メモライズド〜別離〜

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2007年12月15日

●オープニング

●記憶を巡る戦い――転機
 二名の重要参考人、そして投降したカオスニアンらからの情報が一連の事件の全貌をようやく形成してきたこのタイミングで、事件は更なる真相へと向かい加速していく事になる。

 事件の一端を担う重要人物、白いフードのウィザード『シス』は、ブラックバード計画のゴーレムグライダーである通称『怪鳥』のパイロットであった、現在セルナーの病院で入院治療を受けている鎧騎士『夜鷹』を助け出すために激しい陽動作戦のひとつであり、同時にメモライズド被害者の眼球を奪った部隊のひとりとして加わっていた。
 彼女の本来の目的は眼球を奪う事ではなく、作戦に便乗して夜鷹を救出する事だった。

 しかし、彼女のいた部隊には彼女以外に二名の人間がいた。それが黒い鎧を着た鎧騎士だった。
 彼らの目的は――だが、彼女の目的の『それ』とは大きく意味を違えていた。

●もう一度セルナーへ
 一方、黒い鎧を来た鎧騎士とあの眼球と腕を持ち去った実行部隊のカオスニアン恐獣部隊は、一路セルナーへと北上していた。
 そしてとある地点を境に、二つに進路を分かち更に進んでいく。
 鎧騎士たちはセルナー北部の海岸付近へ。カオスニアン恐獣部隊はセルナーの東部、つまり病院のある都市部へ。

 この情報がメイディアに届いたのには理由があった。
 以前港で海上騎士団がゴーレムシップや海路封鎖、またそれの制圧・討伐・迎撃などの情報について言葉を濁していた理由と少し関係がある。
 どうやら黒い鎧の鎧騎士たちは何らかの方法であの黒いゴーレムグライダーを隠蔽して運び込んだらしいのだ。いや、もしかしたら、最初から飛び去ってなどおらず、セルナー北海に位置するどこかの孤島にでも隠してあったのかも知れない。
 ただひとつ言える事は、あの、ただの噂話の延長でしかなかった黒い怪鳥は、『すでに』セルナー領海に存在している事になる。
 海賊にでも金を渡したのかカオスニアンの隠し拠点でもあったのか、定かではないが、未確認情報によると不審なゴーレムシップが黒いゴーレムグライダーを運んでいるらしいというタレコミまであったそうである。
 今までの経緯からすると、相当――嫌な状況下だ。
 もうひとつ嫌な予感を挙げるとすれば、黒いゴーレムグライダーと同じ黒い鎧の鎧騎士がいた、という事だ。

 果たして。セルナーの入院していた彼――夜鷹――はどんな『色』の鎧を着用していたのだろうか?
 確か面会していた時は、鎧はどこかに保管されており、病院の入院患者用指定服を着ていた筈である。

 そんな中、報告を受け取って情報を叩き込んだモーリィはとにかくもう一度セルナーへ行って、記憶を失った鎧騎士――夜鷹――に会いに行って欲しいと冒険者ギルドに依頼を申請してきた。
 被害者とは言え、実行部隊であるカオスニアン恐獣部隊を直接叩くというのならともかく、事情聴取だけで今からセルナーに向かうのは彼女の体が持たない。ようやくベッドから体を起こす事が出来るようになったが、復帰にはもう少しかかりそうだ。

 ただし。今回はもしかすると――もうひとりの『シス』の力が必要になってくる可能性が高い。
 以前冒険者たちが面会した時には、魔女が記憶の言葉を紡ぎ出したが、今回は魔女の手を借りるには危険すぎる。
 それと本当の『シス』が彼を取り戻そうとしていたとしたら、本人が見紛う程の完成度を誇るもうひとりの『シス』は彼の記憶を甦らせる鍵、或いは何かの切っ掛けになるかも知れない。
 また、病院側にはすでにあの全ての形状の違う武装のカオスニアンたちが向かっているらしい。それほど特殊な部隊であれば少なからず情報は届いているだろう。
 今回の目的は大きく分けて二つ。

