熱血商人娘、ジェトから帰還せり

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2008年02月07日

●オープニング

●メイよ! 私は帰ってきた!
 ある時は無謀にも遠距離恋愛に燃え、一人で国を越えようと。
 ある時は無謀にも身分を超えて玉の輿に乗ってしまったり。
 そしてまたある時は――。
 ともかくメイの国から飛び出して、南の隣国である同盟国ジェトで行商をしに行っていたお騒がせなとある商人の娘カレア。
 ‥‥いや、今は騎士の妻。

 一応、新婚だ。

 そんなカレアも随分長いことジェトでの滞在を終え、ようやく帰国する事となった。
 一体こんなに長い間、カレアはどうしてジェトに滞在していたのだろう。
 本人曰く、夫がその当時のリザベはとても危険な状態にあったから、帰国するよりもそちらで情勢が落ち着くまでしばらく滞在せよという内容の手紙を受け取ったからだという。
 そして遂先日の事、騎士であり夫のダインスから帰国の許可が下りたという訳だ。
 土産話も沢山ある。短いながらただ黙って彼女はジェトにひきこもっていた訳ではない。むしろ商魂逞しくこの短期間でいくつもの大きな商談を進めてきていたのである!
 転んでも、絶対ただでは起きない性分の彼女らしい。

 今回は何故か行きよりも重い大きな荷物を引っさげて、メイディアの港まで到着した。
 いつもよりも多い荷物を大きな荷馬車で引っ張って行くという訳だ。そこで護衛の冒険者を雇いたいと依頼がやって来たのである。

●毎度おなじみゴブリン街道!
 もうすでにおなじみかと思われるかも知れないが、リザベメイディア間の街道にはなぜかホットスポットが存在する。
 その一つが、通称ゴブリン街道と呼ばれる冒険者たちにとっての名所であり行商や旅人、一般人には迷所だ。
 倒しても倒してもなぜか同じような地点で彼らが出現し、金品を狙って襲い掛かってくるという迷惑な場所である。
 毎回冒険者や護衛の人たちがぼてくり回して追い払ったりするのだが、本当に何度倒しても懲りないというか、ある意味定番のギャグというかお約束と言うか、つまりそんな定番エンカウントエリアだったりする。
 しかし集団でやってくる割にはとてつもなく弱く、あしらい甲斐の無さそうなゴブリンたちだが、荷物を持っていかれては元も子もないので真剣に対応してもらいたい。

 また、今回はジェトからの輸入品も多い事から、ある意味メイの国にとっては貴重品。慎重に取り扱って欲しい。
 荷馬車は大型だが、積載量が多い為、荷馬車に同乗出来るのはせいぜい四人程度。カレアが一人搭乗しているので空きは三名程度という事になる。
 護衛の際の移動手段については、それぞれ工夫してもらいたい。

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●超特急娘、いざ出発!
「さーて、と。これで全部かしら? 積み忘れはないわね、それじゃあ出発しましょう!」
 長い船旅の疲れも無い様子で、元気に荷馬車に乗り込んだカレア。
 空は久し振りの晴れ、カレアはメイはやはり少し今の時期は肌寒いと上着を一枚重ねて羽織った。
 ジェトは今の時期でもメイの国よりも南にあるだけあって、穏やかな温かさを感じていたらしく、夏になると今度は逆に暑くなるようだと言う。だから、メイの冬にジェトを『避寒地』として行くのも悪くないかも知れないとも言った。
「しかし向こうの情勢はどうだったんだ? メイよりもバの国が近いというのに」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)は率直に現時点でのバ国とジェトの情勢について質問する。
「私がどうしてすぐにリザベに帰る事が出来なかったのかは、先に話した通り。今はメイも落ち着いているようだけど‥‥何せ私の住まいはリザベだからね。ただ、私の感覚ではジェトの方が今は安全かも知れないわね」
「随分長いこと向こうにいたのだのぅ。お久し振りだのう」
「あら、あなたは以前にも隊商の護衛を担当してくれていたわね。覚えているわよ、今回もお願いするわね」
 シュタール・アイゼナッハ(ea9387)はこれで三度目となるカレアの隊商護衛任務とあって、大分慣れた手付きで準備を手伝っていた。
 カレアの『癖』も大分掴んでいたようで、サポートとしてはかなりの動きを見せていた。
 一方、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)はジェトからの帰還組である彼女に、年明けにジェトからの使節団がやって来ていた事を話す。
「噂ではメイの国とバの国の調停をする話が出ているとかって‥‥まあどうなるかは分からないけど、ねえ」
「戦争が終わるって、事かしら‥‥いや、そういう事じゃあ、なさそうね」
 フィオレンティナの言葉を信用しない、という意味ではなく、彼女特有の『勘』が『終結ではない』事を告げていた。
 だが、一度結ばれれば少なくとも一定の期間は互いに準備期間を設ける事が出来る。メイ側の疲弊度合いを見れば調停も止む無しといえるだろう。

