要人警護任務――辺境遊撃隊
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月24日〜12月29日
リプレイ公開日:2007年12月28日
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●オープニング
●異国からの亡命者。
「それにな、アタイはラピスを叱りに着た訳じゃない。もう一度羽ばたく翼と力‥‥『新しい剣』、そして辺境遊撃隊にしか出来ない新しい任務を持ってきたんだ」
「新しい、任務‥‥?」
深く傷付き、痛めた翼を休めている彼女たちにとって、これは朗報になるのだろうか。
腕をもがれたモナルコス二騎はただ黙って立ち尽くしていた。
「ああ、ただしこの子たちはアタイがしばらく預かる。そこらにあるチャリオットとかグライダーとか搭載して凌いでくれ」
「それで任務っていうのは」
「‥‥ふむ。そろそろ明かしておこうか」
レンジョウが明かす、辺境遊撃隊の新たな任務とは――。
「実はな、ラピスに頼みたい事があって、それの相談も兼ねていてね」
レンジョウがもったいぶってから、ようやく話をはじめようかという時に。
「すみませんお話中のところ、ラピス艦長」
「なんです?」
突然急の任務が入ってきたらしい。
「はい、報告します――」
それは突然の事だった――リザベの国境海域に他国からの侵入と思われる不審船が発見され、抵抗する事も無く拿捕された。
というのも、すでにその不審船は激しく傷付いており、ほぼ航行不能だったようなのである。
船は海上騎士団が発見した時には牽引も困難なほど浸水しており、結果的にはそのまま沈んでしまう事になった。
沈んだ船は小型のゴーレムシップで、おそらく個人所有――といっても、かなりの資産家のものであると予想される――のものであろうと思われた。
そして、船に残されていたのは二名の少年少女。
正確には、『生き残っていた』のは、二名だけだった。
その他の者は既に生き絶えており、彼ら二名は運良く生き延びていた、という事らしいのだ。
すぐさま海上騎士団は生存者を乗せリザベに帰還。二人は病院にかつぎこまれた、という訳だ。
二名とも、比較的軽傷ですぐに意識は回復。事情聴取して、大事である事が判明したのである!
●亡命の理由
意識の回復した二名の生存者は、二名ともがバの領国に属するとある貴族の息子と娘だという。
リザベはまだ国境付近での小競り合いが完全に沈静化していない事もあり、急遽リザベからメイディアに移動させる事になったのである。
なぜこの二人を乗せた船が沈んだのか、しかし、二人はショックの余りよく覚えていないらしいのだ。
何者かに不意の強襲を受け、息子娘たちは隠れていなさいと指示を受けた後しばらくして物音がしなくなったので甲板にあがった所を海上騎士団に発見されたという事なのである。
状況から見ると恐らく死亡しているであろう人物の中に二人の親がおり、その身元が判明次第送り返す手順を踏む事になるだろう。
しかし二人はもうバの国には戻りたくない様子。
酷く怯えているのが目に見えて明らかなのだ。
なぜ二人は怯えているのか、メイディアで治療を受けた後、二人がどうなるのか二人はどうしたいのか、それはまだわからない。
今はとにかく、辺境遊撃隊がこの少年少女を保護し、無事メイディアまで連れて行く事だけだ。
「あの、レンゲお姉さん‥‥」
「ああ、行ってきなさい。こっちも早めに作業に入りたかったし、帰ってきてから話そうか」
「はい! それじゃあ行ってきます!」
「――行ってらっしゃい、ラピス」
●リプレイ本文
