ウタウタイの書
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月16日〜01月21日
リプレイ公開日:2008年01月18日
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●オープニング
●ひと時の休息
村に恐獣群が迫り、それを撃退した事でようやく村に平和が戻った。
それから間もなく月霊祭などの余興でユニウスが演奏会に出席したりなどしてそれなりに多忙な日々が続いていた。
そんな何気ない日常に戻りつつあるウタウタイの前に、しかし。
どうしても解決しておきたい問題があった。
先日倒した恐獣の骨や角や牙などを材料として、冒険者曰く『ダイナソアスレイヤー』は作れないものか? という相談事に対する知識や技術などを学ぶ為、王都メイディアへと足を運ぶことになったユニウス。
長く付き合いのあるとある魔女にその事を相談すると、興味があるので連れてゆけ、という事となり――二人でメイディアの王宮図書室や魔術師ギルドへと調べ物の旅をする事になった。
今回はその調べものをより様々な角度から追求する為、資料などを読み書き出来る者の協力を冒険者ギルドに依頼をした、という訳である。
必要なのは文字の読み書き、言語は対応する図書により様々なので幅広い人材を求めているらしい。
魔術書などにも関わる事もあり、読み書きだけでなくそれ相応の知識がある者もこの協力者にあてはまるだろう。
魔術記号やルーン文字などの『魔力注入』や『エンチャント』などの分野にそれらしいヒントは隠されているのだろうが、実際にどんな事をすれば弓としての『スレイヤー』能力を付与する通称『ダイナソアスレイヤー』が完成するのか今のユニウスにはまるで見当もつかない。
今まで武器として弓を見ておらず、楽器の延長として見てきたユニウスがはじめて興味を持った分野である為、日進月歩の研究過程にはなると思われるがそれでも多くの協力があれば答えに辿り着けるかも知れない。
そう彼は信じているようである。
●楽器作りは少しお休み
メイの国に来てから積極的に楽器の復元などに努めてきた彼だが、今回は少しその楽器から離れ、弓。しかも武器として、魔力の込められたアイテムとしての『それ』に取り組もうとしている。
ちなみに先日まで取り組んでいたメイ式コンガとボンゴはセットで完成を向かえたとの事。
しかも表皮は先日倒した恐獣の皮を薄くなめしたものらしく、別名恐獣コンガ、恐獣ボンゴなどと言われているらしい。
これを打ち鳴らすと恐獣が逃げたり逆に誘い込まれたりする――という訳ではないのだが、中々に興味深い材料で作られたとあって、村の中でも評判だという。
「そうだね、こういう楽器が魔法で『何かの力』になるかも知れないのはこれまでも不思議な能力を持つ楽器を見てきて、向こうの世界では実現する事が出来ない特別なものとして意識はしているんだ。僕の復元してきた楽器たちも、元々はそういう精霊の力に導かれて生まれたものだったと考えると、益々興味深い事だね」
ユニはそう言って、笑う。
だが、彼はいわゆる『エンチャンター』ではない。そういう意味からすると本来の意味での『スレイヤー』能力を持つ武器――今回は弓の製作だが――を彼一人で作り上げる事は困難かも知れない。
それでも、確かめたかったのだ。
もしダメだとしたら、なぜダメなのか。何が必要で、何が足らないのか。
そういうヒントを探す旅、という訳である。
果たして、『ダイナソアスレイヤー』への答えを彼は見つける事が出来るのだろうか?
