【第三次カオス戦争】カオスニアンの逃亡者

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2007年11月16日

●オープニング

●いくつかの疑問
 先の西方動乱において、どうしてもわからない事がある。
 ――なぜ彼らは戦力を各地に割いたのだろうか?
 本気で攻め落とそうとしているなら、あまりにもそれは浅はかな戦略である。
 むしろ一転集中の方が効果的であるし、攻めるという目的が最短で達成されるからだ。
 しかし相手はそれをしなかった。

 だが、実際はしなかったのか、それとも出来なかったのか不明な点は残る。
 或いはする必要が無かったのだろうか――?
 恐らくは何か別の目的があり、いくつかの戦力は本来の目的を撹乱或いは相手も別の意味で『時間稼ぎ』をしていたと考えても不思議ではなかった。
 結果的にはメイの国の防衛ラインは、相手を駆逐する事を目的とせず、相手にも、自分達にも『時間稼ぎ』を許す展開を演じてきた。
 互いに与えられた最大のチャンスは『時間』そのものだったという他に無い。
 メイの国の立場で言えば相手の進軍を遅延するという作戦はその本来の目的を確かに達する事は出来た。

 戦いは、そういう意味で言えば、打撃を受けながらも辛勝を得た。
 戦力差から見れば、それは果たして健闘したと言い換えても過言ではない。
 だが、その勝利そのものに多くの犠牲を伴ったのはどうしようもない事実だった。
 誰しもが感じていた。
 その痛みの意味を。
 ――次の戦いに向けた、その最初のターンだったのだ、と。

●隻腕の『巨人』
 ゴーレム一騎を含めたカオスニアン、恐獣部隊が潜伏している、という情報が入ったのは西方動乱の傷も完全には癒えきっていないこのタイミングだった。
 これはとある投降してきたごく少数となったカオスニアンの部隊からの情報である。
 真偽の程は定かではないが、事態はこうだ。

 どうやら投降した彼らの部隊は全く別の作戦で動いていたらしく、あの防衛戦の中でほとんど手傷を負わなかったらしい。が、皮肉な事に『西方動乱のせい』で作戦は大きく軌道修正を余儀なくされてしまった。
 それに併せて部隊はリザベ付近まで一時後退、そこから再度前進という理不尽な状況で文字通り右往左往していたのだ。
 そして事態はメイ側の防衛成功によって更に悪化。
 完全に孤立してしまったのである。

 彼らの作戦はその段階で実行に移す前に失敗。更に戦力も相当分断され、今や彼らは成す術なしという状況まで追い込まれていた。
 本来ならそれでも死に物狂いで、まさに死ぬまで殺し続けるとイメージされがちなカオスニアンたちだが今回ばかりは事情が違った。
 それに中には頭のいい連中もいる。
 ついでにいうと、金、或いは自分が益となる事ならば、命をかけてでも何でもするという『癖』もある。
 つまり彼らは自分達が生き残る為に、必要な情報を、メイに『売り渡した』のである!!

 敵とは言え、自分達の仲間を売り渡すというのは非常に捉え方が難しい。
 だが、嘘か誠か、真実を確かめなくてはならない。
 しかし現時点ではそれを確かめるのに必要な人材が足りない。
 足りないからといって、この知り得た情報をないがしろにする訳にはいかない。投降してきた彼らも必死なのだから、例え罠だったとしても奴らがいればそれはそれで事実となるし、いなければいないで、もう移動したのだろうと言い逃れも出来る。
 もちろん、そこに足跡が残されていれば――である。
 ともかく、その潜伏している部隊の情報を頼りに、摘み取る為の部隊が編成された。

「‥‥私たちにリターンマッチのチャンスが回ってきたって事ね」
 頭を抱えているのは、こういう時の為の独立部隊。何だか久しぶりのような気もするが、気のせいである。
 ちゃんと『久しぶり』の間、しっかり働いていた‥‥筈である。多分。
 そんな彼女、『白馬に乗ったお嬢様』ラピス・ジュリエッタ率いるホワイトホース隊。通称・辺境遊撃隊が出撃する事になった。

