魔女のおつかい・弓資料の返納

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月14日〜05月19日

リプレイ公開日:2008年05月19日

●オープニング

●重要参考品を返還せよ
 官憲モーリィから弓手カオスニアンの持っていたという『X字形状のコンポジットコンパウンドボウ』を借り入れる事に成功した冒険者たち。
 彼らの活躍によって無事にウタウタイことユニウスの元にその弓を届ける事にも成功した。
 こうして魔女のおつかいも残すところ折り返しの返却を残すのみとなる。

 一方、魔女はとある人物との面会の中で、新たなるヒントを見つけるに至る。

 そんな中、魔女はユニウスの村へ行く事となり、ユニウスは借りていた弓をモーリィのいるメイディアへ返還する用意を進めていた。

 今回の依頼は、ユニウスが『恐獣』に対するスレイヤー能力を持つ弓――『ダイナソアスレイヤー』制作への大きな足がかりとして借りていた『X字形状のコンポジットコンパウンドボウ』を無事に持ち帰る事だ。
 ユニウスはこのコンパウンドボウについていくつかのヒントを得、試作品であった恐獣の骨から作った弓を更に改良する事を決意する。
「更なる威力向上と、取り回しの良さ、軽量化、連射性能‥‥クリアしなければならない課題はいくつも残されているけれど、色々な弓や楽器を見せてもらって、今、とてもいい刺激を受けているところだよ」
 試行錯誤の末、果たしてユニウスはダイナソアスレイヤーを生み出す事ができるのだろうか――。
 ともかく。
 今回は重要な証拠品でもあり、貴重品でもある弓の返却に携わる任務である。
 何としても無事に返還を済ませたい所だ。

 非常に重要な証拠品である事から扱いは慎重に行わねばならず、また紛失や破損などもってのほか。モーリィが無理して貸してくれたものである事を忘れずに丁寧に運んでもらいたい。
 また、元々この弓はカオスニアンが所持していた事、そしてそれを回収したのもカオスニアンだった事から、持ち出された事が彼らに知れれば奪い返しに来る可能性も決して低くは無い。
 そういう意味では極秘任務とも言えなくは無いので情報漏洩も出来るだけ阻止してもらいたい。
 通常の護送任務より多めの募集人数であるのは確実性を高める為であり、充分に警戒して護送して欲しい。

 これまでのおつかいでは不穏な動きこそ見られなかったものの、警戒を疎かにする訳にはいかない。
 また、道中のトラブルについても出来るだけリスクを回避しておくのが安全に弓を返却するのに必要だろう。
 逆に、強烈な個性を放つ幻獣や聖獣、ペットモンスターを従えての意識的な先制(イニシアチヴ)を取るのもひとつの手段かも知れない。今までのように、何事も無かったかのように移動をし、相手に気付かせない方法も有効だ。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●風はまだ冷たさを残し
 曇天――というには暗すぎず、晴天というには空の色が白く濁っている。
 薄曇りの、小雨まじりの空が冒険者らの体温を冷やしていた。アトランティスの気候は全体的に言えば温かい所が多い。だが、一部の地域ではまだ雪が残っている所もあるほど実は温度差の激しい事がいくつかある。セルナーとメイディアを分かつ東西にのびる山脈の標高の高い山頂などでは、地上からでもその白い肌を眺める事が出来る。
 一方で、メイディアの南側に面する辺りではもうすっかり衣替えの季節を迎え、長袖から半袖に切り替える者もいるほど。
 アトランティス、特にメイの国の土地は広大であり、それだけ多種多様な光景が見られるという事に他ならない。

