メモライズド〜白雷〜
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月24日〜11月29日
リプレイ公開日:2007年11月28日
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●オープニング
●白いフードのウィザード
ホワイトホース隊とセルナー地上部隊が追っていたカオスニアンの隠し拠点で交戦し、制圧後に確保した謎のウィザードの女性。
一連の事件に深く関与していると思われるこの女性に対し、尋問が開始される事となった。
しかし本件の担当となる官憲モーリィの容態はまだ芳しくなく、回復傾向にはあるが充分ではなかった。
彼女は直接手を下した憎き宿敵となる為、本来ならモーリィは担当を外されるところなのだが、それ以前にベッドの上で色々なものと格闘中だ。
それはともかく、今回はそんなモーリィが担当するはずの尋問を冒険者数人で交代で行って欲しいという依頼が冒険者ギルドに飛び込んできた。
全ての発言を記録するのはモーリィの部下だが、直接聞き出すのは冒険者らに託された、という訳だ。
今回の犯人確保は非常に事件解決に向け前進しているが、やはり重要な証言を得なければ本当の解決は見えてこない。
だが、どこまでの情報を彼女が知っているのか、実のところ良くわからない。
どこから彼女が関わっていて、どこまで彼女が実行しているのか。
彼女の目的は一体何なのか、しかし彼女の精神力はかなり強靭で肉体的な痛みや精神的な痛みを伴ったとしても中々口は開かない可能性がある。
もちろん、可能性の話であって、何らかの引き金が引かれれば発言するかも知れない。
今までの事件を読み解きながら、彼女が関与したと思われる状況を整理しつつ的確に情報を得るのが今回の目的だ。
特に事件の関係者、被害者加害者含めた関係者の情報や発言、また記憶から引き出した言葉を組み合わせて問い掛ける事が重要になりそうだ。
彼女一人で全ての事件が解決するかどうかはわからない。
だが、事件の根幹の部分に関わっているであろう事はこれまでの事実からは読み取れる筈だ。
また、先日のリターンマッチで確保した、隻眼隻腕の鎧騎士との関連性もひとつのポイントになるかも知れない。
●リプレイ本文
●北風と太陽と
遂にこの時が来た――。これまでの数々の不可解な事件を解く為のいくつかのピースが、ここに来てようやく埋まり始めてきた。
特に今回の白いウィザードの確保と、先日投降し、捕虜となる道を選択したカオスニアンの部隊の情報と確保は大きかった。
次いでゴーレムの搭乗者の確保についても言及する事になるが、今回は密接な関係者であると予想される上記の二組の事情聴取を行う事とした。
「さて、どこから行くか‥‥って、ルメリア殿‥‥」
「どうしました?」
「いや、その格好、地味に好きなのかと」
「ち、違いますわ。あくまでこれは心理的に相手を動揺させる為のもので好きで扮装している訳では」
グレナム・ファルゲン(eb4322)の言葉で、細く長い耳を軽く揺らしながら少しだけ頬を赤らめるのはルメリア・アドミナル(ea8594)だ。『今回も』敵のコスプレ(というのは正しくないが)で相手、特に今回は『本人』にプレッシャーをかける作戦らしい。
と言いつつ、自身も言われて動揺してしまうのは、少しだけ気恥ずかしさが手伝ったか。或いは。
ともあれ、白いフードのウィザードとの面会が。
「まずは貴方をなんとお呼びすればいいんでしょうか?」
それは、実に簡潔な質問から始まった。雀尾煉淡(ec0844)は気を楽にして下さい、と言いながら黙って座っている彼女の席の回りをゆっくりと歩きながら、様子を伺う。
「ちなみに名乗らなければ、こちらが適当と思われるもので貴方を呼ばせて頂きますので」
「‥‥‥‥」
「例えば、ツンたん。土下座衛門。しろにゃん。個人的には土下座衛門を選びたいところですが」
「勝手にしろ」
「勝手に、しろ。しろにゃんがよかったですか」
