お餅を作って食べませんか?

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜01月05日

リプレイ公開日:2007年01月07日

●オープニング

 ふとしたきっかけで知り合ったランティエ家に招待されたクスターとマルグリット。二人は十代半ばの兄と妹である。
 二人は、こんな豪邸に招かれる機会など今まで有るはずもなかった。二人とも、少しおどおどしている。
「どうぞ、楽にしてください。わざわざ来ていただいて、ご面倒かけましたな」
「い、いえ、こちらこそ。妹が迷惑かけまして」
「いやいや」
 ランティエ家の主人は、部屋の入り口のドアの隙間からこっそりとマルグリットを見詰めて顔を赤くしている息子オールをちらりと見やった。
「しつこいようだが、お嬢さん、息子と付き合ってもらえんかの?」
 またその話かと、ちょっとうんざりした表情でマルグリットが答える。
「好かれたから付き合うっていうものでもないですからねぇ。私がその気になるかどうかは、オール君の努力次第じゃないですか?」
 予測していた答えに、主人は軽く息を吐いて、話題を切り替えた。
「まぁ、それはそうと。今日来ていただいたのは他でもない、受け取っていただきたいものが有りましてな」
 主人は傍にいた男性二人に合図をして、なにやら大きめの袋2つを持って来させた。
「これは農産物を扱う商人が持ってきたものでしてな。ジャパンの『もち米』と呼ばれる物です」
「これを私達に?」
「そういう事ですな」
「そ、そんな、もったいない。ご迷惑かけているのはこちらの方ですから」
「いやいや、息子の事とは関係なく、私がいつもの癖で衝動買いしたのはいいが、扱いに困っていたものでしてな。どう食すればいいか、道具もないことだからと、持て余しておりました。どうぞ、受け取って食べてください。こちらも物が片付くと嬉しいのです」
「そういう事でしたら、ありがたくいただきますね」
「お嬢さんには荷が重いから息子にも運ばせましょう。おい、オール!」
(「やっぱり下心あるんじゃない!」)
 マルグリットの冷ややかな視線をよそに、オール君が今呼ばれて来たかの様に部屋に入ってきた。
「何ですか、父さん?」
「この袋一つをクスター殿の家まで運んでくれんか?」
「わかりました。クスターさん、一緒に運びましょう!」
 笑顔で運ぶオール。彼に冷ややかな視線を送り続けるマルグリット。運んでいる最中も居心地悪いクスター。
 そんなこんなで、三人はクスター家に到着した。

「何も無いですけど、喉が渇いていたら、水でもどうですか?」
 オールはクスターから水をもらう。
 到着後、何かを考え始めたマルグリットは、やがて口を開く。
「お兄ちゃん。もち米を炊いて、もちをつくのも大釜で何とかなりそうな気がするの」
「もちをつくって、詳しくは知らないけど、釜で大丈夫なの?」
「土で土台を作って、土台に釜をすっぽり埋める様に設置すれば、臼、お兄ちゃんは知らないかな、それに近いものは出来ると思うの」
「そういうものなの?」
「ただ、もちつきに必要な杵、これも知らないよね、それがうちには無いから‥‥」
「もしかして‥‥」
「もちつき作業も含めて、おもちを一緒に食べる依頼を出そうと思うの」
「いいですね! 僕もご一緒させてください!」
 何か言いたそうなマルグリットを制しながらクスターが応える。
「どうぞ、どうぞ。こちらから招待しますので」
「もち米もらったからって結婚しないからね!」
 招待を約束されたオール君は喜んで帰っていった。

「さて、招待するのは、お母さん、オール君、オール君の両親はどうしよう?」
「都合次第じゃない?」
「バードのムエット師匠、まだ弟子入りもしてないけど、招待してもいいかな?」
「都合が良ければお弟子さんと一緒に来てもらおうよ。依頼で集まる冒険者の人達も賑やかな方が良いだろうし」
「じゃ、さっそく招待状書いてっと!」
「僕が依頼出してくるよ」

 そして、もちつきの手伝いと、もちの食事会についての依頼がギルドに張り出された。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5242 アフィマ・クレス(25歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8372 ティル・ハーシュ(25歳・♂・バード・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●料理スキル、壊滅という事実
 冒険者達が皆ギルドに集合して打ち合わせを始めると、今回の依頼において懸念すべき事が一つ判明したのだった。
「うーむ‥‥結局、誰も料理の技術を修得していないのですな‥‥」
 ケイ・ロードライト(ea2499)が両手で頭を抱え込む。
「まあ、もちつき自体は料理の知識いらないから、あとはその辺で売っているものを混ぜて煮れば大丈夫だよ」
 アフィマ・クレス(ea5242)が含みのある笑みを浮かべた。
「私はクスター殿の母君とオール殿の母君にご出馬願い、手解きを受けつつ料理するのが良いと思いますな」
「うん。下手に作って失敗するよりは、料理のわかる人に聞いた方がいいかもね♪」
 ティル・ハーシュ(eb8372)がケイの提案に賛成する。
「まずは、クスター家に行って、二人が来るかどうか確認しましょう」
 オルフェ・ラディアス(eb6340)の提案に賛同し、一行はクスター家へと向かった。