 今回ユニウスの村に集まった冒険者は七名。ユニウスと面識のある者、そして弓の貸し出しについて手筈を整えてくれた魔女と面識のある者。それに加え、彼らとは面識がなく、初めて顔を合わせる者など冒険者の顔も様々だった。
「ところで、返却されるということは、もう既にヒントを得られてということですよね?」
 シルビア・オルテーンシア(eb8174)は率直に、彼の得たいくつかの改善の余地を残す部分などを再度確認の為に聞いておくことにした。
「まずは、このコンパウンドボウの特性について少し説明させてもらうよ。この弓は、見た所――間違いなく僕がいた世界のもの、つまり」
「天界の‥‥たしかユニウスさんは地球というところから来ていると聞いています」
「そう。天界と言ってもどうやらジ・アースと呼ばれる世界と僕のいた世界、地球というふたつの外界があるんだったね。僕のいた世界は『地球』、その世界で現代にスポーツ競技として使われているのがこのアーチェリーという弓。そしてコンパウンドボウというのは、その競技の中で使われる弓の種類のひとつなんだ。簡潔に言おう、これはカオスに縁のある者が造ったものじゃ無さそうだ」
 ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)も、その部分が不透明だったようで、それを聞いてふむ、と納得するようにうなずいた。
「ただ、完璧に再現することが技術的に不可能というだけで、その機構をメイ風にアレンジして組み込む事は充分に可能だよ」
「‥‥それじゃあ、もしかすると、カオスニアンだけでなく‥‥その向こうに見えるバの国にこのような弓がもう既にある可能性も」
「ゼロとは言えないね。今はメイの国に保管されていたとは言え、元々これはカオスニアンが所持していたという話らしいから」
「もし、再現するとしたら、メイの技術ではどの程度再現可能なんですか?」
 射手としての興味も尽きない、これがいわゆる最先端技術の結晶である事はイェーガー・ラタイン(ea6382)も頭では理解しているが、やはり期待を膨らませずにはいられないようである。
「うん、そこで最初の特性という話に戻して話を進めようか――」

 コンパウンドボウと呼ばれる弓の形状は一種異様な形状をしている。それはアトランティスではめったに見かけない『三本の弦で引く弓』である事。
 そしてそれ以上に、インパクトのあるリムの先端に『ホイール』と呼ばれる滑車が組み込まれている事だ。
 このような形状の弓は今現在、メイの国中の弓をしらみ潰しに探しても、片手で数えるほども無いだろう。天界製であるなら尚の事、である。
 そのうち二本の弦はケーブルと呼ばれ、滑車を動かす為の『梃子の原理』を作用させるもの。ちなみに、梃子の原理もメイでは実はあまり一般的ではないようだ。一昔前はそんな梃子の原理すら『魔法扱い』されていたのだから。
 そしてその特徴は、より遠くに、より高い威力で矢を飛ばす事が出来る、という点に尽きる。

 そして、射手が最も感じる『違い』は、ドローイング(弓の引き切り)にある。
 通常のでは引き込むに従って引き重量は大きくなり、フルドローで最大になる。弓を引き続けるかぎり引き重量は増加し続ける為、どのような引き尺であっても、フルドローでの引き尺がその射手にとっての最大引き尺になる。
 つまり普通の弓の場合体格の大きいものが引けば小柄なものよりも大きい威力を出せる、という事。
 ところがこのコンパウンドボウはそのドローイングの初期相において最大引き重量となり、その後フルドロー位置に向かって下降してゆく。

 コンパウンドボウが引きやすいと言われるのはこの引き重量の変化によるものだ。そして、『勘違いされる』最大のポイントでもある。
 実は実際にドローイングするときに必要なエネルギーは同じ最大ポンド数のボウよりも大きくなるのである。
 それは、リムに蓄えられるエネルギーが筋肉運動によって生じたものだからで、より多くのエネルギーがリムに蓄えられたということは、それだけ多くの筋肉運動があったという事を指す。
 しかしながら、ホールディングに要するエネルギーはコンパウンドボウのほうがはるかに少ないので、セットアップからリリースまでの必要エネルギーはコンパウンドボウのほうが少なくなる。

 つまり――こういう事だ。
 ドローイングの時に引く力さえ残っていれば、後はリリースまで安定させておけば常に最大威力を叩き出せる、という事。
 つまり、引く事さえできれば、大柄の者でも小柄の者でもほぼ等しく最大の性能を引き出せるという訳なのだ。
 あの女性カオスニアンが当時相対した弓使いは相当の腕を持っていたが、弓の引き合いで(状況が状況だったものの)アドバンテージを取られていたのには、そういう理由があったのだ。