先ずは小手調べ、というより自分でいうのもなんだが拙い揺さぶりだなと思いながらも、メタボリズムを試みる雀尾。だが、相手は歴戦の魔法使い。
前回は詠唱の隙を縫って奪ったアドバンテージだっただけに、そうそう簡単に魔法によって口を割る事は無かった。当然完璧なまでの抵抗でメタボリズムを不成立にしてみせる。
「小細工などしても無駄だ」
「なるほど。そのようですね、これは失礼しました」
言いながら、彼女の表情の少しの変化も見逃さないように真剣な表情で見つめる。しかし時間差で到着した導蛍石(eb9949)が部屋に入ると、空気は一変する。
「先日はご無礼いたしました」
ウィザードの女性は彼を見るなりギロリと睨みつける。
「随分嫌われていますね‥‥先日の事はこちらも真剣でしたから‥‥」
頭を下げつつも、しかしその目線は女性から外さない。
「私は導と申します、よければあなたのお名前をお聞かせ下さい」
「‥‥シス」
ある意味、導に対して特別な感情があったからだろう。あれだけの激突をした相手だ、名を名乗られて答えなければ自分としてもプライドがあるのだから、失礼にあたると考えても不思議ではない。
「傷の具合はいかがですか」
「服でも脱がせて調べあげればすぐに傷の事などわかるだろうが」
今にも噛み付きそうな勢いのウィザード、シス。だがこんな所で攻撃魔法など使えない事は部屋に入れば理解出来ない筈もない。
しかし、導への怒りが生み出す『余計な一言』が飛び出すのも時間の問題だろう。それだけ、激昂に近いものを感じるのだ。
皮肉なものだが、恨みというのは、こういう切っ掛けが時にスイッチになるものだ。だからこそ、逆に今回導が対応に当たったのは非常に大きな危険性をはらみつつ、しかし有益な状況を作り出せる絶好の機会でもあった事になる。――ハイリスク・ハイリターンというやつだ。
●カオスニアンへの問いかけ
また、状況を整理するのに役立ったのは投降したカオスニアンたちだった。元々投降してきた事である程度の情報を得る事が出来たが、これまでの状況に対する裏付けとしては有用な情報が彼らの口から聞くことが出来た。
グレナムが用意していた質問に関してはこのような返答が成されている。
・セルナー領の使者達をどうやって待ち伏せたのか
「知らない。元々別の部隊の目的を自分達は基本的に聞かされることは無い」
・使者達より奪った情報
「知らない。得られた情報は各個で保有し、本隊に持ち帰るのが常で、他の部隊に対し説明や情報の共有はその時点では行わない」
・ブラックバード計画
「知らない。初めて聞いた」
・潜伏・独立部隊の目的
「隠し拠点にいた部隊とゴーレムの部隊は別の部隊で、あくまで一時的に停滞していたに過ぎない。またあの隠し拠点にはもうひとつの部隊が合流していたが、彼らもまた別働隊として移動した。行方は知らない」
「自分達はリザベ攻略戦で進攻した部隊とは別に、本来ナイアドに向かう途中だった。ナイアドで特別な作戦を行うという事で召集を受けた。作戦については‥‥すでに決行されているかも知れない。合流できなかった隊はサミアド砂漠を横断してリザベ側に撤退せよと言われていた」
また、エル・カルデア(eb8542)からの質問についてはこう返答している。
・ナーガ族襲撃との関連性
「知らない。関わっていない。ゴーレムに関してもそれに関わる人間達も、作戦そのものがこちらには知らされていない」
なお、白いフードの女性ウィザードや隻腕の鎧騎士についてもほとんど知らされていない事を明かした。どうやら彼らはそれぞれに作戦を命じられて、それ以外は基本的に知らされていない事が明らかになった。ただし、ゴーレム隊の事については非常に重要な事をいくつか明かしている。
ともかく、目的の情報を確実に得るには、その作戦を実行している部隊を拘束し聴取するしか無いようである。
彼ら独立部隊にはおおまかな共有情報はあるにはあるが、特定の情報となると急激に狭まってくるのである。
