シフール合唱団を守れ!

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月08日〜12月13日

リプレイ公開日:2006年12月12日

●オープニング

●アトランティスには、人間と共存する精霊種やデミヒューマンと呼ばれる者が少なからず存在する。
 エルフやドワーフ、パラなど人間と同様に暮らしている者もいれば人間とは一線を引き、交流を避けている者もいる。
 その中でも身近な存在といえば、やはりシフールは欠かせない存在であろう。
 小さき存在だが、昨今の人間たちの生活にとって必要不可欠ともいえるコミュニケーションを担う大きな存在でもある。
 本来はあまり群れる事のない彼らだが、その根っからの性格の明るさや好奇心の高さから、人間との共存を果しているシフール。
 そんな彼らが、一回限りの一大イベントを計画した!
 その名も、『シフール合唱団』!
 名前の通り、シフールのコーラス隊を編成し、舞台で皆に見てもらおうという計画だ。
 ただ、彼らは見た目通り小さく、せっかくの歌声も遠くの者には聞こえにくい‥‥。そこで登場したのが天界からの技術、拡声器だ。
 もちろんこちらの世界では構造そのものが違うためモノとしてはやや天界でのそれとは違うが、シフールのようなちいさな身体でも舞台装置(風の精霊の力を使った通信機の構造とよく似ているもの)を駆使して立派に歌えるのではないかと考えた。
 その他、バードなど楽器や歌に精通する者たちの協力を受け、遂にその一夜限りのシフールたちによるコンサートの日程が決まった。
 コンサートの日程は思ったよりも早く決定し、練習時間も多くはなかった。
 微妙に飽きっぽい性格なのか、忘れっぽいだけなのか、はたまたその性格の大らかさ故なのか、基本的に全員集まっての合同練習というのは賞味数日しかなく、その調整もなかなかうまく決まらなかったが皆楽しそうに練習をしていた。
 しかし。
 そんな中、突然彼らに対し脅迫文とも取れる内容の手紙が届いた!

『コンサートを中止しなければ、あなたがたに不幸が舞い込むでしょう』

 それから連日のように嫌がらせのような事件が多発し、シフールたちだけでなくそれを協力する人間たちにも遂に被害が及びはじめた。
 こういった事件を任され、解決出来るのは、彼しかいない。
 その名も、官憲アーケチ。
 最初の脅迫文の送付から一週間ほどだったが、日に日にその被害は大きく、重くなっていた。

 一体誰が、何故、何のために彼らの思いの詰まった計画を邪魔し、中止させようとしているのか。
 一度はコンサートの中止を検討したものの、前評判はすこぶるよく、予約分のチケットまでもがほとんど売り切れのこの状態で中止をするのはよくない事だし、もし中止したとしたら、次はないかも知れない。
 市民の期待はそれだけ高かったし、シフールたちも一度きりのイベントを楽しみにしていたのだ。その為、イベントは中止することなく進められた。
 そして、コンサートまで残り九日――そんな緊張感の中、コンサートの準備会の副会長が事故で死亡した。
 一連の脅迫、中止を暗示させるような迷惑行為、そして副会長の死。関連性があるかどうかは定かではないが、ここまで集中して不幸が訪れるのは偶然とは思えなかった。
 そしてその裏には、必ず犯人がいる。アーケチは厳重な警備を固め、シフールや人間たちを守る為に警備をしてくれる人員を冒険者ギルドに依頼する。
 様々な思いが交錯し、遂にコンサートまで残すところあと五日、一週間を切ってしまった。
 犯人の目的は。コンサートは無事に行われるのか。
 果たして。

●今回の参加者

 ea0017 クリスタル・ヤヴァ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8420 皐月 命(32歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「しふしふにだって自由に歌を唄う権利はあるよ! 絶対に犯人を捕まえるんだい!」
 今回の依頼で一番シフールの気持ちがわかる、同種族であるクリスタル・ヤヴァ(ea0017)は人一倍‥‥いや、『しふ一倍』例の脅迫文から続く嫌がらせに憤怒していた。
 特に彼女はシフールでありながら、歌を歌うバードなのだ。歌う事の楽しさや素晴らしさは、それこそ、『しふ一倍』知っているつもりだった。
 同じく、人一倍好奇心旺盛なのは、ティス・カマーラ(eb7898)だ。アーケチの担当する事件に度々協力してくれている彼は、以前アーケチの事件解決に協力したアルミラ・ラフォーレイ(eb7854)と軽く挨拶を交えると、皆でさっそく作戦を練り込みはじめる。

