白くて黒い、赤のマホウショウジョ

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2008年10月30日

●オープニング

●名前も黒けりゃ腹まで黒い子
 代々魔法使いの家系としてその地位築き上げてきたブラックスター家。その七代目の家長の娘で、お嬢様魔女として有名なのが、彼女、『リリカル・ブラックスター』である。
 リリカルは非常に優秀な魔法使いで、才能も努力も惜しまない秀才型魔法使いだ。
 魔女としての能力はズバ抜けて高く、スキルの高さも精度もいう事がない一見すると完璧に見える彼女だが、実は致命的な問題点がいくつかある。
 彼女、リリカルはとてつもなく(人間的に)『性格が悪い』のだ。
 自分に都合の悪い事はとにかく全て排除するというのが彼女の流儀であり、実力だけでなく、金から身分から何から何まで全てを使って邪魔者を排除していくのである!
 そして彼女が通り過ぎた後は、まるで大型台風が直撃したような草木一本残らないような甚大な被害が続出するという。

 それから、リリカルには禁句がある。
 彼女の致命的な問題点のひとつに、体型の話がある。彼女はとてもその話に敏感で、気にはしているようだが、ともかくはっきりと言ってしまうとややぽっちゃり系。
 いや、ぽっちゃりというより‥‥まあ、ここでは言及しないがともかく禁句である。

 ところが、そんな見かたによっては『純粋』な彼女は今まで恋をした事が無かった。それはそうだろう、魔法使いとして精霊との関わりを最も重要視してきたブラックスター家の中にあって、更に研究に没頭し傾倒していた彼女には色恋沙汰などというのはまるで眼中になかったのだから。
 しかし、そんな彼女にも転機が訪れた。
 彼女のライバルであり、悪友でもある金髪の少女魔法使い『テスタロッツア』がとある貴族と婚約を果したというのだ!
「あのがきんちょが私より先に結婚!? ありえないなの!」
 あまりの衝撃に、彼女はついつい黒い本性を剥き出しにしてしまう。
「これはあの小娘よりも、もっともっと凄い魔法使いを婿にもらってブラックスター家を盛り上げないとなの! その為には‥‥」
 ――そしてリリカルが導き出した答えとは。

 自分と同格、或いはそれ以上がいる可能性は低いかも知れないが、ともかく上等な魔法使いを婿に迎えるべく遂に彼女自身が立ち上がったのである!
 つまり、婿探しの旅に出よう、という訳なのだ。
 だが、一人旅というのも面倒くさい。そういう訳で、道中の面倒を軽減すべく『お供の冒険者』たちを従えて行こうと思い立った。

 だが、婿探しといってそんな簡単に見付かるものなのだろうか?
 心当たりがない訳ではない。メイディアだけでなく、メイの国には非常に優秀な魔法使いが存在する。
 それからもうひとつ、裏の目的があった。
 それが、冒険者ギルドの冒険者たちの実力を測るというものだ。
 有名な魔法使いだけではなく、あえて実力重視でブラックスター家に相応しい人物を探すのも悪くはない。彼女は血統以上に、実力主義なのである!
 そこで今回は魔法使いの実力テストを兼ねて、日頃あまり冒険に出ていない魔法使い諸君たちに集まってもらう事になったのである。
 言うなれば、逆玉の輿というやつである。
 ブラックスター家の婿ともなれば、そこそこの名前もあり、それだけで既にステータスとなるだろう。
 ある意味ではかなりの好機(チャンス)と言えるのではないだろうか?