ただ、あの隠し拠点がカオスニアンたちの一時的な集合地点である事がこれではっきりした。しかも、陽動や遊撃といった独立部隊が細かくいくつも存在している事が明らかになった。だからこそあのリザベへの大軍勢が効果を発揮したとも言えた。
そこから推測すると、いくつかの事件に関係する部隊は別々だが、少なくともあの隠し拠点を経由してステライド領やセルナー領、あるいはリザベ領まで向かっていた事になる。
規模こそ大した事は無いが、位置的には非常に重要な場所だった事になる。この拠点の事は彼ら投降カオスニアンが知るほど有名だった事から、いわゆる共有情報のひとつになるのだろう。
だが、わざわざ、そんな重要拠点を明かすというのはどういう事だろうか? どちらにせよ、あの隠し拠点はその後辺境遊撃隊によって完全に制圧され、二度とカオスニアンらが近付かないように警備対象地区に認定された。もうあそこに近付く者はいないだろう。
もしかすると『聞かされていない』或いは『知らない』カオスニアンらが紛れ込むかも知れないが、すでに拠点としての機能は断たれている。辿り着いても絶望だけが彼らを待っているだろう。
●それらを踏まえて
幾つかの情報を整理した後は、白いフードのウィザードへの尋問が再開される。尋問が開始されてから、既に数日が経過していた。
導に対しての個人的な感情はともかく、疲れや眠気、空腹なども手伝って意識を保つのが厳しくなってくる頃合だった。
水も食事も与えず、月下部有里(eb4494)が自白剤と称して彼女に『精神的な細工』を施したのもある意味、状態を変化させる複雑な要因のひとつに数えられた。
――プラシーボ効果。
プラシーボまたはプラセボというのは、いわゆる『本来の薬効』を持たない偽の薬の事で、文字通り偽薬ともいう。実に不思議なもので、薬だと信じて処方される事で何らかの改善が見られる事をさす。ほとんどが自覚症状の改善だが、状況によっては医師などの処方する側が、数値的に認識可能なほど変化が見られる事もあるという。(ただし、それが本当に偽薬によってもたらされた変化なのかは天界でも医学的にはっきりと解明されていない事を付け加えておく)
精神的な意味合いで確かに彼女は強靭だが、月下部が本物の医師である事を明かされると時折厳しい表情を返すまでになる。
そんな状況で、今度は自分そっくりの女が現れれば、今度は幻覚剤でも射ち込まれたのかと錯覚してしまうのも無理は無かった。
「‥‥ふ、遂にここまで落ちぶれたか」
吐き捨てるように呟くシス。
無言のままそれを見下ろすもう一人の『シス』――。
白い肌。青と紫を合わせたような深い海のような色の髪。細い指先。体のラインも相当細い。今は少しやつれた表情を見せてはいるが、整った顔立ちで、見た目で若い風に見える。
「(まさか、エルフという訳では‥‥)」
全身の身体検査を担当し、それを見守る役となったルメリアは、背筋にぞくりとするものを感じていた。だが、それを完全に否定するには全てをさらけ出してもらわねばならなかったのである。
しかし、その不安は半分正解、半分不正解となってルメリアに返って来た。
「(ハーフ――)」
ある意味、いっそエルフの方がマシだったかも知れない。仮面の下で奥歯を噛み締めるルメリア。だが、その事で人間に対しても、エルフや他の亜種達に対しても同様の憎しみの感情を見せていた理由が理解出来た。
そして、思っていた一つの最悪の証拠が彼女にも刻まれていた。
全員、それに気付いていた。腕こそは失っていないが、薄く引き延ばされた不思議な金属で出来たフェイスガードのような仮面の下に右目を覆う眼帯があてがわれていたのである。
「お前も、いや、『私』も犠牲者――という訳だ」
「‥‥なんだ、と‥‥」
あくまでもルメリアはシスを演じ続ける。
「味方には裏切られ、孤立し、命じられるがままに動く人形ではないか。違うか」
「人形などではない!」
「だったら、『私』は一体何なのだ。遂にはこうして捕らえられてしまった」
「こうするしか無かったのだ! もう少しだった!」
「‥‥もっと別の方法だってあっただろう」
「だが、時間が‥‥時間が足りなかった。あの計画を実現する為には!」
