再進攻の真相――辺境遊撃隊
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■ショートシナリオ
担当:なちか。
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月20日〜07月25日
リプレイ公開日:2008年07月24日
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●オープニング
●闇の眷属、再び
ウッドゴーレム再開発の計画提案の立案に向け、動き出そうとしていた矢先。
コーマ河上流の火災の鎮火に駆り出された格好の辺境遊撃隊こと、ホワイトホース――白馬隊。
素早い行動と連携によって火災は拡大する前に鎮火する事が出来、一安心‥‥とはいかなかった。
せっかくのウッドゴーレムの材料となる大木が何本も焼かれてしまったのだから。
それでも何とか地域の復興も始まり、植林を再開できるまでに回復したようである。
肝心の立案者であるレンジョウ・レンゲはその後、またもリザベに呼び戻され、一旦辺境遊撃隊も待機をする事になっていた。
その間、結構な頻度で出撃していたホワイトホースの整備を入念に行い、幾らかの改修も施された。
改修箇所は主に艦内設備のいくつか。特に、ナーガ様専用の部屋が一つ新たに作られる事となり、それによって、一部の資材庫が移動するなどして、ちょっとした内部のお引越しなどがされていたのである。
そして、しばらく帰っていたレンジョウが再び戻ってくる事になるのだが、不穏な噂を耳にしたのだという。
カオスの再進攻――。
一番耳にしたくない、嫌な噂だった。
やはりあの突如消え去ったカオスの軍勢は敗北したから消えたのでは無かったらしい。
状況的には疲弊はしていただろう、兵力を温存したかったというのもあるのだろう。
何せ戦力の一部である恐獣が冬期に何の役目も果たさないのだ、メイの国に『冬』があった事を幸いに思うべきだ。
しかしあの戦いで疲弊していたのは何も彼らだけではない。
この国、メイの国の兵力も相当なダメージを受けていたのだ。
だからこその一時撤退だったと考えれば、いつかこんな事になるのではないかという可能性はあったのだろう。
その噂が本当なのかはわからない。
だが、最近気温が高くなるにつれ、野生恐獣らの活動も活発化してきている。
バの国もその動きは相変わらず闇の部分が多い。そんな中、カオスニアンと恐獣の部隊がコーマ河とサミアド砂漠の間にある平原(荒野)にキャンプを張って集結しているらしいという噂が舞い込んできた。
集結してきている、という事はその未確認情報が入ってきた時よりも数が増えているかも知れない。
その報告は七日前の報告で、その実態調査の為に、今回自由度の高い辺境遊撃隊の出撃が認められたという訳だ。
●三日前の報告
その内容は、最初の報告例ではカオスニアン三体、中型恐獣が一体というもので、数はごく少数だった。ところが、その数とは比較にならないほど大きな(簡易的だが)キャンプ区域が設けられていたという。
単なる少数精鋭の遊撃隊とは思えない。
そして次の――今回の報告では、その三倍。
つまりカオスニアン九体、中型恐獣が二体、小型恐獣が四体という増援になっていたというのだ。
これ以上の戦力増加は脅威と見たメイディアは辺境遊撃隊を出撃させ、その集結しているキャンプの調査を行わせることにした。
対応しきれると判断すれば応戦しても構わないが、多すぎると判断すれば一度帰還して増援を募って再度出撃、鎮圧をはかってもいい。
状況判断は辺境遊撃隊に一任された。
●リプレイ本文
●敵の本領を探れ!
