冬眠はもういいでしょ?

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月19日〜02月24日

リプレイ公開日:2007年03月01日

●オープニング

 冬の寒さが少し和らいできたある日の午後。冒険者として生計を立てている少女がギルドにやって来た。
「あら、いらっしゃい。ウイエさん。久し振りに、依頼を受けるの?」
 ギルドの受付は、目の前に座った少女に明るく声をかけた。
 しかし、受付にとって意外な事に、ウイエはむっつりとした表情のままだった。
「マルグリットって、知ってる?」
 受付は微笑しながら答える。
「ええ。クスター君の妹さんでしょ? 時々依頼を出しに来るわよ。そういえば、最近見かけないわね」
 ウイエはテーブルに肘を付き、頬杖をする。
「冬眠してるからね」
「冬眠?」
「冬は寒いし、暖を取る材料が無いからって、冬を乗り切る為に、今アイスコフィンの魔法で凍っているの。マルグリットが幼馴染の私に、アイスコフィンが使えるならって、頼って来たのよ」
「二人とも? 自宅で?」
「ええ。そう。終わったら幾らかお礼がもらえるからって、私引き受けちゃったんだけど、いいかげんもう飽きたっていうか、面倒くさいのよ。溶けそうになってないか確かめに毎日行ったり、フリーズフィールドかけてあげたり」
「まぁ、毎日寒い訳じゃないですものねぇ」
 ウイエは顔を上げて、受付を見詰める。
「ねぇ、マルグリットってお金持ってる?」
「どうでしょうねぇ。その日暮らしかも」
「私、依頼を出したいの。マルグリット達の冬眠維持を終了するから、二人の解凍と謝礼の回収をお願いしたいの」
「貴方じゃ駄目なの?」
「マルグリットをなめちゃ駄目よ。幼馴染の要求を素直に聞くと思う? 幼馴染の仲じゃないとか、難癖つけて踏み倒すつもりなのよ。先輩冒険者達の力借りたいの。第一、お金が有るんだったら、こんな事をせずに、普通、暖を取る為に使うものじゃない?」
「まぁ、そうですねぇ」
「今、マルグリットは、多分、これで食費と暖房費が浮いたって、夢の中で喜んでるのよ。私、そうさせないわ。私を長期間この頼みに拘束させた相当分のお金は貰うわよ」
「なるほどね〜 じゃ、早速依頼書の作成にとりかかりましょうか」
「依頼出せるのね? あ、これ依頼金。はい」

 そして、依頼書が張り出される。
 時々、野次馬達が依頼書を囲んでは談笑していた。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb8896 猫 小雪(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1290 リヨン・シュトラウス(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ジュエル・ハンター(ea3690

●リプレイ本文

●そして、史上初は幻に終わる
 依頼初日、冒険者一行はクスター家の前に集まっていた。
 リヨン・シュトラウス(ec1290)は自分のペットである猫を抱え上げ、じっと見つめている。
「何をしているのですか?」
 ケイ・ロードライト(ea2499)の問いかけに、猫を見つめたまま顔を向ける事なくリヨンは答える。
「クスター達の解凍をする為にゴーレムを召喚しようと思うのだが、召喚する為には媒体が必要で‥‥とりあえず手持ちの物で手足の生えているものと言えば‥‥」
 ケイに通訳してもらって状況を把握した猫小雪(eb8896)が慌ててリヨンから猫を奪い取る。
「何するんですニャ〜!!」
 興奮して語尾がおかしくなった小雪がリヨンの猫と一緒に猛抗議する。
「ウッドゴーレムならぬキャットゴーレムなんていいかなと。名前が似てるし‥‥いてっ」
 猫と小雪のダブル猫パンチの前に、史上初にゃんこゴーレムは幻に終わった。
 それはさておき。

「ん〜? ジュエル・ハンターくん、何してるの?」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)が小首を傾げながら、クスター家のドアの前で何やらやっているジュエルに尋ねた。
「解凍後のクスターやマルグリットが逃げられない様に、外から戸締りをしてる」
「ん〜 でも、あたし達が入れなくなるよ?」
「あ!!」
 その場に固まったジュエルをパラーリアがツンツンと人差し指でつつくと、我に返ったジュエルはそそくさとドアを元の状態に戻した。
「それはともかく、中に入って、状況の確認とこれからの計画を考えましょうか」
 ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が促し、一行は家の中に入った。

 それからしばらくして。
「じゃ、行動は明日からって事で‥‥あれ? 開かない」
 パラーリアが玄関のドアをガタガタいわせている。
「ん〜 これってもしかして‥‥ジュエルくんが二人を逃がさない様にって、外から戸締りをした結果?」
 皆、絶句して顔から血の気が引く。全員、ドアにダッシュで駆け寄った。
「で、出れない!! きゃあ〜!!」
 皆の力を合わせてドアを揺さぶった結果、なんとか脱出に成功。史上初、冒険者が街中の依頼先から永久に帰還出来なくなる事態は回避されたのであった。