シスの言葉には焦りにも似たニュアンスが滲む。
「夜鷹の夢に私は全てを捧げたのだ。私にはもう、それしか残されていない」
「夜鷹の夢‥‥ブラックバードの事か?」
「それもある――だが、そうじゃない。そうじゃないんだ‥‥」
ルメリアとの、いや自己との対話に突入した彼女は、遂に真実を明かすのか――。
●自己との対話――真実への一歩
謎の言葉、『夜鷹』或いは『夜鷹の夢』とは何なのか。
彼女。白いフードのウィザード、シスの真の目的が遂に明らかになる。
「私はあの地に向かわねばならない。セルナーという遥かな地に一人取り残された夜鷹の元に」
自白剤と幻覚剤のせいだろうか。自分でも信じられない位、ぶちまけている。
だが、ここまで来て、あと少しで辿り着けると思っていたこの時に、自らの不覚によって捕らえられている事のジレンマが全てを吐き出させていた。
「(夜鷹‥‥まさか、あの病院の‥‥?)」
ルメリアはそして、ようやく理解した。なぜ鎧騎士と共に謎の行動を繰り返してきていたのか。
「――『夜鷹』‥‥彼は、無事だ。生きている」
なりきっていたルメリアは、感情移入したのか答えを引き出そうとしての演技なのか。シスと同じく思わず口が滑ってしまう。
しかし、今の精神状態の彼女には別の意味で安心感を植え付けた結果になった。驚いたような、生き返ったような、明るい表情を見せると、そして。
「生きて‥‥よかった‥‥」
心底安堵したのだろう、その声は、とても澄んで、優しかった。だが、それと同時に限界を向かえた彼女はその場で突っ伏して意識を失ってしまう。
その後目覚めたシスはそれからほとんど口を聞かなかった。
自分の分身。対峙したもう一人の『シス』の事も、自白剤か幻覚剤によって生み出された架空のイメージであったのでは無いかと思っているような節も見受けられた。
『夜鷹』が生きているというのも、追い詰められた自分が作り出した、ただの願望に過ぎなかったのかも知れないという自己嫌悪も手伝っていたのだろう。
結果的に導との面会、会話。月下部による精神的な細工。そして極限状態で対峙した『シス』――ルメリアの、北風と太陽作戦はある種の成功を見ることになる。
どうやら、やはり彼女は先日辺境遊撃隊がリターンマッチにて勝利を得たあのカッパーゴーレム率いるゴーレム隊と多少は関わりがありそうだった。その事は投降したカオスニアンらからの情報ではっきりした。だがなぜ彼女だけが拠点に残って迎撃作戦に出たのかは不明である。
何か、ゴーレムを先行(というより潜行に近いか)させる理由があったのだろうか?
こちらについては確保した鎧騎士に詳しい事情を聞く必要があるだろう。
それから、彼女の言葉のやり取りで少なくとも、あの黒いゴーレムグライダーとその計画、そしてその計画に携わったと見られるグライダー搭乗者の――記憶を失いセルナーの病院で入院中の鎧騎士との間に何かしらの関係がある事が判明した。
だが、まだまだ疑問が多い。どの情報がどこに繋がっているのか、まだ点と線が繋がりきってはいない。
事実に辿り着くまで、シスにはもうしばらくメイディアに繋ぎ止めておく必要がありそうだ。全ての謎が解けてから、シスと『夜鷹』を会わせてやる事だって、可能性としてはありなのだから。
もちろん、捕虜として、制限は重くかかるだろう。実行犯である事が確定すれば、それ以上に重い処罰――最悪、処刑される可能性も多分に含まれてはいるが‥‥。
だが、その事実を確かめる必要だけはあった。
そう――。
『夜鷹』という男の記憶を、呼び覚ます事が出来るかも知れないのだ。
ルメリア・アドミナルには複雑な心境かもしれないが、彼女には――もう一人の『シス』として再び彼の前に立ってもらう資格がある。
つまり、シスになりかわり、もう一度彼の元に行く、という選択肢だ。
そして、そこからブラックバード計画について、シスについて、その他様々な謎が解明されるかも知れない。
以前は得られなかったものが、今度こそ得られるかも知れないのだ。
失われた記憶を追う物語――メモライズドは、そして、佳境へと突入する。