メモライズド〜夜鷹〜
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月30日〜01月04日
リプレイ公開日:2008年01月04日
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●オープニング
●最後の欠片
セルナー北海を静かに進む不審なゴーレムシップ。その甲板には黒いボディを持つゴーレムグライダーが搭載されていた。
そしてそのゴーレムシップにはスイング式のカタパルトが付いている。元々は鉄球などを遠心力を使って打ち出す、投石器のようなカタパルトだったのだが、この得意なグライダーを海から高速で射出する為に再加工を施していたのである。
この改造を施す為にかなりの時間がかかったのだろう、一度しか目撃されなかった黒い怪鳥の行方も不審なゴーレムシップもそれ以降見られていなかったのにはその為だ。
しかし、そのゴーレムシップは遂にその姿をあらわした。
通常、ゴーレムグライダーは海の上では高度をまともに保てない。ゆえに航続距離もかなり制限される、のだが、このゴーレムグライダーの構造はまるで違っていた。構造を解析したチームの証言をまとめると、やはりそれは『水上飛行艇』のそれと酷似していたからだ。
それにより、飛ぶのではなく、海の上を滑るように疾走する事が可能となり、海岸付近まで近付いたら浮力を得られるようにしてあるのである。
つまり、カタパルトで撃ち出されたグライダーはその推進力で放物線を描き海岸まで飛んでいき、墜落する事無く海の上を滑り、そのまま離陸することが可能になっていたのだ。
これが――『ブラックバード計画』の機体、黒い怪鳥の正体だった。
だが、これにはかなりの欠陥がある。
ともかく、重いのだ。フロートシップとも、ゴーレムシップとも、ゴーレムグライダーとも違う、特異なそれはまさしく異形のゴーレム兵器だった。また、重さもさることながら、その大きさもかなりのものだった。
『余計な』ボートのようなボディを持っている為、肥大化してしまったのである。
しかし逆に考えると、グライダーに搭載出来る搭載量も上がった事で、爆撃機としての機能を有するようになった。
大量にこんなものがあれば、港付近の砦はいきなり海から空からの二点同時攻撃によって一気に守勢となってしまうだろう。
当時グライダーだからといってほとんど解析もされなかったあの投げやりな調査がここに来て、とんでもない危機をセルナーに与えてしまったのである――。
だが――相手は二機。どうやって戦おうというのだろうか。
●モーリィと復活の翼
そんな中、重要参考人『夜鷹』が突然失踪した。関係者の話によると、どうもセルナー北海、ウドの海を移動する不審船と何らかの関係がある事が判明。
メイディアに緊急事態の報を告げた冒険者たちはすぐにモーリィの元にもその報告を入れる。すると彼女の見た『鎧騎士』もやはり証言どおり黒い鎧を身に付けていたという。
「仕方ない、時間が無いから、ようく聞くんだ。いいか、このまま、ラピス・ジュリエッタという鎧騎士の所に行くんだ。辺境、なんとか隊っていう隊長の女だ。アタイも直ぐに出る‥‥傷? んな事言ってられるか!! フロートシップで急行する!!」
巻きついた包帯もそのままに、モーリィは冒険者を連れ、辺境遊撃隊のもとに向かう。
「お話はわかりました、現在稼動出来るゴーレムはモナルコス一騎とグライダー、チャリオット位ですが」
「だが、相手は船だ。フロートシップで戦えるか?」
「もちろん。辺境遊撃隊を舐めないでもらいたいわね」
「グライダーの数はどれだけ出せる?」
「空戦でもするんですか‥‥出そうと思えば何とかご希望に沿えるようにはしますけど、特別なのは無理ですよ」
「相手もグライダーなんだよ、やるしかないだろう。モナルコスの方は装備換装も考慮しておいてくれ」
「ええ、弓でも槍でもなんでもいけるわ。専用じゃないからそこだけ注意してくれさえすれば」
●『シス』――『夜鷹』への思い。
夜鷹が告白した最後の欠片(ピース)。ゴーレムスコープ計画とは何なのか、本当の『シス』はそれを知っていた。
そしてそれは、ブラックバード計画とも違っていた事も。
そして。
黒い鎧騎士はその計画を知っている人間を秘密裏に抹消しようとしていた。
狙われたのは、生きていた『夜鷹』――そして、あの隠し拠点で死ぬ予定だったシスだった。二人は用済みとして戦いの最中に消される予定に組み込まれていたのだ!
