改造大蓋壱号を奪還せよ

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月19日〜11月24日

リプレイ公開日:2006年11月26日

●オープニング

「煮っ込んで♪ 煮っ込んで〜♪ それが煮込み料理〜♪」
 マルグリットというバード志望の小娘が、大きな釜の前に立ち、釜に突っ込んだ木製の柄の長い杓文字で、釜の中身をかき混ぜている。
「大釜さんに命令だ♪ 熱いお湯で茹で上げろ!」
 ここはマルグリットの兄、クスターの家である。クスターが一念発起して冒険者となる際に、パリに腰を据えて頑張ろうと借りた家である。
「何かと何かと何かと何か♪ 最後に入れるは白い粉♪」
 喜々として具材を追加投入していく妹の姿を、クスターは生暖かい目で見詰めていた。釜からは何とも形容しがたい匂いが漂っている。
「あとは大釜さんに任せましょ♪ 美味しくなるまで一休み♪」
 マルグリットは、大釜の近くに置いてあった直径50cm程の重そうな円盤を持ち上げると、大釜に被せて蓋をした。
「ん? マルグリット。それ、盾‥‥じゃないの?」
「街角に捨ててあった。ちょっと重いけど、大きさがちょうどいいの。縄で縛って持ち手付けたら持ちやすくなったし♪」
 クスターは、ちょっと心配になる。見た目、結構高級そうな盾なのである。
「人の物、持ってきた訳じゃないよな?」
「昼見つけて、3日後の昼に見に来てもそのままだったから、誰か捨てたんじゃないの?」
「うーん‥‥」
 クスターは、まだ不安に思う気持ちをぬぐいきれない。

 トントン。

 誰かがドアをノックしている。クスターはドアへ駆け寄る。
「はい。どなたですか?」
「オール・ランティエといいます。お伺いしたい事が有って来ました」
 クスターがドアを開ける。目の前に居たのは、15歳くらいだろうか、冒険者ぽい、しかし服装の品の良さから裕福な家庭の息子ではないかと想像される少年だった。
「どんなご用件でしょうか?」
「僕の盾を返してください!」
 思い切り単刀直入な主張であった。丸い上品な顔立ちに良く合うつぶらな可愛らしい瞳は、しかしめらめらと怒りに燃えていた。
「いきなり言い掛かり言うの止めてよね。どこに盾なんて有るのよ」
 無言で大釜の方を見やるクスター。
「昨日、ここで、洗ったのか日光に当てて乾かしている盾を見ました。それから一晩悩みましたが、やっぱり、その盾は僕のです! お父様が誕生日の祝いにプレゼントしてくれた、とっても高価な大切な盾なんです! 返してください」
「貴方の物という証拠あるの? 返した後に他の人が現れて返してくれと言われたら、困るのは私よ?」
「しょ、証拠‥‥」
「名前を彫って書いてあったりする?」
「無いですが‥‥でも、それは貴重な希少な盾なんです。数有る物じゃないんです!」
「それなら何で、そんな貴重な物を3日も道端に放って置いたのよ?」
「それは! 今まで依頼を受けて出かけていたんです! 出かける前にバックパックの中を整理する為にちょっと盾を脇に置いて‥‥荷物の整理終わったら、すっかり盾の事忘れてて‥‥モンスターと戦闘する時に、やっと気付いて‥‥」
 涙ぐむオール。そうとう分が悪い。
「話にならないわね。証拠そろえて出直してきたら?」
 冷ややかな表情で言い放つマルグリット。
「うわぁぁぁん! 覚えてろ!」
 泣きながら走り去るオール。クスターは2人の間でおろおろしていた。
「ギルドで協力者集めてくると見た‥‥盾を返す時まで退屈しなくてすみそう♪」
 楽しそうなマルグリット。からかう気満々だと解ってクスターは呆れる。
「改造大蓋壱号‥‥主の元に返るその時まで‥‥あなたで楽しませてもらうからね♪」
 盾の表面を人差し指で軽く二度叩くと、マルグリットはニンマリと微笑んだ。

 そして、ギルドに依頼書が貼り出され、マルグリットと冒険者達の盾をめぐる攻防が始まろうとしていた。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb7565 御神 沙羅(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb7990 アルフ・レッド(24歳・♂・ファイター・パラ・ノルマン王国)

