ぶんぶく大釜

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2006年12月10日

●オープニング

●依頼書内、依頼要旨全文
 神聖暦1001年、パリ市内に、頼りにならないお兄ちゃんと、マイペースな妹が住んで居りました。
 今年も、寒い冬がやって来ました。タヌキの浴衣を羽織って寒さをしのぐお兄ちゃんを、妹が心配そうに眺めています。
 妹には気がかりな事が有りました。食料の備えが底をついてきたのです。このままでは、厳しい冬を生き抜く事が出来ません。
 そこで妹はお兄ちゃんに提案しました。
 私が魔法の衣装で大釜に変装するから、お兄ちゃんはそれを売って食費の足しにして欲しいの。それで当分は食いつないでいけるでしょ?
 お兄ちゃんは、とても迷いましたが、背に腹は代えられません。妹が変装した大釜は、お兄ちゃんの実家へと売られて行きました。
 さっそくお母さんは大釜でお湯を沸かそうとします。
 あちちっ!
 変装を解いて逃げ回る大釜を見て驚いたお母さんは、村人に助けを求めに行きました。
 村人と一緒に眺めると、あら不思議、大釜の姿に戻っています。
 変に思ったお母さんは、こんな大釜はエチゴヤに売ってしまった方が良いと思ったそうです。

 すいません。代わりました。僕、クスターです。
 あと数日で母親がパリに来ますので、ご協力願えませんでしょうか?
 装着して念じるとそれを見た相手が本当の大釜だと思ってしまう魔法の衣装を使って母親を驚かせようと、マルグリットが化けた大釜を母親に売ったのですが、ばれてとても怒られました。

 で、お母さん、そんな物を母親に売りつける程お金に困ってるのだったら、今度パリに寄ってクスターの生活振りを厳しくチェックしなければならないねぇ、って言ってました。

 クスターです。そこで、お力を貸していただきたいのですが、パリで何不自由なく暮らしていると母親を安心させる為の準備を手伝っていただけないでしょうか。お金の蓄えは決して多いとはいえないですし、何不自由ない生活を送っているのか自分では判断出来ませんので。

 ということで、あと数日でちょっとだけお金を稼いで、身の回りの品々を揃えて、お母さんを安心させたいの。アドバイスよろしくね?
(以上、クスター、マルグリットの共同執筆)

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294

●リプレイ本文

●一日目
 とんとん。
 クスター家のドアを誰かが叩く音がする。クスターがドアを開けると見慣れた顔が現れた。
「あ、オルフェ・ラディアス(eb6340)さんですね。依頼の件で来られました?」
「ええ。クスターさん、マルグリットさん、今回もよろしくお願いしますね」
 他の冒険者も後ろから顔を覗かせて挨拶する。

 ケイ・ロードライト(ea2499)は、家の中に入ると、ぐるっと周りを見渡し、家の中の様子を観察した。
「母君は、どの様な方なのですか?」
 ケイの問いにクスターが答える。
「芯が強くて頑固ですが、愛情と包容力も有りますね。だから、相手が間違っていると思う事に対しては譲らないし、自分が引いて護るべきだと思えば、頼りがいの有る人ですよ。僕なんかは、始終怒られっ放しですが、あの人の息子で良かったと思っています。なかなか出来る事じゃないと思うんですよね。母親独りの身で、もう一人‥‥」
 クスターは、ちらっとマルグリットの方を見やった。マルグリットはきょとんとした顔で軽く首をひねっている。
 クスターは頭を振って話題を変えた。
「まずは、お金を稼がないと、ですね?」
 アリスティド・メシアン(eb3084)が二人に尋ねる。
「どんな仕事をしてみたい?」
 クスターは、腕組みして唸る。
「うーん‥‥特に無いんですよ」
「遊んで暮らすのが一番!」
 マルグリットが話に割り込む。
「ちなみに、今は何で生計を立てているのですか?」
「依頼報酬で細々と食いつないでるだけで‥‥あとは特に‥‥月に3Gも収入有れば、2人が1ヶ月暮らしていけるだけの保存食買えますし」
「あ‥‥普段から保存食を食べているのか‥‥よく飽きずに食べられるな」
 アリスティドは苦笑いを浮かべた。
「冒険者たる者、保存食に飽きたとかは言ってられませんから」
「それよりも、手に何か職をもっていた方が生活の質は向上しますよ。考えたのですが、お二人とも動物が好きという事であれば、ペットシッターなんてどうでしょう?」
 ケイが提案する。
「動物の世話? 犬とか面倒見れるの?」
 ペットという単語にマルグリットが食い付いた。
「とはいえ、まずは需要があるかどうか確かめなくてはいけないだろう。明日、僕と一緒に商人ギルドを覗いてみるか」
 アリスティドの意見に皆が同意し、冒険者達はここで散会した。

