【死のつかい】死人の匂いに誘われしもの
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月05日〜12月10日
リプレイ公開日:2006年12月15日
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●オープニング
王宮ですらようやく手に入れた神学者ノストラダムスの預言を記した写本。パリの街にその内容が広がった速度には、どう考えても何者かの作為が働いている。
更にパリから見たセーヌ川下流域でのアルマン坑道崩壊とそれによって起こった鉄砲水。すでに多数の住民が土砂混じりの水に呑まれたと報告があるが、同時に腐乱死体のズゥンビの目撃情報も寄せられた。
他に、上流域でも堤防が決壊して、村に被害が出たと報告も上がっていた。
これがまたパリの街にも広まっていて、逃げ出す者も出始めている。
折悪しく天候はここ数日雨続き、次はパリの街が水底に沈むのだとまことしやかに囁かれれば、逃げたくなるのも当然だろう。
そうしてコンコルド城の御前会議では、現実に可能性の高いパリ水没の危機を逃れるために、上流域の堤防を人為的に切ることで、増水した水を近くの湿地帯に流す計画が国王の裁可を受けた。これとて失敗すれば近くの村々が沈むことになり、その万が一の被害を避けるために必要な行動は多岐に渡る。
近隣住民を避難させ、堤防を切り、水がどう流れたかの確認をしつつ、緊急時には臨機応変に最善の策を取る。言えばたやすいが、それが一人で出来る者は神ならぬ身には存在しない。必要な人材を集めているが、実際に堤防を切るにはその設計などに詳しい者が必要だ。けれども職人達は事の大きさに怖気づき、大半が現地へ向かうことを忌避しているという。
また現地に向かって住民を避難させる人手も十分とは言えず‥‥
「この際パリが空になっても構わない。月道管理塔からはどれほど出せる」
「そのような仰せであれば、動ける者は全て。ですが」
「その隙にパリに何事かあるかもしれないというのだろう。ブランシュ騎士団が数名おれば、私の周りは十分だ」
修行中のブランシュ騎士団員や、近隣の領主の手勢も可能な限り呼び寄せた。騎士団員はともかく、領主の中には自領が手薄になるのを心中嫌がる者がいるかもしれないが、あいにくと細かい動向は追いきれない。
そうして集めた人員の幾らかは、すでに被害が出た地域に向かい、残りはこれから事が起きる地域に出向く。国王ウィリアム三世が『近衛も出ろ』と言ったからには、まさに総動員だ。
「足りない分は、仕方ない、冒険者ギルドに」
ウィリアム三世が言葉を切り、椅子の背もたれに体重を預けたところで、白いマントに正装の騎士団長ヨシュアス・レインが声を上げた。
「伝令!」
矢継ぎ早に指示を与えられた複数の伝令の一人が、事あるを察していた冒険者ギルドの幹部達が集まる部屋に現れたのは、それから僅かの時間の後だった。
伝令がギルドに現れたのと時を同じくして、一人の男が冒険者ギルドに現れた。
男は、ノストラダムスの預言を記した写本の内容を一部書き写した紙をギルドの受付に見せながら、話し込んでいる。
「先日のセーヌ川下流域の洪水。知人が、あれはノストラダムスの預言が指し示している災厄の一つなのではないか、そう噂話をしているのを小耳に挟んだそうです」
「それで、預言書を密かに研究していた貴方が動かざるを得なくなった」
「はい。読み解くだけなら独り机に向かえば良い。だが、現実に災害が起きてしまった。現場の情報を集めて研究材料にするには人の手を借りなければならない。それで依頼を出したく、こちらに伺ったのです」
「調べたい内容は?」
男は、預言を書き写した紙の一箇所を指差す。
『土に犯されし死のつかいはすべてを飲み込む』
「これが先日の災害を示しているならば、それを起こした者は『死のつかい』ではないでしょうか? その者は、『土に犯されし』‥‥つまり、埋葬されていた死者がアンデットとして目覚めた者なのではないかというのが、私の最も知りたい事なのです」
ギルドの受付は一瞬、先日報告された熊のズゥンビを思い出した。受付は少し頭を振った。
