必殺! 殺しふ討伐隊

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2007年12月29日

●オープニング

●和むような、サスペンスのような
「たたったっ、大変どぁあああ!!」
 ひらひらと舞い込んできたと思えば今度はちいちゃな体の割には大きな声で騒ぎ立てる。
 必殺! お探シフールのお姉さんの所に舞い込んできたのは、同じシフールの男の子だった。
「何が大変なの」
 呆れ顔であわてんぼうの男の子を見ながら嘆息するお姉さん。
「ぼぼぼぼ、ぼく、見ちゃったんだよ!!」
「――だから、何を」

 と、これはとあるシフールの目撃談。
 友人数人と遊んでいたら、見たことも無い真っ黒いシフールがやってきて、飛び去った。
 気になった男の子シフールたちは様子を見にそっと尾行した――ただついていっただけ――のだが。
 なんとそこで衝撃の現場を目撃してしまったのだ。
「そろそろ本題にいかないとぶっとばすわよ?」
 お姉さんは今とても忙しいので、にっこりと笑いながら声をかける。
「ここから、ここから! こ、こ、ころしふ! 殺シフ!」

 黒いシフールが悪戯じゃなく、殺人をしていたのだ。
 殺人シフール略して殺しふ。
 妙に軽い呼び方だが、中身は実はマジだった。
「あっというまに人間をね、ぶすっと! ころし‥‥殺しふ!」
「あんたそれが言いたかっただけじゃないの?」

 ともあれ、男の子はシフールのお姉さんに助けを求めて、謎の殺しふ討伐隊――という名の調査隊が組まれる事になった。

 髪が黒いのか、目が黒いのか、着ていた服が黒いのか。肌が黒いのか、はたまた腹黒いのか。
 最後のは置いておいて、ともかく何が黒いのかさっぱりわからないぐらいの慌てっぷりだが、つまりそういう事らしい。
 どういう事かはあまりよくわからない。

 ともかく、シフールの男の子が目撃したという黒いシフールを見付け、追及するしかない。
 場合によっては官憲に引き渡す方向だ。
「ところで、どうして私に頼んだのかしら」
「だって、お姉さん、必殺! でしょ」
「あ、そう‥‥」

●今回の参加者

 ea0017 クリスタル・ヤヴァ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●噂の殺しふどこにいる?
「とにかく、情報は足でかせぐしふ!」
 といいつつ、ひらひらと羽を動かしているのはクリスタル・ヤヴァ(ea0017)だ。というのも、それは確かに正論だった、何せとにかく事前情報が足り無すぎる。
 少年の言う分には黒いシフールが人間を一刺しで殺した、という事実だけ。いつ、どこで、どんな状況で殺されたのか、それすらあわてんぼうすぎる彼の言葉では聞くことが出来なかったのだから。
 ただ――。
 本当に死んでいたかどうかまでは確認するに至っていない。ただの悪戯で気絶させただけ、という事もあり得る。
 状況がほとんどわからないという謎だらけの事件に立ち向かうは殺しふ討伐隊! 果たして真実に辿り着けるか?

 今回は頼れる必殺! お探シフールのお姉さんの他に人間も協力してくれた。イレイズ・アーレイノース(ea5934)と結城梢(eb7900)がそうだった。
 しふ同士の事件にも興味を持ってくれる人間がいるというのは当のしふしふたちには嬉しい事らしい。というか、基本スタイルが『みんななかよく』なものだから、誰が来ようがウェルカムというのが正直な所か。
 そういう意味では実はお姉さんはシフールらしくない一面があるように思える。というか、多分、現実を見すぎたせいで世の中に絶望、いや、冷めてしまったのかも知れない。
 そんな本来活発で明るいシフールたちの中でも比較的大人しい風なのはモニカ・ベイリー(ea6917)。クレリックであるという事から、性格的にも立ち居振舞いにしても全体的に大人しく感じるのは、その口調にも現れていた。

 黒いシフール。
 それが『カオスの者』である黒きシフールの事だったとしたら、実に厄介だ。
 だからこそお姉さんはこのどうでもよさそうな捜索依頼を請け負ったのである。厄介だが、興味があったからだ。
 噂によると、この黒きシフール。ほとんどシフールと容姿が変わらないという。
 小さな体に羽を持ち、悪戯好き。決定的に違うのは、基本的に邪悪だという点だ。
 もちろん、カオスニアンのような肌の黒さではなく、また少し違った黒さらしいのだが、この辺りは余りにも目撃情報が少なく、確認するにはかなり難度が高くなるだろうと思われる。
「注意するところは、一つだけ。私が知っている情報を言うわね、よく聞いて頂戴」
 お探シフールのお姉さんはそういうと冒険者たちに注意事項を話してくれた。