●戦いへと続く道。
 敵のゴーレムはどうやら金属――カッパーゴーレムらしい。ただし、片腕を失っている。
 いや、それもよくわからないらしい。
 というのも、どういう意味なのか、最初から片腕だったという情報もある。最初から隻腕のゴーレムなどあり得るだろうか?
 基本的には現在、ゴーレム開発や量産段階においてプロトタイプ以外は『特別仕様』というのは存在しない。通常ならば破損(負傷)したと考えるべきだろう。
 そして、カオスニアン部隊の人数は二十五。恐獣は中型一体、小型二体。
 恐獣の種類は不明。
 その目的も、彼らは不明と証言する。このカッパーゴーレムが先の作戦で隠し拠点から忽然と姿を消した『あの』ゴーレムであれば、ホワイトホースは是が非でもそれを叩きたかった。
 先の作戦で重要参考人として捕獲した白いフードのウィザードに関しては別に追求するとして、今回は投降したカオスニアン部隊からの情報を得た上で、再戦となる可能性が非常に高い。

 何が目的であろうと、一度出撃すれば、進まなければならないのが戦争である。
 今やメイの大地は多くの血を吸い込んでしまった。
 それでも止まらない彼らカオスの軍勢からメイの国を守り抜くのが彼女たちの使命だ。
 こちらの戦力は後期型モナルコス三騎。(前回の出撃で三騎とも通常兵装に戻されている)
 そしてフロートシップ、ペガサス級強襲揚陸艦三番艦『ホワイトホース』――。

 相手の規模も位置情報も手中にある。
 残すところ、後は戦力の確保だ。今回は一気に殲滅する作戦の為の人員を確保する事にした。
 搭乗ゴーレムは三騎のみだが、相手の数もかなりきわどい数字なので油断は禁物だ。
 奇襲をかけて、一気に敵戦力を殲滅せよ!

●今回の参加者

 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3446 久遠院 透夜(35歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

イェーガー・ラタイン(ea6382)/ シュタール・アイゼナッハ(ea9387

●リプレイ本文

●追撃! 白馬隊!
「リターンマッチだか何だか知らぬが俺には関係の無い話だ。俺の仕事はただ一つ、カオスニアン共を殲滅する事だけだ」
 ケヴィン・グレイヴ(ea8773)はそう言いながらも、ホワイトホースの射撃管制を担当する事になった。バリスタと精霊砲は彼に任せておけばいいだろう。
「射撃に関する事については一切口出しは許さない。恥を雪ぎたかったら黙っている事が第一だ」
 艦の雰囲気が彼の一言で一気に緊張度を増す。元々艦長であるラピスがあんな感じだったりするのでホワイトホースのクルーも平常時は明るく柔らかい印象なのだが今回ばかりは気を引き締めてかからないとならない事がわかっているのだろう。
 前回の失態でラピスはその責任を感じていた。それも合わせて、ケヴィンの厳しい態度が全体の意識を象徴していた。
 遊撃隊の名を冠しておきながら相手に裏をかかれたという前回の苦しい戦いからの反省点を活かし、独立部隊としての最も『遊撃隊らしい』戦い方を再度構築する冒険者ら。
 特に面白い戦法としては、今回モナルコスは三者三様といった風に装備が換装された点か。
 配備されている三騎が別々の装備で出撃するというのは中々珍しい。というのも短期戦であれば別だが元々は『交代』しながら運用するという事が多い状況で別々の装備というのは一般的ではないからである。
 しかしながら、今回特別にそうしたのにはこれもまた理由がある。
 敵戦力が出撃時点で判明していた事と、それに対処する人員と戦略が整っていた事だ。
 それに加え、長期戦に持ち込まれないように奇襲をかけて陣形を崩しておけばこの三者三様の装備が活きてくる。
 ハマれば強いが、ある意味文字通り大博打的な電撃奇襲作戦だった。
 ホワイトホースとモナルコス、そして地上部隊が連携して行わなければならない戦略だ。