・セルナーの病院にいる入院中の鎧騎士、通称『夜鷹』に対して再度面会し事情を聞く事。
・セトテ、ジーキスを殺し、モーリィまでを傷つけたカオスニアン実行部隊を叩く事。
 なお、カオスニアンは五体、かなり強敵の部類らしい。恐獣は小型が三体、ヴェロキだろうと思われる。

●今回の参加者

 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec0568 トレント・アースガルト(59歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●時間こそ、何よりの宝
 今度ばかりは緊急も緊急だった。いや、最初からどうしても後手に回らざるを得なかった。
 理由は単純だ。
 実情を知るものがほとんどいなかった、ただそれだけだった。前回までに多くの一連の事件に関与する重要参考人が次々と確保された事でその全貌がいくつかの小さな事件が絡まって生まれた、複雑化し肥大化した事件の一端だった事を知った。
 特に最初の事件、セトテたちが殺された件やモーリィたち官憲チームが死傷者を出した傷害事件の最も強い関連性を持つ『シス』からもたらされた情報は事件の真相に大きな前進を与えるに充分だった。
 そしてそれは黒い怪鳥事件とも大きく関わっていた事も明らかにした。
 事件は――確実に終局へ近付いている。

 冒険者たちが急行するという事でチャリオットを使用したのだが、今回は残念ながら多人数輸送用のそれは整備中だった為、普通のチャリオットを貸し出された。人数は多少オーバー気味だが、何とかぎりぎりで乗ることが出来た。
 新型機はまだ数も少なく、整備中ともなればどうしようも無かった。それでも冒険者たちは何とか上手く活用したのだった。
「カオスニアン実行部隊か、あのアーケチさんを復讐鬼にした連中を思い出す。連中には情けはやらん、徹底的に叩きのめす‥‥」
 ファング・ダイモス(ea7482)は官憲モーリィの前任者アーケチの事を思い出していた。そう、アーケチが長年追いかけていた怪盗らんまがカオスニアンらによって殺されたあの忌まわしい事件だ。
 それでなくても既に十名以上の尊い命が失われている。
 だからこそ。
 そしてこれ以上の犠牲者を出す訳にもいかなかった。
 時間こそ、何よりの宝と、決意の口調で臨むトレント・アースガルト(ec0568)の、その言葉が重い。

 エル・カルデア(eb8542)と雀尾煉淡(ec0844)は交代で一定距離進むごとにバイブレーションセンサーでそれらしき敵の姿を索敵した。
「まずいですね‥‥思ったよりも先に行かれてしまっている可能性があります。追い抜いているとは思えない」
「目撃情報を組み合わせると、とてもこんなハイペースじゃないように思えたが‥‥」
 すでにステライド領の国境付近まで到達した冒険者たち。いくらカオスニアンや恐獣でも寝ずに強行しているとも思えないし、目撃証言からの予測進路を、今更大きく変更するとも思えなかった。
 ――だとすれば、どこかで追撃者である冒険者たちを待ち伏せしている‥‥?
 追い込んでいくと思えば後ろから襲撃したり、突然の強襲で官憲らを全滅寸前まで追い込んだり。
 とにかくカオスニアンの方に抜群に頭の切れるのがいるのか、噂の黒い鎧騎士が成せる戦術なのか、果たして。

●唯一の勝機!
 今回の事件の唯一の勝機は『夜鷹』がまだこちらの手の内にある事だ。そしてその決定的な条件ともう一つだけ加えるとするなら『シス』が捕獲された事を彼らはまだ知らない事である。
 つまり、ルメリア・アドミナル(ea8594)扮する――もう一人の『シス』の正体を知られていない点にある。
 今まで後手に回らざるを得なかった冒険者たちは、この最後のタイミングで逆転のカードを手に入れたという訳だ。後はカオスニアン・恐獣部隊をここで殲滅し、セルナーへと直行して夜鷹を守りながら黒い鎧騎士たちの動きを逆手に取って彼らの『計画』を阻止する。
 夜鷹とシスの関係が何であろうと、今はどちらも必要なカードだ。
 だからこそ、もう一人の『シス』の存在はこの事件を解決するのに必要な『役』となった。敵の振りをするというのは、実に不名誉な事だが、それでも絡みついた事件の糸口を掴めた事は大きかった。
 同じ雷撃手としての共感もルメリアが『シス』として立つ理由の一つになっているのかも知れない。