・黒きシフールには『シッポ』が生えているらしい事。
・カオスと呼ばれる邪悪な存在であるがゆえに、その力を使った魔法や特殊能力を扱える場合もある事。
・そして、その力の一つに『変身』がある事。

「カオスニアンと違って、相手は魔法も使えるはずよ。しかも変身されていたら、探知系魔法でもほとんど通用しないと見ていいわね」
「でしたら、デティクトアンデットでしたら、いかがでしょう」
「そうね‥‥ただし、相手もバレないように気を張っている可能性もある訳だから絶対ではないから、気をつけて」
「なるほど。わかりました」
 モニカだけでなく、イレイズも神聖魔法を扱う事が出来る。もっともこの場合はカオスという存在の可能性もあるので神聖魔法[黒]発動の『効果なし』で確かめるという状況に置かれる事になるだろうが‥‥。

●被害者の情報を追え!
 一先ず現場検証を、という事で結城たちは少年の言った殺人現場へと訪れた。
 ――のだが。
「もう処理された後なのでしょうか‥‥それらしい姿はありませんが‥‥」
 きょろきょろと見回してみるが、やはり殺された人間の姿はおろか『現場らしさ』がまるで感じられない。
「そんなはずないよ! だってボク見たんだもん! 本当だもん! ここでばたーって倒れたんだもん!」
 少年はやや疑いの眼差しの結城に涙目で答える。
「しかし‥‥現場検証をするにも手がかりがほとんどありませんよ。困りましたね」
 そういって一応試しにブレスセンサーをかけてみるが、怪しげな反応は見受けられなかった。
「その殺人シフール‥‥殺しふ、か? それが何の為に人間を殺したのかがわかれば少しは事件も見えてくるだろう。が、無差別なら手がつけられないぞ」
「そうですね。やはり北の村に先回りするしか他に無しといった感じです‥‥」
 イレイズと結城はそう結論付ける。しふしふたちも現場には何も痕跡が残されていないという事で仕方なく北の村に向かう事にした。
 その途中に少年の遊び場であるシフール広場にやってきた。
「わあ! しふしふたくさんいるしふ〜!!」
「自分たちが場違いな気がするほどシフールしかいませんね」
「確かに‥‥」
 クリスタルとモニカは二十から三十ほどが集まってわいわい何やら楽しげに談笑していたり飛び回ったりしているシフールの集会場のほうな場所に立ち寄った。
 人間がここに足を踏み入れるのはどうもかなり珍しい事らしく、興味津々のしふたちがわーっと近付いてきて二人はびっくりしつつも敵意が無い事を証明してみせながら、少し離れた場所で待機する事になった。
 そんな状況で自分達が情報を聞くよりもシフール同士でのコミニュケーションの方がより正確な情報を得られると考えたからだ。
 しかしそこで得られた情報は、どうも複雑すぎて簡単に整理のつくものではなかった。
 支離滅裂とまではいかないが、話が繋がらないのである。
 一方では死んだといい、一方ではいや死んでないとしまいにはケンカになりそうなほど情報が錯綜したのだ――。
「‥‥どういう事でしょう? 死んでいない、というのはどういう意味なのかわかりません」
「一時的に仮死状態にされた、という事なのかも知れない。或いは魔法で眠らされたとか、相手は魔法を使うらしいから」
「なるほど‥‥それにしては少年シフールさんのぶすっと一刺しというのが気になりますね」
 何とか話を整理しようと結城たちは改めて少年に状況を話してもらうと、どうも針のようなもので人間の首を突き刺したらしい。血が出なかった代わりに、毒でも混入していたのか間もなく人間はばったりとその場で倒れてしまってぴくりとも動かなかったらしいのだ。
 ちなみに口論などは無かったとの事。
「魔法ではない、と‥‥首は確かに急所ですけど、それだけで即死なんて早々ありませんし」
「やはり殺したというよりも、仮死状態にしたという方がしっくりくるかも知れないな」
 だがここでも殺人シフールの目的は明らかにならなかった。

