海の底のラプソディ
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2006年12月15日
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●オープニング
●アトランティス・東方、メイの国の港から回遊する遊覧船がある。
最近出来たばかりの新型船の進水式とお披露目イベントとして、船上でパーティが催されることになった。
華やかなイベントはかなりの盛り上がりを見せたが、ちょうど折り返しの地点を迎えた辺りで大事故が発生し沈没してしまう。
乗員たちは何とか無事全員生存しており全員帰還していたが、パーティの目玉であった有名宝石デザイナーによる宝石コレクションショーに使われた宝石の数々が船に取り残されたまま沈んでしまったのだった。
新造船の沈没に加え、豪華絢爛な宝飾品の数々までが海の藻屑と化したのだから、たちまちその噂は疾風のごとき速さで広まった。
そして噂は噂を呼び、一瞬にして軽く伝説級にまで話が飛んでしまったのだから大変だ。
――沈没船といえば、お宝!
まさにお約束のような絶好のチャンスに色めき立つ冒険者たち。
そんな中、待ちに待った宝石デザイナーから冒険者への宝飾品回収依頼が冒険者ギルドへ要請された! もちろん依頼は宝飾品の回収だが、これだけ大きな事件である。『何が起こっても』不思議ではない。
●遊覧船『ララ・ユウ』号。
ゴーレムが開発される前までは充分に機能していた船舶での流通はいつしか移り変わり、とはいっても今でも充分過ぎるほど通用しているしゴーレム関係はまだまだ貴重品。空輸が難しいアトランティスでもやはりメインは陸路か海路が今でも主流なのだった。
そういう背景もあり、遊覧船といえども住民からすると新造船の進水式は一大イベントだったりする。
新造遊覧船『ララ・ユウ』号。
大きさはかなりのもので、一般的な貨物船よりふたまわり程大きい。それだけで既に巨大さは伝わるかと思うが、なんとこのララ・ユウ号、最新型のゴーレムまで搭載可能(という噂)だったのだそうだ。
実際にゴーレムが載った訳ではないが、相当のものである事はおわかり頂けるかと思う。
また、お披露目イベントの方もかなり凄かったらしい。特にジュエリーデザイナー、フォック氏による最新ジュエリーは今回の目玉で、ジャイアントの握りこぶし程もある(と噂の)巨大な宝石を使った一点ものだったらしい。
その他にも数十点の新作ジュエリーが展示されていたという。
全部数えると小領程度ならばひとつ建つほどの価値があったのではないか、という噂だ。
それが今も海の底に眠っている。
もし、手に入れることができたら‥‥まるで夢のような話だが夢でも幻でもない。現実で起こっている事なのだ。
しかし、遊覧船はいかにして沈没したのか?
単なる事故なのか、それともモンスターの襲来によるものなのか。
センセーショナルな大事件に魅力的すぎるほどのお宝。そして入り乱れる噂の数々。
何が真実で何が嘘なのか、この目で確かめるしか術はない。
●リプレイ本文
澄み渡る青空。
穏やかな波。
何もかもが平和だった――。
新造遊覧船『ララ・ユウ』号の船長ならびに乗組員たちは、当時を振り返ってこう語った。
実際、出発当日を含め、事故の直前まで天候や波の高さはまさしく航海日和だったという。
エリスティア・マウセン(eb9277)は大事故だったという沈没事故の直接の原因を探るべく、調査船の出発直前まで関係各所に聞き込みを行っていたが、どうにも釈然としなかった。
確かに噂通りの強大な船が多少の天候不良で沈むというのは、故障続きの古い船ならともかく、新造船でそうそうある事ではない。
では、船体の設計に何か不備があったのだろうか?