 一方、黒い鎧騎士たちはセルナーの海岸へと到達していた。
 断崖絶壁から見下ろす二人の目には、不審船。ゴーレムシップだ――。
 そしてその上に搭載されていたのは。

●超越魔法戦――撃滅
 超越、という言葉がある。優れたという意味を持つそれは、だが、一方で範囲を超えるという意味を持つ。
 使いどころを誤ればとてつもない損害を与え、暴発でもしようものなら味方すらいとも簡単になぎ倒す諸刃の剣と言っていい。魔法の場合は特にその桁違いの範囲の、或いはたった一発で戦況を一変する破壊力を持つ。
 与えるダメージよりも、周囲を巻き込んで凄まじい威力で『何もかも』を飲み込む特性があるからだ。言ってみれば、敵味方関係無しで巻き込む可能性が非常に高いという事。
 だが、使い方、使い所、そして使い手の妙で『激変』を巻き起こす事も可能だ、という事。
 本当の『シス』も凄まじい雷撃の使い手だった。それをそっくり使いこなせる人物はそうそういない。だが、そうそういないだけで全くいない訳では無い。
 実際に、もう一人の『シス』であるルメリアは彼女のそれを勝るとも劣らない絶妙なコントロールで撃ち出す事の出来る卓越したウィザードだった。

 そんな彼女がテレスコープを使って、『雷撃で狙撃』という一見すると無謀な作戦も彼女の腕を持ってすれば或いは一つの戦術と化した。
「見つけましたわ‥‥んっ‥‥」
 だが、ルメリアは一瞬自分の『目』を疑う。
「どうした? 何か見つけたか」
 グレナム・ファルゲン(eb4322)が操るチャリオットは警戒の為減速した。
「現地調達というのが、彼らには可能という事ですわ」
 一瞬、ルメリアが何を言っているのか、月下部有里(eb4494)には理解出来ない。
「現地調達?」
「全員恐獣に騎乗していますわ‥‥予想以上に先行された理由がこれではっきりしましたわね‥‥」
 人数と恐獣が合わなかった事で、移動力がほとんどないと予想していた冒険者たちは意外な所で先行されたカオスニアンたちの実情を知る事になった。
「なるほど‥‥目撃情報の間でどこかの野生の恐獣を手懐けて、移動速度を上げたって訳。相手さんも必死って事‥‥」
 月下部は納得しつつ、事態が非常に緊迫している事に変わらない上、更に悪化しつつある事にも気がつく。
 このままの速度なら、セルナー入りを許してしまう。それだけ圧倒的な進攻だったのだ。つまり、カオスニアン五体に小型恐獣五体という組み合わせで猛進している事になる。
「もう少し速度は出せませんか」
「無茶を言うな、これでも精一杯だ」
 そもそも定員オーバー気味である。速度的にはチャリオットの方が早いがそれでも追いつくにはもう少しかかる。
 ここでのタイムロスは命取りだ。
「仕方ありませんわね。万が一の為にレジストライトニングを」
「わかった」
 エルはそうして、これからはじまる砲撃戦の予防策として強力な耐性魔法を全員に施す。
「いきますわよ――」