●二日目
 情報屋をしているオルフェは、単独で仕事を探しに出かけた。
 アリスティド、クスターとマルグリットは、商人ギルドへと向かった。
 商人ギルドを訪ねて解った事だが、ケイの提案したペットシッターにはちょっとした罠が仕掛けられていた。
 ケイは依頼に出かけた冒険者のペットを預かる仕事を想定していたのだが、これから新規に仕事を受けるとなると、今日から最低5日間は請け負う必要がある。クスターの母親が来る3日後に手が空く状況にならないのだ。という事でペットシッターは断念した。
「うーん。そうしたら‥‥」
 アリスティドは少し考え込むと、自分のアイデアを提案した。
「酒場で歌でも歌ってみるか? バードに成りたいんだろ?」
 マルグリットが同意したので、三人は酒場へと向かった。

 一方、ケイとエグゼ・クエーサー(ea7191)はクスター家に残り、掃除を開始した。
「一ヶ月ぶりにパリに戻ってみれば‥‥また妙な兄妹がパリに住み着いたもんだねぇ」
 エグゼがぼやく。
「台所周りは任せましたからね」
「おう!」
 エグゼは早速台所へと向かった。
「何も無いな‥‥」
 大釜と、それで煮炊き出来る環境しかない。調理道具は大釜しか無いようだ。棚の中に買い置きしてある保存食が詰まった袋が置いてあった。
「まぁ、まずは、徹底的に綺麗にしますか!」
 エグゼは気合を入れた。

●三日目
 オルフェは朝から狩りに出かけている。
 酒場ではマルグリットが歌っていた。本人は乗り気の様だが、歌は素人の域を出ていない。
 クスターはというと、アリスティドによって魔法の大釜姿で踊らされそうになったので、隙を見て酒場から逃げ出していた。
 マルグリットは、軽く咳払いすると、楽しそうな表情で歌いだす。
「あなたは可愛そうな王子様〜♪ 悪〜い魔女に魔法をかけられて〜♪
 こんなみすぼらしい大釜に〜♪ でも私が口付けて魔法を解けば〜♪
 ほら、こ〜んなに輝く立派な大釜に大変身♪ すてきよ、あなた〜♪」
 マルグリットがその場の思いつきで歌詞を変えていく傍で、アリスティドが頭を抱えている。

 ケイは前日に、お年頃のマルグリットから洗濯はしないでねと念を押されていたので、家の修繕の方に取り掛かった。
 薪割りも考えていたが、薪を燃やす暖炉が無い事に気付く。どうやって冬を乗り切るのだろうと思ったが、どうにかするのだろうと深く考えない事にした。
 家の修繕の後は、煮炊き用の木材を揃えていく。

●四日目
 マルグリットがクスター家に居る。どうも、今日は酒場に行きたくない様子だ。
 オルフェが理由を尋ねてみると、酒場で酔っ払いにおしりを触られたらしい。一瞬の事だったので誰かは解らなかったそうだが。
 ふくれっ面のマルグリットにオルフェが提案する。
「先日盾の件で迷惑をかけたオールさんの家に行ってメイドをするっていうのはどうですか? オール家がメイドを欲しがってるそうです」
 情報屋オルフェが悪戯っぽく微笑む。
 オルフェの予想に反して、マルグリットが微笑返しをして来た。
「ある理由により、それは却下です。ね? お兄ちゃん?」
 クスターは、決まり悪い様な顔をしている。首を傾げるオルフェの頭の中に謎が残った。

 オルフェの提案で、酒場で稼いだお金で買い物に行く事になった。
「私はエグゼさんと一緒に、狩りで得た食料を保存食にする作業をしてますね」
 オルフェとエグゼが家に残り、見送る。

 お金はそんなに多くはないので、あれこれと皆で悩みながら、あちこちを周り、買う物を厳選していく。
 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

●五日目
 冒険者達は、家の外の物陰に隠れ、こっそりと家の中の様子をうかがっていた。
 クスターの母親が家の中に入ってからそれほど時間が経っていないはずなのに、結構長く感じる。
 聞き耳を立て、じっと待っていると、家からクスターが出て来る。
 冒険者達に近寄り、家に入る様促した。母親が直接会って感謝したいのだという。
 冒険者達が家の中に入ると、クスターの母親は最初にお辞儀をした。
「ありがとうございました。いや、家の中を一目見た瞬間、誰かに助けてもらったんだと直ぐに解りました。息子がこんなに綺麗にする訳ないですから」
 冒険者達は遠慮しながらも苦笑する。
「家も良く手直しされてますし、物こそ少ないですけど、きちんと整頓されてますし、掃除されていて綺麗ですよ。あとはこいつに維持する術を叩き込んでもらえていたら、なんて贅沢な事考えてしまいますわ。いやほんとに、ありがとうございました」

 その後、オルフェの作った保存食でちょっとした宴が開かれた。
 エグゼのお料理教室、クスターの恥ずかしい過去の暴露など、賑やかな会話は尽きない。

 食事が終わり、冒険者達が帰宅しようとすると、クスターの母親が見送る為に付いて来た。
 別れ際、母親が告げる。
「マルグリットの事も、宜しくお願いしますね。あの子は訳有って引き取った子なので、我が子として育てながらも、無理にうちの育て方を強いる事無く愛情をかけてきたつもりです。それがいずれ現実に立ち向かうあの子の為になると思いまして。将来の事は解りませんが‥‥私の娘も、今後とも宜しくお願い致します」
 母親が深くお辞儀をした。その姿に母親の想いが表れていた。