死して尚猛々しきは

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月05日〜11月10日

リプレイ公開日:2006年11月12日

●オープニング

 乾いた風が森の葉を揺らし、葉の擦れる乾いた音が夜明間近の静寂の邪魔をする。いつもの、誰が見る事もない情景。そう、いつもならば。
 誰もいない森の中を、誰かに見付からない様慎重に、そろそろと進む一人の人間。男は、何か探している様だ。
 やがて、枝にくくり付けてある布切れを目で確認すると、その先の窪みに近付いていく。
 大人の男性でも数人は隠しておけるであろう広さの窪みの中に、茶色の大きな塊が有るのを見つけた男は、静かに口の端を持ち上げた。
 傍らのロープを引っ張り、全て袋にしまう。布切れが今しばらくほどけないであろう事を確認すると、男は静かにその場を立ち去った。
 それが、この場所を訪れた今日最後の来客である。

「熊ですか‥‥」
 ギルドの受付が依頼主の話を聞いている。
「十数メートル離れていたのですが、見た感じかなり大きな熊でした。とにかくその時は逃げるのが精一杯で。次の日用心しながら森に行き、作物の入っていた袋を回収しに行ったのですが、この有様でした」
 依頼者は、ずたずたに引き裂かれた袋を見せた。丈夫そうな袋である。それを引き裂くのは相当の力の持ち主に違いない。
「熊は、一頭でしたか?」
「はい。一頭だったと思います」
「依頼内容としては、熊一頭の捜索と駆除でよろしいですか?」
「はい。作物に被害が出るだけでは済まないのではないか、それがとても不安で‥‥」
「わかりました。貴方の安全を確保する為、冒険者を集めます。道案内の方、ご協力いただいて宜しいでしょうか?」
「はい。出没付近まででしたら道案内出来ますので」
 その後、ギルドと依頼主の間で依頼の詳細を詰めて、依頼書が張り出された。

●今回の参加者

 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)/ ラディオス・カーター(eb8346

●リプレイ本文

 パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)が保存食を5日分購入した後、冒険者一行は依頼人と指定場所で待ち合わせた。
 合流した依頼人の案内の元、熊が出没したという現場に向かう。
 道中、ラファエル・クアルト(ea8898)が依頼人に尋ねる。
「作物がやられたって、何を作ってるの?」
「ああ‥‥栗とか胡桃とか、育てて収穫しているんですよ」
「畑持ってるのよね?」
「あ、はい。畑の方は、まぁ、その時期の作物を育てて糧にしている程度で」
「それとは、別に?」
「ええ。森を利用させてもらっています」

 ロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)が依頼人に尋ねる。
「森の近くに住んでいらっしゃるのですか?」
「いいえ、森からは多少離れた所に住んでいます。立ち寄っても誰もいませんし、まっすぐ森へと向かいましょう」
「ご家族はいらっしゃらないのですか?」
「ええ、まぁ‥‥早くに両親を失ったものですから」
「お気の毒に。寂しくはありませんか? 街への買い物もお一人では大変でしょうに‥‥」
「ええ、まぁ‥‥」
 依頼人がやや俯いて視線をそらす。微妙に気まずい雰囲気に変わった事を、ロミルフォウは感じ取っていた。なにか言葉にならないが、それは、両親を失っている事に触れた事ではない『なにか』が原因の様に思えた。
 ロミルフォウは話題を変える。
「森に熊が出たのは、これが初めてですか? 今までに何か他の危険な動物は出ませんでしたか?」
「これが初めてですね」
「熊が以前から住んでいたという事は?」
「特にそういう話は聞きませんでした。ですので、ここで農作業しても大丈夫だろうと思ったのです」

 パリを出て3日目の早朝。
「熊に最初に遭遇したのは、この付近だと思うのですが」
 依頼人が立ち止まり、冒険者一行に告げる。
 アディアール・アド(ea8737)が周辺の草木から一つを選び、グリーンワードの魔法をかける。
「大きい、動く物が何か来たか?」
『葉』
 別の植物にもかけてみる。
「最近、何かぶつかったか?」
『雨』
 地面を這う草など、場所を変えて広範囲に植物を選び、何本かにグリーンワードで訊いてみたが、熊が通ったなどの期待した情報は得られなかった。
 植物の知能では『熊という生き物』を認識出来る可能性は低かったのかもしれないとアディアールは思った。そもそも熊が出現していない可能性もあったが、熊駆除の意図とかみ合わなくなってしまう。
 結果を聞いたロミルフォウは、依頼人を横目で見ながら、判断に悩み、考え込む。
 パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)も悩む。罠設置をしたいのだが、熊の行動範囲が解らない。
 とりあえず皆で熊の手がかりを探す事にした。