 ところが出発前になって、リリカルは旅に出るならやっておきたい事がひとつだけあった事を冒険者たちに告げることになる。
「強力な使い魔を、ゲットするなの!」
 婿探しはどうした、という総ツッコミを受けながら、どうしても済ませておきたい問題があったのだ。
 それこそが、会話の可能な動植物の『何か』を使役する事である。
 実は彼女は自分自身の能力を磨く事には執拗すぎるほど丁寧に事を成すが、それ以外の事となると途端に面倒になってしまう。
 使い魔など使わず、全部自分でやり遂げるスタイルはある意味尊敬に値するかも知れないが、一方で使い魔も使役していないとなると、やや程度を低く見られてしまいかねない。
 ステータスというか、見栄の部分もあるのだろう。
 そんな訳で、本格的な婿探しの前に、冒険者サイドの魔法使いの実力テストと使い魔探しの旅がはじまろうとしていた。

●喋る使い魔といえば。
 使い魔というのはジ・アースの考え方ならば黒魔術的思想から生まれたもので、冒険者たちのペットとは意味合いがまるで違う。使役する事を主として絶対的な主従関係で成り立つ魔物、精霊、動物等の事を指す。
 有名どころでは黒猫やカラスなどが代表的な使い魔とされるが、一般に見られる動物達と違い、単純な指示、或いは命令された事を忠実にこなす事が可能なようである。当然難しい事は出来ないし、物理的に不可能な事はどんなに努力しても達成しない。

 そんな中、メイディアとセルナーの間にある大きな河、コーマをやや北上した辺りにある森に『喋る動物』がいるという情報を手にしたのだった。どうやらほとんど人前に現れない事、姿がややイタチ(フェレット?)のように見えた事、赤い宝石のようなものを持っている事などが判明した。
 リリカルはその謎の喋るフェレットに『運命』のようなものを感じていた。
 ところが噂ではその森には狂暴な魔物が棲んでいるという。他にも野犬や狼、蛇に獰猛な猛禽類、熊やゴブリンなどなど危険な生物がひしめき合っているらしい。かなり厳しい旅になりそうだ。

「絶対見つけ出して、使い魔にするなの!」

 もう一度だけ言おう。
 彼女、リリカルはとてつもなく性格が悪い。
 自分に都合のいい事はとにかく全て獲得するというのが彼女の流儀であり、実力だけでなく、金から身分から何から何まで全てを使って必要なものを獲得していくのである!
 そして――。
 彼女が通り過ぎた後は、まるで大型台風が直撃したような草木一本残らないような甚大な被害が続出するという。

●今回の参加者

 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7896 奥羽 晶(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5604 フェイ・フォン(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●噂がもたらしたもの。
 ――噂というのは、実に尾ひれがつきやすい。
 つきやすいというよりも、大抵は噂と真実は違っている事が多い。
 それが現実離れした話であればあるほど、その差異は拡大しやすくまた、真実とかけ離れていくものである。
 今回の喋るフェレットの話も、文字通り眉唾ものであるのは間違い無い。
 とはいえ、火の無い所に煙は立たず。何かこの情報のどこかには本当の部分が隠されているはずなのだ。
 そういう意味で、今回はリリカル・ブラックスターの直接の依頼という事もあって、その噂の真相を突き止めるべく精鋭たちが集まった!

「‥‥って、見事なまでにウィザードゼロじゃない」
 まさかのウィザードゼロ状態に苦笑したのはまだ冒険者としては右も左もわからないフェイ・フォン(ec5604)だった。
 それでも、これはこれで面白いかも、と内心では今回の捜索依頼に乗り気であった。
「(それに‥‥せっかくだから私のお婿さんを探しちゃおうかしら、上手くいけば玉の輿ゲットかも)」
 思わず口元が緩んでしまう。
「森の奥に入るという事で護衛としては我々の方がエスコートするには適しているとは思いますけどね」
 フェイの突っ込みにすかさずフォローを入れるイェーガー・ラタイン(ea6382)。

「それにしても、喋る――らしい、フェレットね。フェレット‥‥オコジョではなく、フェレット? イタチ系?」
 奥羽晶(eb7896)はアトランティスには珍しい動物もいるものなんだなぁと感嘆しつつ一応リリカルに再度その情報の確認を取ってみた。
「情報では赤い宝石を持った、喋るフェレットって話なの。宝石も使い魔も一挙両得一網打尽なの!」
「一網打尽はちょっと‥‥フルボッコは色々とやばいのでは」
 使い魔にするには確かに『力を見せる』べきではあるが、別にそれは物理的にとかそういう事ではないような気がする。
 どちらにせよ、先ずは発見された情報のあった森に近い村に立ち寄って、最新の情報を得る事にした。

