盗まれた宝石を追え!

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2006年12月26日

●オープニング

●宝石の行方
 新造遊覧船『ララ・ユウ』号沈没事故調査から数日。ララ・ユウ号の沈没事故の原因は一端は解明されたものの、ジュエリーデザイナーが捜索依頼していた宝石類は綺麗さっぱり現場から消え失せていた事が判明した。
 盗み出されたかどうかは定かではないが、宝石類や宝飾品など貴重品だけピンポイントで消えていたらしく、その鮮やかな手口から、実は今話題の『美少女風水怪盗らんま』が盗んだのではないか? という噂が広まる。
  そんな中、なんと盗まれた宝石と思われる宝飾品の数々が裏オークションで取引されているという情報が官憲アーケチのもとにリークされた!
 しかし、あの『らんま』がそんな事をするだろうか‥‥?
 過去何度もらんま関連事件を担当してきた官憲アーケチはその噂を信じられずにいた。
 盗んだ宝石を更に裏取引するなど、今までの彼女の手口とは到底思えない。
 リークされた情報の裏を取るべく、潜入捜査の為にアーケチは裏オークション会場に足を運ぶが、すでに後の祭。一足遅く会場はもぬけの殻となっているのだった。
 取引された宝石はどこへ消えたのか?
 そもそも、一体誰が沈没船の内部からあの高価な物品だけを狙い盗んだのか?

 更にその数日後、またも裏オークションがあるという情報を得たアーケチは今度こそという思いを込め、単身突入を決意する。
 ところが情報はまったくのガセ。
 向かった先は正式に認可された公式オークション会場だった。ところが、その会場でアーケチはらんまとばったりと会うのだった。
「おひさしぶり、なのかな? アーケチくん」
「その声は‥‥まさか!」
「大丈夫、別に何もとったりしないよ。けどね、ちょっと気になる事を耳に挟んだんだ。聞いておく? それとも、ここで騒ぎを起こしちゃう?」
 背中ごしにやりあう二人。
 彼女の話は、こうだった。
 三日後、ララ・ユウ号から盗み出されたという噂の宝石たちがまた裏オークションに出展されるらしい。
 特殊会員制オークション形式のイベントで非公開で行われるという。イベント自体は事前に認可されているがサプライズがあるという噂がちらほら聞かれており、恐らくそれが例の宝石たちなのではないかというのだ。
「それがもし本当なら‥‥」
「盗んだものを裏取引で売買するなんて。盗んだひとも、それを買っちゃう人も、どうかなーってね」
 彼女は間違いなく乗り込む気でいる。
 らんまを阻止するにしろ、裏オークション取引を中止させ、違法行為としてしょっぴくにしろ、どちらにしても突入は必至である。

●盗まれた宝石を追え!
 事実上の犯行予告を耳にした以上、黙ってらんまの犯行を見過ごすわけにはいかない。
 しかし、本当の目的である裏取引を中止させ、もしその宝石が盗まれたものだとしたら押収しフォック氏に返還しなければならない。
 アーケチは裏取引を中止させるべく、冒険者ギルドに協力の要請をする。

 いつもは敵同士のアーケチとらんま。だが、今回ばかりは狙いはひとつ。
 奇しくも美少女風水怪盗らんまとの共同戦線となるのだが、一方で彼女の犯行をも阻止しなければならない。
 今回の任務は違法取引がされるというオークション会場へ突入し、現場で証拠品を押収。盗まれたものであると判断された場合は元々の回収依頼主であるジュエリーデザイナー・フォック氏に返還するものとする。
 仮に返還された場合、フォック氏からは特別ボーナスが与えられるらしい。

 突入理由ははっきりしている。
『美少女風水怪盗らんま』がオークション会場に潜入し、宝石を盗むという予告をしてきた事による強制捜査だ。
 しかし警備の者がアーケチたちの侵入を阻止するかも知れない。彼らとの衝突があるかもしれないが、業務執行妨害を適用する事も可能である。
 非常に強引な手法だが、時間の猶予はない。
 果たして、情報は今度こそ本物なのか?
 盗まれた宝石は発見されるのか?

