新たなる希望――辺境遊撃隊

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2008年01月19日

●オープニング

●辺境遊撃隊、新たなる旅立ち
 レンジョウが先日モナルコスを修理に来た時にラピスに言いそびれていた事があった。
 話す時間があまり無く、しかも立て続けに協力依頼を出されて出撃しなければならなかった為だ。
 もちろん、ラピスら辺境遊撃隊にとっては急な作戦でも出撃出来るという利点があったし、これだけの装備を持ちながらある程度自由がきく部隊など早々いる訳もないので、非常に頼れる部隊であるのは間違い無い。
 そんなこんなで久々の再会というのにほとんど会話らしい会話をしていない二人。
 モナルコスの修理の方は着々と進んでおり、復帰の目処もついてきたらしい。ラピスの方もしばらく連続の作戦でホワイトホースの整備も必要だった為、ようやく数日の休暇が舞い込んできた。
 そんな中、レンジョウは作業をそこそこに切り上げ、ラピスの元に向かっていた。

 一方その頃――。
「本当に、それでいいのか? 我が眼で真実を見定めて来い、と‥‥」
「はい、レイネお姉さま――いえ、レイネ。あなたには私の代わりに世界を、これからの出来事をあなた自身の目で見てきて欲しいのです」
「しかしフェイエス‥‥様」
「どうか、お願いします。レイネお姉さまにしか、こんな事、頼むことが出来ない私をお許しください」
「フェイエス‥‥ふむ‥‥旅、か――」
 竜の巫女、フェイエスはそう言ってナーガ族のシンボルとしてレイネに自由の身を与え、レイネに対し『見聞役』として世界を旅せよという命令を下した。
 フェイエスの護衛役であり、姉代わりだったレイネはこうしてフェイエスの元を離れ、メイの国を巡る旅を通して世界の動向を自分の目で確かめる事を決意する。
 実は、これには裏事情がある。
 一時は平穏な時を取り戻したナーガたちだったが、フェイエスは『まじない』なのか『予言』なのか――不吉な時代――が到来するとレイネに語った。
 その不安を拭い去りたい少女はレイネに自分の代わりに旅をさせようとしたのである。
 果たしてレイネはその『願い』を聞き入れ、単身旅に出る事を決めた、という訳だ。
「ふむ。さしあたって――どうするか‥‥」
 フェイエスや村長らに見送られてレイネは再び村を離れると、うむ、と深く肯いてからとある場所へと向かっていった。

「それで、この間私にお話があったとか、何とか。一体何だったんです?」
「あ? お? おお、そうそう。そうだった。ラピスが忙しそうだったんで後で話そうと思っていたらすっかり忘れていた」
「‥‥レンゲお姉さん‥‥」
「悪い悪い。実はな、この件はまだ決定した訳じゃないんだが‥‥」
 どうやらレンジョウの話をまとめると、こういう事らしい。

●ウッドゴーレム再開発企画(プラン)
 あくまでも計画が動き出す手前の、企画段階の状態なのだが、実は先日まで『中止』されてきたウッドゴーレムの開発が再開されるらしい。その再開発の目処が立ったこの段階で、ゴーレムニストであるレンジョウはその開発計画に一つのプランをねじ込んでしまおうという考えがあるらしいのだ。
 現時点では実はほとんど内容は決まっていない。
 というのも、実はメイの国でのウッドゴーレムの開発中止は、『悪夢』のような事故が重なって引き起こされた――生体ゴーレムの危険性ばかりが先行してしまった結果だった。
 それから開発規模は一気に縮小、後に開発の中止に至った。

 現場のゴーレムニストだったレンジョウはその決定事項に頭をかしげていた。
 ウッドは確かに『未知数』だが、実に『奥』が深く、『懐』が深いゴーレムだ。それだけに彼女はウッドの開発そのものに賛同していたのだ。しかしガヴィッドウッドという『素材』を扱ったが為に一気に中止に追い込まれてしまった。
 ウッドゴーレムに可能性を見出していた矢先の出来事だった。
 だからこそ、彼女はこの再開発計画に乗る形で、新型のウッドゴーレムの企画(プラン)を形にしようと考えたのである。

