ナーガ族の溜息

■ショートシナリオ


担当:なちか。

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2006年12月27日

●オープニング

●ナーガ族――竜人族と呼ばれる、竜の眷属である。
 アトランティスでは知賢ある隠遁者であり、精霊竜を信奉するアトランティス人にとっては、天界の言葉で言うと『神の眷属』に近い。その能力も竜に準じ、翼を持ち炎の息を吐き、まさに『竜人』の名に恥じない能力を持っている。
 彼らの多くは世俗との関係を絶ち、小さなコミュニティを作って生活している。それは自分たちの能力が、あまりにも強力であることにも無関係では無かろう。彼らのメンタリティに争いの選択肢というのはあまり無く、要は、現状の『人間の時代』を容認し不干渉を決め込んでいるのだ。少なくとも、メイの国ではそうだ。
 そんな異世界版の仙人みたいな存在のナーガ族が、とある村に現れた。
 こういった自体は非常に稀ではあるがいくつか前例があり、以前、傷付いたナーガ族の女性を介抱しナーガの村の危機を救ったというケースもあったため村の長老はすぐさま分国領主のもとへと連絡を入れた。

 ナーガ族の女性は分国領主との連絡を受けた後、早急の事態という事で謁見を許可される。
 一度は退けたカオスニアンと恐獣たちが再び強襲してきたというのだ!
 その数実にカオスニアン地上部隊六体、地上の恐獣が二体、そして飛行恐獣が二体。大規模な部隊ではないが、奇襲ともとれる狡猾な手段で襲い掛かった。
 夜明け前に強襲した彼らは地上から空からの二点同時攻撃で襲い掛かり、ナーガ族を混乱させる。
 だが、おかしな事に今回はただ単に彼らを襲うだけでなく、破壊の限りを尽くした跡にはナーガ族の先祖代々が眠る神聖な墓が荒らされていたという。
 ただでさえ神聖視されているナーガ族の魂が眠る墓を暴き、納められた遺体を奪う行為はタブーを通り越してまるで悪魔の所業である。
 しかも彼らの暴力は連日のように行われ、ナーガたちも疲労の色を隠せなくなってきてしまった。

「ナーガの肉や鱗は貴重で、高く売れるからでは?」
 カオスニアン研究者の一人が仮説を打ち立てる。
 人魚の肉を食うと不老不死になれる、という天界にもあるおとぎ話にも似たオカルトが信じられているかどうかは定かではない。
 しかし人間にとってのナーガは神にも等しいが、カオスニアンにとっては武勇を打ち立てる為の獲物でしかないのではないか。
 だが、それだけではわざわざ墓を暴く事の説明がつかない。

●混乱と混沌
 そんな中、最悪の事態が引き起こる。殺されたナーガ族の遺体もカオスニアン共に奪われてしまったというのだ。
 カオスニアンたちは何故、どういう目的でナーガ族の墓を荒らしたのか。
 そして、強襲した彼らが殺害したナーガ族の死体までもが奪われている。
「本来は自分達で何とかしなければならないところだが、仲間たちは先日のカオスニアンの襲撃で傷付いている。先祖代々、我らの魂を奪うだけでなく、弔うことすら出来ぬのはあまりにも無念すぎるのだ‥‥」
 怒りに震えるナーガ族の女性はしかし、成す術なくうなだれ、せめて同朋の遺体だけでも回収したくその捜索と回収の協力を仰いだ。
 今回は以前あったような『巨人の襲来』こそ再来していないが相手はカオスニアンと、凶悪にして狂暴な恐獣だ。
 分国領主は早急に私兵と冒険者を募り、使者を送り出した。

 ところが、この墓荒らしから続くカオスニアンたちの謎の行動は意外な場所へと続いていた――。
 灼熱の砂漠の果て、夜も明けきらない早朝にサミアド砂漠を駆ける恐獣の姿があった。
 その上にはそれを操るカオスニアンと、殺されたナーガの死体。偶然サミアド砂漠調査隊の護衛任務を担当した冒険者が発見し、その時は任務との兼ね合いもあり接触や戦闘は避けたものの、非常に印象的だったと語る。
 ナーガ族の村から遥か彼方の砂漠の地に何があるというのか。そしてナーガの骸はどこへ運ばれようとしているのか。

 ――そこにはナーガ族のみにしか得ることの出来ない技術を狙う陰謀の影が潜んでいた。

●今回の参加者

 ea0266 リューグ・ランサー(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2504 磐 猛賢(28歳・♂・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb8122 ドミニク・ブラッフォード(37歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