●今回の参加者

 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb8357 クリスティン・ロドリゲス(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9812 シルヴァ・クロイツ(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9916 八社 龍深(38歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 ツヴァイ・イクス(eb7879)がアーケチたちと共に会場へ突入する前に仕入れてきた情報の中には、実は偶然にも不思議なタイミングでとある護衛依頼がギルドに提出されていたものがあった。
 届け出は必ずアーケチを通さなければならない、というものではないし、ただの護衛任務であったかも知れない。どちらかというとアーケチら官憲は冒険者ギルドに協力の要請をする、いわば依頼者側の人間である。
 だが――その護衛対象は例のオークション会場であり、『偶然』にも、裏取引が噂される当日の任務だった。
 ツヴァイはスパイとして潜入し内部から撹乱を狙い、混乱を誘う為に参加枠があるか探ったが残念ながら予定枠はすでに埋まっていた。
『不思議』なのは、極秘任務として参加者の名簿を確認することが出来なかった事だ。これは依頼側の要望だったらしい。
 ある程度の情報開示はギルドでは通常的に行われるが、依頼者が厳重に設定した依頼であればそれを尊重するというのも、通常的に行われていた。

 会場の見取り図は比較的楽に確認を取る事が出来た。それによると会場自体は主に催し物などで使われる一般的な中ホール程度の多目的会場だ。
 もう少し規模の小さい小ホールなどは個展などを催す事もあるが、中ホールとなると団体主催のものが多くなる。今回も表向きは団体の主催で、特に疑わしい部分は見つけられないまま許可を受け、オークション当日を迎える事になった。

「ドロボーと官憲がグルになって、犯罪者を検挙しようってハナシだろ? よっしゃあ、一丁やってやろうじゃねえか!」
 鼻息荒く、握りこぶしをふるふるっと振るわせるクリスティン・ロドリゲス(eb8357)に、アーケチはこほん、と咳払いをひとつくれてやる。
「別にあいつと組んだつもりはない。私はあくまでも彼女の犯罪を阻止したいだけだ。そして、同様に裏取引も阻止しなくてはならない」
「海に消えたという謎の宝石。それが急に見つかったなんてな‥‥本当にあるのかガセなのか」
「どちらにしても、通常のオークションとは違うという事はらんまの犯行予告で予測は可能だな。あいつは『まっとうなモノ』を盗んだ事など一度もない。だから、遊覧船から奪われた宝石は彼女の犯行だという噂があったが、私には彼女がやったとは思えなかったのだ」
 ――美少女風水怪盗らんま。
 その正体と犯行目的は未だ明らかではない。
 彼女の通り過ぎた後には、ある時は元の持ち主のもとに返却され、ある時は被害者である犯罪者に鉄槌を下してきたという背景がある。
 だから、らんまの事を正義の味方だとか義賊と呼ぶ者が多いが、アーケチはそれを阻止しなくてはいけない立場にあるのだ。
 犯罪者や罪を罰するのはアーケチたち官憲であって、怪盗のする事ではない。

 突入作戦の打ち合わせと事前準備は、会場からの逃走経路の封鎖から封鎖領域への誘導作戦、裏取引をほぼ同時に阻止する事が目的である。
 その為、陽動作戦としての会場への攻撃は器物破損の恐れがある為最小限に留める事が強く求められた。いくら捜査の為とはいえ、ド派手に何でもかんでも物理的に破壊するというのはアーケチの首が飛ぶ可能性が否めないからだ。
 よって、魔法などの攻撃で会場自体に傷が付いたりしないよう細心の注意を払って挑まなければならない。会場の爆破など、もっての他だ。
 何よりこの会場を利用するのは通常、一般に開放されているものであって、悪の巣窟などでは決してない。例えそれでも街に被害が及ぶような事があっては、アーケチもお上から『カミナリ』が降ってくるのだ。まったくもって頭の痛い話である。ライトニングサンダーボルトどころの話ではない。

 今回は結局のところ会場自体は貸切状態であり、一般は入場不可という事で警備の人間が巡回警備を行っている。
 一般人が間違って侵入するのを防ぐ為である。会員制の特殊な限定オークションなのだから、今日ばかりは入りたくても入れないのだ。
 そういう意味でティス・カマーラ(eb7898)のリトルフライを活かした屋上からの潜入は非常に合理的でシンプルだが、限りなく正解に近かった。
 それからティスの囮に使おうとしていたライトニングサンダーボルト同様、八社 龍深(eb9916)のファイアーボムは、大きな音を立て警備の目を欺くという手法であれば非常に効果的に作用する。
 何も直接破壊などしなくても、一瞬のスキを見せればまず間違いなくらんまの潜入は成功する。それでなくとも彼女の理不尽すぎる神出鬼没な登場シーンは驚きを通り越して笑ってしまうほど華麗で絶妙だ。
 アーケチはらんまを頼りにしている訳ではない。だが、これまで彼女を追い続けてきて、『彼女のやり方』を捜査のカンで近い所まで探り当てて来ているのだ。
「警備してる人たちって、裏取引の事、知ってるのかな? アーケチさん」
「いや、恐らくは知らされていないだろう。我々が突入する事にも知らないはずだ。何より、ギルドでの依頼は認可された依頼になっているだろうからな」
「それは、確かに‥‥犯罪者を助長するような依頼をギルドが受けたなんて事が知れたら、ギルドの信用もガタ落ちだもんね」
「そういう事になるな。そういう意味でも、彼ら警備の人間も結果的に被害者という事になる。知らずに悪行に加担している事になってしまうんだからな」