シスにはこの『クレヤボヤンスド』について証言を得なければならないが、今は最後のカード、夜鷹を失った事の方が大きい。
彼を救うには、シスと、もう一人の『シス』の力が必要だった。
真実を語ってもらうしか、夜鷹を救う方法が見付からないと言っていい。本当のシスに、語ってもらうしかなかった。
モーリィとラピスは捕虜を艦に乗せ、セルナーに急行するしか無くなってしまったのだった。
相手はゴーレムシップ、そして黒いゴーレムグライダー。カタパルトで射出される前に撃沈しなければ凄まじい空中戦と対艦戦に発展する事になる。そうすれば舞台が海である以上、完全に不利なのはこちら側だ。
その為の、『シス』ともう一人の『シス』の雷撃だった。長距離射撃によるゴーレムシップへの攻撃、接近しての精霊砲での一撃離脱。
そして黒い鎧騎士を欺く為の、『シスの幻影』――。
恐らく、シスは夜鷹の行方を知っている筈だ。だからこそ、あの時、気絶させたのだ。追って来られないようにする為に。
メモライズドはそして、最終決戦(ラストバトル)へと加速していく。
●リプレイ本文
●カウントダウン
「何という事を‥‥」
急行中のホワイトホース艦内でシスはそう言って奥歯を噛み締める。『夜鷹』がもう一人の『シス』に語った最後の欠片について、ルメリア・アドミナル(ea8594)は事態を、というよりシスにとっての夜鷹を守る為の協力を願い出ていた。
すぐ傍には、片目を失った女性――モーリィ。
「もうこれ以上隠しても無駄だよ‥‥ここまで来て、ここまで聞かされてこれでお終いなんて、出来ない相談だ」
今の彼女なら、体がばらばらになってもシスをぶん殴りたい気分で一杯だったろう、だがそれでもしなかったのは、今、セルナー領海が脅かされているという事実と少なくとも自分自身が関わってきた事件を解決する糸口が彼女の目の前に存在していたからだった。
ルメリアだけでなく、イレイズ・アーレイノース(ea5934)、グレイ・ドレイク(eb0884)、エル・カルデア(eb8542)らもまた、そんなモーリィの事を意識しながら説得にあたる。この事件を少しでも早く解決する為には、当事者でもある『夜鷹』と『シス』二人の力が必要になる。そう考えたからこそ、彼らは必死に協力を求めたのである。
また雀尾煉淡(ec0844)も、もう一人の『夜鷹』として黒い鎧を借りる事で成り代わろうとしていた。
「シスさん、私は貴方として夜鷹に会った者です。夜鷹は貴方の為に全てを背負うつもりです。彼を助ける為に協力して貰え無いでしょうか」
「一人で、アレに立ち向かうというのか‥‥夜鷹‥‥何という‥‥」
そして彼との面会によって、夜鷹だけでなく本当のシスである彼女までもが『処理』される計画だった事を知らされると、遂にシスは愕然とし、そして、全員の気持ちは繋がった。
――夜鷹を救出し、黒いゴーレムグライダー『ブラックバード』を叩く、と。
「私は貴方の事を受け入れますわ‥‥協力して、いただけますね」
「あくまで、夜鷹の為だ。お前達の為ではない‥‥」
ここまで、悪夢のような最悪の事態を引き起こしていた犯人でもあるシス。本来ならば重大事件の実行犯として処罰されるべき彼女だったが、事件の真相を供述すれば無罪とはいかないまでも処刑までは免れるかも知れない。それだけの事を行っていたのだから。
だからこそ、聞き出す必要があった。
そう。
――ゴーレムスコープ『クレヤボヤンスド』計画の全貌を。
その前に、夜鷹の居場所を聞き出さねばならないか。
「夜鷹の行く場所、か。恐らく、あそこしか無いだろうな。セルナーの北東にある断崖絶壁だ、そこは海からの風が強く吹き上がる場所でな‥‥あいつのお気に入りの場所でもあり、あの黒いのが飛び立つには絶好の離陸地点なのさ」
「そんな場所で、激突や座礁などの危険性はないの?」
「言ったろう、吹き上がるのさ。強い、強い風がな‥‥」