バルディッシュ・ドゴール(ea5243)/ アッシュ・ロシュタイン(eb5690

●リプレイ本文

●ナーガ族――竜人という名の卓越した存在。
 アトランティスに深く根付いた竜信奉は、ドラゴンという存在を含む畏怖の念と共に並べられる事が多い。宗教とは別の意味合いで、実際に存在する竜の姿を人々は神聖視する事は間違いなく『ある』だろう。
 しかし、カオスニアンにはじまるカオスの影と対極ではあるが、その存在を人間から遠い場所に置くナーガ族は姿を見せない分、実はとても不確かなものでもあった。
 実際、教育を受けていない者ではじめてナーガ族を見た者は『それ』を一目でナーガ族であり竜人と呼ばれるものである、という事に気付かないほどだった。
 特に女性のナーガは男性のナーガとは違い、下半身が足ではなく、蛇のような形状を持っている。一般に言う『竜人』とは、男性のナーガのそれを指すという事など、知るよしもない。

●その村は地図になく‥‥。
 ナーガ族の隠れ住むという村がある。未だかつて彼らの村に『迷い込んだ者』はいない。少なくとも、人間やデミヒューマンがナーガの住む村に来訪したという記録はない。
 だが、その記録を見事なまでに蹂躙したのが、厄介な事に、カオスニアンだった。どうやって探り出したのかはわからないが、ごく最近になってカオスニアンの襲来が頻繁に起こっている。
 一旦退けても、また数日。或いは期間を置くと、また繰り返し襲ってくるようになってしまった。
 近所の悪ガキがいたずらしにやって来るのとは、あきらかにレベルの違う、執拗かつ悪質な奇襲だ。

 ナーガの女性レイネと共に急行した冒険者たちが見たものは、一度は復興したもののまたしてもカオスニアンの手によって蹂躙され、疲れ果てた村の姿だった。
「これは‥‥酷い‥‥」
 クウェル・グッドウェザー(ea0447)は辺りを見回すと、悲しそうな表情で首を振る。
 村長の家に集められたナーガ族の生き残りと冒険者たち。風 烈(ea1587)ルイス・マリスカル(ea3063)磐 猛賢(eb2504)らの提案によって、村のナーガ族を一時的に一箇所に集合させると、防衛体制を整える用意を支度する。
 迅速な行動によって、再襲撃を迎える前に出来うる限りの策は取った。
 もし再度襲い掛かってくる事があれば、そこは腕に覚えある冒険者だ。容赦なくやって来るカオスニアンや恐獣たちをも屠る事が出来るだろう。
 カオスニアンたちの行動の裏をかき、逆手に取って拠点を奇襲するという案も出たが、結果的に意見がまとまったのはナーガを守る事だった。

●決戦は金曜日?
 村に到着してから二日後の早朝、カオスニアンたちに動きがあった。
 早朝といっても、まだ空の半分は濃い群青の闇。うっすらと、これから世界が目を覚まそうとする間際の事だ。ルイスの提案による半々の二交代制の警備網に、彼らはまんまと引っかかってくれた。
 磐が防衛線上に簡易式の感知トラップを仕掛けたのが功を奏した。今回も易々と奇襲が成功するであろうと、カオスニアンたちは慢心していたのだ。
 あっけないほど簡単な足止め兼、撹乱作戦の術中にはまるカオスニアンと地上恐獣たち。一瞬の戦力分断で先に到着してしまった飛行恐獣二体は、味方の援護を失い、それも気付かず突っ込んできた。
 はっきりとはその姿を確認する事は出来ないが、大きく広げた翼には鳥のような羽はなく、どちらかというとグライダーのような細身でありながらしっかりした骨と薄い膜で形成されている。暗闇に紛れたそれは、天界に生息するという『コウモリ』のような翼を持っていた。
 しかし相手の数とその『的』の大きさがはっきりすれば、戦い方はまるで楽になる。大きく広げすぎたその異形の翼は、単なる『大きな狙いやすい標的』に成り下がるだけ。
 ルイスは真っ先にグリフォンに騎乗すると、対空魔法での迎撃の時間稼ぎと各個撃破の為の撹乱の為、まだ明けきらない大空へと舞い上がった!
 ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の迎撃魔法組は、遅れてやってくる筈のカオスニアン地上部隊に注意しながらリューグ・ランサー(ea0266)やクウェル、風、磐らの援護を受けて飛行恐獣の殲滅に専念する。
 体格の大きさも狙われてしまえばただの的。しかも翼を集中的に痛めつけられれば、生命線である『飛ぶ』事すら許されない状況となる。果たして飛行恐獣は増援の期待も空しく墜落していった。
 恐らく、もうしばらくはその翼も動かす事は出来ないだろう。空からの一撃が繰り出せない飛行恐獣など、後は自然に生きる動物たちにとっては格好の餌食になるのは目に見えている。二体の墜落を見届けたルイスは、地上部隊を追撃すべく周りを見回した。