 一番の問題はメイの国側の主力ゴーレム兵器の長期化した戦闘による損害拡大と量産体制の両立が不完全で、修復するより生産ラインを潤滑に乗せていきたい方針になっているらしい部分。
 また、対するバの国も『西方動乱』からはじまった大規模戦闘であり未完の『第三次カオス戦争』によって攻め手でありながらも多大な被害を受けたのは間違いない事実だろう。
 両国間の思惑はどうあれ、近く調停の方向に向かうのはある意味では必然なのかも知れない。
 商人の業といえばいいのか。カレアはゴーレム兵器こそ扱っていないが、武器、防具など『戦争の道具』も取り扱っている商人の娘でもある。言い訳になるかも知れないが、彼女にとっては戦争が完全になくなると武器も防具も売れなくなる訳で、それは商売としては痛い。
 その調停によって、取り扱い数が減る可能性があるのは避けられない。そうなると商人としてはあまり気持ちのいいものではない、という訳だ。
 もちろん、人命がその先にある事も、戦争になれば愛しの主人である騎士ダインスも戦いに赴く事も、承知の上で。
 これは武器などを扱わない、道具などを売り買いする商売にも、多分に関係する部分であり、『商人』としての彼女と『騎士の妻』としての彼女の中でどうしようもないジレンマを感じずにはいられない問題でもあった。

●超特急娘、鈍行する?
 荷物の多さも手伝ってかいつもよりも慎重に、巡航よりもややスローなペースで進む隊商護衛班。
 前半戦は非常にゆっくりなペースだったが、それでも予定を大幅にずれ込むような遅れを生じさせないのは絶妙なペース配分の賜物といえた。
 ミーティングで練り上げたフォーメーションも崩れる事無く、ペースも穏やかだったせいもあり、長距離を『歩く』シュタール、龍堂光太(eb4257)、エル・カルデア(eb8542)。そして馬と併用していたレインフォルスやアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)なども何とか長い距離だが予定通りに進める事が出来た。
「その靴、冒険者たちがよく履いているけれど、本当に面白いわよね」
「そうか。珍しいといえば珍しいかな、冒険者以外で使っているのをあまり見かけないからな」
 陸奥勇人(ea3329)はむしろカレアが持ってきた輸入品のようが気になる様子。言葉は少ないが、アルトリアも興味津々の様子でカレアの土産話を期待しているようである。
「へぇ、向こうは果物も結構あるのか。随分気候も違うみてぇだな」
「そうね、全体的に温かいわ。メイに帰ってきて寒いと思うのも仕方ないわね」
「向こうには随分いたみたいだけど、食べ物は何が美味しかった?」
「食べ物といえば、聞いてよちょっと!」
 フィオレンティナの一言で凄い思い出が甦ったらしい――。
 カレアは興奮して、立ち寄った宿泊先のテーブルをこつっと叩いてから。
「たまにしか食べられないそうなんだけど、あの、あの恐獣のお肉を食べたわよ!」
 その一言で、冒険者全員は唖然としてから、驚きの声をあげる。
「た、食べれるの!?」
「‥‥お肉はちょっと固くて臭いもきついかな、でも意外と肉の味が濃いというか。草食の恐獣は意外と柔らかくて美味しかったわ」
「あの恐獣まで喰っちまうのかよ。あんたのがよっぽど珍しいな」
 あまりの豪快さに笑ってしまう陸奥。