「でも、何も決まっていないって‥‥」
「言っただろう、ウッドゴーレムにはまだまだ未知数な部分が多い。可能性に満ち溢れているんだ。元テストパイロットのお前なら理解出来るだろう?」
「それは理解出来ますけど。で、私は何をすればいいんですか?」
「ああ、それで頼みたい事は、これからの新型ウッドゴーレムに適した『素材』の検討を先ずやろうと思ってる。メイの国には様々な木々が生息しているのは空から見てもわかるだろう? 山には山の、森には森の違う顔を持つそれらを、ゴーレムに適した素材なのか、量産されるにあたって充分な数を揃えられるか、またそれらの運搬、調達に至るまでのトータルな部分を考慮していく」
「思ったより地味ですね」
「おいおい。ゴーレムニストはそんな花形商売じゃないぞ。まあ、それらのデータを収集して、王宮と工房に提案するって訳さ。それで許可が出れば、試作機を作って、辺境遊撃隊でテストする。この部隊は試験運用に適しているからな。こっちにとっては好都合って訳だ」
「レンゲお姉さん、それで私に?」
「協力してくれないか。お前の力を貸してくれ」
「――わかりました。レンゲお姉さんの夢なんでしょう、そのプラン」

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3446 久遠院 透夜(35歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

導 蛍石(eb9949

●リプレイ本文

●木材と加工の兼ね合い。
 慎重に選ばなければならない、という部分は確かにある。だが、量産体制を確保する為に選択しなければならない場合もある。
 今回はその使用用途や目的なども含めての『素材』の検討段階にあたる。
 そういう意味では、どの木材をどのようにしてゴーレムとして構築するかという様々な可能性をレンジョウは、こう分析していた。
「そうだな。木材の種類をどうするかで、ゴーレムの出来が左右するのは間違い無い。それはデクとユニコーンでは決定的に出来が違うという結果が全てを物語っているよな」
「そうですわね」
「ところで、どんなゴーレムを造ろうとしているのか、聞かせてくれませんか? きっと、みんな興味があると思うんです」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)、イリア・アドミナル(ea2564)は二人揃ってエルフ特有の長い耳をわずかに動かして、レンジョウやラピスの話を聞いていた。
「そうだな、ウッドゴーレムが一体これから先、どんな進化を遂げるか、実はまだ誰もわからないと思う。それはアタイも同じ。ただ、アタイの思っているのは、戦う為のゴーレムじゃない」
 戦場を舞台に、レンジョウは完璧なまでの『現場主義』のゴーレムニストだ。それが、なんと、戦わないゴーレムなどと言い出したのである。
 さすがに全員が――ラピスまでもが驚いた。
 フラガ・ラック(eb4532)は思わず聞き返してしまう。
「どういう事ですか。戦う為のゴーレムではないなら、一体何の」
「ああ、すまない。少し誤解を生んでしまったかな。いくつか案はあるんだ。ただ、素材があくまでもウッドである以上、直接的な戦闘はどうしても搭乗者の生命に関わってしまうんでね。メイの国の方針がゴーレム搭乗者の命を少しでも守る事にあるというのは、卓越した鎧騎士を育てるという部分に繋がっている。そういう方向からすると、戦う為のゴーレムとしては不安なのは送り出すゴーレムニストにしても、搭乗する鎧騎士にも残ってしまう」
「そうだな‥‥」
 スレイン・イルーザ(eb7880)も、その点では否定はしなかった。
「ただ、目的が違えば、こんなに可能性の広がるゴーレムは無いと感じているのさ」
「目的、ですか。例えば、どういう」
 今度は久遠院透夜(eb3446)が質問で返す。
「例えば、か。逆に問わせてもらうけど、お前達なら、どんなウッドゴーレムに乗ってみたい?」
 現場主義らしい、鎧騎士や天界人への要望を受け付けようという腹だ。しかし、急にどんなウッドに乗りたいか、と問われても中々答えは出せない。
 実際に乗る側の意見、というのは確かに尊重されるべきだ。だが、乗り手だけの思惑でゴーレムが造られる訳にはいかない事を、鎧騎士の面々は知っていた。
 だからこそ、即答する事が出来なかったのである。
「もちろん、今すぐに完成する訳じゃない。だけどね、覚えておきな。今あるものだけを甘んじて乗っているだけじゃ何も『育たない』んだ。モナルコスを多く配備していて、それにも限界はある。今は石材なんかの素材を収集する依頼なんかもお前達に依頼として配布されている筈だ。お前達もそうやって、影からゴーレムの製造に関わっているんだ。今回は、その木材に関する資料を集める事。率先して冒険者に協力を依頼しているって事がどれだけ敷居が下がったか、考えてみるんだね」
 そして、最後にレンジョウは、自身の中にあるプランのいくつかをこう返答してみせた。
 その中には、実現不可能なのではないか、というものまで含まれていた。
「実際、どこまでやれるかわからない。例えば、『超軽量・超静音・超柔軟性のある隠密特化型ウッド』だ。ゴーレム弓と、小型のナイフを装備して、レンジャーのように罠を張り、相手に気付かれないように深部に到達し、情報を探り、生きて戻ってくる。他にもグライダーの素材が木材という所からヒントを得て飛行型の半人半翼のそう、前に誰かに聞いた事がある、手足のついた鳥。ガウォー‥‥名前は忘れたがそんな感じの滑走型ウッド。素材が軽いから両足にホバリング機能を付けるってのも面白いな。まだまだプランだけならたくさんあるが、実際にどうやって上にプレゼンするかはまだ決めてないんだ」

