おまえ平畑だろ!

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月22日〜01月27日

リプレイ公開日:2007年01月31日

●オープニング

「えー、という事で、貴方のモンスター退治に伴う、目的地に移動する際の護衛依頼、承りました。強い方達が集まると良いですね」
 受付と向かい合って座っている依頼人は、ややうつむき気味のまま、緊張した面持ちで声無く頷く。長い黒髪が軽く揺れる。
「強敵に挑む女性って、冒険者ではない私から見ても憧れますよ。鍛錬の意味も有るんですか?」
「ええ、まぁ‥‥」
 依頼人は口元を拳で隠すと、くぐもり声で返事をした。
 受付はふと、自分達を睨みつける様に見ている男が、こちらから少し離れた所に立っているのに気付いた。
 受付は、男をちらりと見やると、直ぐに依頼人との会話を再開した。
「あと、何か付け加えておく事は有りますか?」
「あ、えーと‥‥もう、特には無いと思います」
 音も無く近付いてきた先程の男が、依頼人の片方の肩を手で鷲づかみにする。依頼人は突然の恐怖におののく様に身を固め、怯えた様子で男を見る。
「依頼人に何をするんですか! 乱暴は止めてください!」
 受付の声は聞こえないと言わんばかりに、男は依頼人を威圧する。
「おまえ平畑だろ! 平畑順一郎!」
「いきなり何言うんですか! この人は、如月あやかさん、ジャパンからいらっしゃった冒険者ですよ!」
「騙されるな! 平畑が女装してるだけだ!」
「何の証拠が有って、そんな事言うんですか!」
「お前は知らないから! 女装して夫を誘って揉め事を起こして楽しむのが奴の得意技なんだよ!
 証拠が欲しいって言うんなら、上着を剥いて男だという証拠見せてやる! ‥‥あ」
 椅子の上には、もう誰もいない。
「逃げやがった‥‥」
「依頼書、作り上げて貼り出さないとね〜」
「俺は、知らないぞ。あいつが依頼に同行すると、仲間にろくな事をしない!
 馬車を借りて行こうとすれば、出発前にこっそりと車輪の前に穴を掘って車輪がはまる様にするは、
 馬を連れて行けば、馬の首に餌を縛ったロープを結わえて垂らし、馬が気が散って走れない様にするは、
 寝ている人の両方の靴をロープで結んで起き上がった直後に転ばせたり、人のバックパックにこっそり農民セットを勝手に入れたり‥‥
 あー!! 思い出しただけでも腹が立つ!」
「楽しそうですね〜」
 受付は男から見えない方向に顔を向け、軽く舌を出す。
(「私は全て承知済み〜」)
「あいつの中には、邪悪な心が潜んでいる。あいつはとても悪い奴なんだ! だから‥‥一つ頼みがある」
「何ですか?」
「俺を今回の依頼に加えて欲しい! パリの冒険者達があいつの毒牙にかかるのを見過ごしてはおられん!」
「冒険者の中にはしたたかな方達も居ますから、大丈夫だと思いますけどね〜」
(「となると、冒険者達が、平畑もとい如月あやかさんをやり込めるというのも有りね‥‥」)

 そして、その依頼書は張り出された。

●今回の参加者

 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●トライリンガルで行こう!
 初日、まず最初に冒険者達は、依頼人の如月あやかを囲んで顔合わせを始めた。
「皆様、始めまして。如月あやかと申します。どうぞ、よろしゅうお願い致します」
「こちらこそお願いいたしますわ。如月あやか様。私、リリー・ストーム(ea9927)と、申しますの」
「まぁ! 美しい方ですね。ドレスが似合ってますわ。短い間ですが、ご足労いただいて嬉しく思っております」
『すみません、エメラルド・シルフィユ(eb7983)さん。今自己紹介、始まってますか?』
『ラテン語? レイムス・ドレイク(eb2277)殿は、ゲルマン語を話せないのか?』
『ええ。話せるのはラテン語と、他にはイギリス語とジャパン語を少し。ゲルマン語はさっぱりで‥‥どうやって挨拶したら良いでしょう』
『ジャパン語で話せ』
『あ‥‥』
「鳳双樹(eb8121)です。よろしくお願いいたします。えーと‥‥こちらがレイムス・ドレイクさんで、ゲルマン語が‥‥」
『不慣れなジャパン語ですみません。私はレイムス・ドレイクです。あなたを、美しい人を守って行くが出来てうれしいです』
『こちらこそ』
 レイムスの挨拶が双樹の言葉に被ってしまった。双樹は決まり悪そうにジャパン語でレイムスに話し掛ける。
『レイムスさん‥‥今紹介しようとしてました』
『え? 双樹さんはジャパン語が出来るのですか!?』
『当たり前です。ジャパン出身ですから。しかし、不便ですね』
「あの‥‥エメラルドさん、レイムスさんの通訳お願いできないでしょうか?」
「ああ、構わない」
『今、私がレイムスの通訳をする事となった。随時、ラテン語で伝える』
『ありがとうございます』
 リリーがレイムスの方を向いて、両指を胸の前で組んで見詰める。
「あの‥‥リリーに解らない言葉で何を語られているのでしょう? 私もレイムスさんとお話したいです。これが嫉妬というものなのでしょうか‥‥」
『リリーが、ラテン語やジャパン語で話されても解らん、ゲルマン語で話を進めろと言っている』
『何故にリリーさんが私をうっとりと見詰めているのでしょう?』
『知らん』
「あの‥‥立ち話もなんですから、目的地に向かいながら、ゆっくりとお話しませんか?」
「ええ。ジャパンの事とかお聞きしたい事たくさんあります。皆さん、出発しましょう‥‥エメラルドさん、レイムスさんへの通訳お願いします」
『行こう』
 ゆるゆると一行は出発する。