「そういえば、ジェトの国には‥‥向こうの『地球』からやってきた人たちはどんな生活をしているのか、とか、向こうではこちらとは違うゴーレム技術が発達していると聞くけど、それはどんなものか、とか。あとは‥‥ジェトとバの交戦状況が気になる」
 龍堂は天界人らしく、同じような境遇の天界人の事についても尋ねてみる。
「そうね、私も少し気になったのだけど、メイの国やウィルの国みたいに意外といるみたい。というか、いわゆるあなたたちみたいな冒険者のギルドは見かけなかったわ。代わりに、向こうは騎士団や独自の自警団や義勇軍のような存在があってそういう組織がとても良く動いているみたい。面白いのはシフールさんだけの義勇兵部隊なんてのもあるらしいわ」
「天界人も?」
「だから、天界人が。メイにも多いけど、どうも向こうでは天界人はメイと同じとは言わないけど少し特別な存在みたいね。こっちでは英雄ペンドラゴンの伝説があるように、天界からの人間は市民権を得ているみたいよ。国王がペンドラゴンの戦友の子孫であるって事が大きいみたい」
「ゴーレム技術については俺も気になる。以前聞いた事があるんだが、ジェトの騎士団は一風変わったゴーレム装備を使ってるらしいな。何かその辺見聞きした事があったら聞かせて貰えるか?」
 龍堂だけでなく、ジェト特有といわれるゴーレム技術の話題はメイでもかなり興味深い話題のようだ。陸奥の問いかけに、シュタールやエル、ゴーレム乗りであるフィオレンティナやまだ幼いアルトリア、レインフォルスまでもが気にしている。
「あら、やっぱりその辺、気になっちゃう感じ?」
 カレアはどこのショップ店員だよという風なノリで聞き返してから肯いて、知っている限りだけど、と最初に言ってから。
「多分一番知りたいのはこっちでは見かけないゴーレム、『アミュート』の事よね。ゴーレムっていうとメイの国ではあのでっかい人型のものやゴーレムグライダー、チャリオット、ゴーレムシップやフロートシップっていう『乗り物』のイメージが強いでしょう? もちろんそれは私も行った事のあるウィルでも同じだった。だけど、ジェトのゴーレムはゴーレムって感じじゃないのよねぇ」
「ゴーレムじゃないゴーレム??」
 カレアの不思議な返答に、肩を乗り出して聞き入っていたフィオレンティナは思わず肩すかしを喰らったようにずっこけてしまう。
「実際に『精霊騎士団』を見た事がないからっていうのもあるんだけれど、どうも『アミュート』というのはゴーレム製の鎧のようなものらしいのよ。これ位の球体で、一瞬で装着出来るそうよ」
 言いながら、両手で水をすくうような感じですぼめて見せる。
 イメージ的には大人の男性の拳程度の大きさの球体だそうだ。
「それがどれほどの力を持っているのかは私はわからないわ、ゴーレムっていうとモナルコスしか思い浮かばないもの‥‥」
「確かに、メイディアでもリザベでもゴーレムといったらモナルコスだもんね〜」
「でもね、あっちにはもっと凄いのがいるわよ!」
「凄いの!?」
 カレアは先ほど恐獣の肉を食べた、と言って全員を驚嘆させたが、どうやらこの『フリ』は恐獣に関する事らしい――。
「メイでは信じられないかも知れないけど、なんとジェトには『恐獣騎士団』というのがいるそうよ!」
「恐獣騎士団!?」
 ジェトでは最も有名な騎士団のひとつらしく、名実ともに代表騎士団とも言えるのが恐獣騎士団だという。
 メイではカオスニアンが強襲のお供に使役している事で有名だが、所変われば何とも、人間が恐獣を支配して主力兵器として扱っているらしいのである。
「恐獣騎士団いるのに恐獣の肉とか喰って大丈夫なのか」
「さあ、観光客用の名物みたいなものなんじゃないかしら。はっきり言うと、メイよりも恐獣の数は多いわ。あと、リザベよりは安全とは言ったけれど、一触即発状態な雰囲気はいつも感じていたわ。まあ、私としては緊張感のあるのはリザベに良く似ていて、少し近しい雰囲気を味わったわね」
 また、カレアはジェトについて、いくつか気になる事を話してくれた。

 農業、鉱業について、また貿易についてもメイよりも進んでおりサンソードなどで有名な『サンの国』や『ラムの国』とも貿易を交わしているらしい事。
 またジェトで作る装飾品は洗練されている事。天界人から見るとエジプト風の装飾か。
 他にも、ジェトの首都であるジェトスの通行税だけでなく、全体的に税金や物価がメイと比べて割高感を覚えるとの事。
「ジェトで便宜を図って貰える伝手はいるのか? ま、向こうに行けたらの話だが、もし機会が出来たら紹介して貰えると助かるぜ」
「さっきも言った通り冒険者ギルドのようなところはないから、難しいけれど、義勇軍に参加するという事でなら可能性はあるかも知れないわね。ただ、今すぐは向こうに行けるとは考えない方がいいと思うわよ。私は勢いで行って来ちゃったけれど、これから調停の事もあるし、いいタイミングで戻ってこれたと感じているほどだから」
「そうか‥‥ま、今すぐにって訳じゃないさ」
「さっき言っていた使節団団長のマクシミリアンはジェトの王子だから、国交が更に深まればと思うわ。メイとジェトの更なる親交を深める事も、きっと出来ると感じるの」
 勢いで飛び込んでいったジェトの雰囲気はどこかリザベにも通じる緊張感を伴って、それがカレアにとっては身近な空気に感じたようだ。一般的な感覚とは少し違うものの、彼女の観点から見ても、これからのジェトとの友好関係は重要な要素となりそうである。
 だからこそ、彼女は今このタイミングで戻ってこれた事が『良い機会』だったと感じたのだろう。

