熱砂を踏みしめて
|
■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月09日〜12月14日
リプレイ公開日:2006年12月12日
|
●オープニング
●アトランティス・メイの国。その中原のやや北部に存在する、巨大な砂漠地帯があった。
――サミアド砂漠。
元は未開の荒野で、いずれは開拓されメイの国を潤す大地に生まれ変わるはずだった。
だが、突如として現れた『カオスの穴』の開孔により砂漠化が進み、わずか一年でその領域を大幅に拡大した。
現在は荒涼とした岩の転がる砂漠となっており、危険な生物やカオスの勢力が潜む場所と噂されている。
カオスの穴が出現した事はメイの国にとって、脅威だった。
そして異様なまでの速度で侵食された荒野は、遂に砂漠と成り果ててしまったのだから。
今もその脅威は根強く残っている。だが、この砂漠が形成された主な原因は未だ明確にされていない。
諸説様々な憶測が飛び交い、決定的な原因究明までは至っていないのが現実である。
噂の域を出ないものの、伝説の魔剣の暴走により砂漠化したのだとか、魔王の卵が生まれたからだとか、専門家でも言わないようなオカルト説がまことしやかに囁かれているほど、未知の世界となってしまっているのだった。
それでもこの砂漠化の原因や調査が進めば、将来的には『カオス』という存在そのものをも深く捉える事が出来るのではないかと期待が高まっている。
そこで危険を承知で、その脅威となったカオスの穴や砂漠化の原因、及び地質・生態系調査等、サミアド砂漠の調査団が編成される事となった。
サミアド砂漠には、知られているだけでも数多くの危険な生物が確認されており、それに加えてカオスニアンたちも生息していると予想されている。
脅威なのは生物だけではない。カオスの穴に代表される砂漠化の原因は明確にされておらず、人間にどのような影響があるのか未だ未知数であった。
その中には当然大きなリスクが含まれているが、長年の謎を解明するにあたって冒険者たちもが勇敢に立ち上がってくれた。
今回の依頼は、調査団の身辺警護が主な任務となる。
この砂漠の果てには、何があるのか。
熱砂に一陣の強風が吹き荒れる。その先にあるものを人間から遠ざけようとしているかの様に――。
●リプレイ本文
「こんなの『ラクダ』じゃない‥‥。怖っ、怖っ!」
竜胆 零(eb0953)が思わず半目で覗き込んだそれは、確かに天界でいう所のラクダではない。
それは――まさしく恐獣だった。カオスニアンが使う戦闘用のものではない、多分草食の歩行恐獣である。
「なるほど、『砂漠の馬』というわけか」
姚 天羅(ea7210)、ルイス・マリスカル(ea3063)らもまた驚きはしたものの、代替品である事を聞くとふむふむと肯いた。
アトランティスにそもそもラクダという生物が存在するのか疑問だった。『ラクダ』という単語が通用しなかったので色々説明した結果、出てきたのがコレである。
つまり、ラクダ=砂漠用の騎乗動物=コレという訳なのだった。
そもそもサミアド砂漠というのはカオスの穴開口の折に急速に拡大していったものだ。
それ以前には砂漠というより荒れ地と言った風だったらしい。その為、ラクダのような砂漠に特化したような生物が存在するか? と問われても、何とも言えない所があったのだ。
今回の調査も、噛み砕いて説明すると『砂漠というものがぽっと出てきて、拡大速度が異常だから、それを調査しろ』という内容であり、恐獣やカオスニアンといった危険な生物が生息しているらしい事があげられた。
また、本当に穴なのかもわからない『カオスの穴』と呼ばれるものがあるらしいが、実際、調査がはじまってからも、一度もそんなものを見たり感じたりしなかった。
そういう意味では今回は、地質調査や植物などのサンプル採取が主な目的となる。
篝 凛(eb8988)は前後左右見渡す限り一面の砂漠を望みながら、ひとりごちた。
「どこまでも砂、砂、砂。これで空が砂色なら気が狂ってしまいそうですわ」
ぐったりしている篝にアトラス・サンセット(eb4590)とアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が慰めるように影をつくる。
「今のところ、この強烈な温度差を除けば多少穏やかといえます。我々は焦らず、注意を怠らず護衛に専念しましょう」
二日目の午前中、恐獣らしき足跡が見付かった為一時臨戦体制を整えたが、どうやらその場には危険は無かった事が確認され通常進行に戻された。
その日の午後、流砂を目の当たりにするも、当該調査団に影響なし。
三日目の午後、調査対象区に到着。のんびり砂漠旅行からキャンプを設置しての本格調査へと移行。