●罠は深く忍び寄る
 しばらく歩いた所で、リリーはちょっとした違和感に気付く。どうしたのだろうと、如月あやかに尋ねてみる。
「ところで、同行するとおっしゃってた男性の方は、どうされたのでしょう? 私、どんな男の人かと心躍ってお待ちしていました」
「用事が有って、遅れて合流すると言ってました。わがままして申し訳ございません」
「いえ、私待ちますわ。待てばもっと心ときめく気持ちが強くなるのですもの!」
『通訳の必要の無い会話だ』
「あら、もちろんレイムスさんの方が素敵でしょうけど」
『平畑は、何を仕掛けてくるのだろうな』
「ちゃんと通訳してます?」
『リリーさん、ちょっとすねてこちらを睨んでるみたいに見えるのですが、大丈夫ですよね?』
『ああ。問題ない』
 双樹が話題を変える。
「そ、それはそうと。如月さんは、ジャパンのどの辺りから来られたのですか?」
「京都からです。修行をしたく、こちらに参りました」
「京都ですか! 美しい街ですよね! 懐かしいな‥‥」
『平畑、いや如月は京都出身だそうだ』
「如月さんは、ジャパンでどんな冒険をされていたのですか? 教えて下さい!」
「どんな冒険かですか? そうですね、例えば‥‥」
 一方、リリーはレイムスに擦り寄る。
『ところで、レイムスさんは、イギリス語を話せます?』
『わ! びっくりした! リリーさんはイギリス語を話せるんですね!』
『簡単な会話でしたら。でも、私の貴方への想いを伝えられる程には言葉を紡ぐ事が出来ませんの。つらいです‥‥』
『お二人は、通訳に解らない言葉で何を語られているのだ?』
『いやいやいや、私の口からはとても‥‥』
『だいたい想像はつくが』
『リリーの方を向いてください、レイムスさん。育ちの良さを伝える貴方のその魅力的な顔立ち、もっと拝見したいです〜』
『あー‥‥リリーがモジモジしてるな。私には、通訳不要だ』
『そんな風にされると照れますから‥‥』
『レイムスさんって、面倒見が良くって、正義感に溢れた、素敵な方だと思います』
『そんなにおだてられても‥‥』
『リリー、お願いが有るんですけど‥‥いいでしょうか?』
『ああ‥‥いい香り‥‥な、なんなりと』
 レイムスは、リリーのテクニックと香りの前に、堕ちた。
『私が酷い目に合いそうになったら、助けていただきたいのです』
『もちろん! 素敵な女性を助けるのは男の義務というものです! 貴方の為なら、たとえ火の中水の中!』
『何を話しているのか知らないが、安請負はしない方が良いな。高くつくぞ』
「あの‥‥そちらは、何を相談されているのですか?」
「知らんが、気にする必要はない」
「? そうですか‥‥すみません、こちらで勝手に京都の話で盛り上がってしまって」
 賑やかに一行は歩みを進めて行った。