 その道中、一行は鳳双樹(eb8121)にもちつきについての説明を受けていた。
「そして、搗き手がですね、こうやって杵を振り下ろして‥‥」
 身振り手振りを加えて一生懸命説明する双樹の姿は、通りすがりの人達には奇異に映ったらしい。
「返し手は杵が持ち上がっている間に、こういう風に臼のお餅を返して‥‥って、あの‥‥あたしをじろじろ見ないでください〜」
 双樹が空の両手を振りかざしたり、しゃがんで両手を前方の何も無い空間にかざしたりする仕草を興味を持って覗いていた通行人達は、あわてて視線をそらすと、そそくさと立ち去った。
「あー、恥ずかしい〜!」
「人の視線なんて、気にするな」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)は双樹の背中をそっと叩いて励ます。
 両手で頬を隠す双樹を囲む冒険者一行は、微笑しあうのであった。

●罠スキル、レベルアップする
 オルフェがクスター家のドアをノックする。
「こんにちは。もちつきにやって来ました」
「あ、お疲れ様です。ごめんなさい。ちょっと今、手が離せないから、ドア開けて入って〜」
 ドアの隙間から顔を覗かせたオルフェは、部屋の隅にたたずむクスターと、不思議そうな顔で会釈を交わす。
 マルグリットは何か忙しそうにしている。
「えっと。クスターさん、マルグリットさん。この度はお招き頂き有難うござい‥‥」

ぼふっ。

 自分達も家の中に入ろうとケイがドアを更に開けた途端、家の中に入りかけていたオルフェの頭を大釜が真上から襲った。
「うわっ! な、何?」
 オルフェの頭に、安全を確保する為厚手の布などで念入りに何重にも包んだ大釜が被さっている。
「やった〜! これで弟子入りの野望に一歩近付いた〜!」
 小躍りするマルグリットを正座させ、ケイが小一時間説教したのは言うまでも無い。

 その後、雑談と打ち合わせで時間が過ぎていった。その内に、各々自分のやりたい事が決まると、各自それぞれの行動に取り掛かっていく。
 ティルはクスターと一緒に、大釜を臼に加工する作業を始めた。
「私は煮物用の鍋を借りてきますね。情報屋としてのつてを求めて来ます」
 オルフェは出かけていった。

●ナンパスキル、不発に終わる
 ケイは、オール家に向かった。
 料理の手ほどきをオールの母親に要請する為だった。幸い、食事会には参加するらしい。
 だが当然、食事会の準備についてはクスターから要請されていない。
「母君の作られる料理も美味しいのでしょうな。オール殿の健やかな成長振りから察せられます」
「そうおだてられても。大したものも作れませんし」
「いやいや。我々も母君の調理する美味しい料理をいただく機会を得たいものだと願っています」
「あら〜。口がお上手なんですね〜」
「オホン、オホン!」
 ドアの隙間から覗いていたオールの父が二人に聞こえる様に咳払いする。
「あら。ごめんなさいね。お手伝いしたい気持ちはあるのですが、食事会の日まで家を離れられない用事が有るものですから‥‥」
「あ、いえ、こちらこそ、ご無理を願いまして失礼致しました」
 夫の目が光っていては、ケイといえど、誘うのは無理であった。
 ちなみに、クスターの母親は片道2日の村から食事会に合わせてクスター家にやってくる。
 今からの要請は、他にやるべき事を考えると、時間的に無理なので断念した。

●杵スキル、暴発は食い止められた
 アフィマとマルグリットはエチゴヤの中で武器を品定めしている。
「もちをつくって言うぐらいだから、杵にするなら、やっぱり槍でしょ! うん。これが良い!」
 アフィマはハルバードを手に取り、持ち上げては振り下ろしている。
「そんな先端の尖った物でついたら、大釜が穴だらけになってしまいます」
「知らないの? ついたもちを先端に突き刺して振り回すのがジャパンの風習よ。見た事ないかな〜? 家の屋根に登って、びろびろに垂れ下がったもちを突き刺した杵を振り回してる人」
「それは見た事ないけど、杵は無難に、これにしときません?」
 最終的に、アフィマはマルグリットの薦めるハンマーを購入した。