 緊張感が高まる中、物を壊さない『破裂の狼煙』があがる! 激しい炸裂音と共に雷が降り注ぎ、炎が巻き上がった!
 天災以外で不審な物音が外部から聞こえてくるとなると、警備の者たちものんびりとはしていられない。
 逆に警戒のスイッチを入れてしまう結果になったかと思われたその瞬間――。
「ふっふーん。アーケチくんたち、意外とやるじゃない?」
 細すぎず、かといって決して太くはない、透き通るような少女特有の甘い声が、ざわめく会場の中に響き渡った。
 混乱したのは、間違いなく仮面を被ってやってきた限定会員たちだった。何も知らない会員たちは慌てふためき、一瞬でパニックに陥る。
 らんまにとっても、突入開始を告げたアーケチたちにとっても、この混乱は非常に好都合なものとなる。
「よし、着地成功‥‥っと。いくら警戒してても空から来るなんて注意しないものなのかな?」
 屋上から逃げるような者がいればティスのいる屋上への昇降口に動きがあるはずだが、ティスがここに降りて来たのは正解だった。
「もしかしたら、らんまが屋上から逃げるかも知れないな。もう少し待機しておこうっと」

「おらおらおらー! 正義の味方のお通りだぁ!」
 どう考えても正義の味方とは思えない口ぶりで不敵な笑みを浮かべ、文字通り『特攻』するクリスティン。だがその瞳はどこか冷静なものに映る。粗暴に見える口上も彼女の戦術なのだ。
「よし、時間か」
 裏口にはすでに簡易封鎖し簡単には破れないようにしてある。シルヴァ・クロイツ(eb9812)と八社の裏口陽動作戦が開始された。
 アーケチ、ツヴァイ、クリスティンの正面組。シルヴァ、八社の裏口組。屋上のティス。
 そして、らんま。
 役者は――出揃った。

 警備の者達も、参加者らの安全を確保するのに必死で、どうしても外側は手薄になってしまう。
 攻めると薄まる防御、防ぐと薄まる攻撃。それを補うのが中衛だ。
 今回アーケチたちが突入して、警備側の中衛が機能しなかったのは奇蹟に近かった。それもそのはず。
『守るべき対象』が多すぎるのだ。
 参加者、主催者、出品された品、そして、会場そのもの。
 その全てを守らねばならない彼らとは違い、アーケチたちの狙いはひとつ。
 狙いを絞り込める側とその狙いを見定め防衛する能力。ヒューマンパワーだけが求められるその短期決戦は、あっという間に収束した。
 突入後まもなく、フォック氏とによる宝石画を用意していたアーケチは、出品された疑惑の宝石たちを確認する!
 らんまの犯行予告を事前に知らされたアーケチは、名目上宝石が『本物かどうか』を見定める権利を得たからだ。

 取引が成立するすんでの所だった。主催者はその場で拘束され、彼らを護衛対象とする冒険者らはその実態に絶句する。
 主催たちをまとめて一時拘束した頃には、陽動でド派手に炸裂させた爆発音で応援に駆けつけた部下たちも到着した。

「あれ、らんまは?」
 屋上から確認しながら降りてきたティスがアーケチたちの元に戻ると、すっかり一まとめにされれた人の束。
「いや、私は確認していないが‥‥どうも彼女の声を聞いたものがいるようだ」
「じゃあ屋上からは逃げてないって事か」
「裏口からも逃げられはしないだろうな」
「それじゃあ、らんまって奴ぁどこに消えた? っていうか、何かを盗んだのか?」
「ああ、だが、宝石や出品されたものではない」
 アーケチは頭をひねりながら、相変わらず晴れない疑問の表情をうかべながら、こう言った。
 それはオークション主催が用意していた参加者名簿の一覧だった。そこには参加者たちだけでなく、主催の――これは後日判明した事だが主催側は全て偽名だった――名簿だ。ついでに今回警備に参加した冒険者一覧も別紙ごと持ち去られたらしい。

「遊覧船から盗まれた宝石であると、フォック氏から確認が取れた。無事、持ち主に返還されたという訳だ。今回、色々と無茶な協力をさせてしまった事には深い反省と感謝をしている。本当にありがとう。らんまにはまんまと逃げられてしまって非常に申し訳がないが、ともかく宝石の奪還を果せた事はとても嬉しく思う。盗まれた名簿の写しを読んでみたが、主催側の名前が偽名だった以外、特にこれといった疑問点はなかったように思うのだが、それを何故盗んだのかは、現時点では判明していない。これで事件は一旦の終幕だな、お疲れ様。以上だ――解散!」
 なお、後日フォック氏からの礼金が依頼参加者に追加で与えられた事は確認されている。