「ギルドには、アルマン坑道崩壊時、ズゥンビの目撃情報が寄せられています」
「それだけではありません。酒場では、空中を漂う青白い炎を見たとか、空に浮かぶ巨大な顔を見たとか、全てを信じる訳にはいかないでしょうが、色々な目撃情報が語られています。突然の災害ですから、恐怖のあまり幻覚を見たという事や記憶の混乱が起きたという事もありますから、真実を知る為には、現地調査が必要です。冒険者の方々の協力をお願いしたいのです」
「解りました。依頼内容は、災害現場の調査」
「上流域の堤防、切る予定のですね、そちらもお願いします。何らかの存在が確認出来るかもしれませんので」
「多くの冒険者が堤防に関する作業に尽力されると思われます。他の人達の作業に対する協力は?」
「出来れば、調査を優先してください。情報を得て、今後後手に回らぬ様、情報を将来に生かすのが私の依頼の目的ですので」
「了解しました。ではもう少しお時間頂いて、報酬など依頼の細部を詰めさせてください」
それからしばらくして、一枚の依頼書が張り出された。
●今回の参加者
ea2940 ステファ・ノティス(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)
eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
●サポート参加者
シルウェン(
eb9589)
●リプレイ本文
●出発
ギルドに集まった冒険者達は、二手に分かれて調査を開始した。
災害現場に向かうは、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)、ジャンヌ・バルザック(eb3346)、フェリシア・リヴィエ(eb3000)。
上流域の堤防に向かうは、ステファ・ノティス(ea2940)、レオパルド・ブリツィ(ea7890)、レイムス・ドレイク(eb2277)。
このグループにおいては、レイムスがゲルマン語を話せない為、主な会話はラテン語で行われる事になった。
独りルーロ・ルロロ(ea7504)はパリに残り、明日出発する予定になっている。
ルーロは早速酒場へと向かった。目撃情報やそれに関する噂の出所を調べる為だ。
酒場の中は、今回の災害と預言の話題で満たされていた。ルーロはその中に混じると、さりげなく誰から聞いたか尋ねて周った。
話を広める者にとって、『誰から聞いたか』はあまり重要ではないらしい。災害の現場に居た人から聞いたという人は少なく、話を聞いた人から聞いたという人が多かった。
話の出所を探るのには、時間がかかりそうだった。
チャームやリシーブメモリーでの探りも多用は出来ない。
それでも粘り強く聞き込みをした限りにおいて、作為的に内容が変えられた情報が流された感触は無かった。もちろん伝達において誇張する為の脚色の類は有ったが、それ以上の意図は感じられなかった。
翌日、ルーロは目撃情報や噂話の内容を携え、フライングブルームに乗って災害現場へと向かう。
●災害現場にて
フェリシアはペガサスに乗って上空を飛行し、何か不審なものが居ないか目をこらしながら、災害現場へ向かって移動している。
フェリシアからセブンリーグブーツを借りたジャンヌと、自分のセブンリーグブーツを履いたシャルウィードが、ペガサスの後を追って駆けて行く。
数時間おきに休憩を取りながら、三人は災害現場に到着した。
災害現場に着いた時、辺りに人は居なかった。荒涼とした風景に、感情に訴えるものは有ったが、三人はすぐに調査を開始した。
フェリシアはそのままペガサスに乗り続け、不審なものの探索を続けている。
ジャンヌは夜の見回りに備え、順路となる道を把握して、その後は体を休めている。
シャルウィードは、自分のペットの鷹と隼を飛ばし、彼らの眼を使った調査を行っている。オーラテレパスの使用は断念した。魔法の効果時間が短いので、ペットが突然の異変を察知したそのタイミングで使用する必要があるが、その時が来てから魔法詠唱を始めても遅過ぎるからである。