 クリスタル、ティスの聞き込み組。
 アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)とアルミラの警備組。
 そして、結城 梢(eb7900)と皐月 命(eb8420)の巡回組。
 以上の組み合わせでそれぞれ警護する事となった。アーケチは警備本陣を仕切っている。

 街の話題にも頻繁にのぼるほど、今回のシフール合唱団の噂は結構な広がりを見せていた。もちろん、イベントとしてのよい話題作りとしての一面もあるが、中には嫌がらせ被害などを悪いイメージにすり替えられている者もいた。
 こういった噂話は、よいイメージよりも悪いイメージの方が圧倒的に早く、そして強く広がっていく。恐らく嫌がらせ行為はこういった悪い噂を広める為に巧妙に仕組まれたものだったのではないか。
 そして決定的だったのはイベント運営準備会の副会長の死。
 死因はイベント会場裏の階段から足を滑らせて転落死だった。目撃者はいたが、階段付近には誰もいなかった事が証明されている。現場検証もされたものの、結局事故死という結論が出されたのだった。
 単なる事故死だとしても、次々と起こる妨害、嫌がらせの類は折り重なるようにして、遂には「呪われたシフール合唱団」などと口にする者まで現れてしまった。

 対して肝心のシフールたち。彼らの思いは本物だった。歌声は心を映す鏡のようなもの、透き通るような透明感のある歌声はリハーサル練習でも充分に人々の心に響いていた。
「シフールか。こんなに小さいのに、立派ね」
「うむ。しかしそれを邪魔する者がいるのも事実。折角のシフール達の晴れの舞台を台無しにしようと企む輩がいようとは許せぬな」
 アルフォンスとアルミラが見守る中、一休みしているシフールのひとりが突然悲鳴をあげた!
 差し入れなども充分調査したのち振舞われていた筈だったにも関わらず、その中のたったひとつだけまるで画鋲の針ほどの、シフール用の裁縫針が混入していた。
 非常に小さく、人間からするとちょっとしたトゲ程度だが体のちいさな彼らにしてみれば、下手をすれば致命的な外傷を負う可能性がある。二人とアーケチは目の前で起こってしまった現実に驚愕し、戦慄した。
 ――嫌がらせは、まだ続いている!

 一方、巡回中の結城と皐月たちには特に変わった様子もない日常が待ち構えていた。街は何事もないというのに、なぜシフールたちだけにこんなにも不幸が訪れるのだろうか。その街の平穏さとのギャップが今は逆に怖さを感じる。
 そんな中、ふたりの元に妙な噂が耳に入ってきた。
「それって‥‥どういう事でしょう?」
「んなアホな! いくら異世界でもそれはあらへんやろ」
 死んだはずの副会長の死体が消えてなくなった、という信じられない情報を聞きつけた二人は聞き込みを行っているティスらと合流するとそれを確認する為、遺体が収められている安置所へと向かった。
 すると、先日まで安置されていたらしい遺体は綺麗さっぱりとそこから無くなっていた。
 残されていたのは、ごく微量の――鱗粉(りんぷん)。
 チョウやガの羽の表面をおおっている鱗(うろこ)のような形をしたもので、そんなものを残せるのは、彼らしか考えられない。
 クリスタルは、それを見て絶句するしかなかった。どこかに同種の嫉妬などを疑っていた部分もあったが、シフール同士で憎しみあうなんて、考えたくもない。
 だが、人間嫌いの人間がいるように、シフールの中には同種を嫌うシフールの存在がある。
 しかし。
 なぜ遺体が消えたのだろうか? そしてなぜそこに鱗粉が付着していたのか?