●暴かれる真実
 そして夜。野営地にて。如月あやかが軽く息を吐く。
「ふぅ。疲れました。今日の分の移動が終わったと思うとほっとします」
「京都と比べるとどちらが歩きやすいですか?」
「実際に、というよりも、私にとって珍しい景色の中を歩けるというパリの方が、歩きやすい様な感覚を覚えます」
「変な言い方ですけど、パリを楽しんでってください」
「双樹さんは京都よりもパリに馴染まれていらっしゃるのかしら」
「どうなのでしょうね」
「ふふふ‥‥」
 一方、テントの陰では。
「ねぇねぇ、エメラルドさん、どう思う?」
「なんだ、リリー? テントの裏でひそひそ話すべき内容の話か?」
「ここまで何事も無く過ぎていったのって、変じゃない? あの人、実は男性の平畑さんで、依頼の同行者に悪戯をしかけるって話だったじゃない」
「ああ」
「なんで私達何も悪戯されてないの? 出発前に聞いた話は嘘だったの?」
「‥‥」
「私、確かめたいの。如月あやかさんが本当に悪い事する人なのか。というか、男なのか? モンスターの襲撃に注意しないといけない夜に、平畑さんに悪戯されると冗談では済まなくなりますし‥‥」
「男性だったら、確かにな」
「協力いい?」
「承諾」
 レイムスが周辺の見回りから戻って来た。
『周り見てきましたけど、モンスターの気配有りませんでした!』
「あ! おかえりなさい、レイムスさん! 寂しかった!」
『わわわっ! 人が見てますっ!』
「ねぇ、昼間私を助けてくれるって約束されましたよね? これから少しの間、私を護って欲しいの」
『これから如月あやかが本当に平畑かどうか確かめるそうだ。リリーの身を護ってやって欲しい』
『分かりました! リリーさんの身体には指一本触れさせません! リリーさんの清らかな身体を命に代えても護って見せます!』
「了解だそうだ」
「では。‥‥如月あやかさん!」
「あ、はい。私ですか?」
「しかし、その中身は、平畑順一郎! 貴方が何を考えているのか知りませんが、ここで貴方の正体を暴かせていただきます!」
「え? え?」
 如月あやかは、何が起こっているのか解っていない表情でキョロキョロ周りを見ている。
「リリーさん〜 この方、そんなに悪い人じゃない様な〜」
「双樹さんは左足を押さえて!」
「は、はいです」
「レイムスさんは右足! エメラルドさんは両手を押さえて平畑を仰向けにさせて!」
『レイムスは右足な』
「何をされるのです!」
「おとなしくしなければロープで拘束します! さぁ、布を詰めた、その偽の胸、暴かせていただきましょうか!」
「きゃー!! 止めて〜!!」
「さぁ、さらしが出て来たわよ! ‥‥さらし? あれ?」
「さ、さ、触らないで!!」
「本物? ‥‥あれ?」
『何か非常にまずい事になった様な‥‥』
「共通認識は通訳しなくて良いな?」
「あやかさん、ごめんなさいです〜」
「あれ? 私、何してるの?」
「きゃぁあああ!! 誰か!! 私を助けて!!」
「あやか! 大丈夫か! 今、助けるぞ!」
 物陰から男性が現れた。
「‥‥? 貴方は?」
「誰だ、お前は! リリーさんの身体には指一本触れさせないぞ!」

●種明かし
 しばらくして。冒険者達は、如月あやかと先程現れた男性を囲んで謝っている。
『貴方が遅れて合流すると言われた男性の方でしたか‥‥』
「本当に申し訳ございません! なんと言ってお詫びしたらよいか‥‥」
「如月あやかさんをはずかしめた事、深くお詫びする‥‥」
「でもでも! 予定では暴いた平畑さんをテントに放り込んで、レイムスさんを騙して誘い入れて楽しもうかと! だから、貴方が遅れてきたから最初から予定がくるったっていうか、代わりにレイムスさんを‥‥っていうか、何であやかさんが女性なの!?」
「リリー。謝った方が良いと思う」
「でも! だから、そう! 平畑はどこに行ったのよ! この依頼は平畑が依頼人だから、その平畑が同行者に悪戯するからって!」
「ふふっ‥‥」
『?』
「なにが可笑しい?」
「冒険者の皆様方、平畑はここに居るよ?」
「どういう事でしょう‥‥?」
「どういう事よ! どこに平畑が居るって言うのよ!?」
 男性はリリーの顔の前に自分の顔を突き出す。
「君の目の前」
「?」
「遅れて来た僕が平畑。この如月あやかはこの悪戯の共犯。依頼を出したのは本物のあやかだよ。それを平畑呼ばわりしたのが僕。解った?」
「な、な、な‥‥」
「唖然とした表情、とっても楽しませていただきました。ありがとうございます」
「男性だと思い込めばいずれ正体を暴こうとするのは間違いないからね〜 こっそり君たちの後をつけてきたのさ〜」
『レイムス、すまない。今は通訳する気になれない‥‥』
『あの〜 双樹さん、何が起きたか私に教えて‥‥』
「はぁ‥‥」
 レイムスを除いた冒険者一行は、がっくりと肩を落とす。

●その後は?
 数日後、依頼人如月あやか、同行人平畑順一郎と一緒に帰ってきた冒険者一行は、ギルドに戻って来てもしばらく放心状態であったという。
 ギルドがこの依頼の結果報告の内容を整理するまでしばらく時間がかかったそうだ。