●楽器スキル、和の心を知る
 次の日。
 ティルはマルグリットと一緒にムエット師匠を訪ねていた。
「ジャパンの楽器は初めてで、弾き方がわからないの。できれば、弾き方を教えて欲しいんだけど‥‥」
 ティルは、持って来た琵琶を師匠の前に置く。
「琵琶か。懐かしいな。わしらには重くて持ち運びがきついので、久しく使った事がなかったが‥‥これの弾き方を教えて欲しいと?」
「うん」
「楽器というのはだな、その楽器の心を知る事で弾く事が出来る様になるものじゃ。まず、琵琶を持って演奏の準備をしてみよ」
「はい」
 ムエット師匠は、すかさずティルにテレパシーの魔法をかける。
(「貴方は、私を弾きたいの?」)
 ティルが琵琶を見詰めた瞬間、ムエット師匠は声色を使ってティルに語りかける。
「わ! 琵琶が喋った!」
 状況が把握出来ていないマルグリットは、きょとんとした顔をしている。
(「心を込めて弾いてくれるならば、弾き方を教えます」)
 ティルは他の楽器での演奏技術が極めて高いので、コツをつかむのが早く、琵琶演奏の修得にそれほどの時間はかからなかった。
 マルグリットは、ティルが演奏するジャパンの音楽に聞き惚れていった。

●蕎麦スキル、幻に終わる
 そんなこんなで時間は過ぎていき、今日はおもちの食事会。
 クスター家の中は、大忙しであった。
 オルフェが借りてきた銅の鍋を一つ使ってもち米を炊く。
 もう一つの鍋では、ブイヤベースという物らしい雑煮っぽい物が煮られていた。
「パスタ、この鍋に入れるの?」
 ケイの返事を待たずに、マルグリットが鍋にパスタを全部投入。
「あ〜! それは蕎麦にしようと‥‥」
 蕎麦粉の調理の仕方を誰も知らないのでパスタで代用しようとした年越蕎麦の作成は、マルグリットの手によって幻に終わった。

●もちつきスキル、二人の仲に課題を残す
 招待された者達が見守る中、炊き上がったもち米を大釜臼の中に入れる。
「もちつきの見本をお見せしますぞ」
 ぺったん。ぺったん。
 つき手のケイと返し手の双樹の息がうまく合っている。リズム良くつかれたもち米は、少しずつもちへと変化していく。
「こんな感じです」
 招待客達に拍手されて、双樹は少し照れている。ぺこりと軽くお辞儀をした。
「さ、オール殿。杵を持って。マルグリット嬢はこっちへ」
「え〜?」
「マルグリットさん、頑張ってもちを完成させましょう!」
 しぶしぶ返し手を担当するマルグリット。張り切りすぎてマルグリットの手先が見えていないオールとのもちつきは、リズムがばらばらで、危なっかしいものであった。
「う〜ん、まだまだですな」
 早々に交代したつき手と返し手によって、もちは出来上がっていった。

●人形劇スキル、妨害をものともしない
 出来上がったおもちを切り分けて、皆、食事と談笑を楽しんでいる。
「蜂蜜、いただきます」
 双樹はオルフェから蜂蜜の入った壷を受け取った。
「なかなか、飲み込めない物ですね」
 オルフェは、もちの粘りと蜂蜜のねっとりした食感に四苦八苦していた。

 そうこうしてるうちに、余興として、アフィマの人形劇が披露される時間になった。
 べべん。
 ティルの琵琶演奏と共に、アフィマの語りが始まる。
「むかしむかし、ある所に、丸栗兎(マルクリト)という少女が住んでいました。丸栗兎は、大龍(オーリュウ)という少年が自分に恋をしているのを知っていました」
「い、いきなり、何を始めるんですか〜!!」
 慌てたマルグリットがアフィマに詰め寄る。
「恋心に気づきつつも、彼女は愉快な仲間達と過ごす毎日が楽しいので、大龍君の事は、そっちのけでした‥‥パス!」
 マルグリットに羽交い絞めにされたアフィマは、エメラルドに人形達を投げ、後を託す。
 エメラルドは、サンタの人形を選ぶと、人形劇を続けた。
「そんなある日、時期外れのサンタがふらりと大龍の家にやって来た」
 マルグリットはアフィマに拘束され、エメラルドの劇を止める事が出来ない。
「大龍君、僕は時期外れのサンタだ。君にプレゼントを上げる事は出来ない。
 というか、男なら自分の度量で頑張れ。自分の力で丸栗兎を振り向かせるのだ。
 応援はしている。私で良ければ、相談くらいは乗ってやろう」
「なんでそんな話になるの〜!! 放せ〜 止めろ〜!」
 足をじたばたさせるマルグリット。頬を赤らめてコクコクと頷くオール。二人を笑い声が包む。
 賑やかな笑い声は今宵絶える事は無かった。