●リプレイ本文
●明かされてゆく、全貌。
モーリィたちと共に戦い、しかし、全滅してしまったセルナー地上部隊。彼らを全滅に追いやったのは他でもない、この所属不明の金属ゴーレム率いるゴーレム隊だ。
そういう意味でも、この尋問依頼は非常に厳しい対応から始められる事となった。
相手が隻眼・隻腕という事で、『事件の被害者』という線もあったが、それとは別に彼はセルナー地上部隊を蹂躙し、駆逐した実行犯である。事実関係が明らかになれば、セルナー側からの強烈な批判は避けられないし、事実を翻すことが出来ない分、どう転んでも彼にはあまり良い未来は残されていない。
だが逆に彼が捕らえられた事は事件の終局へと向かう大きな前進、大きな一歩となったのも確かだった。だが洗脳、或いは薬物などによる強制的な命令を実行していただけだとしたら。
そういう部分を含めて、今回集められた冒険者は厳しいながらも正確な情報と彼の状況を把握しなければならなかった。だからこそ、簡単ではなかったのである。
しかし、前回医師が行ったプラシーボ効果の結果はすこぶる良かったという経験も含めて、敢えて今回も別の方法で類似手段を講じる事になった冒険者たち。
実際の作戦はこうだ。
慈悲と慈愛のクレリック、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)であっても、真実を得るという依頼そのものには賛成していた。敢えて肉体を痛めつけたりする方法ではなく、自白を促すという方法を『繰り返し』行った。
この繰り返し、というのが実に凄まじい。一瞬の攻防などに長けている強い肉体を持ってしても、剣の腕を持ってしても、精神を削り取られるという行為を続けられると、よほど神経が太いか、精神的に捻じ曲がっていなければ屈してしまう事が多い。
もちろん、繰り返している方も忍耐が必要だ。
絶対に吐かない自信があったとされるプライド高きあのウィザードすらも口を割ったのだ。
――もちろん、幻覚を見せかける、という手法を使っての揺さぶりだったが――。
実際にはそうではなくても、限界に近付けば意識を正常に保てなくなるのは明らかだ。特に、水を制限するというのが、最も効率的である事を前回で習った事もあり、食事と水を目の前にちらつかせては消すという事を何度も、何度も、何度も繰り返した。
そして、それが実った瞬間は、やはり『幻覚』を見せかけることに成功した時だった。
●彼らの目的へ
導蛍石(eb9949)が最初に施したメンタルリカバー自体はそういう意味では完全に成立しており、精神状態はかなりクリアだった。問題は、彼があの事件に関係した傷とは少しだけ違う、という点にあった。
だが、結果的にこのクリアだった精神状態の答えが明かされる事になる。
幻覚に見せかける、という事が成功したのは、やはりエル・カルデア(eb8542)が連れてきた幻獣たちの場違いな状況設定と、極限状態にあった彼の目前に現れた、もう一人の自分だった。
雀尾煉淡(ec0844)扮する、もう一人の自分の投影によって、彼は遂に自己崩壊状態に陥った。ただの食事制限や拷問などなら耐えられても、自分自身が『現れる』事は彼らの中には特別恐怖にも似た感覚があるのだろうか?