●レイネ、なぜか襲われる。
「ぬ。ぬぬぬぬぬ‥‥」
 どうしたものか、と言った表情で、回りを見渡す。自分が道を間違えたのが、そもそもの間違いだと、今は認めたくてもそれどころではなくなってしまっていた。
 ぐるり、と『敵』に囲まれていたのである――。
「お前達、その黒き者共め。覚えているぞ、我らが祖先の魂を持ち去った者共‥‥そして、狂った血の臭いがする外道めが」
 忘れはしない。レイネとフェイエスの村を幾度となく襲った、あの忌まわしきカオスニアンと恐獣たちだ。
 もちろん、あの時のカオスニアンはすでに冒険者たちに倒され、彼女の目の前にいるのはまったく関係の無い、別の部隊なのだが。だが深く刻み込まれたあの痛みと仲間の死、そして祖先の魂を踏みにじった『敵』の姿を、忘れる事は出来なかった。
 普段は大人しいレイネだが、宿敵を見やると、思わず口元に光る牙を剥き出しにして怒りをあらわにする。

「この辺りの木々は軽くて、表皮が固いものが多いですわね。水分が足りていないのかしら」
「木々にはそれぞれ特徴があるんだ。固いもの、軽いもの、重いもの、密度の高いもの‥‥ほかにも樹液がたまっていてそれを主に採取するようなものもある。用途も様々。それらの分布も様々だ」
「そのようですわね‥‥」
 ホワイトホースから着陸場所などを調査する為に地上を見下ろすようにしていた時の事、フラガとスレイン、そして雀尾煉淡(ec0844)らが先行してグライダーで索敵も兼ねての飛行をしていた時の事だ。
「あの影は‥‥」
 テレスコープで先行するグライダーなどからもかすかにしか見えない距離を視界に捉えたルメリアはそこにカオスニアンの姿を捕捉する! 更に、恐獣の群れまでもが、何かを囲んでいる。
 そして。
 その中央にいるのが、見覚えのある蛇身の女性――レイネである事を確認すると、信じられない光景を見たような、衝撃を受けた。
「い、今、何て?」
「私の見間違いでなければ‥‥どちらにしましても、あれはナーガ様。まさか‥‥またカオスニアンがナーガ族を狙って!?」
 あの日の悪夢が甦る。ナーガたちの遺骸を蹂躙し、その魂を侮辱し、誇りを踏み躙った、忌まわしき事件――。
 ルメリアは、そして、苦虫を噛み潰したかのように眉をひそめ、怒りの表情を浮かべる。
「しかし、この距離でアレを使ってしまっては、ナーガ様を危険に晒す可能性も‥‥」
 超越の雷撃を、超長距離で狙い撃つ。
 これまでの戦いで幾度か相手を先手で狙い撃ち、形勢を一気に自陣を優位にしたルメリアの最近の戦法だったが、さすがにすぐ傍に守るべき対象がいたとなれば躊躇もしてしまう。確実に仕留められる距離まで近付いて、その安全が保障されるならまだしも、こちらは飛行中。少しでも狙いが外れれば、いや、万が一の事を考えてもここは安易には撃ちこめない事は本人が一番よく理解していただろう。
「フラガ、スレイン二人とも聞いてくれる。前方距離約二千、その速度ならあと数分で敵影を探知出来るはずよ。高度を下げつつ、そのまま直線距離で突っ込んで」
「了解」
「わかった」
 ラピスの風信で二人に指示が飛ぶ。更に二人は雀尾にも風信機が使えない時のサインで付いてくるように指示を出すと急行した。
「出払う事になるけど、こっちは大丈夫だから久遠院と白金はイリアとルメリアを乗せて行ってちょうだい」
 そして白金銀(eb8388)はイリアを、久遠院はルメリアを乗せ、全速力で飛び立った。