この線も、実の所、ほぼあり得ない。ララ・ユウ号の設計及び製造を担当したのはメイの国でも有数の老舗船大工だ。
海の仕事は信用が命。船を動かすもの全ての命を預かる船大工が自分の子供みたいに大事に作り上げた船たちだ。
大事故を引き起こすようなミスを犯すとは考えにくい。
設計図もチェックさせてもらったが、さすがに素人目からは、設計ミスかどうかを計り知る事は出来なかった。
「じゃあ、何で沈んだんだ?」
天谷 優一(eb8322)は腕を組みながら、うんうんと考え込んだフリをしてみるものの、結局答えを出すことが出来ないでいた。
「ふふ、だからこそ、今からそれを調査しにゆくのでしょう?」
天谷に柔らかい笑顔を見せるシルビア・オルテーンシア(eb8174)。
彼女もまた、同じ事を考えていたが、答えにたどり着くことは無かった。
「そういえば、客の数名からも当時の状況を聞いたのですけれど‥‥少し意味のわからない事を仰っていましたわ」
『ララ・ユウ』号が出発した、あの日と同じ晴天の。
穏やかな風と波に乗せて、調査船は遂に出発した。
エリスティアが聞いた不思議な現象はほとんど目撃者がいなかった事から、信憑性に欠ける噂の類を抜けないものだった。
しかし、船長らの発言と組み合わせると実に妙な一致が見付かる。
それは、事故直前、『海の底が真っ黒になった』という奇妙な情報だった。
「海が黒くなった? どういう事かしら」
「それがもしかしたら沈没した直接の原因になるのか、まだわかりませんわ。ですが、船長によると、船体の底から突き上げるように二度ほど強烈な揺れを感じたと聞いておりますの」
「つまり、海の底が黒くなった後に何かに二回、突き上げられて‥‥沈んだ、と」
「もし船底に亀裂が入ってそこから海水が流れ込んで沈んだとしたら、それに近い形で沈んだと考えられます」
遊覧船のルートはほぼ全便が同じルートだ。
事故の直前となる前日も違う船だが、通常通りのルートを運行し、無事帰港したという。
事故発生直後はスケジュール調整や自粛の動きもあり数日運行を停止していたが、調査が進み安全が確保され次第運行を再開する予定との事だった。
――本当に、こんなに何もない所で事故が発生したのだろうか?
元々は安全なルートである。もう何年も同じルートで運行していたのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
だが、確実に、『ララ・ユウ』号はここに沈んでいる。
沈没地点に到着した調査団を含む冒険者の面々は、悲劇の遊覧船が沈む、深いブルーに染まる海面を覗き込む。
「穏やかすぎて、逆に怖いな」
天谷の一言に、皆が静かに肯いた。
その直後、「こんな暇そうなら釣りでもしたいもんだ」などと微妙に場違いな発言をした事で微妙に女性陣から白い目で見られる事になるのだが、それは一先ず置いて。
次々と調査員たちが準備をはじめ、第一陣が海底へと突入を開始した。
「よし、俺たちも財宝ざっくざっく探しにいくかー!」
眩しい太陽にきらきらと反射する、コバルトとエメラルドが交わったような海の底へと、天谷・エリスティア組が消える。
泳ぎが得意ではないシルビアは船上から、エリスティアがある目撃者から聞いた『海が黒くなった』という情報を確かめるべく、その視力を活かしつつ慎重に海面を見回した。
船長らの情報は、確かに正しかった。
巨大な船体のほぼ中央にあたる船底付近に、大きな亀裂、というよりも巨大な槍で突き刺されたような円形の穴が開いていたからだ。
何かが激突した、という予測は出来るものの、一体何が激突したのだろうか?
船底の傷跡を調べる調査団員とエリスティアだったが、頑丈な筈の船底をぶち破るほどの破壊力を持った何かがどうやって近付いて、そしてどこへ行ってしまったのか。
少なくとも付近を見渡して、岩などの突起物に激突したとか座礁したとかいう訳ではなさそうだ。周りには、遮蔽物の一切が確認されなかったからだ。
では、この巨大な風穴はどうやって開いたのか?
