メモライズド〜怪鳥〜

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2007年10月11日

●オープニング

●あの日から。
 最悪の結末を迎え、悔しい思いを残しながらセルナーへと向かった冒険者が帰還してから、数日が経過した。
 結果的に使者の一人セトテをセルナーに送り届けることが出来たが、もう一人の使者は身元すらわからない為、ステライド領、セルナー領共に確認作業等に追われていた。

 一方、同行した魔女はセルナー領の官憲の不手際などもあり、メイディア側との連絡をスムーズに働かせることが出来ず面会を受領出来ずにいた。
 メイディアの官憲、モーリィも手を回していたが、結局冒険者らが滞在していた間に間に合うことが出来なかったのである。

●それから。
 魔女は友人との約束を果す為とある作業中だったのだが、優先順位をこちらにシフトしてくれていた。
 セルナーの病院にいるとされるパイロットらしき人物とのコンタクトを計る為、モーリィが必死に手配してくれるのを待っていたのである。

 さて、セルナーの病院に入院中の男について、現在までに判明している事はやはり、まだ、かなり少ない。
 個人情報は元より、名前も思い出せないらしく記憶もほとんどない状態だ。
 魔女の使うリシーブメモリーでも、どこまで関連情報を引き出せるか疑問である。
 それでも、彼女はじっとその時を待っていた。
 一度関わった問題である、見届けたいという気持ちはある。だからこそ、協力を受けたのだ。

 今回は、ようやくモーリィがセルナー領の官憲に推薦状を書き、それを届けることで面会の準備を早急に進めてくれる事が決定した。
 しかし、メイディアに収容されたもう一人の使者と思われる人物の解剖結果はまだ出ていない。
 本来ならば、もう一人の使者の身元を判明させ、正式にセルナー領に送り届けてやりたい所なのだが‥‥。

●もう一度セルナーへ
 今回の目的は、推薦状をもって魔女が待つセルナー領へと赴き、病院にいるパイロットの面会を果す事である。
 モーリィも同行したいと言っていたのだが、また別の事件が起こったらしく彼女はそちらに向かう事になってしまった。
 推薦状は預かっているので、受け取りに来てもらえれば直ぐに渡す事が出来るような状況にしておく。
 使者の身元はセルナー側でも調べているので、もしかすると推薦状を持っていった時にはすでに判明しているかも知れないが、現時点では調査の最中という事だ。

 今、冒険者出来ることは、『待つ』事と『知る』事だけだ。
 全てを知るにはまだ時間がかかるかも知れない。それでも必ず全てが繋がる時が来る。
 その時まで。
 いや、その時のために、今は待つしかないのである。

●今回の参加者

 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2869 メリル・スカルラッティ(24歳・♀・ウィザード・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

●核心へと迫る一歩。
 セトテが死に、もう一人の使者も死体で発見された。
 そしてそのどちらもが右目と右腕を失っていた。
 眼球と右腕の在り処はまだ誰にもわからないが、今回もその検死を担当した月下部 有里(eb4494)は一連の手口がまったく同一な事から、単なる殺害ではなく、何らかの目的で彼らの眼と腕を切り取ったものと考えていた。
 そうでなければ、不自然な点が多すぎる。
「この時代だと身分を証明する一番いいものは遺体の手形かしら」
 そこで月下部は身元確認の手段として手形を残す事でセルナー側に提供する資料として、また証書としての機能も持ち合わせた書類を作成する事にした。
 これには官憲らも立ち合いのもとで行われ、王宮側にも同じ物が提出される事となる。
 立ち会った官憲の中にはモーリィがいなかったのだが、彼女は別の事件で現在メイディアから離れている。だが、彼女が書いた推薦状はすぐに受け取れる状態になっているという。
 モーリィから詳しい事情が聞けなかったものの、同事件の担当でモーリィの部下である男が推薦状を持っていた為、冒険者全員で一度集合しそれを受け取ると同時にいくつかの情報整理をする事となった。

●モーリィが――。
「何て‥‥こった‥‥」
 こんな事があっていいだろうか。モーリィはメイディアの官憲になってから、いや、官憲になって以来、初めての絶望と戦慄を味わっていた。
「くそ‥‥くそ‥‥くそぉおおおおおお!!!!」
 相手がカオスニアンと恐獣だけでなく、鎧騎士、そしてウィザード――魔法使いまで潜んでいたとは。
 だが。
 ゴジュ、ヴヅッ。
「うあああああああ――――」
 冒険者たちが出発して間もなくの事、モーリィは瀕死の重傷でメイディアの病院に運び込まれた。