その直後、カオスニアンと見られる死骸を発見。争った形跡あり、戦闘跡が発見されたが、相当の時間が経過している事が確認された。
戦闘跡周辺に何か変化がないかを調査したものの、特に異変の兆しは見られなかった。
砂漠の地形に関して判明した事は、風の影響か非常に高低差が激しく、足場も砂である事から踏ん張りもきかない。舗装された道路のようには歩けず、無駄に体力を削られてしまう。
調査団員の半分以上は移動するだけでここまで疲労するとは思わなかったらしく、いざ調査の段階に入っても効率よく調査するには至らなかった。
「危機感を持って挑んだのはどうやら私達だけだったのかも」
調査には加わらず、周辺を警戒しつつ焼けそうな暑さに拳を握り締める竜胆。
――その夜。
暗闇の中、ルイス・姚・篝の三人は風に乗せてまるで亡霊の呻き声のような耳障りな風の音を聞く。三人ともが確認できるほどはっきりとした奇妙な風の音に戦闘態勢を整えるがそれがどこから聞こえてくるのかは突き止める事が出来なかった。
カオスの力は暗闇が深ければ深いほど強まるのだろうか。闇の勢力であるカオスだけでなく、アトランティスの精霊力は昼夜によって影響力の強弱がある。
その奇妙な音に、休んでいたアトラス・竜胆・アルフレッド、そして調査団の面々も目を覚まし警戒を強めるが、調査員もこの呻き声のような風の音の正体を解明する事が出来なかった。
恐らくサミアド砂漠特有の地形によるものなのではないかという仮説が立てられた。
だが。
その耳慣れない風の音は、ただの風ではなかった。
明け方の事、ルイスたち第一斑から交代しアトラスら第二班の見張りが月明かりの下、何か動きがある事を発見する。
白けた空と月明かりで全体的に見通せるが、一体何が動いているのかわからない。何かあっては困ると第一班と調査団の面々に連絡し、警戒していると徐々に砂塵が立ち上り始めた!
「あ、あれは‥‥?」
アルフレッドが集中し砂塵ののぼる位置を凝視すると、黒い粒のようなものが遠くに、まばらに見える。
徐々に近づくそれらは、黒い肌を持つカオスニアンである事が確認された!
しかもカオスニアンたちは恐獣に乗り、夜間の内に移動をしていたらしく、奇妙な風の音は恐獣たちの鳴き声が混じっていた事になる。
「こちら側には気付いているのでしょうか?」
ルイスはお供の水のエレメンタラーフェアリーを調査団たちが退避している位置まで下がらせ、警戒を強める。
しかし彼らはある程度まで近づいたものの、急ぐように恐獣を走らせ調査団の滞在しているキャンプの北西側遠方を突き抜けるように駆け抜けていってしまった。
「どうやら急いでいるように見えたのですが、どこへ向かったのでしょうね?」
「確かに。しかも夜の間中走り回っていたみたいに見えましたわ」
ルイスと篝の会話を聞きながら、アルフレッドは妙な違和感を覚える。
彼の眼には、カオスニアンの乗る恐獣たち、カオスニアンの他、妙なものが視界に入っていたからだ。
だが、どうしても信じられなかった。思わず黙り込んでしまったアルフレッドに、アトラスと竜胆が不思議そうな表情で話し掛ける。
「どうしたんです?」
「あ、いえ‥‥実は‥‥いや、何でもありません。気のせいでしょう」
その後、調査自体は順調に進んだらしく、予定通りの日程で調査作業等が終了した。
カオスの穴などによる異変は冒険者達の所持していたアイテム等に変化を与えた様子もないようだった。
恐らくカオスの穴の近くまで行かなければ、現時点ではほとんど影響が無い、という事が判明する。
だが、一度広がった砂漠は二度とは元の大地には戻らない。しかもそれは徐々に広がっているのだ。
植物や食べ物を腐らせるという訳ではないようだが、カオスの闇の力が砂漠化を進めているという仮説は今回の調査でははっきりとした答えが出ることはなかった。
今回は大きなアクシデントもなく全ての調査日程をこなす事が出来た。だが、噂通り、カオスニアンや恐獣は確認された。
カオスニアンたちがこの砂漠で何をしているのか、何の為に砂漠を横断していたのかは解明されることのないままだがサンプルとして採取された植物や地質調査の為のサンプルは持ち帰られ、これから研究されていく事だろう。
また、今回こそ解明されなかったものの、カオスの穴についても研究は続く事になるだろう。砂漠化の原因についても、精霊力の影響による気象状況の変化の研究とともに徐々に明かされてゆくのではないだろうか。
サミアド砂漠の謎の究明はまだはじまったばかりである。
これからもメイの国ではカオスの穴からはじまったサミアド砂漠の調査は継続されてゆくだろうが、今回はこれにて依頼は終了となる。
だが。
あの日冒険者たちが目撃したカオスニアンの行方が、その後重大な事件の一端であった事を。
今は誰も知らない――。