●黒い森の奥底
 地元民すら近寄りたがらない畏怖の象徴とも言えるその森は、昔から草木が覆い被さって陽の光もほとんどささない、昼間でも薄暗い事から通称・黒い森と呼ばれていた。
 別に木々が真っ黒という訳ではなく、うっそうと生い茂る木々に陽光が遮断されている為らしいのだが、それゆえ独特の生態系を持つとも言われている。
 ステライド領内ではあるのだがほとんどが未踏状態であり、森の民であるエルフや地理や動植物などの広い知識を有するレンジャーなど専門職が調査すればかなりの未知の生物や植物、また鉱石などを採取採掘できそうな可能性を秘めていた。
 そういう意味で言えば今回の目的である喋るフェレットや赤い宝石というのも、まんざらただの噂、というだけに留まらない何かが期待出来そうな雰囲気もかもしだしていた。
「珍しいといえば、この翼の生えた馬も随分珍しいなの。これはあなたの使い魔?」
「い、いえ使い魔ではありませんよ。そう、ですね‥‥こういう場合は何といえばいいでしょうね」
 イェーガーは真っ白な翼を広げる天馬を優しく撫で付けながら。
「大切な、相棒、というべき存在でしょうか」
「バディってやつですよ」
「バディ‥‥?」
 時に守り、時に守られ、共に歩いて行く。冒険者の中には旅の供として従える『ペット』を連れているものもいる。
 リリカルの言うように、力でひれ伏させねじ伏せて使役する『使い魔』の定義とは違う、まさしく相棒。
 奥羽の言うとおり、まさしく『バディ』――相方、とも言える存在。
 それが冒険者の随伴、ペットである。
 箱入り娘であるリリカルにはやや、そのバディという言葉の意味にピントが合わなかったようだが、愛玩動物という意味合いでのペット、この場合はイェーガーの小さなボーダーコリーや奥羽のダッケルの事なら何となく、理解は出来る。
「私も‥‥見つけられるかな‥‥」
 リリカルの小さな呟きに、三人は深く肯いてみせる。

●突入! 危険な領域!
 こういう危険の伴う場所は冒険者たちの舞台(フィールド)である。特に今回はレンジャーであるイェーガーが先導を務めるのが何とも心強かった。
 また新米とはいえフェイもその土地感を駆使してイェーガーたちをサポートする。
 警戒心が強い動物や縄張りを荒らされて怒る動物も中にはいる。そういう野生動物の殺気をいち早く察知するのにも彼女のセンスが光った。
 何も戦うだけが冒険者ではない。文字通り『冒険』に関してのエキスパートとして育っていくのが冒険者だ。捜索関係の依頼はそういう意味でまさしく冒険者にぴったりの依頼だったと言える。
 更に厳密にはウィザードではないのだが、手品のようなトリックではなく精霊の加護を宿す天界人、奥羽も揃って、決してメンバーは多いとは言えないがそれぞれの役割をきっちりとこなす事で『ひとつのパーティ』として成立していた。
「あんまりまともにまとまっていないような気がひしひしとするけれど‥‥」
 確かに個性溢れる自己主張の強い冒険者たちではあるが、目的に対する姿勢というのは一人一人がはっきりとしており右に習えではなく自分達で考え、行動する彼ら彼女らの姿はなるほどどうしてまとまっていた。