●右目と右腕の理由。
 メリル・スカルラッティ(ec2869)はこれまでの事件を順に整理しつつ、その難解で特異な事件の全貌が未だ明らかにされていない事に衝撃を受けていた。
 それでも、いくつか繋がりそうな部分がありそうな気がするし、それらをセトテの『言葉』と当てはめると――カオスニアンらの単独の犯行である事は薄く、徐々に見え隠れするバの国の影が色濃く映り始めるのである。
「それでも、やるべき事はしっかりとやらないとね!」
 気合を入れなおし、いざ、目的の地へ!
「そうですわね。敵もそろそろ我々の動きに気が付いている可能性が高いでから、気を抜かず行きましょう」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)もいよいよ慎重に事を運ばなければという緊張感で張り詰めていた。
「特殊な事なので答えられる範囲でいいんですが、ひとつ教えていただければと――」
 最後に月下部はカオスニアンの特性などに関わる疑問を官憲に問い合わせる事にした。
「遺体への損傷だけれど、アトランティスに呪術的、もしくは技術的なものはないかしら? 単なる嗜好ではなさそうだし、失われているのは一様に同じ部位よね」
 アトランティスという『世界』全体での意味合いであれば呪術というのは皆無という訳ではなさそうであるが、それよりもやはり彼女の予想通りカオスニアン独特の『何か』である可能性の方が高いという。
 ちなみに天界では犯罪者の右腕を切り落とし特殊な薬液に漬け蝋燭状にした、『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)』という秘術が魔女の間で製造されていたという伝説がある。
 魔女――。
 まさか、彼女が真犯人?
 いや、そうではないだろう。魔女と呼ばれるあの女性は今でこそ双子の魔女の生き残りとして『魔女』の名を残しているが、その実、彼女が晩年まで続けてきたのは天界の伝説上の魔術であり科学とも言われる錬金術だ。
 彼女は、科学者であり魔法使いであり、錬金術師でもある。
 それに今は血を必要としていない。腕を切り落とせば当然多量の出血が噴出するから、当時は喜んでいたかも知れないが、あの事件はもう解決したのである。もう、関係無いだろう。
 どちらにせよ、眼と腕は失われたまま、行方不明だ。カオスニアンは自分の体にタトゥーを施したり、一見シャーマニックなイメージが強い。そういう観点からすると、眼球を秘術の媒体とする事は何ら不思議ではない。
 しかし、何に使われているのかは皆目見当が付かなかった。

●それぞれの覚悟
「先に推薦状を届け、魔女殿の作業が進むよう下準備をしてきます」
 導 蛍石(eb9949)はいち早く魔女に推薦状を届けるべく、三人よりも先にセルナーへと飛ぶ事となった。
 先日はたらい回しにされた事もあり、また現地で待たされたり手間がかかると時間が勿体無い、という彼なりの考えもあったのだろう。
 単独で移動するのは多少危険な気もするが、時間の短縮によるスムーズな進行を主な目的とした為、無理も無茶もしないという約束で彼は天馬の黄昏と共に天を駆けていった。
「一人で行かせて、本当に大丈夫かしら」
「‥‥今は、信じるしかありませんわ。事態を解明する為には必要な事ですから」
「そうだね。こっちも気をつけて、急いで行こう!」
 女性三人は導を追うように軽量化された特急便用の小型馬車を用意して飛び乗った!
 ルメリアはそれを護衛するようにセブンリーグブーツで周囲を警戒してまわる事にした。

 導はペガサスの背に乗りながら、上空から後から追ってくる筈の三人の為の囮の役もかねて警戒して周囲を見回していた。
「今度こそ、間に合わせてみせる‥‥」
 彼もまた、やるせない後悔が心の奥に、こびり付いていた。
 あの時、ああしていれば、あの時、こうしていれば。
 そんな思いばかりが募る。状況はどんどん悪化していたし、何もかもが後手に回っていた。
 彼が悪いという訳では、もちろん無い。彼だけではない、この一連の事件に関わった者は皆一様に後悔の念を抱いていたのである。
 だが、悔やんでいるだけでは何も解決してはくれない。
 この辛い気持ちは、事件の謎を解き明かし、解決に導く事で亡き者たちへの供養としたいと感じていた。
「必ず、何処かに突破口がある筈です」
 その答えへの第一歩が、この推薦状だ。早急にこれをセルナーで待つ魔女の元に渡して、失われたとされるパイロットの記憶を呼び戻さねば。

