。
 それぞれにそれぞれの思いを込めて。
 夜遅くまで開かれていたパーティは終わりを告げ、そして、翌日のウタウタイの工房オープンまで短い眠りについた。

●プレオープン!
 翌日。
 天気は今日も良かった。秋晴れ、といえばいいのだろうか。
 秋の祭りといえば、メイの国では豊穣祭が各所で行われる。
 今回のパーティはその豊穣祭の前哨戦と言っても過言ではない。これから秋を迎える、祭りのピークなのだから。
 そんな中、ウタウタイのオカリナ工房がプレオープンした。
「はーい、ちゃんと並んでねー。あっ、ほらほら、列から抜けたら後ろに回ってもらうんだから、注意してね」
「午前の部、第一回、第二回、第三回は二十組ずつ、それからお昼休憩をはさんで二回の計五回を行いますから整理札を配布します」
 木の板を使った整理札を順次手渡しし、午前で六十人、午後四十人というハードスケジュールをこなしていくユニウス。
 最後の組が製作を終えた頃にはさすがに疲れたのか、少々ぐったりした表情を見せていたが、彼なりに予定通りに事が進んでいるようである。
「お疲れ様です、流石に初日とあって、人数も多かったですね」
「本当、物珍しさもあるんだろうけど、なんだかみんな楽しそうだったね!」
「オカリナは実は焼かなくても充分に乾燥させれば吹くことが出来るんだが、焼成した方がよりいい音を出してくれる。しっかりとこねて形を整えていけば割れたり壊れたりというのは少ないものだよ」
 リュドミラとレフェツィアは午後列の整理を担当しながら、時折作業を眺めていたのだが、皆難しそうな表情をしながらも最後は笑顔で完成させていた。
 道具を使う事で、比較的誰でも――多少不器用な大人でも、子供でも作ることが出来る楽器がオカリナである。
 ある意味、一番簡単に製作出来る気鳴楽器の一つだと言われている。
 その割には実はその『音の出る理屈』や『演奏レベルの吹きこなし』は難しいものがあった。未だにはっきりとした構造からの音の出る理屈は諸説あるとされている。
 また、土で出来ている、という理由もさる事ながら、肉厚や開けた穴の位置や大きさによっても発音に差が出るとあって、安定した『楽器』としての性能を引き出すのが難しい。
 量産には向いていない、といってしまえばそれまでだが、逆に言えば、どれひとつとして『同じ音色を持つオカリナ』は無いと思えばそれがどんなに『特別』なものなのか、理解していただけるだろうか?
 作った本人だけの、オンリーワンなのである。

 結局オープンから数日は溢れるほどの動員数を得たが、整理や講座の慣れもあり、天候の良さも手伝ってようやくユニウスも適切な情報量と作業量を測る事が出来、作業もスムーズに進行していった。
 人員整理も午前、午後と交代しながら丁寧にこなしていたので、後半はかなりスムーズだった。
 ユニだけでなく、四人ともに作業に慣れたのが幸いした。
 結果的には午前二回、午後二回という回数に安定し、一回分で三十組の製作が可能となった。

●己との対面。
 天候が悪いと乾燥も進まないので曇りや雨の日は回数を調整したり、人数を変更したりと工夫していったのが成功したのか、現在までで焼成に失敗した、とか割れたとかいう報告は百個にひとつかふたつほど。
「随分、思ったよりも好成績だね」
 レフェツィアと結城は正直作成に入るまで、不安で仕方なかったらしい。
「ところで、こんな事を聞くのもなんですけど‥‥今回は無料で解放していますけど、本当はどれ位で体験出来るようにするんですか?」
「ふむ、そうだね。今回はただ製作して焼くだけなんだが、正式オープンの時はこれに更にもう一手間加えてみようと思うんだ」
「もう一手間? これ以上、何かする事なんてあるんですか?」
 イェーガーとリュドミラも正式オープンで行うという追加ファクターに興味津々の様子。
 ユニは深く肯いて。
「そう、少し用意するのに手間取っていたんだが、少し数も量も揃ってきたのでやろうと思っているんだ。来てくれ」
 四人は首を傾げながらユニに着いて行くと。
「これは‥‥塗料!」
「塗料って事は、あっ、わかった!」
「オカリナに色をつけるという訳ですね」
「あっ、今、僕がそれ言おうと思ったのにー。先に言われたー、ぷう」
 頬を軽く膨らませるレフェツィアに軽く笑顔でそうだね、と返すユニ。
「そう、最後にもっと『自分らしさ』を表現してもらいたくてね」
「なるほど。そのオンリーワンをより高める為のエッセンスという事ですね」
「そういう事だ。さて、そろそろ君たちにも作ってもらおうかな、君たちだけのオカリナを」
「いよいよ、ですか‥‥!」
 四人は、遂に土を通して己との邂逅を果たす事となる――。

