【凍る碑】死者よりの手紙
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月28日〜02月02日
リプレイ公開日:2007年02月05日
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●オープニング
瓶の水も沼も人の血も凍りつくだろう。
死者よりの手紙は前触れなく届き
村の中の栄光に包まれた碑(いしぶみ)は凍りつく。
人々の願いは天に届くことはないだろう。
1の月の予言が、パリで生活している人々に緊張をもたらせていた。
『誰が何をしているのだろう。我々の身に何が起こるのだろう。誰が我々を危険から護ってくださるのだろう』
酒場や広場、街道の端で囁かれる住民達の会話は、パリの空気を湿った重いものに変えていくかの様であった。
そんなある日の夕方、一人の女性が突然ギルドを訪れた。
白い質素なドレスに身を包んだその女性は、白クレリックとして幾つか依頼をこなしていた冒険者だった。
先日の依頼で負傷後行方不明となるまでは。
「え?! あなた、ファセリアさんですか? ご無事だったんですか? 心配してい‥‥」
受付は目の前に立った女性の顔を見るなり、驚きのあまり立ち上がりテーブルに手をついて身を乗り出し、大声でまくし立てた。
だが、彼女の声は途絶えた。絶句せざるを得なかったのだ。
ファセリアの白いドレスと金髪の長い髪は、全体がどす黒く染まっていた。まるで赤黒い液体を頭から浴びせたかの様に。
ファセリアはニヤリと微笑むと、その瞬間白く淡い光に包まれた。
「う、動けない‥‥」
「お久し振りですわ。今日は、依頼を出す為に参りましたの」
ギルド内の警備を担当する者達が、受付の異変を察知して二人の側に駆け寄る。ファセリアを見るなり、皆顔を強張らせた。
ファセリアは再度ニヤリと微笑むと、今度は黒く淡い光に包まれる。
ファセリアの両手が変形を始めた。うねる様に伸びていく腕が、受付の首と頭の上部に絡みつく。
「無粋だな。紳士的な交渉を決裂させる程の値打ちが、この娘の首の骨の値打ちより高いという訳でも無いだろう?」
警備を担当する者達がたじろぐ。
「なに、簡単な依頼だ。この女の胸元に仕舞ってある手紙を、あて先に指定されている村まで冒険者達が届けてくれれば良い。受けるな?」
睨むファセリアから目をそらした受付は、ファセリアの背後に、少し離れた場所から羊皮紙を広げてメッセージを見せて伝えようとしている男が居る事に気付く。
予言に関係した調査を二度依頼した男性だと気付いた受付は、急いでメッセージを読む。
『依頼を受け付けるふりをしてください。私が、この事件に関して、この死者の行動の意図を調査してもらう正式な依頼を出しますので』
「‥‥わかりました。その依頼を受け付けます」
「物分りの良い娘だ。冒険者達にも良き分別をする様伝えておけ」
ファセリアは腕を人間の形に戻すと、体から全ての力を抜いた。
呪縛の解けた受付が幾ら揺り動かしても、何の反応も無い。
巻き起こる風と共に、ファセリアを操っていたと思われる存在は消えていた。
「許さない!!」
受付の絶叫が室内に空しく響く。
ファセリアの胸元から手紙が取り出される。直ちに一枚の依頼書が作成され、張り出された。
『この手紙を指定された村に届ける行動をもって、この件に関する詳細な報告書を作成してください。依頼人であるオドゥール・アームも同行します』
●リプレイ本文
パトリアンナ・ケイジ(ea0346)は、ファセリアが最後に参加した依頼についてギルド員に尋ねる。
ギルド員は、席を離れると、報告書を取り出して戻って来た。
ミカエル・テルセーロ(ea1674)がその報告書に目を通している間に、ギルド員は同行していた冒険者達から聞いた話を語りだした。
ファセリア最後の冒険、それは、山村に住む者達が依頼した、オーガの群れを退治する仕事だったそうだ。
戦闘中運悪く、ファセリア一人がゴブリン戦士らしきモンスターに囲まれ孤立してしまった。
休み無く攻撃を受けぐったりとした彼女は救出かなわず連れ去られ、その後血痕を頼りに皆で捜索してもファセリアの姿を発見する事は出来なかったそうだ。
その後、エルリック・キスリング(ea2037)は依頼と予言の関係について調べるべく、村の様子や碑は有るのかどうかなど、ギルド員に尋ねていた。ギルド員が知っている事も限られるので、依頼と予言の関係についてははっきりとした事は解らなかった。
「『村に届ける』だけでは、村の誰に届けるかもわかりませんね。手紙を確認しましょう」
ミカエルはギルド員から手紙を受け取った。表には村の場所に添えて『村の皆様へ』と書かれている。
さっそく皆でその中身を確かめる。
『村の皆様、お元気にしていらっしゃるでしょうか?