「失われた記憶、謎の怪鳥、使者の死‥‥」
「カオスニアンだけじゃ無いわよね。あの工房で見たグライダーのスケッチが彼らの持ち物であるとは思えない」
「全てが一つの線に繋がった時、私たちは何を知ることになるのでしょう」
「心配ばかりしていても、解決はしないよ! 今は動くしかないんだから!」
 どうしても気落ちしてしまいがちな月下部とルメリアを元気付けるように、声をはりあげるメリル。彼女だって内心難しい。それでも落ち込んでいるだけでは何も進まない、何も解決しない。
 だったら全てが終わるまで全身全霊でぶつかるしかない。
 そう、考えていた。
 メリルの元気さに二人は、今一度覚悟を決めて挑むように、真剣な表情に戻った。
「そうですわね」
「きっと搭乗者の記憶を引き出す事が出来ればまた何か掴める筈よね、それで少しでも進めば」
 メリルは肯くと、馬車の手綱を握りなおした。

●邂逅――。
 導も、後発の三人も無事セルナーに到着した。
 先行して到着した導の前準備のおかげで魔女とも再会を果たす事が出来、そして、病院にいるパイロットの男との面会も可能となった。
 病室に通された四人と魔女だが、彼の姿に全員が絶句する事となる――。
「‥‥どういう事、これは‥‥」
「あなた達は?」
「失礼いたしました。私たちはメイの国の冒険者ですわ。今回はあなたに少しお話を聞かせていただきたく参りましたの」
 ベッドに横になっている男は、起き上がることは出来ないが多少の会話を交わすことが出来る程には回復していた。
「どこから、お聞きしたらいいでしょう――」
「私には、ほとんど私自身の記憶がない。私が誰なのか、どうして傷付いているのか、何もかも」
「でも、おしゃべりする事は出来ているから、全部を忘れている訳じゃないよね」
「‥‥そうですね。覚えている事といえば、そう、私は海が好きでね。思い出すのは海の事ばかり。もう私は動けないが‥‥もし出来る事ならもう一度海を見たいよ‥‥」
 窓の外を眺めるようにして、ゆっくりと目を閉じる男。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。

 ようやく邂逅を果たした男の、事故の衝撃で失われたとは思えない特徴的な外傷に、誰もが息を飲んだ。
 彼の右目と右腕も――失われていたのである!
「証拠隠滅の為に、『何か』を施したとしか思えないわ」
「証拠隠滅って‥‥カオスニアンが墜落したグライダーのパイロットをバの国から依頼されて消しにかかった、とか?」
「まさか身内にも同じ事をしていたとは‥‥信じられません。カオスニアンは邪悪な存在だと思っていましたが、まさかこれほど残忍な事を平気でする者たちだとは」
 彼の休息を待つ、という事はせず、魔女は寝ている時の方が抵抗もされにくいという事でこのタイミングで記憶を引き出す事を提案する。冒険者たちも時間との勝負という意味を踏まえて、それを了承した。