「つまり、ゴーレムグライダーの離陸地点に彼は向かったと。でも、なぜ一人で」
「お前たちは我々が組織の裏切り者か何かだと思っているようだが、逆だ。あの二人が黒いゴーレムグライダーを奪取したんだよ‥‥だから、あの日夜鷹は撃ち落された‥‥殺されたと思っていたんだ。私はその復讐の時を狙っていた。あの二人が、再びあの黒いのに乗って飛び出す所を今度は私が狙い撃ちしてやろうとね! 夜鷹はそれを思い出したんだろう、一人で解決しようとしているんだ」
立場が違えば主観も当然変わる。今まで事件を追っていたモーリィや冒険者たちは、自分達が一方的な視点で事件を追っていた事を、思い知らされた。
夜鷹とシスが殺される予定になっていたのは、事件を知っているという事だけでなく、そもそも黒い鎧騎士たちが裏切ったからだという。裏切るといっても、それでは彼ら黒い鎧騎士はこちらに味方するつもりなのだろうか。いや、そうではないのだろう。
やはり大きな謎はもう一つの計画に全て隠されているのかも知れない。
●出撃準備
今回はゴーレムグライダーとチャリオットを使っての奇襲戦法を展開する。
遠距離からの狙撃としてシス、そしてもう一人の『シス』ルメリアが超越ライトニングサンダーボルトで黒いゴーレムグライダーに撃ち込む。
空からはグライダーを駆るエルシード・カペアドール(eb4395)がエルを乗せ、グラビティーキャノン、ローリンググラビティーなどで機能を麻痺させる。更にシファ・ジェンマ(ec4322)がチャリオットを使ってイレイズとグレイを同乗させ、先行してダメージを与えたゴーレムシップに強襲揚陸。
反対側面からフロートシップのバリスタと、その場に応じて精霊砲の援護射撃――。
いつもよりも念入りなミーティングで、そこに捕虜であり協力者がいるというのは妙な気分ではあったが、ついでに官憲まで見守っているのだから更にいつもとは違う気合の入り方だった。
どれだけ上手くいくかはわからない。だが、ここまで来たらやるしかない。
少なくとも、今、黒い怪鳥と黒騎士たちを止められるのは、白馬隊と冒険者たちだけなのだから。
シスの言う、セルナー北東の断崖絶壁に辿り着いたホワイトホースは、だが、夜鷹の姿を見つける事が出来ずにいた。
「本当にここであっているんだろうな?」
グレイたちはシスの情報が間違っているか、或いは夜鷹は別の場所か、或いはゴーレムシップが予想より早く到着し、別の場所に移動したのではと疑問を抱く。しかし、シスはここでいい、と言った。
断崖絶壁のやや手前に、一段二段ほど下がった場所に段差があり、そこから海面を見下ろせる自然の物見があった。シスと冒険者たちはそこに入っていく。
「夜鷹は故郷よりもこの先から見える海が好きだと言った。風は強く涼しいが、それが心地よいのだと言った。だから、私もここが好きだ――夜鷹」
シスが言い終わるのと同じタイミングで、冒険者たちは逆光で表情の読めない人影を見つける。
「何故、ここに来た。お前が来ればお前も巻き添えになってしまうんだぞ」
「構わないさ‥‥全てを投げうってここに来たんだ。まさかニセモノに伝言を頼むとは思わなかったが‥‥」
「ああ、彼女か‥‥君に良く似た女性だった。冒険者と言ったか、どうやら私のニセモノまでいるとは随分面白いものだな」
自然の物見で出会ったのは、本当の夜鷹と、本当のシスだった。
「似ているだと、まったく、お前という奴は‥‥私とこの女を似ているだと‥‥」
実際には仮面を脱ぎ捨てれば似ているとは言い切れないルメリアだったが、よくここまで徹底して似せたものである。それもまたシスが特徴的な格好をしていたからで、記号化した特長で雰囲気をつくりだしていたのだ。
だが、夜鷹はもう一人の『シス』をしっかりと見抜いた上で一人ここにやって来たのだった。いくら何でも部外者である人間を巻き込む訳にはいかなかったからだ。