●北の村攻防戦!
 シフール広場を後にした冒険者一行。殺されたにせよ、殺されていなかったにしろ、『ただの悪戯』の範疇を逸脱している以上、非常に悪質な犯行と見ていい。
「しっふしふにしてやんよ〜しふ〜♪」
 意外とシリアス展開かと思いきや、やはりそこはしふしふ。真面目にやっているつもりなのだが少しライトな雰囲気になってしまう。

 冒険者たちはモニカのデティクトアンデットを軸に、カオスを一点集中で待ち伏せ発見する事を確認しあう。また、目視ではシフールらしき姿を注視する。
 後は先ずは『話を聞く』事からはじめなければならないだろう。
 わざわざ人里に近付くからには何か理由があるはずだからだ。
「カオスの者の目的が『デビル』と同じなら、恐らくは人間の魂を狙っているのでしょう」
「‥‥だとしたら、どうしてメイディアに直接向かわなかったのでしょうか? あちらの方が人も多いでしょうに」
「事件になる確率が高いから、でしょ」
 結城とイレイズの間に入ったのはお姉さんだ。
「人の少ないところで少しずつ、気付かれないように近付いて徐々に弱らせるのはよくある手法だから」
「お、お姉さんはお詳しいですね‥‥」
「一気にやったらバレるでしょう? もちろん広範囲でもダメ。そうすると狭くて少なくて、それで少しずつっていうのが狙いなのよ」
「この村が近場で適しているという事か」
「まだこっちには来ていないみたいだけど、来るわ。必ずこっちに来る‥‥」
 イレイズの問いに、お姉さんはなぜか直感を覚える――何かを感じるのか。

 そもそも、カオスの者が本当に『デビル』と同じなのかもはっきりしない状況で仮説ばかり先行しても仕方がない。
 ともかく今やるべきことは、少年の言う黒いシフールが本当に殺人を犯したかどうか、これからも同じ犯行を繰り返すのかどうかをはっきりさせる事だけだ。

「な――!?」
 ところがここで大変な事態が起こってしまう。
 先ほどのシフール広場ほどではないが、なぜかシフールの団体客が飛んできたのだ! 目視出来る数、その数、九しふ!
「しふしふ〜!? またいっぱいしふ〜!!」
「このタイミングで‥‥?」
 待ち伏せの体勢で構えていた冒険者たちは間の悪いシフールたちに焦りを隠せない。
 そんな中、少年がその中の一人を見ると、あっ、と声をあげた。
「あっ、あのしふ! あのしふ、殺しふ!」
「本当ですか? モニカさんっお願いします!」
 結城は即座にモニカにデティクトアンデットを仕掛けさせる、と。
「‥‥いました! 後ろから二番目、黒い髪のシフール!」
 他のシフールたちは仲間なのかわからない。それでも、一体だけ反応したという事は、『それ』はただのシフールじゃないという事だ。
 少年はあわてんぼうの割には記憶が良かった。顔を覚えていたのだ!