 また、前回の作戦で捕獲した白いフードのウィザードに扮して相手を混乱させようとルメリア・アドミナル(ea8594)が偽装して搭乗した点も中々面白い。
 彼女の演技力がある程度あればそれを基点に更なる混乱と打撃を相手に与えられるかも知れないが、今回はそんな生温い戦い方はしない。あくまでも殲滅戦だ。
 問題は相手の戦力がかなり厄介なレベルだという事だった。
「ストーンゴーレムでカッパーゴーレム相手ですか。少々難しい戦いになりそうですが、相手にとって不足はありません」
「正直相手取るには数か多いが、ここまで煮え湯を飲まされて来たホワイトホース隊の為にも、微力ながら助太刀させてもらおう」
 フラガ・ラック(eb4532)、久遠院 透夜(eb3446)、グレナム・ファルゲン(eb4322)らもこの戦いが厳しい事を理解していたがここまで追い詰めた相手を討ち損じる事があればラピスだけでなくホワイトホースの『辺境遊撃隊』という立場そのものも危うくなる。
 何が何でも倒しておきたい敵だった。先日協力してくれたセルナー地上部隊のメンバーたちの無念をも晴らす絶好の機会なのだ!

 そんな中、久遠院は敵性ゴーレムの『隻腕』という部分に何かしらの意味があるのではと推測する。
 搭乗する鎧騎士が『隻腕』でそれに合わせているという可能性だ。
 ゴーレムはイメージで動かすのだから、鎧騎士が両手での戦いをイメージできなければ片腕は邪魔になるの。
 ――だから敢えて外しているのでは、と。
 そうすると、相手は隻腕でもカッパーを任される相当な手練れとなるのではないか、というのだ。

 果たして。
 彼女の不安は見事なまでに的中してしまう事となる。だが、この時点で冒険者たちにはそれを踏まえても倒さねばならない相手となる。
 状況がどんなに不利でも、或いは逆に有利だとしても、この際『戦果』を残さねば白馬隊は厳しい立場を強いられる事になるのだ。

●闇夜の哨戒任務
「今回の作戦は電撃戦になるわ。主に私たちが上から遠距離で射撃、魔法を撃ち出して混乱を利用して地上隊が最大進撃で突き抜ける。更にそれを援護するように私たちが再度突撃を開始。とにかく相手に反撃の機会を与えない事だけを考えて。背中は私が預かる、存分に戦って」
 いつものラピスの軽さは見られない。彼女に含まれた指示のイントネーションには最悪カッパーに充てたモナルコス二騎が潰されても完全なる勝利を得る事が盛り込まれていた。
 その為の入念なブリーフィングが行われた。

 結果的に援護と見せかけて主砲扱いの魔法戦闘が今回のキモとなった。また、ほぼ無音で哨戒出来るという理由から導 蛍石(eb9949)が愛馬ペガサスの黄昏と共に上空からの先行偵察を行う事を提案、それが採用される。
 エル・カルデア(eb8542)もそれに同乗する形で参加する事となった。
「逃走や奇襲が得意な機動力のある部隊と思われますので、不意打ちにはお気をつけ下さい」
 雀尾 煉淡(ec0844)はクライフ・デニーロ(ea2606)からインフラビジョンのスクロールを借り、夜間航行および奇襲戦法を強力にサポートする。

 騎士道があってないようなメイの国では剣での一対一の戦いよりも、弓や魔法といった遠距離戦の方が自陣のダメージを減らせるという事で積極的に遠距離戦を推奨する部隊もある。
 もちろん花形といえば前衛による圧倒的な武力制圧だが、相手がカオスニアンであったり恐獣であったりする場合は少々事情が違う。
 ただ、遠距離戦闘にも少々ボトルネックがある。それはある程度の数を揃えないと本来の威力を与えられない事だ。理由は単純にカオスニアンにしても恐獣にしてもゴーレムにしても、『相手が動きつづけている』為だ。
 バリスタだろうが精霊砲だろうが、動く標的に的確に当てるというのは実は思った以上に難しいのである。その為射撃武器などは回避する隙間(スペース)を与えないように絨毯爆撃のように密集させないとならないのである。またその射程が非常に厳しい。
 遠距離戦闘がメイの国で定着しづらいのはこの数と射程の兼ね合い、そしてトータルとしての弓のクオリティが未だに底上げされていない事が原因だった。
 事情が事情なだけに、完全な遠距離戦は現在におけるメイの国の戦い方では非常に難しいだろう。戦略として確立されるにはまだまだ未解決の問題が多い、という事なのだ。