 感知トラップの位置と飛行恐獣が飛来してきた位置とを逆算すると、奇襲に大失敗したカオスニアン共の場所もすぐに特定できる。
 リューグ、風の二人はルイスの上空からの適切な指示を受け、それぞれの愛馬で地上部隊の戦力を更に分断する為、突撃する!
 魔法組の護衛を兼ねつつ、クウェルたちは地上に降りたルイスと合流し、先陣を切ったリューグたちの援護に回った。
「死者の眠りを妨げる外道が、ただで帰れると思うな」
「名前の通り本物の混沌だな、お前らは! ナーガの遺体はきっちり返してもらうぞ!」
 風の――まるで暴風のような、荒ぶる拳と、リューグの槍による突撃で崩れかけた陣形に輪をかけて、形勢を立て直す時間を与えぬままカオスニアンを混沌に陥れた。
 カオスの者共を混乱、混沌の淵に追いやるというのは、ある意味最高の皮肉であり最高の屈辱であり、そして最高のダメージである。
 地上恐獣はそれほど大きくはないが、その狂暴さと予想以上の動きの素早さを持っていた。動きを鈍くさせたり封じたり、足元を狙う作戦通りに事が運ぶとそのフットワークにも乱れが生じ、付け入るように追撃すると見事なまでに深い傷を与える事に成功した。
 陸空の恐獣が全滅すると、カオスニアン達も焦りが生じたのか退却の姿勢を見せはじめる。
 ナーガの遺骸を取り戻す為にも捕獲し尋問しようと、少なくとも一体は生きたまま捕獲する事に重点を置き懸命に追いかけるが、その逃げ足は速かった。しかも、彼らは元々そういう行動を取るのか知れなかったが、森の中であるという最大の利点を活かし、そして逃走経路を辿られないようにする為なのか、木の枝と枝との間を飛び抜けて行ってしまった!
 そこには愚鈍な者だというイメージはまるでない。まるで天界でいうところの『ニンジャ』のようなアクロバティックな逃走劇が繰り広げられたのだ。
 必死で追いかけたが、森の中では入り組んだ自然の迷宮効果のおかげか馬で追いつく事は出来なかった。
 深追いする事は無理をすれば可能だったかも知れない。だが、それをしなかったのは、思った以上にナーガたちに傷を負った者が多かった事に他ならない。
 一応のカオスニアン襲撃を阻止したと判断し、追走していた冒険者たちも唇を噛み締めながら村に引き返した。

●逃した希望とレイネの決意
 カオスニアンの撤退を確認すると、クウェルたちは負傷者たちの回復に注力しながらも、情報を握っている可能性を持つ者たちを逃してしまった事に後悔の念を隠し切れずにいた。
「せめて、砂漠を渡っていったというカオスニアンの情報が確実なものであれば‥‥」
「いや、仮にそうだとして、だ。砂漠は広いぞ? どこにいるのかも知れない。それに今も拡大してるっていうぜ。今の状況じゃ手がかりを失っちまった、うかつに動けないだろう」
 クウェルの言葉に、悔しさを共にするリューグは苦虫を噛み潰したような表情で返すしかなかった。
 そこで冒険者たちは、ナーガ族に奇襲の原因となった墓や墓荒らしの現状について問い掛ける。
「墓所の状態を確認したい。構わないか?」
 ゼディスの一言で、レイネと冒険者一同はナーガ族の眠る墓を訪れた。
 えぐり取られるように土がめくり上がっている場所がいくつか見て取れる。墓標は無残に横たわっていた。
「襲撃される理由に足る、心当たりは」
 単刀直入に、問い掛けるゼディス。だが、レイネはゆっくりと首を左右に振るだけ。
 無作為にえぐり取られた跡は、酷く悲しいものに見える。そこには確かに安らかに眠る死者の骸があった筈の場所だ。
 何かの研究材料の為なのか、その生態を調査する為なのか、或いは。
 どちらにしても、断りもなく無断で奪い去る手口は非道極まりない。カオスニアンが逃走した事で一時的には無念を晴らす事が出来たが、奪われた遺骸の回収は絶望的となってしまった。

 後味の悪い終幕にただ拳を握り締め、唇を噛み締めることしか出来ない冒険者たち。だが、一方ではナーガ達の村を守りきり、カオスニアンの襲撃を退けた事には何ら変わりはない。
 ナーガの女性レイネは村の回復に尽力した彼らに深く頭を下げると、冒険者たちの耳にした情報――砂漠に遺骸が持ち去られたらしいという目撃情報を元に、再度捜索願いの為、領主のもとへ行くという。
 本当かどうか、見間違いかも知れない不確かな情報だけに、彼女は村の長と相談すると単独で砂漠に乗り込む事を決心する。
 彼女の願いは叶うのか。本当にカオスの穴があるというサミアド砂漠に乗り込むつもりなのだろうか。
 ――もしかすると本当に『一人』でも砂漠を渡るつもりなのではないだろうか。
 あまりにも無謀な決意に唖然とする冒険者たちは、さすがにそれは無茶だと説得はしたものの、彼女の、強い先祖への思いは揺らがなかった。
 そこで冒険者たちはギルドに報告を持ち帰るついでに、レイネを護衛しつつ帰還する運びとなった。