師匠捕獲計画

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2006年12月19日

●オープニング

 ここはクスター家。最近はその初々しさが酒場で話題にされる事も無くなった少年クスターと、その兄を影薄い存在にしている個性的な妹マルグリットが住んでいる。
 マルグリットは洗った後乾かし終わった大釜を見詰め、微笑んでいた。クスターはその姿を眺めながら、ようやく重い口を開いた。
「ねぇ、マルグリット。いつまでこっちに居るの?」
 マルグリットは振り返り、きょとんとした顔でクスターを見詰め返す。
「私、なんでここに居るんだっけ?」
 発端は、クスターが留守中の犬の世話を頼む為に、マルグリットを実家から呼び寄せた事に始まる。色々有った後バードを目指す事になって、師匠探しを始めたはずだったが、何故か最近は、或るつてで入手した大釜で料理ばかり作っている。
「バードになるんじゃなかったの?」
「わ、忘れてなんかないわよ?」
「勝手に持ってった僕の飼い犬、実家に置き忘れてるし」
「うるさいわね。昔の事は忘れる様にしているんだから、余計な事ほじくり返さないでよ」
「それ、矛盾してるよ?」
「さて! 天気も良い事だし、師匠探しに出かけますか!」
 マルグリットはそそくさと出掛けて行った。

 数日後。同じくクスター家。
「またギルドに依頼出したの?」
「うん。バードになる修行が出来そうな師匠の手がかりを入手したから、先輩冒険者の力を借りて、弟子入りを認めていただこうって思って」
「その人には会ったの?」
「まだ。初対面の印象って大事じゃない。ほら、私、こんな性格だから‥‥受け入れてもらえるかなって‥‥」
 マルグリットは、まだ十代半ばの少女なのである。社会に出て行き、人生の先輩達と向き合う事に不安を覚えても不思議は無いのである。
 クスターは、妹の顔をいとおしむ気持ちで見詰め、静かに微笑んだ。
「お兄ちゃん。これで良いかな?」
「‥‥なに?」
「伏せた大釜を斜めに持ち上げて、この縄を縛り付けた枝で支えるの。物陰から縄を引っ張れば枝が外れて師匠を閉じ込める事が出来るっていう所までは解るんだけど‥‥ねぇ、シフールの大好物って何かしら?」
「マルグリット‥‥全世界のシフールを敵に回すつもりなの‥‥?」
「第一印象が大事だから、先輩であるお兄ちゃんに聞いてるのよ?」
 クスターは、開いた口が塞がらなかった。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9276 張 源信(39歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

クリス・ラインハルト(ea2004)/ レイ・マグナス(eb9571

●リプレイ本文

●一日目
 クリス・ラインハルトが、足音を立てない様に慎重に歩を進めながら、静かにクスター家に近付く。
 そして、クスターを対象としてテレパシーの魔法をかける。
(「クスターさん、テレパシーの呼びかけ、聞こえてますか? マルグリットさんの依頼で来たクリスです」)
(「あ、どうも。こんにちは。でも、何故テレパシーで?」)
(「マルグリットさんを外出させてもらえませんか? 我々、クスターさん一人とお話がしたいので」)
(「うーん‥‥無理っぽいですね。妹は、今日は冒険者達の来る日だから自宅待機するって言ってました」)
(「うーん‥‥じゃあ、ドアから外を窺う様に彼女を誘導してもらえませんか?」)
(「わかりました」)
 そして、ドアをノックする音が聞こえた様だと主張するクスターに導かれ、マルグリットが玄関から顔を出した。
「スリープ!」
 クリスの放った魔法によって崩れる様に眠りについたマルグリットをクスターがそっと支え、ベッドへと静かに運ぶ。