二度ほど大きな揺れを感じたという船長の話が確かならば、一度貫かれたあと、引き抜かれた時にもう一度突かれたという事になる。
が、そんな致命傷を与えられそうなものを持つ生物はいるだろうか。
少なくとも、そんな伝説級のバケモノがメイの国の海底にいるなんて報告は過去の例をみても、ほとんどない。
そして、海底が黒くなったという目撃情報は一体何を意味するのか。
一方、フォック氏のデザイナージュエリーを捜索する為移動を開始した天谷。
沈没したとはいえ、まだ、沈んだばかりで船内の幾つかの部屋や大中ホールの上部には空気が残っていた為、一度船内に入り込んでしまえば多少は捜索できるほどは活動できた。
だが、見取り図を確認しておいたにも関わらず、あるべきものがそこには影も形も見付からない。
いや、『そこ』で行われていたという形跡はあった。
だが、肝心の『モノ』がすっかり消えているのだ。
(おいおい、シャレになってないぜ‥‥)
展示会場はまさしく、ここだ。だが、宝飾品の欠片ひとつも見当たらない。
(もう誰かが持っていったとか? そんな事、出来るのか?)
しかし、現実に、そこには何も無かった。宝石たちだけ、そこから消え失せる奇術でも見ているのだろうか。
念入りに調査するものの、やはり貴金属のひとつも確認する事は出来なかった。
念のため、他、幾つかあった捜索ポイントを移動するものの、依頼品であるジュエリー類だけは結局発見する事が出来ない。
調査員たちも調べていたようだったが、持ち帰られるものはなかった。
「で、どうでした?」
「だーめだー。全ッ然見付からねぇ。っていうか、綺麗さっぱり、なくなってた」
多少の期待を込めて海から上がった二人をねぎらうように近付いたシルビアの声に、思ったよりも低いトーンで返す天谷。
「なくなっていた? どういう事ですか」
「どういう事‥‥って言われてもな。言った通りさ、展示会場にはフォックが言ってたような宝石類なんてひとつもなかったよ。まさにもぬけの殻って訳だ」
「どこかに宝石類だけ移動させたとか、そういう事ではなくて、ですか」
「沈没船の噂を聞いて、誰かが先に盗みに入った、なんて事は考えられませんか?」
女性陣の突っ込みが入るものの、無いものは無い。それが天谷の目撃した事実であり、真実だった。
「せっかくお宝をゲットできると思ったのにな。先客に盗られちまったか」
「そんな馬鹿な‥‥それこそあり得ませんわ」
「確かに、いくらなんでも宝石類だけをピンポイントで盗んで、その跡さえ残さないなんて信じられません」
「じゃあ、一体俺が見たのは何だったんだ? イリュージョンじゃあるまいし」
「イリュージョン?」
天界特有の言葉に一瞬不思議そうにするシルビアに、天谷とエリスティアは思わず苦笑いで返してしまう。
結局判明した事はというと。
とてつもなく固い何かが『ララ・ユウ』号に激突し、それが原因で船底に亀裂が生じ、そこから浸水し沈没に至った。
フォック氏のデザイナージュエリーの展示場はあったが、宝飾品等の貴重品は何一つ発見できなかった。
食料品などは浸水被害はあるものの、手付かずの状態である事が調査団によって判明している。
そして、シルビアが警戒している間は『海の底が真っ黒になった』という現象は確認できなかった。
以上である。
そして、問題なのは、沈没の直接の原因となったであろう『激突した何か』が発見されなかった事と、宝飾品のみがその場から消えた事だ。
大きな謎をはらんだまま、他、海流の乱れや天候状況を再確認したものの、結局異常は確認されなかった。
不気味さだけが残る結果となったものの、調査団は再調査を検討しつつ一時帰還の運びとなる。
遊覧船のルート調整はこれから検討される事となるだろうが、近いうちに運行を再開するだろう。
冒険者たちの狙っていた、というのは言いすぎだが、依頼されていたジュエリーに関してはギルドに帰還した後フォック氏に報告される事となった。
もし盗難であれば被害総額は相当なものかも知れないが、調査団と共に乗り込んだ冒険者たちがくすねたという訳でもない。依頼はあくまでも調査と回収だが、調査に関して冒険者側には一切の不備はなかった。
そういう意味では今回の依頼は正当な報酬を受け取ることの出来る結果となる。
――しかし。
この『ララ・ユウ』号沈没事故調査の直後、意外な場所で事件は鎖のようにつながり始める。
まだ事件の幕はおろされていなかったのだ。
だが、今はそれを知る者はいない‥‥。