●守る為の力――。
それにしても、と。
ラピスはせっかくのレンジョウとの話の腰を折られた上に子供のお守りまで命じられるとは思ってもみなかったらしく、激しく長い嘆息を吐いた。
「レンゲお姉さんは何を私にお願いするつもりだったのかしら‥‥気になるけど、ううん、今は任務。任務よ!」
一応気を張ってはみるものの、やはり数分後にはぐてーとしていた。
先日、メイディア−リザベ間を往復した時にはゴブリン街道が小型恐獣に占拠されていた。先の冒険者たちはそれを退けたが、もし仮に『平和』が戻ってきたとしたら、今度はいつも通りのゴブリンたちが出現するはずである。
これを平和と呼べばいいのか、平穏と呼べばいいのか、或いは日常とよべばいいのかは微妙な所ではあるのだが‥‥。
ともかく、今回はフロートシップでの往復という事でスケジュール的にもあまり厳しくないという事もあり、恐獣群がこれ以上出現していないかを調査するにはうってつけではあるのだが、極力戦闘は避けて移動せよとの事で警戒態勢を強めつつ、出来るだけ艦内は通常態勢を維持するという状況になった。
そこで子供たちを迎えに行く途中で少しルートを変更してあらかじめ怪しいポイントを潰してから迎えにいく方法を選択したのである。
二機のゴーレムグライダーに二人の鎧騎士が搭乗。そこに二人のウィザードが同伴、先行し哨戒高度を保ちつつ進行ルートの安全を確保するという事になった。
一方艦に残ったのはクライフ・デニーロ(ea2606)とグレイ・ドレイク(eb0884)、地上の警戒は主に停泊中にチャリオットを使って哨戒する。
「ゴブリン街道ですか‥‥先日は恐獣群を撃退したのですが、ゴブリンというのは本当に懲りない連中ですね」
フラガ・ラック(eb4532)はいつまでも落ち込んでなどいられない、と奮い立たせるようにしてグライダーを駆る。同乗しているのは雀尾煉淡(ec0844)だった。
「何度か遭遇していますが、やはりいつも通りというか、本当に懲りない連中です」
二人は依頼こそ違えどゴブリン街道の討伐経験者である。だからこそ、彼らが出現するポイントは手に取るようにわかる。
普通は相手に手の内がバレたら場所を変えるとか、襲撃方法を変えるとかするのが得策だと思うのだが、ゴブリンたちはそれを理解していないのかそれとも敢えてそうしているのか知れない。ともかく、大体決まった所で待ち構えているのである。
一般人にとっては本当にはた迷惑もいい所だ。
もう一機の方にはスレイン・イルーザ(eb7880)、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)が乗り込んでいる。こちらの組も実はゴブリン街道には何度かお世話になっている二人で、そういう意味では非常に今回の哨戒任務の『コツ』を知り尽くしていると言えた。
互いにベテラン、互いにグライダーでの同乗経験アリという事でそれぞれに自分達の役目を尽くす事に専念出来た。
しかし、探知系の魔法でも目視でも、比較的穏やかな風景が広がっているばかり。
「ゴブリンたちにも、聖夜祭や月霊祭などの祝い事の風習があるのかのぅ?」
アトランティスでは明確な、天界でいうクリスマスやお正月という風習こそないものの、各種イベントを各地で行うほどには別の意味でこの時期を『特別な祭』として認識しつつあった。それは確かに『クリスマス』や『お正月』ではないのだが‥‥平和を願う、恵みに感謝するという意味合いでなら、通じる所あり、といった所だろうか。
だからといって、彼らゴブリンにそんな風習があるとは聞いていない。そんな生態だったのだろうか?