現場での調査が始まり、ルーロと合流してから、どれくらいの時間が経ったであろう。不意に、上空の鷹と隼が騒がしくなった。鋭い鳴き声を発して、羽根音を立てて飛び去っていく。
手の中の指輪、石の中の蝶が騒いでいる。指輪には、蝶の姿が内部に刻まれた大粒の宝石がはめられている。デビルが近づくと、蝶が羽ばたくのだ。羽が強く羽ばたいているという事は、デビルが近くに居るという事である。
シャルウィードが辺りを見回すと、人が一人立って居た。
姿形は人間の男性そのものである。肉体の腐敗が始まったズゥンビである事を除けば。
その男はシャルウィードに語りかけた。
「私は、この場所で何が起きたのか調査しています。ご協力願いたいのですが、貴方は何か情報を掴んでいますか?」
シャルウィードの背筋が凍りつく。即座に大声でジャンヌとフェリシアを呼ぶ。
こんなに明瞭に言葉を発するだけの知能を持つズゥンビなど、本来存在しないはずなのである。
空からペガサスがいななきながら降りてきた。同時にズゥンビが全ての力を失い、舞う様に倒れて地面に伏す。もう微塵も動かない。
ふと、シャルウィードが丸い影に気付き、上空を見上げると人間の頭が浮かんでいた。モンスターだ。
シャルウィードは、頭の中に有るモンスターに関するあらゆる知識を探ったが、何も思い出せない。このモンスターに関する情報は覚えていないようだった。
「あたしが知らないって事は、それなりにレアって事か。みんな! これは未知のモンスターだ! 充分に警戒しろ!」
「わしは堤防に向かう! あいつが堤防に向かうかも知れんのが心配じゃ!」
ルーロはフライングブルームに飛び乗り、勢い良く飛び出していった。
●上流域の堤防にて
道中、レオパルドとステファはレオパルドのウォーホースに騎乗、レイムスはレオパルドが貸したセブンリーグブーツを使って移動していたが、グループ全体の速度はステファのドンキーに依る事となった。二人乗りしているウォーホースにあとどのぐらい荷物を積めるか考えると、荷物運び役のドンキーを外す訳にもいかない様に思われたのだ。
途中休憩を挟みながらも、三人は堤防に着いた。さっそく三人は行動を開始した。
レオパルドは、堤防に居た冒険者達に自分達の目的について説明して、話を通している。
ステファは、切る予定の防波堤付近を調査し始めた。
レイムスは、ルーロの調査結果を待ちながら、堤防付近の調査を始めた。堤防の水に注目して、何者かが潜んでいないか等、調べていった。
その後、レオパルドは、指輪の石の中の蝶の変化に気を配りながら、堤防付近の巡回を続けていた。
今までに何回蝶の挙動を確認したであろう。ゆっくり前進しながら、その都度指輪を見詰める。
ふいに、蝶の羽が、ゆらりと揺れる。レオパルドは指輪から眼を離せなくなる。それに応える様に、蝶は力強く羽ばたいた。
「デビルが居ます!」
顔を上げた、その正面に、それは居た。
2、3mはあるだろう、巨大な人間の頭部。その顔は、3mほど上空に浮かび、見下ろす様にレオパルドを見詰めている。
レイムスとステファが駆けつけて来た。
ステファは後方に下がり、ホーリーを撃つ準備を始めている。レオパルドとレイムスが盾になる。
『顔』は、その戦闘準備に興味が無いかのごとく、無表情に三人を見定めている。
「邪なる者よ、滅せよ、ホーリー!」
だが、ステファの放ったホーリーは僅かなダメージしか与える事が出来なかった。巨大な顔が微かに笑った様に見える。
「蟻を潰しに来た訳ではない。時が満ちるまでは、我らにただひたすら怯えているが良い」
『顔』は、はっきりと顔を歪めて笑い、スゥッと更に高く浮上した。
『顔』は後退を始め、冒険者達が何も出来ぬまま、遠く彼方へと消えていった。
その後間もなくして、三人はルーロと合流した。移動中のデビルにルーロの石の中の蝶が反応していたので、デビルに遭遇しないよう慎重に移動するしかなく、故に到着するのが遅くなったのだ。
四人は、その後得られた情報の整理を始めたが、その後デビルが出没する事は無かった。
やがて全員が合流後、集めた情報を依頼人に渡す為、パリのギルドへと持ち帰る事となった。
遭遇したデビルが『死のつかい』に関係しているのかは、後日の調査と解析にゆだねられる事となる。