●姫君の肖像画
 次の日、ケイは何故か依頼人ウイエを連れて来た。
 氷漬けのマルグリットを題材に絵師に絵を描いてもらってオールに買い取ってもらう作戦のはずなのに、と周りの冒険者達が尋ねると、ウイエが答える。
「依頼で捜す人の顔を描いて記憶してたりしたから、多少は肖像画を描けるの。別の絵師を頼むなんていうお金の無駄使いしなくていいから。私にまかせなさい」
 ウイエは材料を取り出すと、氷像の前に立ち、ちゃちゃっと絵を描いた。
 出来た絵を皆が覗き込む。
 薄ぼんやりとした輪郭の顔が全体的にゆらゆらと揺れている。ある意味前衛的な感じのする絵に仕上がっていた。
「氷漬けの感じが出てるでしょ?」
 ウイエは腰に手を当てて自慢げに微笑む。
 ケイはウイエから絵を受け取った。
「まぁ、彼ならマルグリットならばどんな絵でも買ってくれそうな気がしますが」
 ケイは苦笑する。

●おはようございます
「では、クスター殿の氷から溶かしましょうか」
 ポーラが朝から周辺を回って集めていた木材を使って、ケイとリヨンがかまどに火をおこす。
 水を張った大釜をかまどに乗せる。
 しばらくして、大釜から少し湯気が立ってきた。
 ケイとリヨンは、お湯を器ですくうと、静かにクスターの氷像にかける。
 クスターを包んでいた氷はゆっくりと溶けていく。
 顔の表面を覆っていた氷が溶けて、お湯が直接クスターの顔にかかる。すると、顔をしかめたクスターは、軽いうめき声をあげると、両目を開けた。
「‥‥おはようございます‥‥さぶい!‥‥」
「まだ氷が完全に溶けてないからな」
「そんなんじゃ、まどろこっしいよ〜」
 パラーリアは、かまどで燃えている木材を一つ取り出すと、クスターの傍にかざす。
「大丈夫ですか?」
 ケイは用心の為に水の入った器を構える。
「だいじょぶ〜 氷溶かすだけだもん。あ、大釜はかまどから下ろして、体を温めるお風呂にしようよ〜」
 リヨンは頷くと大釜をかまどから下ろした。
 もう氷はほぼ溶け、クスターが体を動かすと服にくっついている氷がバリバリと割れた。
 ケイとリヨンがクスターの体を支えながら、お湯に体が浸かる様導く。
「ああ‥‥温かい‥‥もう春が来て、暖かくなったんですか?」
 それまで黙って解凍の成り行きを見ていた依頼人ウイエが思わず口を挿む。
「いい加減、起きなさいよ! 世話した分のお金貰うからね!」
 パラーリアは、無言で微笑むと、大釜に貼った布を指差し、クスターに見る様促す。
 布には『有料風呂 このお風呂は入浴料金を頂きます』と書かれている。
 自分の置かれている状況を理解する為か、しばらく考え込んでいたクスターは、やがてぼそりと言う。
「手持ちのお金で足りるか、不安なんですが‥‥」
 パラーリアは、再度微笑む。
「大丈夫だよ。明日からちょっと稼いでもらう事になるけど」
 クスターは、きょとんとしている。

●眠る姫君の目覚め
「そろそろマルグリットさんを解凍しましょうか。男の方は出て行ってください」
 ポーラに促され、男性陣は退場した。
 クスターの時と同じ要領で氷を溶かしていく。
 目覚めたマルグリットはウイエの姿を確認すると、悔しそうに舌打ちした。
「踏み倒せそうにないわね」
 ポーラは拳を握って堪えている。
「何と言うか、怒りを覚えてしまいますわ‥‥いえ、怒りを覚えるのは、あたしの修行不足だわ‥‥それとも、これも主の思し召しなのかしら」
「主の思し召し? 踏み倒せって事?」
 ポーラとウイエのダブルパンチを受けて、マルグリットは頭を抱えて痛がっている。
「早く大釜から上がって、着替えなさい」
 体を拭く布を片手に持ち、ポーラが促す。
「今日はゆっくり休養して、明日から働かなくちゃね〜」
 パラーリアがマルグリットの耳元で囁く。
「何をさせるつもり?」
「明日までのお楽しみだよね〜」
 パラーリアは小雪と顔を見合わせて微笑み合う。

●寄ってらっしゃい、見てらっしゃい
 次の日の午後、マルグリット、パラーリアと小雪はパリの街角に居た。
 三人は客達に一礼する。
 マルグリットの歌が始まった。合わせて小雪が客の前に出る。
「今日もいい天気〜 森に行けば〜 何か食べ物見つかるかな〜」
 くまさんの格好したパラーリアがその場で足踏みして歩く真似をする。
「あらあら、熊のお嬢さん。お出かけですか〜」
 パラーリアと小雪は挨拶を交わす演技をする。
「ところで、貴方おいしそう〜 熊のお嬢さん〜 私の食べ物になりませんか〜」
 小雪は大釜を両手に持ち、くまさんの頭に被せようとする。
 くまさんは、ひょいひょいと大釜を交わした。
 二人のおどけた演技に客から笑いが起こる。
「これは困った、困った〜 私のパンをあげるから逃がしてね〜」
 くまさんが脇に退場した後、小雪は大釜の中が空である事を客に確認させてから、大釜をひっくり返す。
 小雪は大釜の中に手を突っ込み、少し静止した後、パンを取り出して見せた。
 客が拍手を送る。出し物は、うけた様だ。

●清算
 そして依頼最終日、冒険者一行と依頼人はクスターに集合した。
 絵を売って得たお金に、出し物で得たお金を足して、依頼人は希望する金額のお金を受け取った。
 残ったお金はクスターに渡す。パラーリアから防寒具も貰った。
 これからの二人の生活は多少楽になるだろう。