 導とエルはペガサスを駆り、報告のあった通りの場所を中心に探りを入れる。
「見えますか」
「ええ、何とか‥‥官憲様達と、セルナー領の守備隊の方々の無念を此処で晴らします」
「そうですね。少し高度と速度を落として見極めましょう」
「了解、発見されないように注意しましょう」
 ぐるりと回り込むようにして迂回しながらの索敵は相手が奇襲の得意そうな部隊にも関わらず意外なほど簡単に見付かった。
 むしろ、先日の部隊が奇襲戦のプロフェッショナルで、こちら側は別働隊のような雰囲気すら漂ってくる。
「投降したカオスニアン部隊の証言だと、例の隠し拠点には何らかの形で補給にきただけだった可能性があります。モーリィさんが見つけたのがちょうどそのタイミングで、それから乱戦になった事ですぐに移動を開始したと考えれば筋は通りますし」
「ホワイトホースが向かった時にはもぬけの殻だったのは、すでに移動をしていたからで、隠し拠点にいた元々の部隊は別にいた事に‥‥」
「一度帰還して様子を報告しましょう」
「了解!」

●最大戦速! 叩けカッパーゴーレム!
 導とエルの報告によって、遂にホワイトホースは動き出した。
 グレナムのファランクス装備型モナルコス、フラガの双剣装備型モナルコス、そして白金の大盾と小剣の防御重視装備型モナルコス。
 更に地上で白金をサポートするのは久遠院。先の哨戒時同様ペガサスでの撹乱を導・エル組が担当。
 そして強襲揚陸艦ホワイトホースからは射撃管制をケヴィンが、魔法による火力をルメリア、クライフ。艦と冒険者らをサポートするのは雀尾が担当。
 以上の布陣で、かくして深夜の激闘が開始された!!

 モーリィ率いる官憲部隊の全滅、セルナーの地上部隊の全滅という甚大な被害を受けた今回のカオスニアン掃討二連戦は遂に決着の時を迎える。
 だが、その決着には、余りにも痛々しい打撃を受けることになるのだった。
 ホワイトホースから放たれたバリスタの重い一撃、更に精霊砲による広域火力、更に白いフードのウィザードに扮したルメリアの直下型雷光剣みたいなライトニングサンダーボルトに、脅威となる恐獣に焦点を合わせた形でのアイスコフィンによる凍結が先陣を切る形で炸裂したものの、第一波は完全に相手の戦力を寸断するに至らなかった。
 数が多すぎる上に、どれも一発はでかいものの連射する事が出来ないからだ。だが、その一方でやはりルメリアの雷撃だけは相当混乱を招いたようで、彼女の白いフードが艦からちらちらと見え隠れする度にカオスニアンらからは動揺が走っていたようだ。
 寝返ったか、或いは強制的にこちらに送られてきたか。どちらにしても彼女の存在はカオスニアン部隊には相当衝撃を与えていた。
 しかしとにかく苦しい展開が続いたのは地上部隊だった。
 なんといっても地上で戦っているのはモナルコス三騎と久遠院の四人のみなのだから。
 圧倒的な数の不利を白金と久遠院、そしてペガサスからのサポートとして導とエルが立ち回っているものの、中型と小型の恐獣が絡んでいるカオスニアン部隊との戦いは非常に厳しい。
 更に圧倒されていたのはグレナムとフラガだった。