ユニウスの新たなる試みが、今、始まる――。
●リプレイ本文
●知る事の大切さ。
「おや、魔女さんはまだこちらに来ていないのかな‥‥」
メイディアで待ち合わせていたユニウスだったが、ちょうどその頃別の依頼で魔女は別の場所にいた。
といっても、どうせあの気まぐれな魔女の事、いつの間にかしれっとした顔で資料を読み込んで彼に伝えに来るような気もしていた。
だから、ある意味いつもの光景であった。
ユニも魔女から何か頼まれた時は期日までにどうにかしてきたし、魔女も同じようにスケジュールどおりに事を運んでくれる。
ビジネス、という訳でもないのだが、そういう妙な接点から生まれた不思議なパートナーシップが二人を支えていたのである。
そんな中、ユニの前に集合したのはレフェツィア・セヴェナ(ea0356)、イェーガー・ラタイン(ea6382)、グレナム・ファルゲン(eb4322)、エル・カルデア(eb8542)の四人。
忙しいスケジュールの合間をぬった形での参加となった。
特にレフェツィアやエルといった魔法職には特に興味深く、調べものという『作業』ごとにも苦にならないタイプだった。
イェーガーやグレナムは逆に、実際のスレイヤー能力を付与された武具やいわゆる魔法武器を持ち寄る事で資料集めのヒントにならないかと集まってくれていた。
またこれまでの依頼などで得た精霊やモンスターなどの知識や、書物などの読解力、魔法武器などに関する特性などなど様々な方向から彼をサポートしていきたいと協力を申し出てくれた。
「それにしても、ユニウスさんは本当にすごいなって思うよ。こうしよう、って思って実行するのは本当に大変なことだから」
レフェツィアは感心したようにうんうんと肯きながら笑う。
「僕に出来ることなら何でもするから遠慮なく言ってね」
「ダイナソアスレイヤー‥‥これは、モンスター研究家の私の出番ですかな」
きらーん、と目の輝きを放っているようにも見えるエルも、特にこれまで依頼で出会ってきた恐獣らに対しての生態や個体ごと、種族ごとの特性などを含めて恐獣全般の知識などをあらためて纏め、整理した情報をユニウスに託す。
後々の事もあるので、現状の持てる知識を書き記すことにしたのである。
こうする事によって、普段は口伝で受け継がれる『情報』を出来るだけそのままの形で残し、伝える事になる。口伝が多いのはこの世界に紙とペンという『武器』が一般的では無いからで、無い事もないのだが、紙、インク、ペンなどそれぞれがまだまだ高価で、一般の人々には普及していない事が原因である。
またその為、話し言葉――言語は一般的に普及しているものの、その実、『読み書き』となると途端にその理解人口が激減する。これもまたそんな紙とペンの未発達が原因と見られている。
逆に話し言葉が普及している原因はアトランティスという地の不思議な力が主な理由とされている。
多種族間であっても、また、天界などの異国からやってきても、『言葉』が通じるのである。これはもう、天界人としては信じられない奇跡にも等しかっただろう。
天界人、特に地球の日本などでは、ほとんどの者は住んでいる地域の言語を主要言語としており、いわゆる第二言語の勉強などは形だけはしている事はあっても現地人とのネイティヴな会話、文字のやり取りなどではほとんど通用しない。
そんな状態にも関わらず、会話だけは成立するのである。だから、そんな状態なので会話で通用すれば大体の事はそれで済んでしまうのだ。だから、文字の読み書きはほとんど必要ない事になる。
●仮説、諸説、さまざま。
そんなこんなで皆で頭を悩ませ、うんうんと頭をひねりながら、様々な方向からのアプローチを展開していく。
そんな中。
「あれ‥‥? あの方は‥‥」
ふっと頭をあげて、図書館の入り口側に目をやってからイェーガーは、見かけた事のある人影を目で追っていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。さっきそこにフィルさんが」
レフェツィアの問いに答えたイェーガーに、ユニがふと顔を上げて聞き返す。
「フィル‥‥? フィル・シャーノンの事かい?」
「え、ええ。そうです。でもどうして‥‥」
フィルはそして、図書館の職員に何か色々とジェスチャーを踏まえて何かを問い掛けている様子だ。
「どうやら、何か困りごとのようだね」
ユニウスがそう言ったのには理由があった。ひとしきり聞き終わったのかフィルは誰が見ても一目でわかるくらい落胆しうな垂れていたのだから。その後、すぐに職員はなぜか――ユニウスと冒険者たちの方に手を差し伸べるような仕草をして見せたのである。
するとフィルはぱあっと明るい表情に戻って元気よく冒険者たちのテーブルにやって来た。もちろん途中で館内では走らないで下さいと注意されているのはこちらにも聞こえていた。