●サポート参加者

とれすいくす 虎真(ea1322

●リプレイ本文

●一日目
 ギルドに冒険者が揃ったところで、オルフェ・ラディアス(eb6340)が改めて挨拶する。
「オルフェです。皆さん、よろしくお願いしますね。って、あれ? 御神 沙羅(eb7565)さんはどこへ?」
「キミの後ろ」
 アルフ・レッド(eb7990)がオルフェの肩の少し横を指差す。沙羅がオルフェの肩からひょこりと顔を出す。
「は、初めまして‥‥」
 ケイ・ロードライト(ea2499)が優しく微笑む。
「初めての依頼ですか‥‥実り多きものになりますように‥‥パリの雰囲気が肌に合うと感じられたなら、是非この地で冒険者を続けて頂けると嬉しいです」
 沙羅は顔を赤らめ口篭もりながら、オルフェの肩越しに一礼した。初めての依頼という事で、沙羅は緊張している様だった。

「あ、皆さんお集まりの様ですね」
 一同が振り向くと、オール君が立っていた。
「この度は、僕のとっても高価な盾を、あのにっくき小娘から取り戻す為にご協力頂き、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。ではさっそくマルグリットの元へ!」
 慌ててケイがオール君を引き止める。
「まてまて! まずは、作戦会議でしょう? どうやって取り戻すか考えるのです」
「詳しい話も聞きたいですし」
 ケイとオルフェがオール君を囲む。しばらくの間、二人は事の経緯と盾について詳細をオール君から聞いていた。
「盾を無くした事を父君に知られても大丈夫でしょうか?」
 ケイは気になっていた点について尋ねた。
「はい。父は優しいので大丈夫だと思われます」
「それなら明日、オール殿の父君に会いに行って色々と伺おうと思います」
 皆、異論は無かった。今日はここまでという事で、オール君は帰っていった。

 冒険者一行は、その後、クスター宅へと向かった。
 ドアの隙間から、食欲をそそらない何とも微妙な匂いが漂ってくる。
「こんにちは〜 大蓋取り戻し隊が様子をうかがいに来ました〜」
 ドアを開けたのは、マルグリットだった。
「あれ? あの子は?」
「オール殿は明後日にでも来るでしょう。その日が、マルグリット殿の敗北を決定付ける日となります」
 ケイが宣戦布告をする。
「あ、明後日ね。じゃね」
 ドアを閉めてしまわない様にと、慌ててオルフェがドアを押さえる。
「マルグリットさん、先日はパーティーにお招き頂いて有難うございました。出来れば素直に盾を返して欲しいんですけどねぇ」
「やだもん。オール君本人が来るのが最低条件よね」
「まぁ、それはそうですけどね」
 今日は宣戦布告でしかないのである。
「話変わるけど、オルフェ君の後ろに居る女性、誰?」
「あ、こ、こんにちは。御神 沙羅と申します」
 沙羅がオルフェの後ろからひょこりと頭を出してお辞儀する。
「オルフェ君もやるときにはやるのね。隅に置けないわ〜♪」
「違いますから‥‥」
 オルフェは苦笑いと照れ笑いが混じった様な表情をした。
 その後も雑談は続き、そんな感じで一日目は終わった。

●二日目
 次の日、一行は、オール君から教えてもらった住所を元に、オール君の家へと向かった。ちょっとした林を抜けると建物が見えてくる。
「でかっ!」
 豪邸を目の前にして、皆が一斉に叫んだ。
「お金持ちだったのですね‥‥」
 沙羅が溜息をつく。今日もオルフェの背後霊と化していた。

 オール君に案内されて、彼の父親と対面する。
「どうも。オールがお世話になっておりますな。感謝致します」
「私達にお任せください」
 代表してケイが返答し、一礼した。

 オール君の父親にケイが質問する。
「そもそもどういった経緯で入手されたのでしょうか? ランティエ家に代々伝わる物だったのでしょうか?」
「あれは、この家に来る商人から買った物です。珍しい盾が入荷したと言って目の前に置かれた物ですな」
「ちなみに、おいくらだったのでしょう」
「普段は150Gだが、お得意様価格として90Gで提供すると言ってましたな。それならその値段でと、購入しました」
「失礼ですが、ライトシールドの相場は2G程度だと思われますが」
「いや。魔法の品だとか言ってましたからな。普通のライトシールドより性能が良いそうです。値段に見合った働きをすると言ってましたな」
 最初に150Gと言っておきながら90Gで売りつける辺り、商人にきな臭さを感じたが、それは言わずに胸の内に仕舞った。
「何か印となる様なもの、ランティエ家の紋章などは盾に刻まれていましたか?」
「いや。買ってそのままオールに与えたから、そういった類のものは無いですな」
「そうですか‥‥」
「面倒くさいですな。おい、オール」
「何ですか、お父さん」
「新しく盾を買ってあげよう。次に商人が来るのは半年後だから、その時に言えば取り寄せてくれるだろう」
「一年も待つんですか?」
 膨れっ面になるオール君。
「まぁまぁ、私達にお任せください」
 冒険者一行はその後も盾について色々と質問したが、あまり役に立つ情報は得られなかった。結局のところ、お金持ちの父親が気前良く買ってそのまま与えた物でしかなかったのである。