しかも、それが自分自身の心を捉え、思っている事を目の前で語られれば、尚の事。
繰り返されてきたそれが遂に蓄積され、飽和状態へと導いたのである。
「まだ、終わっていない。だが‥‥いや、もう、終わりだ」
「やめろ‥‥」
「そんな事は思っていない、やめろ、俺にはもうアレしか残されていないのだから」
「やめてくれ‥‥」
「二度と、乗れなくなるのは――」
「い、嫌だ‥‥もう、やめてくれ!!」
●隻腕の事情
もう二度と、乗れなくなる。その恐怖が頂点に達した時、彼は噴き出すように思いを吐き出した。
兵士たちが戦いによって傷付く事は往々にしてある。
もちろんそれは鎧騎士とて同じ事。片腕を失う者もいれば、片足を失う者もいる。
ゴーレムによって守られているとは言え、完璧でもなければ完全でもない。戦闘がある限り、あり得る事なのだ。
だが、そんな負傷者であってもゴーレムはそれに合わせた特別なチューニングは施される事は無い。当然、それによって起こるゴーレムの動きも、イメージの限界もあって完全にはトレース出来ないのは仕方ない事なのかも知れない。
今回の隻眼・隻腕の鎧騎士も、あのカッパーゴーレムをわざと片腕にしたのでは無かった。当たり前だ、そんな事の為に一々特別製にする必要も無いからだ。
あれは本当に偶然の産物としか言い様が無かった。
元々は別の搭乗者が搭乗していたゴーレムで、その時に腕を切り落とされた。かなり激しい戦いで本体も傷付いていたが、その修復自体はほとんどされる事は無かったのである。
理由は単純だ。銅の補給が完全でなかったからだ。本体の外装表面(穴埋め程度)は少ない在庫でなんとか修復に充てられたが、腕一本をクリエイトしてくっ付けるなど相当の量の原料が必要になるのは覚悟しなければならなかったし、かといって、腕だけを戦地に戻って回収するというのも状況的に難しかった。それ(修理)による計画の遅延も許されない。
だからといって証拠隠滅という理由以外に、廃棄されるには余りにも惜しい。だが、片腕の、しかもカッパーのゴーレムを乗りこなせる者はそうそういない。
そんな中、彼がとある作戦の為に呼び出される。
隻眼、隻腕の鎧騎士だ。
過去に一度瀕死の重傷を負って戦線から離脱した彼が再び戦場に赴いたのは、とある理由の為。
個人の理由はともかくとして、作戦の成功の為に、卓越した隻腕の剣技を習得した彼が呼び出されたという訳だ。
失った腕は彼もゴーレムも同じ右腕。
適任だった。
本来は撤退する為に移動を繰り返してきたらしいのだが、どうしても退路が見付からない。
前進を余儀なくされたところに、カオスニアンの隠し拠点に合流したのだ。カオスニアンらは違う部隊である為いぶかしんでいたが、孤立した部隊である事を知ると一時的な停滞を受け入れる――というよりは状況的には受け入れざるを得なかった、ともいえた。
そこに偶然、官憲モーリィたちが侵入してきたのである。
そこからは――起こってしまった事実を見てもらえばご理解いただけるだろうか。
彼の傷は一連の事件の『それ』とは違う事を感じていた導は雀尾やアルフレッド、エルらにも打ち明けていたが、やはり一連の事件とは少しだけ事情が違うようである。
また、一連の事件の為に隠し拠点に来た訳でも、わざとセルナーの部隊を叩いた訳でも無かったのである。分断された、残党だったのだ。
つまり、モーリィたちが追っていた例のカオスニアン恐獣部隊とはまた別の部隊という事になる。彼女たちが隠し拠点で発見したのはみっつの部隊の合流地点だったのだ。
一つはこの金属ゴーレム含むゴーレム隊。
一つは隠し拠点の防衛隊――これがモーリィたちを襲った、というか、迎え撃った格好になる。
そしてもう一つが、モーリィたちの追っていた白いフードのウィザードがいた一連の被害者を生んだ実行部隊という事になる。
●遂に明らかになった隠し拠点の真相。
一方、投降したカオスニアンからの新情報からは、そのモーリィたちが追っていた本体のカオスニアン恐獣部隊には、白いフードのウィザードとは別に二名の人間がいたという事が判明する。
黒い鎧に身を包んだ、隊長格の二人組だったらしい。ただし、所属は彼らにも不明らしい。
彼らの目的は拠点を経由して後北上する事で、その先はセルナー領。セルナーのどこかに向かっていた事になる。
作戦の内容は不明だが、二名の黒い鎧の男達は金属ゴーレムの鎧騎士、白いフードのウィザードとは面識があるようで、軽い打ち合わせの場面を見たという。
もちろん、打ち合わせの内容も不明。
しかし、ウィザードは一人二つの部隊を見送るように、隠し拠点の防衛を担当する事になる。
これも全ては――彼女『シス』曰く、『夜鷹の夢』の為。
だが、その彼女の思いは、皮肉にも裏切られる事になる‥‥‥‥。
この情報が冒険者のもとに届いたのは尋問も数日を経過したある日の事。シスはあれからほとんど何も喋らなかったが、そうなると例の実行部隊とは目的が違う彼らゴーレム部隊は何が目的だったのだろうか?