しかし部外者というよりも、ルメリアだけでなく全員がメイの国の危機に立ち上がった冒険者たちだ。これまでの関係依頼に関わってきたからには最後まで付き合いたいという気持ちもあった。だから危険だとしても、こうして関わろうとして来た。
「あなたたちの犯した罪は重い。しかしそれ以上の危機が迫っているとあれば、我々はそれを止める責任がある」
もう一人の『夜鷹』として姿を現した雀尾に、本人も少し驚いていたが、シスも夜鷹も互いにルメリアと雀尾の姿をどことなく雰囲気が似ている事を否定出来ないでいた。
「時間が無い、シス。お前は冒険者の皆と共にここから離れろ」
「そういう訳にはいかない。お前を死なせる訳にはいかないのだ」
「シス‥‥お前は本当に頑固だな」
「お前こそ。だが、話は後にでもゆっくりしよう、私とて、目的はお前と一緒なんだ‥‥お前が生きていたとしても、あの二人を生かしておく訳にはいかない‥‥」
この戦いで死ぬかも知れない覚悟が二人にはあった。それでも成し遂げなければならない理由があった。
冒険者たちは、遂に本当の意味での最後の欠片(ピース)を入手した――。
●――最終決戦
夜鷹の言った通り、本当に時間が無かった。
間もなくゴーレムグライダーを乗せたゴーレムシップがここに到達し、ここからゴーレムグライダーを出撃させるらしい。夜鷹はそのタイミングを見計らって病院から持ち出してきたカーテンを継ぎ合わせて即席で作ったパラシュートのようなもので降下、単騎突撃して黒い鎧騎士を殺すつもりだった。
一見無謀にも見えるこの作戦、この吹き上がる強力な風がなければ不可能だったがこの場所を知り尽くした彼が墜落の危険性を度外視したからこその最終決戦だった。何も技能がなければ、間違いなく墜落していただろう。
そんな事をシスも冒険者も許す筈がなく、そして冒険者たち、そしてシスの説得によってホワイトホースでの作戦に協力して欲しいと願い出る。
本当のシスともう一人の『シス』がまるで双子みたいに同時に、頼む、と頭を下げたのが決定打となり夜鷹はそしてホワイトホースでの対ゴーレムシップ戦に協力する事を約束する。
彼のゴーレムシップやゴーレムグライダーについての情報は奇襲する側である白馬隊には非常に有益となった。また、こちらのフロートシップやグライダーも吹き上がる風を掴めば攻めるにも有効である事を知る。チャリオットはさすがに断崖絶壁からだと墜落の危険があるので先手を打ってからの揚陸が必要となるだろう。
そして――。
遂に最終決戦が幕を開ける!
夜鷹の抵抗を意識はしていただろうが、まさかシスまで死に損ないだとは思わなかった黒騎士たちはいよいよ出撃の時を迎えてゴーレムグライダーをカタパルトに固定していた。スイング式なので船体から張り出す形になるが、彼らにとっても非常にいい風が吹いていた。
だが、最後に笑うのは――どちらだろうか。
最初にそれが疾走(はし)ったのは、二本の豪雷だった。物見からの狙撃はそこが海面である事が更に凄まじい効果をもたらした!
「まさか私と同じ技を持つ人間がいるとはな」
「正確には、人間ではありませんけれどね。ふふ」
「――なる、道理で‥‥」
ルメリアの耳を見たシスは僅かに笑みを洩らしながら、第二射の用意を構える。
突き刺すように狙い撃たれたゴーレムシップはカタパルトに固定された側のゴーレムグライダーにも充分過ぎるほどのダメージを受け、そしてそれが覚えある雷撃である事を悟らせた。
だが、二本の雷光とはどういう事なのだろうか。シスと同じかそれ以上の能力を持つ者が存在するとでもいうのだろうか? それとも――。だが、それを考える暇を相手は与えてくれそうもなかった。
鎧騎士はカタパルト側のグライダーを破棄する事を決定すると、もう一機のグライダーに搭乗しようと作戦を即座に切り替えた。
そのタイミングで、遂にホワイトホースが絶壁から海面に向けてダイヴするように突撃した!