 ランティエ家を出た後、一行は、大釜を製作した工房へと寄った。
 オルフェの案で、蓋を新たに作り、盾とすりかえてしまおうという計画が立ったからであった。
 だが、工房の中の様子はいつもと違っていた。
 数日前、工房で働く人達の間で風邪がはやって寝込む人が続出し、仕事が滞ってしまったのだ。遅れた仕事を取り戻そうと、皆一心不乱に働いている。とりあえず今は新規の注文を受け付けていないそうだ。
 オルフェが激励の言葉を送って、一行は工房を後にした。
 その後、オルフェと沙羅は、盾の目撃者を求めるべく、オール君がかつて持っていた事を知る人物や、置き忘れたのを知る人物を探したが、見つからなかった。
 それも不思議ではないのかもしれない。オール君が置き忘れてから3日も放置されていたのである。目にした者がマルグリット以外に居れば、誰かが持って行きそうなものだからだ。エチゴヤに売ってもそれなりに儲かるだろう。

 そういう事で明日の作戦は修正が加わり、すり替えが強奪に変わった。一同は綿密に打ち合わせをする。

●三日目
 とんとん。
 クスター宅のドアを叩く音がする。
「はーい。待ってましたよ♪」
 マルグリットがドアを開けるやいなや、アルフが家の中に入り込む。
「たのもー!」
「私を追い越してどうするんですか」
 アルフは反転してから、気をとり直して名乗りを上げる。
「我が名はアルフ・レッド! 武闘大会で準優勝した経験もある実力者であ〜る! 強き者と闘う事こそ武人の生き様、マルグリット姉ちゃんに決闘を申し込むぅ!」
 モーニングスターを振り回しながら叫ぶアルフ。
「家の中で物騒な物、振り回さないでください‥‥」
 冷ややかな顔でつっこみを入れるマルグリット。これはまだ彼女の想定内だったのだろう。しかしアルフの次の行動は想定外だった様だ。
「ならばこれならどうだっ!」

さわっ。

「‥‥!!」
 お尻を押さえて固まった後、声にならない叫び声を上げたマルグリット。
「やった〜!」
 アルフは家の外に出て行く。怒ったマルグリットもアルフを追っかけて家の外に出て行く。
「今です!」
 ケイがさっと家の中に入り、大釜の蓋を抱えて持ち上げようとした。何故か蓋の取っ手が無くなっていたので、そうするしかなかったのである。
「あちちっ!」
 思わず後ずさりするケイに、クスターが申し訳なさそうに声をかける。
「ごめんなさい。妹が、取っ手を外し、頃合の熱さになる様に入念に調整しながら釜を温め続けて、貴方達が来るのを待っていたんです」
「あああ‥‥」
「それくらいは、するだろうな〜って考えてたからね♪」
「ぅぐっ‥‥う‥‥ひくっ‥‥」
 見れば、オール君が泣いている。
「かわいそうですの‥‥」
 オルフェの後ろからひょこりと顔を出した沙羅が呟く。
「うん。そろそろ潮時かな?」
 マルグリットはオール君の肩を優しく2、3回叩くと微笑みながら言った。
「今晩、釜の火が消えるから、明日いらっしゃい。貴方の盾返すから」
 沙羅、二度頷く。
「からかってごめんね。楽しかったわ」
 元々、マルグリットはオールに盾を返す気が有ったのである。マルグリットにはオール君がからかいたくなる程可愛らしい少年に思えた事が、オール君にとって不幸な事であっただけなのである。
 皆で優しくオール君を送り返す。

●四日目
 何とも言えない匂いが染み付いた盾がオール君に渡される。
「皆さん、明日鍋を食べに来ませんか?」
 冒険者一同は、皆、微妙な表情でかぶりを振った。
「オール君、また来てね」
 別れ際のマルグリットの言葉に、二度と来るもんかい、と心の中で叫んだオール君は、まだあおい少年であった。

●五日目
 魚の類を大量に入れた為か、冷めた鍋の中身は、汁がカチカチに固まっていた。
 温めなおす事を知らないクスターとマルグリットは、二人黙々と、具材と汁の塊を食べていた。