●土との対話。
 著名な陶芸家は、語る。
 土とは何か。
 ほとんどの、いや、一度でも土に魅入られた者ならば、こう口にする事になる。
『土とは、己を映す、鏡である』と。
 一心不乱にこねれば透き通る水の如く滑らかになり、迷いがあればその心を乱すように濁り、楽しく思えば土は軽くなり、苦しく思えば土はより重く感じるという。
 自分自身を映す鏡、それが土との会話だという。
 四人も、ユニウスもその域には突入していないまだまだ稚拙な腕だが、心を曇らせるものは何も無い。
 それぞれに思いがあり、それに向かって突き進んでいる。
 その心、折れる事無く、前を向いて歩みを止めない。
 だからこそ、出来る事がある。
 レフェツィアも最初は不安だったものの、夢中でこねている間に、そんな事は吹っ飛んでいた。
 イェーガーも、指示を仰ぎつつ、丁寧に手を動かしていく。
 リュドミラは四人の中ではもっとも土や石と触れ合う回数が多かっただけあり、力ではない、『コツ』をすぐに身に付けていた。
 結城は綺麗に作ろうとして大胆さに欠けていたが、丁寧さは四人の中でトップクラス。
 それぞれにそれぞれの思いを乗せ、土はその手の熱を含みながら練り上げられていく。

 充分に練られた土を今度は平らに伸ばしていく。
 オカリナの作り方には様々な方法があるのだが、イメージ的にはくり貫いて作られるのを想像しやすいだろうか。実際にこのくり貫き法が最もポピュラーかも知れない。
 つまり、上下に大まかに形をつくった型の内側に当たる部分を空洞にくり貫くのである。そしてその上下を張り合わせて、内部空洞を再現する方法だ。
 ほかにも空洞部分をティアドロップ状の木型などで形成する事で外側は別々だが、音色は安定する空洞型盛り法などがある。
 くり貫きとは違い、一定の音色が出やすい構造となっており、量産して商品化するには欠かせない方法である。
 今回は、というか、実はここでもユニは面白いアイディアを出していた。
 工房で体験出来る製法をくり貫きで教え、村のお土産として生産するものは空洞を型で作る二種類の方法で考えていた。
 それにより、作るのは苦手だけど気軽に音楽を楽しみたいという層にも安心して提供できるオカリナの製作が可能となったのである。
 くり貫きで作られたオカリナは上記の通り、かなり音に幅がある。それが売りであり、楽しさだと考えていたからだ。
 ちなみに、肉厚が薄ければ低い音が出て、肉厚が厚ければ高い音が出る。好みによって、またその時の製作者の状態によっても大分音に差が出るのがまた面白いところである。
「うう、難しいー」
「ええ、でも、なんだか夢中になってしまいますね」
「久々に、無心になれるというか」
「穴を開けるのも、自分の指の幅に合わせるのが一番なんですね。勉強になります」
 調律の事に関して手づくり工房の方式ではあまり気にしない。出来上がる事がまず大前提であり、この体験から、真剣に楽器に触れ合おうとしてくれれば、という思いがあるからなのだろう。
 また、ユニウスは絶対音感があるから別だが、一般人が本格的に作るにはチューナーが必要という事もあり、そこまで『正確な』ものを作らせるのが目的ではない。ついでに言うと、今のメイの国にある一般的な楽器のレベルからいうと、これ位が技術レベルの限界だと言っていい。

 一通り作業を終え一息ついた冒険者の面々。
 リュドミラは友人から今回、残念ながら参加する事が出来なかった旨の伝言を預かっておりそれをユニに伝えた。
「そうか、彼も今はやるべき事をやっているんだね。何度も依頼ではお世話になっているから、感謝していると伝えてくれ。また、来られるならいつでも来て欲しいと」
「わかりました。それで、こちらの物もユニウスに渡して欲しいと、預かってきたのですが」
「これは‥‥」
「なんでも、天界にいたころ入手した古代の楽器だそうです。『私には楽器を演奏する技術がありませんので、同じく土を使用した楽器ということで何かの参考となれば幸いです』とのことで、よろしければお受け取り下さい」
「ふむ。興味深いな、これは、実物を見たことが無かったものでね。そういう事なら、わかった。預かっておこう‥‥そうだな、いつか多くの楽器を入手した時には展覧場のようなミュージアムを作りたいものだね。出来れば演奏可能なものを多く集めて」
「それも楽しそう〜」
「太鼓というのはこれも古くからある楽器の一つでね。このメイの国でもいくつか見たことがあるが、これはまた違う物だからね、興味は尽きないな」
 リュドミラは肯くと、笑顔で返す。
「そうですか、受け取ってもらえてこちらも嬉しいです」
「君達が帰る前に、オカリナはしっかりと焼けている筈だ。帰りに受け取りに来てくれよ」

 四人は完成までどきどきしていたが、期間を終え、帰還を前にユニウスの工房に立ち寄るとしっかりと自分達で作り上げたオカリナが完成していた!
「よかった〜、壊れてたらどうしようかと思ってたけど!」
「これが自分で作った‥‥」
 四人はそれぞれに自分で製作したオカリナを受け取ると、大事そうに握りしめる。
「また君たちに依頼をお願いするかも知れないが、その時はまた頼むよ」
 ユニウスはそうして四人の冒険者を見送った。
 そして、ウタウタイのステージは更に高みを目指していく。
 チャレンジャーとしての彼は冒険者と共に次なるステップへと進んでいくのである――。