「あの。現場まで来た事ですし、足手まといになるといけませんので、これで失礼します」
 依頼人がそう話を切り出し、一礼すると、今来た道を戻ろうとする。
「護衛必要ですか?」
「いえ、大丈夫ですので」
 やがて依頼人の姿は木々の向こうに消えていった。
「依頼人があの日、一人で森に入ったのは、本当は何をする為だったのか、訊いておけば良かったでしょうか?」
 ロミルフォウがつぶやく。
 誰も何も答えられなかった。少し口重たい依頼人に、なんとなくもやもやとした不審感は感じていたのだが。それが、何故なのかは、誰にも解らなかったのである。何か隠しているのだろうかと思ってみても、その根拠に乏しかった。

「私は、罠を作っておくね」
 パトゥーシャは、村人の協力を期待していたのだが、民家が見当たらないのでは、村人に会える訳もなかった。
「作物を餌に、熊を誘い込んでって事になるけど‥‥」
 パトゥーシャがそう言いかけた時だった。
「うわあぁぁ!」
 そんなに距離が離れていないと思える音量で、依頼人の叫び声が聞こえた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
 皆が一斉に、声のした方向に駆け出した。

 最悪の事態だった。依頼人が大量の血を流して倒れ、黒い大きな塊に向き合っている。
 熊だ。
 アディアールが素早くプラントコントロールで、一本の木の枝を集め束にして、依頼人と熊との間に割り込ませて、壁を作った。
 一行の中で最も力のあるラファエルが依頼人に駆け寄り、依頼人の身体を引きずりながら熊から離していく。
 パトゥーシャがリカバーポーションを使おうとすると、依頼人はそれを手で制しながら言った。
「それでは‥‥まにあわないでしょうから‥‥お願いします‥‥私を安全な場所に連れて行ってもらえますか?」
 ラファエルが頷く。

 一方、ロミルフォウは、熊との戦闘を始めていた。
「これも、仕事なんだから‥‥!」
 ロミルフォウは、熊の攻撃が当たらぬ様、素早くサイドステップを踏みながら、慎重に戦闘を進めていく。
 アディアールがプラントコントロールで熊の足を止めている。
 それに加え、熊の攻撃は遅く、攻撃をくらう可能性は低いだろうとロミルフォウは感じた。だが、相手に効果的なダメージを与えている感触が得られない。
「あまり効いていない‥‥?」
 パトゥーシャの矢も全て命中しているのだが‥‥
 不安を覚え始めたロミルフォウは、熊に対して違和感を感じている事に気付いた。
 すぐ、その理由が解った。
「この熊からは‥‥息をする音が聞こえない‥‥」
 熊の空ろな眼に魅入られ、恐怖に駆られ立ち尽くすロミルフォウの体を熊の手が襲った。

 とっさにアディアールがプラントコントロールでロミルフォウと熊との間に枝の壁を作る。
 ロミルフォウの悲鳴を聞いたラファエルとパトゥーシャが駆け寄り救助した。
 二人で依頼人の居る方向へとロミルフォウを運んでいく。
(「あれは‥‥ズゥンビ?」)

「大丈夫ですか!? 今‥‥回復魔法かけますので‥‥」
 依頼人の詠唱が済むと、依頼人が触れているロミルフォウの体は黒く淡い光に包まれた。
 依頼人は続けて、自分にも同じ魔法をかける。
「大丈夫なんだろうな」
 念を押すラファエルに向かって依頼人が頷く。
「大丈夫です‥‥念の為、明日の朝までは‥‥安静にしていた方が良いと思いますが‥‥」
 ふと、パトゥーシャが気付く。アディアールが力無くこちらに向かって歩いて来ているのだ。
「どうしました?」
「熊が‥‥突然、力を失ったかの様に倒れて、全く動かなくなりました‥‥」
 アディアールの背後で、何かが倒れる様な物音が聞こえた。
「プラントコントロールの効果が、切れたのですね‥‥」
 アディアールが振り向いたまま、呟く。

 ロミルフォウを除く三人が、慎重に熊に近付きながら、状況を確認した。
 剣で切り付けられ、矢で射り抜かれ絶命している熊の姿が、そこには在った。
 しばらくの間、釈然としない想いで三人は熊を見詰めた。

 依頼人に尋ねたが、依頼人にとってもこの状況は予想外であったらしく動揺している様に見える。
 熊は冒険者達によって駆除された。依頼内容は解決し、冒険は成功したのだ。解けぬ謎は残ったが。
 詳細はギルドに報告する事とし、一行は怪我をした二人が回復すると、パリへと戻った。