「少し専門的な用語も混じってしまったかも知れないね。もし都合が良ければ、今度は弓教室でも新たに開設する事にしようか」
 そう言いながら、ユニウスは少し早口で説明した後、冒険者のほとんどが口を半開き状態なのを見やり苦笑する。
「今の話を要約すると、この弓の原理というのを使えば、あの試作品の弓も冒険者全員に等しく安定した威力を出せる弓として提供出来る、という事でいいでしょうか?」
 シルビアはメモリーオーディオでユニウスの言葉を記録しながら、情報を整理する。ユニは二回肯いてから。
「この弓の原理を再現することは、充分に可能だとさっき言った通り。残された課題は、今のところ二つ」
「二つ?」
「僕がクリアしなければならないのは、根本的な弓の総重量。この重量問題をどうするか、軽量化と強度問題とも言える」
「なるほど。そしてもう一つは?」
「君たちが欲している、スレイヤー能力だ。こればかりは僕ひとりではどうする事も出来ないんだ、僕のお世話になっている魔女はその辺りを調べに回ってくれているのだけど‥‥」

●つい長話に、魔女が来たりて
「そういえば、私たちは彼女――魔女さんの名前を知りませんね‥‥」
 思い出したように、シルビアは過去の依頼でも関わりのある彼女の『本当の名前』を聞かされていない事を告げる。
「ははは、そうなのかい? 実は、僕もなんだ」
 ユニウスは笑ってそう答えたが、今回初参加となるカレン・シュタット(ea4426)は、そういうものでしょうか? と隣にいたレフェツィア・セヴェナ(ea0356)に耳打ちするように投げかける。
「僕も魔女さん魔女さんって読んでいるけど、名前は知らないよ? あだ名みたいなものだから、気軽に呼んでいたけど」
「はあ、そういうものでしょうか‥‥」
 聞いたときと同じセリフで思わず納得してしまうカレン。しかし、付き合いの長そうなユニでさえ本名を知らないというのはおかしな話である。
「私はユニウスとも魔女とも深い付き合いとは言えないが、もしかして、誰もその本名を知らないのではあるまいな」
 思わず、回りを見渡してみるレヴィア・アストライア(eb4372)。そして見事なまでに、誰もその名を知る者はいなかった。
 導蛍石(eb9949)も首を左右に振った一人だ。
「しかし、彼女はそもそも名前を持っていたのを捨てた可能性がある。過去の因縁を振り払う為に」
 魔女との最悪に近い邂逅から彼女の進んできた道を見続けてきた導は、その最初の出会いを振り返りながら呟くように口を開く。
「そ、そんなに何か複雑な事情がおありなのですか‥‥」
 ほとんど事情を知らないカレンやレヴィアは意外な導の発言に思わずごくりと息を飲んだ。
「彼女は今でこそメイの為、冒険者の為に世話を焼いてくれる優しい女性だが、はじめて会った時は住んでいた村の村人に恐れられ、魔女はとある事情でその村人をさらうなんて事もしていた。もちろんこれには事情があって、村人たちと魔女たちの間に大きな誤解があった事から生じた歪みだったんだが‥‥」
「そういえば、年齢も不詳ですね。おっと、女性の年齢を聞くのは失礼でしたね」
 イェーガーも魔女とはそれなりに面識はあるつもりだが、どうも彼女には謎が多すぎる。必要最低限の言葉を交わすだけで、後は勝手にやってくれたり、やっておいてくれと言ってくるのだ。
 一般的な冒険者とはまるで違うやり方なのが、また不思議なのだが。

「ともかく――大まかな事は把握しました」
 ベアトリーセ他、ユニウスの目指す弓の方向性をそれぞれに理解する形で冒険者全員は一通り納得させた。
 それにユニウスの事、やってやれなくはないという彼独特のチャレンジ精神で大抵の事はクリアしてくれるだろう。
 問題は、彼一人では解決出来ずにいる、『スレイヤー能力』についてだった。

 このスレイヤー能力の根本的な解決こそ冒険者にもそれを克服する画期的なアイディアが出せぬものの、イェーガーだけは。
 一人この問題に新たな道――可能性を指し示す情報をユニウスにもたらした。
「ダイナソアスレイヤーについて、まだ解決の糸口が見付からないとの事。それで、ついこの間俺も聞いたばかりの話なのですが‥‥ユニウスさんはレミエラというものについて、何か知っている事はありますか?」
「レミエラ?」
 イェーガーの言う、レミエラとは。
 果たして。