「隻腕のゴーレム、今こそ観念するのである」
「この双剣にかけ、貴方をここで倒す!」
 ストーンゴーレムとカッパーゴーレムの戦いなど、どう考えてもカッパーの圧勝であるように見えるが、実際『限界値』が設定されているゴーレム兵器では見るからにモナルコスは不利だった。
 当たらない受けきれない回避するのも高難易度という、二対一という数では不足すぎる条件で戦うしかなかったのである。
 フラガはあくまで『倒される前に倒す』の心持ちで機動するものの、久遠院の嫌な予感はものの見事に的中してしまっていた。
「これが‥‥隻腕のゴーレムの動きであるか‥‥ッ」
「片手でここまで動けるなんて信じられない。それでも‥‥負けられない!」
 先ず、動きが桁違いだった。元々ストーンとはいえ重装備のモナルコスは動きがとにかく鈍い。圧倒的な機動力を前に、まるで隻腕である事を忘れさせるほどの性能差を見せ付けられる二人。
 また、パワー勝負でも限界値という性能の差はモナルコスを圧倒していた。
 下手を打つと、装備している剣や槍‥‥いや、それどころか盾までもバターのように切り裂かれてしまいそうな勢いだったのである!
 ゴーレムの差だけではない。
 恐らく――鎧騎士も相当の腕を持っているに違いなかった。
 グレナムもフラガも鎧騎士としては実力者に名前があがるほどの腕を持っているが、性能差を差し引いても見劣りしない卓越した操縦技能を見せ付けていたのである。
 とにかくセンスがいい。騎体の性能、ポテンシャルを引き出す為のマンパワーが必要である事話した事があるがが、このカッパーゴーレム搭乗の鎧騎士はまさしく鬼のような強さを発揮したのだ。
 最初に大きな動きがあったのは、フラガの双剣が破られた時だった。
「ぐっああ!!」
 手首辺りから、文字通りもぎ取られるように吹き飛ばされたフラガのモナルコスは形勢を立て直そうと立ち位置をずらしながらバランスを取っていたのだが、それをさせないようなバカみたいな見た事のないような機動を描いて隻腕のカッパーは斜めに切り上げるようにもう一方の腕をぶっちぎってみせる!!
「があっああっ」
 凄まじい衝撃を覚えながらも、完全にバランスを崩したフラガはそのまま転倒を余儀なくされた。しかし両腕をもがれたモナルコスでは立ち上がる事もままならない。グレナムは余りの芸術的な剣技に見惚れる暇もなく回避防御行動に移るしか術がなかった。
「なんという‥‥!」
 しかし隻腕のゴーレムはそれを許そうとしない。槍のリーチをまるで無視するかのようなダッシュでモナルコスに迫撃すると『隻腕』であるメリットを活かして最小限の動きで――紙一重の動きであっという間にグレナムの目前まで迫ってきていた!
 グレナムはその一瞬で、生き残る為の戦法に切り替える。
 ――もし、そうしていなかったら、彼は今も生きていなかっただろう。
 グレナムはカッパーが迫ってきたのを見やると槍を引き抜くようにスライドさせると眼前に突き刺してから後方へ飛び退くように盾で自身を守りながら後退したのだ。
 だが鬼神の如き凄まじい機動はメイの国の主力ゴーレムであるモナルコスを雑魚扱いかと思わせるに充分だった。
 圧倒的な差、というより、決定的な差があった。どうにもならない『限界値』の差を埋める事が、出来ないでいた。
 矛を失ったグレナムだが盾だけで全てを凌ぎきる事でさえ、全力回避、全力防御でも難しい事は理解出来ていたがその時間稼ぎがグレナムを九死に一生をもたらした!
 ペガサスからのエルのアグラベイジョンの一発がカッパーの動きを拘束したのだ!
「助かる!」
「間に合いましたね」
 片腕を持たない隻腕のゴーレムは体の向きの意味を知り尽くしていた。グレナムのモナルコスの右腕を犠牲にしてでもその『時間稼ぎ』をしたのは正解だった。
 急激に石化したかのように沈黙するカッパーゴーレム。それと同時に白金のモナルコスと久遠院が応援に駆けつけた!
 ペガサスはそのまま急転回し、硬直していた隻腕のカッパーにグラビティキャノンを放つ。そのままカッパーは吹き飛ばされそうになりながら倒れ込み、更にローリンググラビティで上空にぶあっと浮き上がると糸が切れたように落下する。
 更にホワイトホースが援護に到着し動きが取れないゴーレムに集中砲火を浴びせると――隻腕のカッパーゴーレムはそして。
 完全に沈黙した――。

●帰還、傷付いた戦士たち
 全員の完璧ともいえるコンビネーションが、奇跡のような勝利を奪いとった。搭乗していた鎧騎士を無理やり引きずり出し捕虜として捕獲。
 しかし後に判明したのだが、これは所属不明機として扱われる事となった。
 というのも、これも以前にあったように『偽装』が施されていた為だ。
 また、搭乗していた鎧騎士は予想通り、隻腕隻眼の鎧騎士が搭乗していた。
 ところが、この鎧騎士が後に衝撃的な証言を発することになる。

 白いフードのウィザードとの関係は?
 隻腕、隻眼――。まるでメモライズドの被害者と同じような傷跡をみせる謎の鎧騎士の正体とは。
 事件は遂に大きく動き始める。