 しかし今回の捕獲に関して、その目的と内容からしてやはり生け捕りにする事が望ましく、その為には殺傷力の無いより安全な罠を作成、設置しなければならなかった。
 イェーガーの指導のもと、本番用の罠とは別におびき寄せる為の簡易の罠を奥羽とフェイとで協力して作っていく。
 本格的なものについてはイェーガーが専門技術を用いて製作するのだが、簡単なものならばこうして指導があれば素人でも案外作れる罠もある。
 落とし穴という手もあるが、人手と時間とを考慮すると多くも作れないしそれに割く時間を捜索に回す方が効率がいい場合もある為大掛かりなものは今回は出来るだけ省いていった。
 特に捜索して目視で発見した場合、イェーガーの持つ鎖分銅は凄まじい効果を発揮する。鎖分銅そのものが捕縛に適しているからで、また近距離からロングレンジまで幅広い戦術が取れ、どんなタイプの相手でもマルチに対応する事が出来るのが特徴だ。
「とはいえ、これは最後の手段です。殺してしまう訳にはいきませんし、皮を剥いで売るという訳でもありませんから」
 しかし罠の多くはその性質から捕獲対象に苦痛を与えるものであり、その点の扱いが非常に難しかった。
 その為、殺傷力のない罠の代表である箱罠と、細い縄を細かく縫い上げて網にした網罠を設置する事にした。どちらも対象にダメージを与えず捕獲するという目的で作られるものである。
「なんか工作の野外授業みたいだ」
 リリカルはとてもつまらなさそうにしていたが、イェーガーの手伝いで作業を続けている奥羽とフェイは結構ノリノリであった。
 何よりも狩り――狩猟の時のような目的――ではない為、比較的複雑な、攻撃的なものを作っている自覚を伴わないのが初心者であるフェイには丁度よかった。

 そんなこんなで数日間は危険な森と比較的安全なキャンプの往復という形で捜索を続けてきた冒険者たち。
 だが、大型動物はその足跡や糞尿などが見当たらず、現在の捜索範囲にはほとんど生息していない事などがわかってきた。そういう意味では中型、小型の動物が住める環境であるのは間違いなく、噂のフェレットもいそうな雰囲気だ。
 問題はフェレットという動物そのものは野生にはおらず、長い毛のイタチ科や奥羽の言う『オコジョ』(これもイタチ科)は分布的に見て広い方であるため、『フェレット』ではない事の方が信憑性は高い。
「そんな捕獲ですけど対象イタチは基本夜行性であり、スカンクに代表されるように匂いで(イタチの最後っ屁ともいう)マーキングをする為、あまり森に詳しい者でなくとも鼻で確認する事が出来るんですよ」
 イェーガーはそう言いながら箱罠をその手際の良さで次々製作していく。
「狭い所が好きなので、岩の隙間や木の根元なんかにいますからきっと見付かると思います」
 さすがはレンジャーというべきだろうか。個体の生態を知る事は狩人としても有利である、そういう意味で彼の知識と技術はリリカルも納得させられるものがあったようである。

●時間切れ? 迫る刻限!
 しかし設置して回った罠に、かかっていたのはウサギ。キャンプでの食料にはなるだろうが、肝心のイタチ――いや、フェレットは見付からなかった。
 そんな苛立ちからか、リリカルもずっと不機嫌である。箱入りお嬢様のご機嫌を伺いながらの行動は冒険者たちにとっても、リリカルにとってもそれなりにストレスになっていたが、こればかりはしかし、彼女が諦めてくれる事を祈るしかなさそうだ。
 とはいえ、期限は徐々に迫ってきて、焦りも見え始めたフェイはこのタイミングしかないと『爆弾』を投下!!
 ――しようとしたのだが、あまりの事に逆上して少し頭冷やそうか‥‥などと言われて酷い目にあったりすると依頼に支障がありそうなので喉まで出かかっていたがぎりぎりの所でおさえた。
 いや、言ったら言ったできっと色々な意味で楽しい――或いは美味しい――場面になったかも知れないが別の意味で気付いたらベッドの上で目を覚ます事になるかも知れないかと思うとここは堪えて正解だったかも知れない。