●レミエラは光の標となるか?
「邪魔するぞ‥‥」
 イェーガーがレミエラについて話をしようとして、ちょうどそのタイミングでユニウスの家にフード姿の女性がやってきた。
 フードからちらりと覗く素肌は日焼けもない、背筋も凍りそうなほど青白い肌。しかし、妙齢にも関わらずその肌は衰えを知らないほどに張りがあった。
 ――名も無き、かつては双子の魔女と恐れられた、女性の姿だった。
 そう。名も明かさず、歳も不明。素性のほとんどが明らかになっていない『魔女』その人である。
 ちょうど魔女の話をしていたばかりだったので、初対面となる面々は先の導の発言でやや気負っているところがあった。
「ん‥‥お前達、弓の返還依頼はどうした。しっかり約束は果たしてくれないとその築き上げた信用も失ってしまうぞ」
「もちろん、これから責任を持って返す。命にかえても、約束する」
 顔馴染、という事もあってか、魔女は真っ先にユニウスとそして導の顔を見ると相変わらず冷静に言葉を放つ。
「魔女さん、ちょうどいい所に。あなたも聞いてもらえますか、レミエラの事をお話しようとしていたんです」
「ふむ‥‥お前達もそこまで情報を得ているか。さすがは冒険者という所ね。私も先日噂に聞くようになったそのレミエラについて調べてきていた」
「魔女さんも‥‥なるほど。という事は、やはり」
 イェーガーと魔女は見合い、しばらく無言だったが。
「だが、まだ決定的ではないのが問題だ。私もそれなりに魔道について研究を重ねてはいるが、あのレミエラはまだまだ未知の部分が多すぎる」
「えっと、あの‥‥」
 二人だけの世界、という会話に半ば置いていかれた格好のユニウスと冒険者たち。

「なるほどー。そのレミエラに『スレイヤー能力』を付与させる事が出来れば、武器なら弓でも剣にも応用出来る可能性があるんだ! すごいすごい!」
「だが、肝心の『ダイナソアに対するスレイヤー能力』が付与されるかどうか、まだ私はこの目で見てもいなければ成功したという報告も受けていない。そこで、私は私独自でこのレミエラの法則を調べて研究をしようと考えている」
「確か、レミエラは武器だけでなく、防具にも特殊な能力を付与する事が出来ると聞いています」
「そうだ。だから、逆を言えば、だ。ダイナソアスレイヤーは無理でも対恐獣用に特化した防具を生み出す事なら出来るかも知れないという事」
「それって、ゴーレムの武器や防具にも組み込めないものでしょうか‥‥」
 ゴーレム乗りであるベアトリーセらしい疑問が魔女に投げかけられる。
「今までの情報からすると、難しい‥‥いや恐らく無理だろう。最初から特殊能力を込めながら造る事が出来れば別だが、それは結局根本的にレミエラとは違う。ゴーレム魔法というのは精霊魔法と違いまだ非常に歴史が浅い、これから更に研究が進めば別の糸口が見つかるかも知れないが、今は絶望的であると思った方がいいな」
「そうですか、残念ですね‥‥対恐獣戦は主にゴーレムでの戦闘を想定していましたので」
「期待をもたせるつもりはない。今は無理だ。だが、『現時点』では、というだけの話だ。お前に相談出来る腕のいいゴーレムニストがいるなら具体的な説明をして、提案してみる事だな。少なくとも私は専門分野から大きく離れていてね」
「わかりました、ありがとうございます」

「結局、また名前を聞きそびれてしまったな」
 ユニウス、魔女に見送られる形でメイディアに向け出発した冒険者たち。
「きっと、いつか話してくれますよ。まだまだ時間はあるのですし」
 ユニウスの生み出そうとしている弓のダイナソアスレイヤーは完成に向け、こうして、冒険者らの協力によって確実にまた一歩完成に近付いている。
 そして、魔女のおつかいもこれで一旦の終了となる。
 ユニウスは引き続き弓の制作を、魔女は独自の理論でレミエラの研究を続ける事を約束する。

 そして。
 冒険者たちは無事、モーリィの待つメイディアへと帰還を果たした。
 コンパウンドボウとレミエラ、ふたつの大きなヒントはどのような結果をもたらすのか‥‥。
 果たして。
 ともあれ、冒険者たちは滞りなく依頼をこなし、ギルドへとその報告へ戻るのだった――。