「すみませんが、そこのシフールさんにお話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
 結城はそう言ってイレイズと共に歩み寄った。
 目立つ相手を見せる事でクリスタルのスリープ、モニカのコアギュレイトの発動タイミングを悟らせない為の囮でもあった。
「何の真似だい、人間‥‥」
 口を開いた黒髪のシフールはそれまでにこにこしていた表情をぎらりと変えて、睨みつける。
「先日、あなたに似た方が殺人を犯し逃亡したという情報を得ました。そこで少し詳しいお話を聞かせていただけると嬉しいのですが」
 結城はあくまでも冷静に事を進める方向だ。
 しかしシフールはにたりと笑いながら返す。
「似ているだけだろう、私がやったって証拠もない癖に偉そうだな」
「‥‥ふむ。あなたがやったと証言出来る目撃者がいたとしたら、どうです?」
「――なんだと」
「抵抗はなしにしてもらいたいが‥‥」
 イレイズはホーリーシンボルでもある仏剣に手をかけながら、結城の盾になるかの如く立ちはだかる。
「ふん、人間如きが何をしようっていうんだい」
 黒髪のシフールはそう言うと、ひらり、と舞い上がる。
「くっ――」
 飛ばれたら何も出来ない。その前に確認しておきたい事があったイレイズはそのまま剣を抜き放つとブラックホーリーを黒髪のシフールに向けて発動させる!
 その最初の一撃が黒きシフールに直撃したのを見て全員一瞬躊躇するも、彼は冷静に対処した。
「どういう事です?」
「いや、ここからだ」
 イレイズの言葉に、疑問符が頭をよぎる結城。その答えは、すぐに明らかになった。舞い上がったシフールは『何か』を発動させようとしていたが、結城がそれを止めようとライトニングサンダーボルトを打ち込む!
 だが黒きシフールが先手だったようで彼女の雷撃を急降下で狙わせないようにさせるとイレイズに突っ込んできた。
 イレイズは『確かめる』ように二度目のブラックホーリーの奇跡を呼ぶと発動した事を確認しながらも、その後、何も効果を及ぼさなかった時点でイレイズは確信する。
「デビルだ――」
「カオス、でしょ」
 イレイズに軽く突っ込むお姉さん。或いは先の『何か』が効果を及ぼしたのか――どちらにせよ、邪悪な存在である事には変わらない。
 だが、それだけ確認できれば充分だ。
 モニカたちはようやく黒きシフールの背後に回りこんで、そのまま限界ギリギリの距離でコアギュレイト、クリスタルはスリープをほぼ同時に発動。
 どちらかの抵抗に成功してもどちらかの抵抗に失敗すれば『落ちる』という訳だ。
 この瞬間の為に時間稼ぎをした二人はそれによって拘束された黒髪のシフールを、そうして確保する事に成功する。

●黒しふの真実?
 目を覚ました黒髪のシフールはいつの間にか変身が解除されている事に気付く。
「黒いですね‥‥」
 結城は本当に黒きシフールが黒い事を確認すると、思わず口をついて出てきたのが黒さだった。
 そして何より不思議だったのは、そのシッポの存在だった。犬や猫のように、お尻のところから生えている『それ』はただくっ付いているだけでなく、ちゃんとにゅるっと動いているのだった。
「放せ! 人間ッ!」
「それは出来ませんよ。こちらには目撃者がいるといったでしょう?」
「オレは殺してなんてないぞ! ちょっと眠ってもらっただけだ!」
「‥‥ふむ‥‥」
「本当だ、人間を殺した所でこっちには特に何か得があるわけでなし、面倒なだけだからオレはそんな事はしないぜ」
 勇ましい男言葉だが、嘘を吐いている可能性は否めない。
「それを証明出来ますか。人間を殺していない、という」
「――くそ、なんだってこんな‥‥」
 黒きシフールはそうして、舌打ちした。

 その後、確かに彼女は殺人は犯していなかったが、かなり数の盗難事件の犯行が明らかになった。
 人間をおびき出して一人になった所を、毒針で眠らせて所持金を奪ったという件数が時期こそ違えど十数回も発生していた事が判明したのだ。それらは全てメイディアで通報されたもので、しかし奪い去ったという相手がシフールでしかも身元不明消息不明という事で官憲たちも手も足も出せない状態だったらしい。
 メイディアに行かず、北の村に向かった理由はそれだ。
 結局、殺しふ討伐隊はこうして容疑者を官憲に引き渡す格好になった。
「でも、殺人は犯していないのですよね‥‥」
「だけどあんな風にばたって倒れたら誰だって死んだって思うもん!」
 あわてんぼうの少年の目撃情報は、実際には殺人現場ではなく、盗難の犯行目撃現場だったという事になる。

 結局、大事件になるまでもなくあっさりと事件は解決に向かったが、問題は犯人が『カオスの者』だった事にある。
 官憲たちは事件性そのものよりも、噂でしかなかったカオスの勢力の存在を確認した事で緊張していたようだ。今回の事件は規模こそ『小さな』ものだったが、背後にカオスの存在があるという事ははっきりしている。
 これからこの黒いシフールはそれらの関連性について追求されていくだろう。カオスの存在は彼女だけでは無いだろう事は恐らく間違いないだろうし、更に強大なカオスの軍勢が蠢いている可能性を示唆している。
 発端は小さな事だが、冒険者たちにとっては、カオスニアン、恐獣、バの国に加えて更なる『脅威』が迫っている事を知ったのかも知れない。

 果たして、メイの国にこれから何が起ころうとしているのだろうか――。
 ともかく、今回の事件はこうして終了した。