●寒がりません! 勝つまでは!
「いよいよ、例のゴブリン街道付近だのぅ」
 何度もこの通りで見かけるゴブリンたち。冬期というにも関わらず、恐獣たちのように活動低下という事もなく、相変わらずの出現率を誇るゴブリン。
 ただ、一般人からすると脅威の対象である彼らも冒険者から見れば、赤子の手をひねるようなもの。今回は貴重品を扱うという事で多少スローペースであったが、さすがにこの地点を鈍行というのは愚行である。
 安全ラインを確保しつつ、急ぎで抜けようとする冒険者ら隊商護衛班。しかし、先日恐獣に占拠され、ゴブリンがいなくなったという噂は都市伝説だったかと思われる位にあっさりとゴブリンズがもりもりやって来てしまう。
「正面右、ゴブリンらしき影を発見。数は‥‥八。余裕だな」
 陸奥は先頭で、落ち着いて全員に戦闘態勢を指示する。
「念のため反対側からの襲撃にも注意しといてくれ!」
 魔法職の索敵能力でもカバーして、左右、後方などの周辺警戒を探った。
「こちらは問題無いのぅ。前方に集中するべきだのぅ」
「こちらも反応無しです」
 陸奥は戦力を前方に集中し、後衛は馬車の左右をカバーする形で配置させる。

「のこのこ出てきやがって‥‥さて、懲りない連中ってのはお前らの事か。退くなら今の内だがどうする?」
 奇声を発しながら土煙を巻き上げながら駆けて来るゴブリンたちに向かって両拳の指をパキコキュと、首の骨もゴリュゴリュ鳴らしながら声をかけてみる陸奥。にも関わらずまるで聞き入れない彼らは突進を止めない。
「聞いちゃいねえ」
「体に覚え込ませないといけないようだ」
 陸奥は龍堂とレインフォルス、そしてフィオレンティナとアルトリアに目配せして、ゴーサインを出した。
 フィオレンティナとアルトリアは魔法職らのサポートと第二防衛ラインの要として機能していく。
 とは言え――。

 メギョ、ゥオン!!
「うわ、えぐ‥‥」
 カレアは男性特攻陣の凄まじい暴風みたいな連携を見ながら――斬り上げられた衝撃で一瞬にして顔の形が変形する位の一撃を喰らって身長の三倍ほど体が浮いて、頭から無抵抗に叩き落される姿や、横殴りにされて三人同時に傍にあった岩に激突して骨がメキメキと音を立てて粉砕されていく姿を見て――容赦ないわね、と苦笑いを浮かべる。

●無事到着――超特急娘、次はどこへ往く?
「はー、ようやく到着したわね! ちょっと予定よりも遅れちゃったけど、何とか荷物も無事に着いたから良しとするわ。本当にありがとう」
「いえいえ〜私たちもジェトの事を知れただけで嬉しいよ!」
 荷物を降ろしながら、フィオレンティナは満足げに笑う。
「ごめんなさいね、もう少しお話しておきたかったけれど‥‥また何か機会があったらその時にでも、いつでも聞いてちょうだい」
「ああ。カレアはしばらくリザベにいるつもりなのか?」
「どうかしら、わからないわ。先ずはダインスとの再会が一番の楽しみだから。でも、リザベからセルナーへの直接の移動はまだした事がないから、試してみたいわね」
「販売ルートの拡大って事か」
「そういう事。また、メイの貿易では多くないサンやラムの国へも渡ってみたいわね。夢は世界の果てまで巡る事だから!」
 龍堂はカレアの『のろけ』にも肯きで答える。
「夢‥‥」
 アルトリアはそんなカレアの夢に自身を重ねて、思わず小さく呟いた。
「気をつけて帰ってね、皆。今回は本当に助かったわ」
 そう言ってカレアは無事に任務を達成した冒険者たちを見送った。
 勢いだけでぶっつけ本番な超特急娘の次なる舞台は、さて――。