 空気が割れる。そんなイメージだった。
 超越という魔法の威力が言葉通りなのは、一度でもそれを見たものならば誰一人として否定出来ないだろう。
 とてつもない威力なのだ。空気を切り裂くように、閃光が疾走(はし)る!!
 ヴァアアショオオオオオオオオウ!!
 耳をつんざく炸裂音と共に昼間の快晴の空をも暗く思わせるほどの眩い閃光がのびてゆく。
 極太のレーザー砲みたいな凄まじい雷光はそして。
 一瞬にしてカオスニアンと恐獣のセット二組を解体する――。ルメリアの視界には、ちょうど重なっていたのが彼らの敗因だ。
 それに気付いた残り三組は突然の遠距離狙撃に身を翻すと、散開しながら迎撃の体勢を取る。
「く、散られた‥‥もう一組いきます!」
「残りはこっちに向かってきている。残りは二組だろう、いけますね?」
 エルは雀尾煉淡(ec0844)と月下部に合図を送ると、魔法戦での対応をセッティングする。ルメリアが狙撃で外す訳も無く、更に一組を解体した。
 追いつかれる事を想定しなかったのか、カオスニアン隊の残り二組はそのまま最高速を維持しつつ迎撃して来る。
 だが――相手の戦力を見くびっていたカオスニアンたちに勝ち目など無い事は明白だった。こちらには魔法戦のスペシャリストがまだ控えているのだから。

 そうして、あの憎むべきカオスニアン部隊は、遂に全滅した。
「直に剣を振り下ろしたかったですが‥‥目的が達せられるならこれもいいでしょうね」
 ファングは焼き殺されたカオスニアンと恐獣たちの姿を確認しながら、彼らの持っていた武器が本当に被害者の傷跡と一致するかを検証する為に全員分の武器を持ち帰る事を提案。
 全員一致で賛成を受け、チャリオットに更に重量負荷をかけてのセルナー入りを果たす。重要な証拠である為、これも致し方なしという所か。

●夜鷹の真実。
 セルナーに無事到着した冒険者たちは、即病院へと駆けつけた。
 それから病院関係者に調べさせるいくつかの確認事項を担当する組と夜鷹の安全を確保する組に分かれて行動する事になった。
「はろ、また綺麗な女医さんが面会に来たわよ。今日はもう一人美人さんがあなたに面会したいって」
「またあなた達ですか。残念ですが何度来られても、わからないものはわからない」
「まあまあ、会えばきっと何か思い出すかも知れないわよ?」
 月下部にそう言われ、入室してきた人影を見ると。
「――!」
「先のちょっとした騒動でバ国からこちらの国に捕虜として預かっているのだけど、知り合いかしら?」
 夜鷹の目の色が変わる。
 ルメリアは軽く腕を動かし、月下部を下がらせる。
 少し話をさせてあげると言われ、そして夜鷹ともう一人の『シス』は対峙した――。
「生きていたのか‥‥」
「どうやら他の仲間は情報が漏れる前のお前を始末するようだ、そんな事は私がさせない、必ずお前を守る」
「そうか――そういう事か‥‥。だが、私は一度殺された身。むしろ危険なのはお前だよ‥‥だから身を引けと言ったのに」
「どういう‥‥事」
「お前はあの『計画』を‥‥ゴーレムスコープ計画『クレヤボヤンスド』を知りすぎている。ブラックバードの事よりもそれを洩らさない為に‥‥全ては仕組まれていた筈なのに、なぜお前がこうして。それに、捕虜とはどういう事だ。もう、話してしまったのか」
「いいや、私はお前を狙う者から守る為に来たんだ。わかってくれ」
「うっ‥‥頭が痛む‥‥」
「大丈夫か、夜鷹‥‥」
「とにかく、逃げろ、シス。ここにいればお前も殺されてしまうぞ。お前は私の存在を確かめる為に泳がされていたに違いないのだから」
「彼ら、黒い鎧騎士の事か」
「そうだ。あの二人は私とお前を殺すつもりで動かしてきたんだろう。そして私はあの時、ブラックバード計画の為に『殺された』。だが生きている事を知ると今度こそ本当に殺すつもりで乗り込んでくる筈だ」
「彼ら二人は『クレヤボヤンスド』をどこまで知っている? 夜鷹、お前はどこまで思い出せる?」
「お前‥‥くそ、お前まで『忘れた』のか? あの『薬』は全てを狂わせてしまったな‥‥」
「薬、だと」
「お前の目、そして私の目を『計画』の為に提供した時に使った薬だ。アレが無ければもっと悪い事になっていたかも知れないが‥‥副作用が強い事を知りながら服用しなければならなかった」
「――ああ、そうだ。だから今お前が生きている。私はお前を助けたいんだ、その為に来た」
「彼らはどういう繋がりだ?」
「冒険者という。私たちを命をかけて守ってくれる。私が生きていられるのは彼らが守ってくれたからだ。だから安心していい、彼らが夜鷹、お前も守ってくれる筈だ」
「‥‥そう、だったのか。生き残る為に、捕虜になってまで私を‥‥」
 うっすらと涙を浮かべる夜鷹を見たルメリアは、思わず、無意識のうちに彼を抱きしめてしまう。驚いた彼も、だが、そっとルメリアの背中に手を回した。
「――シス‥‥」
「とにかく――今は私を信じて欲しい」
「わかった」
 と、立ち上がろうとした夜鷹。だが。
「記憶が曖昧だからかな‥‥お前、少し、大きくなったんじゃないのか」
 一瞬何の事かと思ったが、ルメリアははっとなって、一言、馬鹿者、と叱ってみせた。