「ねえ、あんたたち。魔法武器の事について、調べているんだって?」
「は、はあ‥‥正確にはスレイヤー能力などについての関連文献などを‥‥」
「そりゃ良かった。あたいも仲間に加えておくれよ」
唐突すぎる闘技場の華、フィル・シャーノンに声をかけられて、全員はあたまをかしげていた。
「どういう事なんです?」
「いやあ、実はさ――」
●魔法効果
「最近、という訳でもないんだけどね。対戦相手には魔法や弓を使う、いわゆる遠距離タイプもいるんだ。あたいは槍っていう武器と速度っていう二つの武器で立ち向かうんだけどどうしてもね、対処が難しい事もあるんだ。それで、どうやら剣や槍にも魔法がかかった武器があるってのを前に聞いていたんだけど、そういうのを使って対抗出来ないかなと考えてた」
「魔法武器に対して、魔法武器で対抗するという訳ですか」
「言ってしまえばそんなところかな。中には恐ろしく威力のでかい武器もあるっていうじゃないか。他にも見た目とは比べ物にならないほど軽くて扱いやすいものまであるって。そういう槍があるってのは、やっぱ興味あるじゃないか」
フィルの言い分はもっともだ、とグレナムやイェーガーも深く肯く。
「それに、実はこの間、愛用の槍が遂に駄目になってさ。槍を新調しようとしていたところなんだ。せっかくだから、あんたたちがつくるっていう魔法武器で槍も作れないかなって」
「僕たちが作ろうとしているのは弓ですよ。しかも恐獣に対してスレイヤー能力を持つ、ダイナソアスレイヤー」
「恐獣って、あの。だったらなおさら面白い。どうせならゴーレムスレイヤーとか作ってみればいいのに」
「ゴーレムスレイヤーって何!?」
思わず突っ込むレフェツィア。どうやらフィルは興味はあっても、まだスレイヤーと名のつくものの本質を知らないようである。
だが、本当の意味で『本質』を冒険者たちが知り得ているかというと、それもまた疑問であった。
何気ないフィルの一言で、もう一度スレイヤーに対しての考えを再検討する冒険者たち。
「じゃあ、頼むね」
「え、な、何をですか!?」
「いや、だから、槍、槍。頼むね」
「いや、ですから僕たちは弓を‥‥」
「完成したら取りに行くから!」
「問答無用ですね‥‥」
全員が呆気に取られていると、フィルは最後にこういい残して去っていった。
――完成したら、三倍丼をおごるよ、と。
「‥‥なに、さんばいどんって‥‥」
思わず聞いただけでよだれが出そうな名前だが、まるで想像もつかない三倍丼。
一体何が三倍なのか。量が三倍なのだろうか。
「しかし、ゴーレムスレイヤーとは、あのフィルさんって人はなかなか想像力のある人だったね」
「アニマルスレイヤーはモンスター分類アニマルに対して、アンデッドはアンデッドに対して、デビルはもちろんデビルに対して。インセクトはインセクトに対してのみスレイヤー能力を得るそうです。という事はゴーレムに対しても分類上カテゴリー分けされてさえいれば‥‥或いは」
「今回僕たちが目指しているダイナソアスレイヤーの本質が恐獣にあるように、モンスター分類としてゴーレムというのが確定していればいい、という訳か」
ちなみに、パイロットの登場していない『騎体』としてのゴーレムは無人だが魔法アイテム扱い。考え方によっては無人のゴーレムはアンデッド扱いに非常に近いものをもっている可能性は高いが――果たして。
「とはいえ、問題なのは内部で搭乗者が操縦していることだ。その時点でこのカテゴリが本当に適切なのか疑問だな」
と、そこで少し本題が逸れてしまった事に反省すると、ユニは再びテーブルに積まれた文献を紐解く。
●一人では不可能!?
「様々なスレイヤーが有りますが、モンスターの弱点は様々なのに対して、熊でも鼠でも、アニマルスレイヤーは同じアニマルとして効果を発揮する事から、スレイヤーの概念は、モンスターの魂に直接打撃を叩き込み、その結果肉体の傷が広がるのでは」
そんな仮説を打ち立てたのはエルだった。
ただし魂を奪う、という魔法というか『まじない』全般における等価交換の法則とは違い、ストーン等の、対象の存在を変質させる状態変化魔法に近いのではと仮説を立てた。
対象を必滅する特殊な概念を魔法に注ぎ込んだ呪詛感染の様な類なのでは、と。
それに近い答えに辿り着いたのは、グレナム。
「弓等では、其処から放たれる矢に対しても、魔法の影響下としてスレイヤーの効果が加えられる事から、スレイヤーとは、対象を呪い、傷を広める呪詛の様な物と考えている」
特定の分類にのみかけられる魔法による呪詛。カーシングの類なのでは、という仮説だ。
「そういえば、分類上で分けられると言っていたね。そうなると、サイズの違いや種族の特性、地上だけでなく翼竜のような空を飛ぶ恐獣にも同じ威力を与える事が出来る訳だ。つまり、恐獣の共通する部分――『恐獣』という部分がダイナソアスレイヤーに必要なのか」