「それじゃあ、頑張ってくださいね」
そういって、イェーガー・ラタインはシュタール・アイゼナッハ(ea9387)にフライングブルームを手渡す。
「気をつけて下さい、妙な‥‥胸騒ぎがします」
「確かに不穏な動きがあるようだのぅ、ともかく、無事に帰ってくるとするかのぅ」
「すいません、サイレントグライダーは出せないそうです。でもゴーレムグライダーとチャリオットは貸し出しの許可を取り付けてきました」
シュタールのサポートとして出発の準備に奔走していた白金銀はサイレントグライダーを借りようと相談などをして来ていたのだが、今回は残念ながら借り受ける事は適わなかった。
しかし、グライダーとチャリオットは伊藤登志樹(eb4077)やシファ・ジェンマ(ec4322)等が使用するのに借り入れる事が出来た。
とはいえ、今回はこの時点で地上及び上空の部隊がほぼ単騎という状況。
空から伊藤のグライダーによる偵察、地上からシファ、シュタール、クライフ・デニーロ(ea2606)による偵察が行われる事となる。
「まあ、いいわ。今回はちょっと人数的には少ないし、元々の作戦内容が駆逐じゃなくて、相手の戦力の把握だから」
ラピス・ジュリエッタはブリーフィングに集まった四人とプラス二名を見回しながら言う。
「つい先日北東部の調査隊に同行したんだが水は兎も角、恐獣分を含め食糧を確保するのは困難だと思う。それでいて増員出来るなら補給線があるはずなんだ」
クライフは先日行ったサミアド砂漠北東部の調査団の一員として周辺を見回っていたばかりだった。その時には行きも帰りもそれらしい部隊には遭遇しなかった。
だが、乾燥帯とはいえ、何もかもが枯渇している訳ではない事も知っていた。さすがに平原地帯であるから、ほとんど隠れるような場所はない。そんなリスキーな場所を合流地点にするというのはどういう意味を持つのか、クライフにも予想はつかない。
「グライダー隊は特にその辺考慮して探って見て欲しいな」
「了解。確かに徐々に集結しているっていうのが不気味だな‥‥こっちは上空から調査するんで、地上側は任せた」
クライフは伊藤に捜索範囲での注意点を含めて互いに確認を取る。また、地上でチャリオットを担当する三人も返すように肯いた。
「今回の要点としては敵戦力の把握、クライフさんの言う補給線、それからキャンプ地とみられる場所の特に注意すべきは兵糧の保管位置などの調査ですね」
今回チャリオットの操縦を担当する事になったのは小柄なパラの女性、シファだ。参加メンバーの中ではやや経験は浅い方ではあるが、それなりに腕は認められ、実も伴っている冒険者だった。
彼女に命を預ける事になる二人の魔法使いは彼女を信頼して、共にチャリオットで移動する事になる。
なお、彼女の心配していた乾燥地帯の対処に用意しようとしていた蜂蜜と岩塩だが、ホワイトホースの食料庫にあり合わせがあったので料理長が全員分の特製ドリンクを調合して渡してくれた。
シファはその味の良さに驚いてレシピを聞き出そうとしたのだが、料理長は軽く微笑むように笑みを浮かべると皆さんが生きて帰って来てくれるまでの秘密です、と激励を込めて全員を送り出した。
「いい、全員生きて帰って来るわよ? 誰一人欠けさせない。あなたたちの背中は私たちが必ず守るから、慎重に行ってらっしゃい!」
艦長ラピスは、全員の目をじっと見ながら気合を込めて叫ぶ。
●敵影までの空と道
地上班として出撃したシファ、シュタール、クライフ。
チャリオットの操縦はシファに任せきりという事で、偵察任務には少人数という意味合いからすればちょうどいい構成なのかも知れないが、一戦交えるとなればかなり厳しい状況となるのは三人とも理解していた為、慎重に動く事を念頭に置いて行動する。
「背中は任せるとは言いましたが、まさか何かあったら大砲やバリスタを撃ちながら飛んでくるなんて事は‥‥さすがに無い、ですよね」
思わず背後のホワイトホースを見やりながら、改修が加えられたその艦の艦長ラピスのあっけらかんな性格を不安視していた。
「ラピスさんはともかく、あのレンジョウさん、それにナーガのレイネさん。二人が艦長の無理無茶無謀はしっかり抑えてくれるだろうのぅ、彼女たちを信じるしかないがのぅ」
「そういえば、あのナーガ様ブリーフィングの時もいましたね。なんでも白馬隊と共に世界の動向を見回っているのだとか。どういう事なんでしょうね」
「詳しい事はまだわからんのぅ。しかし‥‥彼女が白馬隊――というよりもレンジョウさんの目的であるウッドゴーレムの試作騎だけでなく、ドラグーンにも影響を与えるかも知れない人物であるように思う」
「ドラグーン、ですか‥‥噂には聞いていますが」