●セルナー北海から飛び立つ、黒き翼
 病院関係者、そしてセルナーの官憲らに事情を聞くとやはり夜鷹の着用していた鎧はあった。直接黒い鎧騎士の姿を確認してはいないが、確かに黒い色の鎧である事が判明した。
 だが、その鎧の背中には大きな亀裂のような跡があった。
「いわゆる、後ろからばっさり、という所ね」
 夜鷹の傷の場所もそっくりそのまま残されている事から、背後から何者かが切りつけた事だけは確かだった。しかし少なくともカオスニアンが使っていた武器の傷跡ではないだろうとされた。
 これは月下部が検証したものなので、かなり信憑性が高いものだった。では、誰が。いつ、何の為に?
 ともかく、仲間内での裏切り行為、或いは処分された――夜鷹の証言が本当だとしたら、黒い鎧騎士がブラックバード計画の漏洩を阻止する為にグライダーごと海に沈めた可能性が高い。

 そんな中、セルナーの港が妙に騒がしくなっていた。
「何があったのです?」
「ああ、不審船だとよ。密漁船か海賊船か、そんな所だろうさ」
 漁師たちはのん気に網の手入れをしながら言っていたのだが、どうもそれにしてはセルナー海上騎士団の動きも慌ただしい。
「どの辺りか、聞いてますか」
「ああ、ウドの辺りさね。北西の海さ」
「北海、ウドの海ですね?」
「らしいね。それがどうかしたかい?」
「いえ、ありがとうございます」
 ファング、グレナム、トレントの三人は聞き込みをしながら噂のゴーレムグライダーを搭載したゴーレムシップの事を思い起こす。
「いよいよ動き出した、という所か」
「戻ろう、これは少し急いだ方がいい」
 そして。
 それが最終決戦へと続く一報だという事を知るのはもう少し後の事だった。

 セルナー北海を静かに進むゴーレムシップ、その甲板には。
 漆黒の翼を持つ特異な形状のゴーレムグライダー。そしてそのすぐ近くには、黒い鎧を纏う鎧騎士。
 いよいよ動き出した最終章は、空を舞台(ステージ)に駆け上がるのだろうか?

●愛しているから
「シス‥‥すまない‥‥」
「ん? ――ぐっ!?」
 連れ出そうとした矢先の事だった。
 まさか、気付かれたのだろうか。夜鷹は、それが本当のシスでないと直感したのだろうか。
「これは私の責任だ。私が決着をつける‥‥愛しているよ、シス‥‥お前を絶対に守る」
 そう言って彼は、一人、セルナーの病院から失踪した。
「夜‥‥」
 遠のく意識の中、ルメリアは彼の背中だけをぼんやりと映し出していた。

 しかし。
 夜鷹はもう一人の『シス』に明かした『クレヤボヤンスド』とは一体何なのか。
 シスと夜鷹、そして黒い鎧騎士たちが持つ、最後の『ピース』が遂に明かされた――!