 クスターの合図で、冒険者一行は家の中へと入る。
 グラン・ルフェ(eb6596)が『我が身をつねって人の痛さを知れ』作戦の詳細をクスターに説明して協力を請う。

 仕掛けの設置が終わった所で、グランはマルグリットを起こした。
「‥‥!!」
 触られたお尻を押さえて飛び上がり、声にならない叫び声を上げたマルグリット。状況が飲み込めず、目を見開いたまま呆然としている。
「マルグリットさん。夜更かしが過ぎるんじゃないですか?」
 マルグリットはグランの顔を見詰めて、冒険者達が来た事に気付いた。ベッドから飛び降りると、後ずさりしているグランに近付く。
 グランはマルグリットと一定の間合いを取り続けながら、蝋をたっぷり塗った布をマルグリットの足元に落とす。
「何してるの?」
 立ち止まるマルグリットに、今度は椅子に腰掛けるよう勧める。だが、マルグリットは屈むと、椅子の表面を指で触った。
「何これ‥‥樹液が塗ってある?」
「ちぇ! キミをビックリさせようと思ったのに、全てばれたか!」
 悔しがる素振りをするグランを見て、マルグリットは得意げに微笑む。
「こんな仕掛けじゃ、私を‥‥」

 かぽっ。

 天井から落ちてきた大釜がマルグリットの頭にすっぽりと被さった。
 木下茜(eb5817)はおろおろしながら、マルグリットが頭に怪我していないか心配しながら見詰めている。
 グランは、大釜を吊り下げていた縄をほどきながら諭す。
「罠にかかる人の気持ちがこれで解ったはずです。罠に好感持ちましたか?」
「うん!」
 マルグリットは大釜を軽く持ち上げると、眼を輝かせて頷く。
「師匠! この罠の作り方を教えて下さい!」
 開いた口が塞がらないグラン。
 茜はマルグリットの傍に駆け寄ると、頭に怪我が無いか確認する。
『罠というものは、仕掛ける本人にその気が無くても、かけた人に大怪我をさせる可能性を強く持っているのです。決して人には使用してはいけないのですよ』
『大釜程度で怪我するのかなぁ? 蓋して閉じ込めるだけよ?』
 茜とマルグリットのジャパン語での会話は、張源信(eb9276)以外の人には理解出来ていない。マルグリットが通訳して皆に伝える。
 以降の会話は、マルグリットが相互に翻訳することで、冒険者間の意思疎通が図られていった。

「マル! そこに正座するのです!」
 怒られる理由をまだ納得していないマルグリットを前に、ケイ・ロードライト(ea2499)の説教が始まった。
「そもそも、あの釜は、製作者や手伝って下さった方々の心の篭った大切に扱うべきもの! 罠を仕掛けるに使うなどとは‥‥」
 ケイの説教は小一時間続いた。

 足を痺れさせているマルグリットに向かって、今度は源信が説教する。
『師匠というのはですね、長年に渡って技を学び鍛えた先人なのですよ。先人には礼をもって接し、自らの都合で強引に押し切ろうとしてはいけないのです』
『大釜で捕獲する事って失礼な事なのかな?』
『当たり前です! どこに捕らわれて喜ぶシフールが居るんですか!』
『でも師匠、初めて見かけた時、鳥を捕まえるかごの中に閉じ込められてたよ?』
『え?』
『友人らしき人間に助けられて、いや〜、自分で仕掛けた罠に自分がはまるとは、わしもまだまだ未熟だな、って笑ってた。じゃあ、私が華麗なテクニックを見せれば有能な人材と思ってもらえると思って‥‥』
『そういう話の流れだったのですか‥‥』

 ケイが頭を抱える。
「ええっ‥‥? 大釜をそんな事の為に? かごの代わりぃ?」
「私の将来を決める大事な局面で使われるのです。本望というものでございましょう」
「ともかく、ここに、クリス嬢から頂いた吟遊詩人ギルド宛の紹介状がある。明日、一緒にギルドに行って、師匠の人となりを訊ねよう」
 茜がマルグリットに尋ねる。
『ところで、師匠の名前は‥‥』
『知らない』
「ギルドで質問しようが無いじゃないか」
『まずは明日、師匠を最初に目撃した場所に行きませんか? 手がかりが見つかるかも知れませんし』
 源信の提案に皆が同意した。