シュタールはゴーレムとナーガ族との関わりをドラグーンと結びつくのではないかと考えていた。シファはそれに何も返さなかったが、ウィルというゴーレムの先進国、その先端となるドラグーンの事については興味があったし、シュタールのその言葉にもある程度同意する部分があった。
だからこそ、敢えて何も返さなかったのである。
そんなシファだが、とてもスマートな操縦をこなすタイプのようだ。
荒野の整地されていないという地形を巧みに利用し、時にスピーディに、時に速度を殺しながら目標へと近付いていく。
搭乗騎体がチャリオットという事で彼女自身の隠密技能を全て余すところなく発揮できるかというと彼女だけでなく、二人の魔法組も乗せている事も含めてフルとはいかないまでも、必要な行動という意味では他の誰よりも慎重にして誰よりも大胆だった。
相手に気付かせないという意味では特別彼女のような能力が役に立った。
一方で、敢えて少人数の部隊を敵陣に発見させ、部隊の戦力などを測る『威力偵察』というのも場合によってはある。
その場合であっても、別に相手の出方に合わせる必要はなく、与えられた任務を達する事が出来ればそういう状況でも問題ない、というだけの話で今回の作戦がその威力偵察を兼ねているという訳ではない。
ただし、状況が深刻さを増し、危険性を孕んでいる以上、不意の戦闘は可能性として考慮しなければならないのも覚悟はしていた。
どちらにしても言える事はただ一つ。
――相手の情報の収集、これだけだ。
不気味すぎる。
これが伊藤の第一印象だった。相手の戦力が報告通りに徐々に集結しつつあるのなら、どの道必ず進攻を開始する筈だ。
いつそれが始まるのか、今のところ誰にも真相は明かす事は出来ない。
今回は日頃からグライダーによる飛行訓練を行っていた伊藤は偵察という任務においても、その訓練の成果を実戦に反映すべく単身、大空を駆けた。
やや雲が厚く、高い高度から見下ろす地上はその影が濃く広がっており視界が良いとはいえない状況であった。
更に雲もかなり低い位置にあり、頭上に薄曇、眼科には赤茶色にも褐色にも見える大地の明暗が広がっている。
高度を高く取り、安全を優先した結果、偵察内容を記録保存のために用意していた『携帯電話』のカメラ機能を使って記録しようとしたものの、あまり鮮明な画像を納める事は出来なかった。
天界で現在使われているような最先端のものでも、さすがに『航空写真』レベルの画像を撮影するのは厳しい。カメラ機能に特化したものでもそこまで鮮明な撮影が可能とは言い切れないからだ。
そういう意味では、どんなに技術が進歩してもヒューマンパワーに勝るものが無いように、最後はやはり人間の『目』と『記憶』が必要になっていた。
「規模のはっきりした写真を取るにはもっと高度を下げないとならないか‥‥」
しかし伊藤はいつも訓練の中で指導者に言われている事を思い出していた。
「冷静になれ――判断を誤れば自分だけじゃなく、味方全てに返って来るんだからな!」
まだ地上でも敵影を発見出来ていない頃、大きく迂回するような軌道で眼下を見下ろすと、伊藤はそして遂にそれらしき粒のような姿がまばらに見受けられる地域を発見する!
「あれか!」
高度は維持し、目をこらしてそれらを確認していく伊藤。だが、安全性を維持した結果正確な敵の数を知るにはやや高い高度にいた事を知る。
どこまで降りればいいか――伊藤はここで任務のリスクとリターンを脳裏で計算し、その答えを出さなければならなかった。
そしてその判断は、果たして。
●増殖する牙
チャリオットだからこそ、夜の荒野を疾走(はし)る事が出来た。グライダーではこうはいかない。
シファは料理長の特製ドリンクを口に運びながら、日中の暑いうちに比較的安全なルートを調査しておき夕方から深夜に休憩する事を決めた。休憩中は発見を遅らせる為に敢えて火をおこさず毛布を厚めに被って、夜半から朝方に息を殺すように近付いていた。
そして夜から朝方という一番交代時間の慌ただしい時間帯を狙って突っ切っていく事を目的とした。というのも、移動を担当するのがシファだけという事もあり、連続稼動というのもかなり負担になる為だ。
充分な休息時間を確保できるように、昼間に安全圏を確保し、夜から朝方に進むという作戦だったのである。
そしてそれがカオスニアンの生態の虚を突く最大の作戦であった事が明らかになった。
実はカオスニアンはその体から、闇の眷属である事を論じる専門家の意見もあり、「夜に好んで活動をしているのではないか」という仮説が実しやかに囁かれていた時期もあったのだが、実際はそんな事はなかった。
カオスニアンにしても、恐獣にしても――夜行性の恐獣がいるかどうかは不明だが――夜は安全である事を確認すれば、睡眠を摂るのである。
つまり、人間とほとんど同じサイクルで睡眠を必要としている事が判明したのだ。
そして、それが判明する約数時間前――。