 遺体の盗難はアーケチ配下の部下に任せ、その報告をしにアーケチのもとに戻った四人を待っていたのは裁縫針混入事件だった。
「安置所では遺体がなくなって、こちらでは異物混入か。警戒態勢を強化していても止められんとは、厄介だな」
 アーケチが嘆息しながら困惑の表情を浮かべる。
「犯人って、もしかして、やっぱり‥‥」
 クリスタルは今にも泣きだしそうな表情で、同族の犯行を認めざるを得ない状況に唇を噛み締める。人間では到底不可能なミニマムサイズの異物を仕込むなど、やはり文字通り人間離れしているからだ。
「単独犯じゃなく、人間と‥‥その、嫉妬したシフールの複数犯って事も考えられるよね。それにあの鱗粉だって、もしかしたら犯人がわざとシフールのせいだと思わせるように仕組んだのかも知れないし」
 ティスの好奇心からの推理力は、いくつかのアーケチの事件に触れているからこその経験も含んでいる。
 妖精類は背中に蝶の羽を持つ。だからといって、必ずしもそれらが妖精類が落としたものだという証拠は無い。エレメンタラーフェアりーのような精霊種にも似たような羽を持つものがあるからだ。

 そして、コンサート前日。決定的な証拠と犯人像が浮かばないまま、残すところ一日となってしまった。
 このまま無事に行われてくれれば何もいう事は無いだろうが、ここにきて、事件は大きく動くことになる。
 本来ならばあり得ない事が連続して起こっている今回の事件において最大の大事件が巻き起こってしまう!
 死んだはずの男が、亡霊となって今度はシフールたちに襲い掛かったのだ!

 ――というのは、後日談での噂話。
 襲い掛かってきた男の正体は、コンサート数日前に事故死したあの男だった。元々シフールたちのイベントをよく思っていなかった彼はイベント運営を協力すると表面上ではいい顔をし、頃合を見計らって事故死したように見せかけていたのだった。
 その事故の噂と内部で操作した嫌がらせの手引きでイベントをズタズタにしてやろうと思ったらしい。
 悪い冗談に聞こえるかも知れないが、このシフール嫌いの男の協力をしたのが、シフールだというのだからまるで笑えない。
 シフール嫌いの人間と、楽しそうに自由に歌を歌うシフールを目の敵にするシフール。
 奇妙な因縁で結ばれた彼らは、コンサート前日の夜、遂にアーケチたちに取り押さえられた。

 もう一人の犯人であるシフールは、ある事故で喉を潰され歌どころか、声さえも出せなくなっていた。
 その事故は、不幸にもシフール同士が起こしたものだった。それからというもの、人間不信ならぬシフール不信に陥った彼女はただでさえ恨みの深いシフールが集まって、しかも歌のイベントを催すなど許せなかったのだという。
 恨み、妬み、嫉み、憎しみ。
 人間だからとかエルフだからとか、シフールだからとか、そういう理由だけで恨まれる筋合いはない。だが、その理不尽な嫌悪から芽生えた憎悪はやがて犯罪へと徐々にエスカレートしていった。
 一人では不可能なトリックも二人なら、特に人の視界からは死角を多く取れる同族なら壊滅的なダメージを与えることが出来る。
 実際、散々警護の合間を突いて嫌がらせが多発していたのだからその不安感とストレスは相当のものとなっただろう。
 それでもシフールたちは諦めずに、歌いきった。
 その素晴らしい歌声はそれまでの悪い噂を一蹴するほどのもので、一度きりという希少性もありしばらくはその話題で持ちきりだった。

「まさか犯人が内部の、しかも責任者のひとりだったなんて。予想もしなかったです」
「あんの腹黒副会長! 事故死というのも偽装だったんやろ? イベントは無事何事もなく終わったゆうても、なんや後味の悪い終わり方やったな」
「しふしふ、すっごいショックだよ〜」
「歌えないシフールか‥‥。彼女も相当辛かったんだろうね」
「シフール嫌いって人がいるのはたまに見かけるけど、しふしふが嫌いなしふしふなんて‥‥」
 価値観の違い、それは誰にでもある事だ。だからといって、無為にそれを押し付けたり、傷つけていいという訳では、決して無い。
「コンサートは一応、無事に公演を終了した。一夜限りのシフール合唱団もこれにて解散。我々の任務も、犯人逮捕及び警護の終了を迎える事となった。今度のような、人間からの視点では見えてこない細やかな部分をシフールからの視点で応援、協力してくれたクリスタル・ヤヴァには特に感謝するよ」
「一番身近な仲間の事だもんね!」
「他の皆も本当にありがとう。今後も街の治安の為、捜査に協力してくれると助かる。私からは以上だ――それでは、解散!」