●駆けつけた冒険者たち。
 ヒュゥッ。
 深く、しかし素早く息を吸い込むと。
 ナーガ族は――それぞれの属性によって違う種類の――『ブレス』を放つ事が出来る。
 レイネは怒りの形相そのままで、今にも全方向から飛び掛られそうになっている現状を打破する為に起死回生の竜の吐息を吐きかけた!
 ヴァオオッア!!
 その怒りのブレスを思いもよらず直撃で受け、取り囲んでいたカオスニアンはもろに吹き飛ばされる。
「我らが怒りを鎮める事は出来ぬと知れ‥‥」
 そのタイミングで、先行したフラガ、スレインが到着した。
「大丈夫ですか!!」
「ぬ‥‥お前たちは‥‥」
 新たな増員かと思ったレイネだが、その影は果たして人間のそれだった。またもや奇妙な乗り物には乗っているが、間違い無い。
「後は私たちにお任せしてください。ナーガ様は安全な所へ」
「ふ――また人間に助けられたな‥‥。だが、我とてこの怒りをおさえる事など出来ぬ、我も戦うぞ」
「レイネ様! やはりレイネ様でしたか」
 雀尾、そして次いで天界人とウィザードのコンビで出撃した二組がやって来た。冒険者チーム、全員集合である!
 応援に駆けつけた冒険者らの氷結、雷撃の魔法に加え、攻守をバランス良く入れ替えた戦闘にナーガのブレスが加わって、程なくしてカオスニアン恐獣部隊は全滅した。

「助けられたな、礼を言う」
「それよりも‥‥村に帰ったんじゃなかったかしら」
 迎えに来たホワイトホースに同乗する事になったレイネを前に、ラピスは一体何があったの、というような表情でレイネを見やる。
「うむ。あれから先祖の魂を再び眠りにつかせた我らは『竜の巫女』フェイエスを復興のシンボルとして村に置いた。元々彼女はそういう役目である事はお前も知っているだろう」
「ええ。それで、フェイエスは? 確かあの白蛇の人だったわよね」
「今は村にいる。村を守護する為に、ナーガ族の未来を若き巫女である彼女一人が支えているような状態だ」
 それでも、それは長い年月を生きるナーガ族にとって、『必要な事』なのだ。
「で、レイネはどうしてあんな所でカオスニアンたちに囲まれていたの」
「うむ。それはだな‥‥まあ、色々と」
 レイネが迷ってこのステライド南部にやって来たのと辺境遊撃隊による樹木の探査任務が重なって、そして調査地区にたまたまカオスニアンらが徘徊しており、それに巻き込まれたレイネとそれを発見し撃退し救出した事が一度に『回って』来たのである。
「実は、お前に相談があったのだ。ラピス・ジュリエッタ」
「へ? 私に‥‥??」
 そう。そして、偶然はこの時点で必然と成った。