「くっ‥‥こんなのはじめてよ! 無茶ばっかりさせるんだからッ!」
「つべこべ言うな! ここでやらなきゃ潰されるぞ!」
ラピスは悲鳴にも似た叫び声をあげる。傷だらけのモーリィの方が気合が入っているのが不思議な光景である。
強烈な風が巨大な船体に巻き上がるように吹き上がり、それが『墜落』をかろうじて免れていたのが奇跡とも言えた。ほぼ全開状態のホバリングでも『落ちて』いるのが、ラピスら船乗りにとってはある意味で恐怖にも等しかった。
「着水したら浮上は難しいから、このままグライダーとチャリオットはゴーレムシップ上空で交差する瞬間に降下開始! 一発勝負よ! 高度、保てーッ!!」
ラピスの合図で、エルシード班とシファ班が飛び出していく! ゴーレムシップの真上をすれすれで滑空したホワイトホースから二機が射出され、最優先目標であるゴーレムグライダーめがけて突っ込んでいった!
ホワイトホースは一瞬海面にバウンドする形で船底をタッチさせるが徐々に精霊力のバランス慣れしたのか、何とか水面でも浮いていられる程度には安定させる。しかしこの状態で砲撃は厳しい、そうなれば巨大な標的となる白馬を守護するのは雀尾のホーリーフィールドだ。船首を正面に持っていく事で受けるダメージを最小限の面積におさえ、巨大な聖域で更に防御範囲をカバーする方向だった。
そして船首を正面に持っていく、という事は、そのままバリスタと精霊砲の射撃体勢に入れるという事を意味する!
エルシードのグライダーからはそのまま一気にローリンググラビティーで怪鳥を浮上させた。だが、次の瞬間、機体はそのまま海面に落下させた。搭乗者のない怪鳥は先の雷撃でボディに亀裂が入っており、怪鳥は無残にも沈み始めた――。
もう一機の離陸を止めたのはチャリオット班だった。甲板に揚陸したイレイズとグレイはその『一発勝負』を決められる実力を持ち合わせていた。
ブラックバードを確認すると、二人は何よりも先にそちらに移動し、渾身の一撃を容赦なくぶち込む!
船上の混乱で搭乗する事が出来なかった黒い鎧騎士は、深い傷を刻まれた黒い鎧の男を見やると、不敵な笑みを見せた。
「我らの悲願を、貴様はまだ理解出来ぬようだな!」
「全て――終わらせてみせる」
本当の夜鷹が、雀尾から預かった――元々は自身のものだが――鎧を纏い、乗り込んだのである。
安定したホワイトホースはそうして充分に狙いを定めると、精霊砲を一撃、繰り出した。その一撃は直撃させるのではなく、ゴーレムシップを波で大きく体勢を崩そうとした一撃だったが、これにはシファが提案した水柱と飛沫、さらに水蒸気による煙幕効果もあったのだ。
それが結果的に勝利をもぎ取る決定打となった。
夜鷹は鎧騎士の一人を切り伏せ、グレイがもう一人を吹き飛ばし海へ突き落としたのである。しかも、精霊砲の着弾ショックによってもう一機のグライダーはバランスを崩し、海に落ちた鎧騎士に覆い被さるように落ち、それに巻き込まれた男は、もろとも海の藻屑となって海の底に沈んでいった‥‥‥‥。
●潰えた計画。
こうしてブラックバード計画の全ては三機の試作機消滅によって実質的に潰えた。
メイの国を脅かす新たなゴーレム兵器の脅威は、去った。
だが、その一部に加担し、或いは実行犯としての夜鷹とシスは生き残ってしまう。本来なら、自分達で全て解決し、そのまま自決しようと考えていたらしい事が二人のその後の証言で明らかとなる。
だが、それをメイの国は許さなかった。
まだ、残されているのだ。最後の欠片が。
それを知る唯一の重要参考人として、二人は再びメイディアへと連行される事となった。
記憶を巡る旅――メモライズドはそして、遂に終局を迎えようとしていた。