 彼の名前は結局判明しなかったが、魔女のリシーブメモリーによって引き出された『言葉』は以下の通り。
 ウドの海
 金属ゴーレム
 三機の試作型
 ゴーレムグライダー
 ブラックバード計画
 永久氷海
 シーハリオンの丘
 やはりこの男は、間違いない、バの国の鎧騎士だ。あの黒いゴーレムグライダー墜落事件に一番近い男が、メイの国に不時着してしまったのか、或いは計画的に『落とされた』のかは不明だが、証拠を消す為にこの男の記憶を奪ったと見るのが正解だと思われる。
 だが、最も新しい、上書きされない記憶が引き出せたのは上出来だった。
 状況的に、墜落事件にぴったり当てはまるのである!
 地図で説明した方が早いかも知れないが、一応説明しておこう。
 黒いゴーレムグライダーはメイの国の北海、ウドの海から永久氷海のすぐそばを通り、シーハリオンの丘へと向かう途中で、海上で墜落したと見られている。これは目撃情報で判明している。
 領海侵犯だったのだが、ゴーレムグライダーがどうやってウドの海を南下するように飛来出来たのか、誰も証明出来なかった。しかし工房で再現されたゴーレムグライダーは水上飛行艇の機能を持っていたと見られている。
 これはまだ憶測の域を出ないが、ゴーレムシップによってウドの海に運ばれたこの三機の黒いゴーレムグライダーは試験飛行の為にシーハリオンの丘まで飛ばそうとしていたのだろう。
 しかしその途中で一機が墜落、その証拠を消す為にゴーレムシップに乗っていたカオスニアンらが記憶とゴーレムグライダーのコア、精霊核を奪った――。いや、この場合、回収した、という方が近いか。
 今までの『言葉』を当てはめていくと、どんどんそのピースが埋まっていく。
 証拠はほとんど無い。だが、事情だけは段々と飲み込めてきた。
 そして、その黒いゴーレムグライダーの試作機計画こそが『ブラックバード計画』なのだ。その全貌は明らかにはなっていないものの、もしこのゴーレムグライダーが本当に飛行艇の機能を持ち合わせた新型機の試作運用だったとしたら――。
 結局、彼の『言葉』もまだただの欠片でしかない。
 これ以上の記憶を引き出す事が出来ない以上、面会は切り上げ、今度はセルナー領主のもとへと赴き、使者の身元を確認する為の手続きを行う冒険者ら。
 魔女の役目は一応終わったが、せっかくだからと冒険者に同行してくれた。

「ようやく、身元が判明したわ。やはりセルナー領の使者で、名前はジーキス。セトテと一緒にメイディアに向かわせた使者だったわ」
「それじゃあ‥‥」
「ええ、メイディアに確認した後で彼も送り届ける事になるでしょうね」
 確認を取ったのは月下部だった。自分で証書を書いたのだから、間違いようも無い。
 セルナーからの書状を受け取って、送り届ける事を約束した冒険者たちは、こうして状況を整理しつつ帰還する事となった。
 しかし、メイディアに戻った冒険者たちに次なる衝撃が待ち受けている事を、今は、誰も知らない――。

●死の淵を彷徨う女性(ひと)
 メイディアに戻ってきた冒険者たちに、信じられない言葉が告げられる。
 モーリィが何者かに襲われ、瀕死の重傷を受け病院に担ぎ込まれた、と。
「そんな、モーリィ様が!?」
「嘘だ、あんなに強い人がそんな簡単にやられる訳ないよ!」
 ルメリアも、メリルも、導も、あまりの事に混乱を隠せない。
 だが、月下部だけは――。
「私が診ます」
 今のメイディアの医療では限界がありすぎる。神聖魔法で一時凌ぎには出来ても、適切な処置はどうしても技術的な部分で追いつけない。瀕死のモーリィは今、死の淵を彷徨っているのだ。
 ここで彼女を失う訳にはいかない。
 二度とこんな事で奪われる命があってはならないのだ!

 そして――。
「どうでしたか、月下部様。モーリィ様の容態は‥‥」
「――結論から言うわ」
 全員が、固唾を飲んで月下部の言葉を待つ。
「何とか、峠は越えたみたい。帰ってくるのが少しでも遅れていたら、危なかったかも知れないわね‥‥」
 安堵の溜息をつく、冒険者。そして共にやってきた魔女。
「今は痛み止めを打って、適切な処理を施しておいたから、大丈夫だと思う。ショック症状による後遺症はまだわからないけど」
「でも、命は助かったんですよね?」
「ええ。今のところは彼女の信じられないほどの生命力に賭けてみるしかないのだけど‥‥でも、あの人の事だもの。大丈夫よ」
 それよりも。
 月下部は冒険者たちに、残酷な現実を叩きつける事になる。
「それよりも――落ち着いて聞いて頂戴。モーリィさんの右目が‥‥くり貫かれていたわ」
「!!」
 まだ、メイディア周辺に、『奴ら』が潜んでいる可能性が高いのである!!
「彼女は相当剣術に長けていたというから、腕を切られたという事はないの。でも、目だけは。だから」
「記憶を奪われた可能性が高い――」
 導はその手口から導き出される、一番可能性の高い答えに辿り着く。
「その通りよ。意識が回復すればいずれそれもはっきりすると思うけど」

 しかし、この事件をきっかけに、隠された謎が遂に本当の姿を見せ始める事になる。
 そして、これではっきりした。この事件、カオスニアンだけでなく、確実にバの国とゴーレム兵器が関わっている!
 引き出された記憶が語る――真実が――間もなく明かされようとしている‥‥。