そしてすでにシスを置いて先行した黒い鎧の男たち率いるカオスニアン恐獣部隊は、セルナーへと踏み入った可能性が高い。
事件の本筋は恐らく、セルナー側に侵入したと思われる黒い鎧の男達にあるだろうが、先ずは整理する事にする。
先ず金属ゴーレム自体は偶然腕を失ったものが廃棄されずに適任である隻腕の鎧騎士のもとに渡された。
彼らゴーレム隊は本来ナイアドへと向かう予定だったらしいが、孤立してしまい前進する事が出来なくなってしまう。じりじりと後退させられたゴーレム隊は隠し拠点へと逃げ込む。
一時的な避難場所を確保したものの、モーリィたちが別件で突入。それを受けゴーレム隊は更に後退を余儀なくされる。
報告され、攻撃を受ければいくらカッパーと恐獣のある部隊でも厳しい局面だったからだ。結果的に彼らはステライド領とセルナー領の境界線をぎりぎりに、メイの国を東西に横断する山脈の地形を利用してリザベ側へと戻ろうとして、セルナー地上部隊とかち合ってしまったのだ。
そこで戦闘となり、全滅させるも補給しなければならなくなった。それだけかなりの痛手を負っていたのだ。
そんな中、フロートシップホワイトホースとゴーレム、モナルコスを相手に戦わなくてはならなかった。彼も必死だったが、彼一人でどうにかなるほど、辺境遊撃隊は甘い部隊ではなかった。
恐獣は全て屠られ、カオスニアンたちも殆どが死んだ。生きていたとしても、生き延びる事は難しいだろう。
補給の為の人員であるゴーレムニストたちもおそらく精霊砲などの圧倒的な火力の前に逃げる間もなく殺されただろう――。
●残されたいくつかの謎
喋る事で食事や水が得られるという事もあり、少しずつ明らかになった今回のゴーレム部隊の真相。
だが、聞かなければならない事はまだまだ多い。そこで今回は冷静に話が出来る相手という事で尋問班のアルフレッド、エル、雀尾を離籍させ、導が聞き役として席に着いた。
「随分落ち着かれたようですね。経緯はわかりましたが、ここから先は既に捕らえられたあなたの仲間たちから取った情報を確認させていただきます」
「俺の他に、捕らえられた、だと? 生きているのか」
「その質問に答えたら、あなたもお話してくれますか」
「どれ位、生きている。どこの部隊だ」
「先ずはこちらから質問させていただきますよ。でなければ、お答えする事は出来ません、交換条件としては悪くないでしょう」
そうして互いの手の内を少しずつ見せながら真実を探っていった。
そこで明らかになったのは、先ず、彼の名前だった。隻眼・隻腕の鎧騎士――彼は、ラズ=ケラと言った。
『カオスの地から出撃しリザベを攻撃出来るほどの航続距離を持ち、海にも着水可能なゴーレムシップとゴーレムグライダーの開発をバの国は行っているかの有無』
・知らない。ゴーレムシップは船だから海は渡れるだろう。
『貴方のゴーレム部隊だけ先行(潜行)した理由』
・元々は陽動の為に先行したが、振り切れなくなり本作戦に合流する事が出来なかった。
『貴方は他のどの部隊の作戦に従事したことがあるか。あるとすればどの部隊か』
・元はメイのリザベとナイアド、バとジェトの境界で戦線を張っていた。独立部隊として召集されたのはこれがはじめてだ。
『黒いゴーレムグライダー、ブラックバード計画について知っている事は?』
・知らない、聞いた事が無い。ただ、ゴーレムグライダー自体はお前達が思っている以上に多いかも知れない。メイではあまりグライダーを見た事が無いからな。
『ナーガの村襲撃事件に対して何か知っているか』
・知らない。それは生き残った部隊の誰かが言った事か?
●最終局面へと。
やはり、今回の一連の事件からは『外れた』部隊だったようである。
回答そのものが投降カオスニアンと同じように違う部隊との接点がほとんどないなどの特徴が見られた。
ただひとつ気になった事だが、彼は未だに一言も自分がバの国の人間であるとは語っていない。また金属ゴーレムの所属も未だに不明のままである。
だが、状況から見てもバの国の関係者である可能性は高い。
他の国の可能性は現時点ではあまり考えない方がシンプル化されるだろう。
それを踏まえても、やはりそこから導き出されるのは前回の女性ウィザードが語った、セルナーの病院に入院中の『夜鷹』と呼ばれる鎧騎士の存在だ。彼が今回の事件の最大の焦点となりそうだ。
シスがメイディアに捕らわれている間に、二人の黒い鎧の男達がセルナーに、何の目的で向かったのか。
そして遂に残された二つの黒い怪鳥の影が。
再びセルナーの空を疾走(はし)る事になる――。
冒険者たちがそれからセルナー領北海で何か不穏な動きがあると報告を受けたのは、依頼の最終日、ギルドに報告を入れる直前の事だった。
事件は、いよいよ最終局面へと向かって、大きく動き出した――!!