それともたまたま出現しなかっただけなのだろうか。或いはやはり狙うのは隊商などの陸上での略奪行為に固執しているだけなのかも知れない。
もしかすると、すでにゴブリンたちは別の隊商護衛隊などにこてんぱんに叩きのめされていたのかも知れない。
事情はよくわからないが、とにかく、珍しく出現する気配を見せなかったのである。
「何事も平和が一番なのじゃがのぅ‥‥」
シュタールは一人そう呟くと、一方で友人たちが決死の戦いに臨む事を受け止め、その無事を願っていた。終わることの無い戦争状態からは目を逸らすことは出来ない、だからこそ、終結へ向け覚悟を決めるというのも戦いに身を投じた者たちの役目だ。
今この場所が平和でも、いつ戦火に塗れるかは誰にもわからない。
だからこそ、この平和を維持する為の力が必要だ。守る為の力だ。
「戦わないでいられるなら、その方がずっといい」
スレインもそういって、グライダーを大きく旋回させ帰艦させた。フラガたちのグライダーもすぐ後に帰艦したが、無事何事も無し、という報告に終わる。
●少年少女
リザベの病院に到着した冒険者たちは二人の身柄を引き渡されるとすぐにホワイトホースへと移動を開始する。
「僕は今回の任務に参加する事になったウィザードのクライフと言うんだ、宜しくね。君たちを少年とか少女と呼ぶんではいまいちなので名前を教えてくれると嬉しいな」
そう言って自己紹介をするクライフに二人はしっかりとした口調で答える。
「僕はガゼ、この子はテルと言います」
「テルです。これから、どこへ行くの?」
「うん。これからお船に乗ってもらって、少し落ち着いた場所でゆっくりと過ごしてもらう事になると思う」
「お船?」
今の子供たちに『船』は禁句だったか――。一瞬ぎくり、としたクライフだったが。
「心配するな、俺達に任せろ」
そう言って、グレイは笑ってみせる。その自信に満ちた笑顔が不安そうな子供たちの表情を少しだけ明るくさせた。
「助かりました、グレイさん」
「あの子たちも不安だらけなんだろう。こっちはそれを見せなければいい、それだけでも随分違うものだと思う」
「そうだね‥‥そうかも知れない」
二人は巨大な戦艦、フロートシップ『ホワイトホース』を見上げると、わあ! と声をあげた。
昇降口にはラピスが迎えにやって来ていた。
「この子たちが?」
「はい。ガゼとテルと言うそうです」
「そう、ガゼくん、テルちゃん。私がこの船の艦長、ラピスよ。君たちは私が絶対守るから、安心して乗って頂戴」
「はい!」
二人はラピスの言葉に、しっかりと答える。とはいえ、少女テルはまだ少しだけ不安げな色を残していたが。
「あんまり走り回っちゃ危ないよ。行儀よくしようね」
「はい。でもすごいです、こんな大きな船なのに、空を飛ぶなんて!」
「そうだね。君たちの国には、こういうのは無かったのかな?」
「‥‥わかりません。僕はあまりそういう事を知らなかったので‥‥お父さんは良く知っていたようですけど」
「君たちのお父さんお母さんについて、お話出来る事、あるかな」
「僕たちのお父さんお母さんはバの国の南に住んでいました。海が見える綺麗な場所です。とても温かくて、果物が甘くて美味しいんですよ。だけど、ちょっと前からお父さんとお母さんの様子がおかしくて‥‥ずっと優しかったお父さんもお母さんも急におっかなくなって、僕たちを叱ったり、ぶったりした。そんな事、絶対しなかったのに、テルにまで手を上げ始めたんだ!」
「急に?」
「そう、本当に、急に。だから、僕たちが何かお父さんたちを怒らせてしまう事をしてしまって、それで怒ってしまったんだって。だから何回も僕たちは謝ったんだけど‥‥許してもらえなくて‥‥」
「私たち、何にもしてないよ! 本当よ、お兄ちゃんも、とっても優しいからケンカもした事ないもの!」
「そう、それでお父さんたちはそれからどうなったのかな」
「ある時、お母さんが言ったんだ。あなたたちも王様に会いに行くのよって」
「‥‥王様に、会いに?」
「うん。それで船で首都まで行く事にしたんだけど‥‥途中でお母さんが、ううん、お父さんもだった。僕たちのところにやって来て、何度もごめんなさいごめんなさいって謝ってくれたの」
「それで、お前たちはここに隠れていなさいって言われて、船の下の倉庫みたいな所に連れられて‥‥それで」
「僕たちはそこで眠くなって、眠ってしまったんだ。そして、目がさめた時はあの病院の中だったんだ」
「お父さんとお母さんは、どこにいるの?」
ガゼとテルは、そう言って、それ以上はわからないという。
「どういう事かのぅ‥‥」