●相互協力、自助努力
 ともかく。
 こうして辺境遊撃隊はナーガ族のレイネという女性を受け入れ、護衛とはいかないまでも協力関係として同行する事となった。
 偶然の賜物とはいえ、深き森の住人であるナーガ族と共に森林、木々の調査を行う事は非常に有益となった。同じく森の民であるエルフも、そういう意味では共通した意識を持っていて、自然とナーガ族と打ち解ける事が出来た。
 いくつかの依頼で、レイネの事を知っていた冒険者たちは特に懐かしさを込めて彼女と接した。
「お前達の事は覚えているぞ。我らの先祖の魂を自分達の事のように思い、長い旅を共にした事も。巨人は戦いの道具ではあるが守る事も出来る存在なのだと言う事も。そして、最後は全ての遺骸を取り戻す事が出来た事も」
 まるで遠い遠い過去のような出来事も、レイネらナーガ族にとってはつい最近の事。実際に事件が完全に終結したのは今から約半年ほど前である。人間らからしてみても、記憶が薄らぐにはまだ早い。

「竜の巨人? いや、聞いた事はないな。だが、ドラゴンロアというのは我らに伝わる言語の中で特に上位の者が儀式などで詠唱する、少し特殊な言語でな。我が覚えているだけでも全ての『言葉』を受け継いでいるのはそう多くない」
 レイネも、フェイエスの傍に長い間いただけあってある程度は覚えているらしいが、ドラグーンを生み出すための『言語』なのかどうかまでは、彼女自身ではわかっていないようである。だが、それはもうひとつのヒントになっていた。
 竜の巫女、フェイエスがドラゴンロアを完璧に伝承している存在だという事――。
 だが、一方で難儀な事もある。フェイエスは一度辺境遊撃隊で保護して面識があるものの、現時点ではナーガ族の村のシンボルとして『動けない』事だ。
「霊木を探しているのか。だが、それは森の主を傷つけるという事にも等しいぞ。礼を尽くしても、さて、どうなるか。我にも想像がつかぬ」
「そんなに、厳しいものですか」
 白金のような天界人、主に地球と呼ばれる『世界』からの住人には、まだ少し万物に精霊が宿るという『世界』の全てを理解するにはいくつか足らない部分があった。
 天界からの知識や常識がまるで通用しない事が往々にしてあり、その時になってはじめて、理解する事が出来るからだ。
 それはある意味ジ・アースと呼ばれる『世界』の住人にしても似たようなものがあった。このアトランティスという『世界』はすでに法則性そのものが天界とは違っているのだから。だから、その作用も実は違っている事がある。結果的に同じような作用をしているにすぎない。

 またこうして樹木の調査を続けているうちに、久遠院は加工の事についても触れた。
「そういえば天界…地球と呼ばれる方だが、そっち出身の友人から聞いた事がある。『圧縮木材』と呼ばれる物だ」
 久遠院の言う、『圧縮木材』とは。
「確か、思いっきり蒸した木材を横方向に圧力を掛けて潰すと木目が詰まって硬くなる、とか言う話だったと思う。そのままでは元に戻るから加熱して固定化させるらしい。無論、この世界の技術で再現できるかは判らないし、精霊力とかの観点からゴーレム素体には向かないかもしれないが、ユニコーンが硬い木を使って高性能化した事から考えても、もし成功すれば優秀な機体が出来るかもしれない」
 ちなみにこの技術、スチーム技術と安定した熱量を供給出来れば比較的ローテクな技術でも『可能』なレベルの加工技術である。
 特に元々木材自体が繊維と空洞で組み合わさった構造であるから、密度の低いものほどより強い圧縮が可能で、それによって素材を強度をあげたりするだけでなく、柔軟性までもを得る事が出来るというものだ。
 また、更に高い技術を要するものの、表面だけを圧縮するという事も出来る。これにより様々なスタイルの木材が提供出来るらしい。
 だが、メイの国でそれが出来るかどうかは不明である。
 今からその加工をする為だけに加工工場などを作る訳にはいかないが、もし技術的に可能であれば――将来的にウッドゴーレムというのが飛躍的に進化するであろう『可能性』は高くなる。

「そうだな、よし。南部の大まかな木材の資料はまとめられそうだな。加工の事も含めて、一度帰って整理するか」
 次回以降にも希望を託し、またいくつかの冒険者やナーガらの情報や提案も含めて整理する為、白馬隊は数日間の調査を終え、帰還を果たした。