それを知るには、やはり『本質』を探らなくてはならないようである。
「待たせたな」
そうして数日の間徹底的に資料を読み耽っているうちに、フィルとは違う声が冒険者らの背後から聞こえてきた。
「あ、あなたは」
「どうだ、進んでいるか」
声の主は魔女だった。長い事件の一つを決した、その場に彼女は立ち会っていたという。
「まだ、なかなか‥‥」
「ふむ。だったら少し面白い話を聞かせてやろう。魔法言語というのは知っているか――」
魔法は魔法言語に代表されるように『呪文』の詠唱が重要なファクターとなる。もちろん発現するには媒体も必要不可欠だが、呪文の詠唱が重要なのは間違い無い。でなければ、高速詠唱などというものが生まれ、発展する筈が無い。
ただし、魔法ではスクロールと呼ばれる魔法書の存在がある。これは魔法を使うものにとっては非常に重要なもののひとつに数えられる。そして、それが魔法武器にも通じる『文字の魔力』という接点に繋がっていくのである。
文字の中には、文字そのものに魔法的意味合いを持つものがある。
代表されるのは『ルーン文字』、そして『梵語(梵字)』の二つだ。これは文字の形やその意味が既に『魔法』として形成されているらしい。
その為、魔力を含んだ『呪文』と共にルーン文字を掘り込まれた剣には、文字による魔力が練りこまれ、魔法武器が完成する――とされている。
この作業をする為にはルーン文字に精通した刀鍛冶が何日も火を通し打ちつけながら文字を刻み込む特殊な作業と日数を要するのだそうだ。この時、鍛冶が付与などの呪文を詠唱していたのかどうかは文献には記されていない。
しかし、同じ作業で『スレイヤー武器』が完成する訳では無い。これはあくまでも魔法武器の製造方法のひとつであり、こうして実際に作られた事があるらしいが、この作業の過酷さゆえに――少なくとも絶対に量産出来ない、という事だけは理解出来るだろうか。
そういう意味では体系こそ違えど、一種の魔法的アプローチを含むスレイヤーに対しても、やはりそう簡単に量産が出来ないという前提で、奇跡の一本を生み出す必要があるのかも知れない。
「お前の助けになればいいがな」
「なるほど‥‥造り手にも知識とそれを同時にこなす卓越した技術が必要なのですね」
「すべて同じ行程とは限らない。だが、少なくとも、魔法に関連している事だけは明らかだな。そして、永続的な付与魔法に近いものなのではないか」
「永続的な‥‥ですか。魔法によるトラップなどにも使われますね、永続魔法というのは」
エルたちの呪術的な解釈とは少し違い、あくまでも付与魔法の延長なのではという仮説の魔女。そしてそこには永続魔法的なアプローチも絡んで来るのでは、というのだ。
「そして、やはりそのスレイヤーとやらはどうも分類学上のモンスターに対する知識全般がとにかく必要になってくる、という訳だ」
魔女もイェーガーの持ち込んだ各種スレイヤーを触りながら、ふむふむ、と興味津々の表情で肯いていた。
「そうか、デビルやアンデッドに対して神聖魔法が強い効果を与えるのって、神聖魔法だから、奇跡だからという訳ではなくてその中にデビルやアンデッド等に対しての『教え』があって、それが相まって高い浄化効果を与えるのかも‥‥」
「その教えというのが、分類学上でカテゴリ分けされ、魔法などで判別が出来るのなら、確かにそういう考えもあるな」
レフェツィアも、知らず知らずのうちに神聖魔法の『教え』の中に相反する『邪悪な者』としてそれらはモンスター知識として組み込まれていたのではと、ふと、気付かされた。
もちろん、これはスレイヤー能力という観点からみた魔女の考え方、感性からの感想であり、実際にそういう意味で邪悪なる存在が神聖魔法の教えに組み込まれているのかどうかは不明である。
●もう一度、原点へ
こうして冒険者たちの協力によって様々な方向からの可能性、知識や製作課程などを含んだ実現へ向けた資料集めは一旦終了した。
ユニウスは魔女と共に一度村に戻り、弓作りにあたり材料の見直しから魔法付与に耐え得るものなのかどうかと言った実作業にまで迫って再度研究を続ける方向だという。
今すぐに完成させる事は難しくとも、必ず道はあると信じて――。
ユニウスはこれからの事を考えながら、冒険者たちの協力に深々と礼をすると、必要資料などを書き写して、鞄や馬車にたんと積めて持ち帰って行った。
「ダイナソアスレイヤー、か。もし実現すれば、メイを救う力になるかも知れないな」
気温が低下するこの時期、恐獣の猛威は影を潜めつつある。だが、また月日が経過し、春や夏が来れば、また狂暴な牙がメイを脅かすに違いない。
そんな脅威からメイを救う一筋の希望の光を、今はその小さな可能性を信じて冒険者は見送るしか無かった。
ユニウスもきっと諦めてはいないはずである。
彼の探究心と行動力は絶対に『何か』を起こしてくれるだろう。
冒険者たちは、それを信じたかった――。