グライダーからの高高度偵察を行っていた伊藤は決断する。
高い高度だからこそ気付くものがあった。不自然すぎるのだ。普通なら360°を警戒しなければならないような位置で集合する事自体、おかしい。どこか『背後』に何かがあると感じた伊藤は気になって集合地点の北側を確認してみる事にしたのだ。
そして、それが正解だった。
「ビンゴ! そういう事か‥‥奴ら、こんな所に‥‥」
シファたちチャリオット班は丁度伊藤と反対側――南側から捜索を開始していた。そしてその反対、キャンプの北側が山脈となっていた。文字通り、『カオスニアンの背中』が隠された補給路だったのだ。
敵はアトランティスを東西に横断する山脈を利用して、獣道のようなところを通って補給路として利用していた。
そこからかなり距離はあるのだが、集合場所よりももっと北側から補給を受け南側に向けて進攻を開始するつもりなのだ。平原を集合場所にしたのはそのカオスニアンが隠れて移動していたルートを暴かれないようにする囮としてこの部隊が集結していた事になる。
つまり、その補給路を叩いて現在の部隊に物資を与えないでやれば兵糧を枯渇させる事が可能だと判断したのだ。
早速伊藤はそれを確認すると、帰艦する。
「なるほど――『カオスニアンの背中』か。よく言ったもんだな。国境警備隊がいても度々カオスニアンに逃げ込まれると行方を見失っている事もあったからまさかとは思ったが、そんな所を経由してたとはね」
レンジョウも地図を開きながら位置情報を計算する。ラピスはそんな伊藤の報告を受け、その補給ラインを叩くか囮の部隊を叩くかを思案しているようだった。
「どちらかというとその補給ラインを潰すのが先かも知れないわね。この場合は国境警備隊との全面協力が必須だけれど‥‥私はあっちの連中とはあまり話をした事がないのよ」
「だが集結している部隊の詳細はまだわからない。あとはシファ、クライフ、シュタールの報告を待つしかないな」
「そう。わかったわ、お疲れ様。伊藤、あなたはチャリオット班が帰ってくるまで待機しておいて」
「了解した」
伊藤の報告によって、カオスニアンの平原キャンプの他にその背後にある『カオスニアンの背中』と呼ばれる補給物資を輸送していると思われる補給路を発見した。
一方、シファたちチャリオット班はその夜、遂に敵の実勢を確認する事に成功する。
チャリオットはグライダーとは違いかなり音的には静かな方だ。だからこそ、かなり接近しても音などで即バレたりしないのが特徴である。とはいえ、無音という訳ではないので夜という音が響きやすい時間帯は別の意味でリスキーだった。
それでもむしろ警戒レベルはこの時間の方が低い事を考えると、それなりに妥協の範囲といえた。
そしてキャンプ地に接近して、三人はそれぞれに偵察の本来の役目である――サルートとよばれるむっつの確認を急いだ。
サルートとは、規模・行動・位置・部隊・時間・装備のむっつの『頭文字読み』の事だが、アトランティスでは言葉も文字も違うのでこの『料理のさしすせそ』のような『偵察のサルート』は「言葉」としてはあまり浸透していない。
しかし天界人の知識からこのむっつの偵察内容は正規軍の偵察部隊では徹底的に叩き込まれるほど浸透していた。言葉ではなく、行動としてのサルートは既にメイの国でも行われているのだ。
正規軍(騎士団)ではない冒険者であっても、天界人の知恵はそれなりに生きる鉄則として耳にしていたので、そういう生きる為の正しい知識と経験は浸透していた。
今回はそのうち、規模と行動、位置、部隊、兵糧を重点的に調査対象とした。
それによって、新たに総勢――カオスニアン10、中型恐獣5、小型恐獣8という規模まで膨らんでいる事を確認した。
シファが案じていた兵糧だが、その様子から白馬隊のラピスとレンジョウからはおよそ十日間程度の食料や物資がある事までが明らかとなった。
規模が徐々に増えているのは揺ぎ無い事実となり、そして新たにカオスニアンの背中と呼ばれる補給路と思われる場所を特定した。
カオスニアン10程度ならば砲撃などで甚大なダメージを与える事が出来るだろうが、一番怖いのは補給路の存在だった。
今はカオスニアンの部隊の進攻そのものよりもその彼らの生命線を寸断する事の方が重要であろうと判断され、ホワイトホースは敢えてここでは戦闘を回避し、一度帰還する事を決定する。
「レンゲお姉さん‥‥」
「‥‥ああ」
「ここを叩かなかったら、探している木材も安心して探す事が出来ませんから、叩いておきましょう」
「そうだな。アタイだってそんな所をカオスニアンがうろちょろされちゃ困る」
「――『カオスニアンの背中』‥‥ね‥‥」
チャリオット班も無事帰艦した事を確認すると、ホワイトホースはメイディアへ向けて報告のまとめを送り届ける為に飛んだ。