冒険者となり、村を離れてから随分とご無沙汰しております。
本来ならもっとこまめに顔を見せるべきところ、礼を欠いて申し訳なく思っております。
非礼の中恐縮ですが、今回はお願いしたい事がありまして手紙を出しました。
お聞きになった方もいらっしゃるかもしれませんが、私は先日受けた依頼においてモンスターの襲撃に会い、命を落としました。
私の遺体はパリにて保管されていると思いますので、それを生まれ故郷であるそちらに埋葬していただけないでしょうか。
この手紙をそちらに届けるように依頼を出しましたので、依頼を受けた方達が事前にこの手紙に目を通されていらっしゃったら、一緒に私の遺体を持ってきていただけるかもしれません。
そうでなければ、何人かの冒険者に取りに戻っていただいてください。
墓碑の判断はお任せします。
私の冒険は終わりました。これからは村で静かに眠らさせてください。
よろしくお願い致します』
デュランダル・アウローラ(ea8820)が手紙を床に叩きつける。顔にこそ感情を出していないが、怒りは収まらない様だった。
「死者が書いた手紙だと!? ふざけるな! こんな手紙が有るか!」
皆がデュランダルを落ち着かせる。
「落ち着いて淡々と調査を行いましょう」
パトリアンナが優しくデュランダルの肩を叩く。
「敵の意図に乗るのは不快だが、村で何が起きるのか確認する必要はあるのは理解している。悪魔どもの企みは必ずつぶす。好きにはさせないからな」
手紙を見詰めてデュランダルが呟く。
冒険者達は、依頼人であるオドゥール・アームと落ち合うと、手紙を運ぶ本隊と、本隊の影となり本隊を護る別動班に分かれて移動を始めた。
ファセリアの遺体は安全の為パリに留めた。
道中は幸いにモンスターの襲撃は無かった。
十野間空(eb2456)は別動班にて本隊との連絡等をしていたが、村が間近になると、先回りして村の様子を探りに行った。
村に入ると同時に気付く。何者かが手紙を使って自分達をここまで誘導したのであれば、何かが起こるその場所はここである。
ここで何かが起きるのであれば、村に着いた時真っ先にしなければいけないことは、『村人の安全の確保』であった。依頼に関係の無い村人を巻き添えにしてはならない。
空は本隊に連絡した。本隊のデュランダルが先行して村周辺の偵察に向かう。
本隊が村に着く頃、デュランダルがヒポグリフに乗ったまま、上空での偵察から戻って来た。落ち着かない様子である。
「遠方に巨大なモンスターらしきものが存在するのを発見した。こちらに向かって来るようだ」
連絡を受けたリュリュ・アルビレオ(ea4167)は石の中の蝶をチェックしたが、反応は無かった。モンスターがデビルでないからか、遠方に居るからかは判断出来なかった。
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)が、危惧されていた『村人がズゥンビ化している可能性』を調べたが、村人の中にズゥンビの存在は確認されなかった。
冒険者達は分担して、村人への危険の通知と避難の誘導を始める。
しばらくすると避難先からも村の異変が確認出来る様になった。白っぽくもやっとした薄い煙の様な物で村は覆われつつある。局地的に吹雪いている様に見える。
リュリュが呟く。
「吹雪の息を吐くモンスターと言えば‥‥」
モンスターに関する知識が豊富なリュリュには、このモンスターが何者か見当がつく様であった。
しかし彼女は黙った。
皆が、このモンスター襲撃が何者かの罠であると思い始めていた。そうであるなら、モンスターに我々の存在を気付かせずに、無人の村の襲撃だけで済ませてしまう事も充分罠への対抗策になる。戦う為に罠の中に飛び込むだけが解決方法ではない。
冒険者達は、村人達と一緒に身を潜め、モンスターがこちらに向かって来るのを警戒しつつ、立ち去るのを待った。
やがて、村を覆っていた白い煙は消えた。正確には、立ち上る雪煙が村を通過して行った、というべきかもしれない。確認の為村に入った冒険者達は、一面の雪と氷に覆われた村の中の様子を見てそう思った。
ディグニスが誰に聞かせるともなく言う。
「狙いは、私達をモンスターに出会わせる事だった様だな」
「いや。当たらずとも遠からず、と言った所だろう」
冒険者達と依頼人の、その誰でもない声が、いきなり語りかけてきた!