●二日目
 冒険者一行は、マルグリットの案内の元、師匠を最初に目撃した場所に向かった。
 そこは、パリ近郊に建っている農家の庭に接した道路だった。庭は半分が畑になっており、残り半分で鶏を飼っているらしい。
「この庭で見かけたの」
『この家に住まわれているのでしょうか?』
 茜が問うのも空しくなるほど、その人は直ぐに発見出来た。
「おぬしらは?」
 作物の害虫を駆除していたシフールは、冒険者達に気付くと飛んで近付いてきた。
 代表してケイが礼儀を尽くした挨拶をシフールと交わす。
「わしは、ムエット・カプリスという者じゃ。人間の弟子一人とここに住んでおる。弟子入りしたいのかの?」
「私ではなく、この女性が」
 ケイは両手でマルグリットの肩を押し、師匠の前に立たせる。
「こんにちは」
「おう。あの時覗いておった娘じゃな。罠設置の腕を見せて弟子入りしようと考えるとは、なかなか面白い子じゃて」
「え!? 陰からこっそり観察してたのに!?」
「そこまで見抜いておられたのですか?」
 ケイも、びっくりした。
「まずはお嬢ちゃんに、一つ教えてあげよう。基本中の基本じゃ。どんな状況においても、観察、確認、分析をもってあたる事。覚えたか?」
「はい。では弟子入り出来るのですね?」
「駄目じゃ。お嬢ちゃんにはわしを罠で捕らえるという課題が残っておる。それをクリアしない限り、弟子入りは認められないぞ。あせらずじっくり策を練り、初志貫徹するが良い。冒険者達の助けを借りて勉強してきて良いからな」
 師匠は笑って飛び去ろうとする。
 グランが慌てて師匠に声をかける。
「こ、今夜、酒場でご一緒しませんか? お近付きの印に」
「日が暮れてから飲みに行くつもりじゃったから、その時に落ち合うか」
「了解しました」

 冒険者達は、その足で吟遊詩人ギルドに向かった。
 ムエット・カプリスについて尋ねると、ギルド員は奥から古い資料を引っ張り出してきた。
 記録によると、そこそこ実力のあるバードだったらしい。
 ただ、今はほとんど隠居生活みたいなものなので、現在の能力については判らないらしい。
 気さくで面倒見が良いので、気に入られれば弟子にしてくれるかもしれないと、ギルド員は語った。

 その日の夜。
「しふしふ〜☆」
 酒場に居た仲間のシフール達と挨拶を交わしながら、師匠登場。
 冒険者達は四人とも居るが、マルグリットは欠席している。
「今宵も無礼講じゃ。楽しもうな」
 取り留めの無い話で宴は盛り上がる。
 少々難点があると言えば、師匠は酔えば酔うほど、愚痴が多くなるようだった。
「なんでここの酒場にはシフール専用の椅子がないんじゃぁ! おう! 椅子なんかいらん! テーブルの上が一番じゃ!」
『あの、そろそろお開きにいたしませんか?』
 茜の提案も聞こえていない。
「こんな古ワインじゃ酔えんのじゃ! もっと強い酒造れぃ! キュッと一杯で気持ちよくなるよう‥‥な‥‥」
 酔いつぶれた師匠を弟子が引き取り、宴はお開きとなった。

●三日目から五日目まで
 マルグリットの意思を確認すると、万全の準備が出来るまで、捕獲決行はしないことにしたとの事だった。
 残った三日間はマルグリットの教育に充てられた。
 ケイは、最低限の礼儀作法を教え込む。
 茜は弟子入りの心構えを説く。
『人生において、大きな決心をする時は、誰でも悩みを抱え、不安を覚えるものです。その様な時こそ、親しい方に相談してアドバイスを受け、その言葉の意味に耳を傾けてください。お互いを理解する気持ちを忘れず、自分の純粋な思いを相手に伝える事こそ、弟子入りに必要な気持ちだと思います』
 マルグリットは黙って心の中で反復している様だった。

 最後に冒険者達は、マルグリットの初志貫徹の誓いを受けて、依頼を完了させた。