「急に豹変した、というのが引っかかるわね。何かに操られていたか、誰かに指示されていたか‥‥でも首都には行かずにこちらに抜けてきた所をバの国が追って来た、という訳?」
クライフが少年たちから聞いた情報を全員で検証するが、ラピスもあまり快活な答えが出てこない。
「子供達を逃がす為に。或いは――自分達が逃げる為だった可能性、とか」
エル・カルデア(eb8542)はどちらにせよ、両親がバから亡命を図った可能性は否めないだろう、と結論付ける。
「亡命、ですか? だとしたらバ国がそれを阻止する為に船を沈めようと?」
「あくまでも可能性の一部です。子供たちが何も知らないというのは、恐らく間違いないでしょうし‥‥」
「そうね。私たちが出せる結論じゃないわ。本来は亡命の要請などがその両親からあるのでしょうけど‥‥残念ながら生存者はあの子たちだけ。保護するといっても、これでは国も親も失ったも同然だもの。厳しいわよ」
「しかも、バの国の出身の子らだからね‥‥」
今まさに戦っている敵国の子供たち、というのが非常に扱いづらかった。バの国には大きな恨みも憎しみもあるメイの国民たち、だが、こんな子供を前に敵国の子供だからといってなぶり殺しにするという事までは避けなければならない。
これは国民レベルなら充分にあり得る光景であるから、だからこそ『保護』というのはそういう『部分』も含まれている事を知らなければならなかった。
●安全を確認する為の役どころ。
地上の安全を確保する為、シファ・ジェンマ(ec4322)駆るゴーレムチャリオットが疾走する。エルがそれに同乗し周辺を探り、上空は先と同じフラガ班とスレイン班で周回した。
シファは今回の依頼が初となるルーキーだが、チャリオットの扱いはそれなりだった。無理に戦闘へ突入せず、あくまでも冷静に状況を察知し、適切な処置を施す。
それさえ出来れば、決定的なミスを犯す事はない。そういう定石を守って、ルーキーなりに緊張こそしているもののエルを乗せながらの操縦もそこそこ安定した結果を見せる事になった。
「本当に静かですね。スレインさんやシュタールさんが不気味なぐらい静かだと言っていたけれど」
「確かに。上の二組も大きな動きは無いみたいですし、この調子なら無事にメイディアに到着出来そうですね。それに‥‥子供達が怯える姿は見たくありません。あの子達に戦闘を見せる訳にはいきませんからね」
「ええ、それじゃあそろそろ戻りますね」
こういう『何も無い』時は意外と拍子抜けの場合がある。だが、何も無いのが実は一番なのだ、という事も忘れてはならない。
――その安全を確かめる、という事が重要なのだ。
特に護衛任務ではそれが最も重要視される。トラブルというトラブルを根絶する事、何も起こらない、起こさせないというのが鉄則なのである。
そういう意味で、『何も無い』事を確認する仕事も、時には重きを置かれる事を忘れずにいてもらいたい所である。
●メイディア帰還
クライフの子供たちの世話は皆が驚くほど手馴れている風に見えた。子供達の懐き具合から見ても、それは確かなようだった。
本人はあまりそこまで意識していないようだったが、概ね好評だった。
「でもどうして六号なの? 番号じゃないの? 六匹目って事?」
「六号は番号だって? 格好良いと思うのだけどな‥‥そうそう、実はね、この子にはまだなまえがないんだもし良ければ名前をつけてあげてくれないかな」
そう言うと小さなボーダーコリーの仔を子供たちに見せる。
「かわいい! へえ、お名前かぁ‥‥」
「ライケス――ライケスがいい!」
テルは、何となしに浮かんだ名前を叫ぶ。意味は特にないらしいが、響きがいいからと少女は笑う。
「ライケス、か。テルが言うなら僕もそれがいいと思う、お兄さん、このこ気に入ってくれるかな?」
「そうだね、きっと気に入るとおもうよ。ありがとうね」
クライフは二人の頭を優しく撫で付けて、礼を言った。
その後ホワイトホースは無事にメイディアに到着。
ガゼとテルの二人はメイディアの病院に移され、しばらくは様子を見ることになった。
二人のこれからはまだどうなるか決まってはいないが、いずれその答えが出るだろう。それまでは――。
到着後、ラピスはゴーレム修復の様子を見にいこうとしたが、どうやら相当レンジョウの機嫌が宜しくないという事でどの程度の進展具合なのかを知る事は出来なかった。
それでも烈火のゴーレムニストと謳われる彼女の事だ、必ず今よりも素晴らしい『剣』をこの艦、ホワイトホースにもたらしてくれるだろう。
今は、じっと耐えるように待つしかない。
これからの一歩を共に歩む、その『力』たちを。
こうして、二人の子供達を保護し護衛する任務は滞りなく終了した。