全員が身を堅くして防御の姿勢を取る。首から上だけ、声の主を探そうと全力で動かす。
リュリュは咄嗟に石の中の蝶をチェックしたが、あまり意味は無かった。
振り向いた先に居た、巨大な浮遊する人間の頭は、ビフロンスに間違いなかったからだ。
「あれがビフロンスよっ! みんな、気を付けてぇぇ!!」
リュリュは指で指し示すと、ありったけの声を出した。
「人間どもはしとやかに振舞えん生き物だな」
ビフロンスは数メートル上昇すると、ゆらゆらとうごめく漆黒の炎のバリアらしきものに包まれた。
「まぁ‥‥獣の力を借りた所で、あてにはならぬとは思っていたがな」
「人心を乱れさせるのがお前の目的か?」
ミカエルがビフロンスを睨み、気丈に問い詰める。
「何の得にもならん事を」
「では、この村の人々の命を奪う事が目的だったのか?」
「村人の骸は使えぬ。我が欲しかったのはお前らの骸だ」
「ふざけるな! 命を奪い死者を操るなど言語道断だ! お前の命をもって、その罪を償え!」
李風龍(ea5808)が皆の盾となって戦うべく身構えた。
パトリアンナが魔槍をビフロンスに向かって投げつける。槍は漆黒の炎のバリアに阻まれ、ビフロンスに当たる事なく落ちて行った。
ミカエルが赤い淡い光に包まれる。ビフロンスの真下からマグマの炎が勢い良く吹き上がったが、これも漆黒の炎のバリアに阻まれ、ビフロンスに何のダメージも与えられなかった。
リュリュはサイレンスを試みたがこれも無駄であった。
『何もしない』ビフロンスの前には、ディグニスの仕掛けたヘキサグラムタリスマンも効果が無かった。
「能力を得る為には命など邪魔だ。その為にお前らを凍死させたかっただけの事。お前らの言う邪悪な行為だとは思えんがな」
依頼人オドゥール・アームが小声でリュリュに尋ねる。
「ビフロンスは死者を得て何をしようというのでしょう?」
「ビフロンスは死者に憑依出来るの。憑依したらその人のスキルが使えるらしいわ。欲しかったのは、私達の魔法スキルとかだったのでしょうね」
「その人が生きているかの様に使えるのですね」
「ええ」
依頼人オドゥール・アームは何かを考え始めた。リュリュはいぶかしげに依頼人を見たが、直ぐにビフロンスの方に集中した。
「我々の力が欲しくば、我々と戦え! そして、息絶えるがいい!」
風龍の呼びかけに、ビフロンスは口を歪めて笑った。
「我は、自分にとって意味の無い戦いもしてしまう獣の輩ではない。骸が得られなければ、立ち去るのみだ」
「待ってください!」
冒険者達が依頼人の方を振り向く。
「ビフロンス!」
依頼人はビフロンスの近くに駆け寄る。
「危ない!」
風龍は依頼人に駆け寄った方が良いか見極めようとしている。
依頼人はすばやく懐からナイフを取り出すと、その場にひざまずいた。
「我は、『コール』の『ネ』! 私の骸を貴方に捧げる! これをもって組織『コール』を重宝される事を願う! 我々は命を捨てて、貴方に我々の力を捧げる事を誓う!」
依頼人はナイフを力強く自分の胸に刺した。うめきながら、赤く染まっていく地面に倒れ込む。
僅かに突き出したナイフの先端が背中を赤く染めていくのを目の前にして、冒険者達は身体が震えて、足がすくんでいた。
「詳しい事は帰ってから聞こう」
ビフロンスはゆっくりと依頼人の骸に近付くと、骸を咥えて上空に上がってそのまま去って行った。
数日後、冒険者達はギルドに着くと村で起きた事全てを報告した。
ギルドとしても、直ぐには報告の内容を理解する事は出来ない様である。
デビルの目論見を阻止し、人的被害が出ていないので、成果としては問題ないはずなのだが、依頼人の自殺という予想外の謎が発生してしまった。
そして、『何か』が表面化する予感を皆に感じさせ始めていた。