 しかしウサギを捕食するイタチの生態からすればウサギが罠にかかっていたというのは実はかなり『フェレット』に近くなっていたのである。
 また、同じようなげっ歯類を狙う事も多い。だからウサギが取れたのは決して彼らが的外れな行動をしていた訳ではない事がわかるだろう。
 だが目的はあくまでも喋るフェレット、知能も高いだろう。もしかすると罠である事すら見破られている可能性がある。
「やっぱり無理なの‥‥?」
 リリカルもこの数日の成果に諦めの色を隠せないでいた。
 こんな時、本来は気の利いた言葉で慰めるべきなのだろうが、こればかりは成果をあげる以外にフォローのしようもなかった。
 ただ、唯一の救いは近隣の村の住人が言うほど荒れた、危険な場所ではない事が明らかになった。
 では、なぜここが危険な場所であると言われているのか。
 人を寄せ付けたくない理由がそこにあるのだ。
 それを知るには時間が足らないが、何か古くからの言い伝えで未開の森にする必要があったのだろう。その畏怖の象徴が恐ろしい怪物かのように噂されていたのだ。
 とはいえ、全く危険な動物がいない訳ではない。毒を持つ生物、たとえばヘビや蜘蛛などといったものは注意しなければならないし夜行性の動物の特性から警戒は怠れない。
 それでもしっかりと役割分担をこなしていた冒険者たちからすると、その一見地味な捜索が最後のチャンスを招いたのである。

●ひっそりと佇む、ほこら
 イェーガーの言っていたように、岩場などの隙間も重点的に調べていた時の事だ。
 森の中に場違いな小高い岩場があった。どう考えても元々そこにあったものではなく、例えば火山などで打ち上げられた岩石がここまで吹き飛んで落ちたような、そんな印象すら受ける場違いさだった。
 或いは、隕石が落ちたような。クレーターなどが見られない為そうではないという事が奥羽のよって証明されたが、ともかくせっかくだからと詳しく調べてみたところ、それが今回の一番の収穫になったのである!
「少し加工された跡があるみたいですね」
「隠れ家みたいね」
 岩をくり貫いたような穴があり、そこに人が入れそうな気配だ。一番体の細いフェイが中に入る事にした。
「リリカルさんには無理だもんね――」

 言 っ ち ゃ っ た 。

 だがここで奇跡が起こった!
 顔面蒼白のイェーガーと奥羽をよそに、リリカルは何か考え事をしていたらしく、見事なまでに『聞き逃して』いたのである!
 九死に一生、フェイは本日の運を使い果たした格好になったのかならなかったのか。それはともかく、フェイが中に入ると更に驚きの光景が彼女を迎えた。
「ちょっと、ランタン貸してもらえる?」
「あ、はい。どうぞ」
 そこに広がっていたのは――間違いなく、人工的に掘られた――『ほこら』のようであった。
「赤い宝石ってのは、これの事だったんだわ‥‥」
 噂は必ず尾ひれがつく。
 だが、何のためにこんなものがこんなところに眠っているのだろうか。

 それは確かに『そこ』にあった。
 人工的に掘られた穴の中に埋め込まれている‥‥いや、正確にはその岩に含まれる鉱石こそが赤い宝石の正体だった。よく見ると、岩場の外も抉り取られたり削られているように見える部分があった。
 宝石質なのかどうかは不明だが、一見すると確かにそれは赤い結晶だった。光を当ててみると細かくちらちらとその反射が見てとれる。
 大きなものでも小指の爪ほどの結晶だった。
 今はもうほとんど人が触っていた形跡はなく、無価値なのかも知れないが少なくともそれは確かに赤い宝石だ。
 噂の正体に、遂にたどり着いたのである。
 残念な事に喋るフェレットは見付からなかったが、噂の赤い宝石は確かに『そこ』にはあった。
「魔力を帯びているという訳でなし、これを全部崩しても大したものにはならなさそうね」
 落胆の表情で肩を落とすリリカル。

 結局使い魔候補のフェレットもおらず赤い宝石も期待に胸を膨らませるほどのものではなかった。噂はやはり噂でしかなかった、という事だろうか。冒険者たちも少々拍子抜け状態であった。
 一応、成果を持ち帰るためにフェイに頼んで岩のほこらの中にあった大きめの鉱石を掘り出してもらい、それを今回の成果とする事でリリカルは無理矢理納得し、冒険者たちもようやく安堵の溜息が漏れた。
 だが、転んでもただでは起きない彼女の事、まだまだ野望を諦めてはいないようである。
 またいつか、必ずリベンジを果たすと自分勝手に誓って、今回の依頼は終了の合図となった。
 そして最後までリリカルを護衛して帰った冒険者は、小さな収穫の報告の為冒険者ギルドへと帰還を果たした。