魅力の無い依頼
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2007年04月11日
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●オープニング
事件の発端は、昨日起こった。
パリから徒歩で1日半程かかる村に、農産物の生産と取引で財を成した老人が居た。
今は、商売をほとんど止めて、蓄えた金でのんびりと暮らしていた。
それでも、何かの時の為に、二人の男を雇っていた。
老人は、あまり二人の男を信用していなかった。独りで老いて偏屈になったとは言え、長年人を値踏みしてきた上での観察眼だったのかもしれない。
二人の男、アシャとコメルスは、老人の財産目当てで老人に近付いた。
老人に小言やいやみを言われようが、二人は愛想良く対応していた。
短気でなくとも、いずれは財産を掠める機会を待ちきれなくなるものなのかもしれない。
二人はやがて計画を練り、昨日実行に移した。
昨日の夕方。
老人は、自分の所有する畑と農具の点検をする為に、昼前から出かけていた。
老人は、農具小屋に入った時、少し動物の肉の様な臭いがしている事に気付かなかった。
アシャとコメルスは、早朝から畑に向かっていた。小屋に入ろうとする老人に、自分達は村に戻りますからと声をかけた。
老人は気付いていなかった。アシャとコメルスが少し離れた所に生息していたオーガ族のモンスターを肉の臭いで農具小屋に誘導し、老人を襲わせようとしていた事を。
モンスターに襲われた老人が負傷し気絶した所で、アシャとコメルスはモンスターを脅して逃亡させると、老人の体をロープで乱暴に縛って身動き出来ない様にした。
小屋に残された肉のかけらを回収して畑に埋めると、二人はその足で冒険者ギルドに向かった。
「ゴブリンか何なのか分かりませんが、突然の奇襲でして、その場から逃げるのが精一杯でした」
「旦那様の安否が心配です。村にはモンスターに立ち向かえる者など居る訳も無く、急いでパリまで来た次第です」
「それは心配ですね。早速依頼書を作りましょう。詳しい状況を聞かせてください」
受付嬢がアシャとコメルスと話のやり取りをしていると、他の依頼と比べるとちょっと変わった内容である様に思えて来た。
依頼人達が言うには‥‥
急な事件の為、十分な依頼金を準備出来なかった。
老人は少し偏屈な性格の為、気に入らない事を咎める事が有っても許してほしい。
何を塗ったのか知らないが、モンスターの体から耐えがたい悪臭がしていた。
動揺を与えない為、解決後であっても、村人達には会わないで欲しい。
もしも老人が命を落としていた場合は、パリにいる知人の所まで遺体を輸送してほしい。
受付嬢は、依頼人達に遠慮しながら、微かにうなった。
「ちょっと今パリに滞在している冒険者の数が少ない様な感じがするのですが‥‥善処致しますので、事件の解決をお待ちください‥‥」
依頼書が出来上がっても、受付嬢はまだ依頼書を睨みながら難しい顔をしていた。
依頼人アシャとコメルスは、ギルドから充分に離れて人気の少ない所に行くと、我慢し切れなかったかの様に腹を抱えて笑い出した。
「見たか、あの受付の顔! これで冒険者が参加するのかって、いぶかしそうによ!」
「それが俺達の狙いなのにな! あはははは!」
「ギルドが強制的に冒険者を依頼に割り振るならいざ知らず、こんな依頼に誰が手を出すかよ!」
「大した金は入らねし、助けた人から小言言われて、悪臭が体に移って、誰にも感謝されず、へたすりゃ遺体を運んで帰らなきゃいけない。一晩考えた俺達に感謝して欲しいよな!」
「依頼に参加する冒険者が居なけりゃ、狙い通り。旦那は餓死して、その責任はギルドに行くさ。依頼金の返還が有ったとしても拒めば、この依頼が有ったという証拠にはなるだろう。調べれば判る。もみ消す事は出来んさ。『ギルド』が旦那を『見殺し』にした事実はよ。俺達は大手を振って、旦那の財産と共に雲隠れ、だな」
「俺達、被害者があやしまれる事は無いからな」
「ははははは‥‥」
「痛快だな。あはははは‥‥」
二人は、街の外れへと消えて行った。
●リプレイ本文
●吉報
依頼日初日の早朝。老人宅のドアをギルド員が叩く。
「アシャさんか、コメルスさん、いらっしゃいますか?」
室内からはしばらく応答が無かったが、ギルド員が2度3度呼びかけると、家の中から欠伸をする声が聞こえてきた。
「朝早くから売り物持って商売しに来るなよ。昨日の酒が残って頭痛いんだからよ!」
「アシャさんですか? コメルスさんですか?」
「ああ、今開けるから。たく、今日で最後にしろよ、もう来んな」
ドアが開いて、幾分顔が赤いコメルスが出てくる。
「こんにちは。私は冒険者ギルドの者です。依頼参加者から依頼人と会いたいとの要望が有りまして、依頼人の都合をお聞きしたく伺いました。本日のご予定はいかがでしょうか? 場所はギルド内が宜しいですか?」
「依頼‥‥?」
コメルスはギルド員の顔を見詰めながら、首をかしげる。
「ご老人の救出依頼です」
ようやく気付いたコメルスの顔が青ざめる。
「さ、参加者が集まったのか‥‥たのですね。それは吉報です。喜んでこれからギルドに向かわせて頂きます」
●疑念
同じ頃、ギルドには依頼に参加した冒険者達が既に集まって議論していた。
ウィル・エイブル(ea3277)が依頼金の事について触れる。
「別に僕は気にしてないよ。金額の量で依頼を決めてるわけじゃないしー、人助けは好きだからねー」
ルネ・スカーレット(eb3855)が頷く。
「ええ。どんな依頼でも困っている方がいるのなら、助けるのは当然ですので、私にとって報酬は二の次です。確かにこの依頼、少々変わっているなとは思いますけれど‥‥」
その後、ヴァレリア・フェイスロッド(ea3573)が依頼の条件『村人達には会わないで欲しい』について問題点を指摘する。
「もし村人がモンスターの襲来を知っているのなら、我々が依頼解決後も村人に会わないというのは、村人に今後もモンスターの影に怯えて暮らせと言うのと同じだし、知らなかったら尚更伝える必要が有るはずだ。村人と会うな、というのがどうも襲撃があった事自体隠したいようで‥‥この依頼に裏が有るなら、依頼人の二人が関係しているかも知れないな」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)が同意する。
「その通りだ。いかに動揺を与えぬ為とは言え、村人に知らせるなとはおかしな話しだと思う。この依頼には何か胡散臭さを感じる」
ヴァレリアは更に疑念を表す。
「しかし、老人を襲ったモンスターは何故怪我を負わせただけでトドメを刺さなかったのだ? ‥‥まるで衰弱死させようとしているかの様だ。人の仕業ではないか?」
それからしばらくして、依頼人と依頼参加者が一つのテーブルに集まる。
ルネが依頼人達に、老人の所有する畑と農具小屋の位置関係や、襲撃された状況を細かく尋ねる。
ヴァレリアが村人に会っても良いか尋ねると、二人は口篭もりながら許諾した。
依頼人達は、終始落ち着かない様子だった。冒険者達は、二人の態度に挙動不審を感じていた。
●先行
依頼人達が帰った後、冒険者達は出発の準備を始めた。
最も急がなければならない事は、老人の安否の確認と、老人が生きていれば応急の手当てでの体力回復である。
リンカが指摘する。
「襲われたままじゃ、老人はそう長くは持たないだろう。万が一の際に亡骸だけでもと言うなら尚の事、急がなければ跡形もなくなってしまうかもしれない」
馬を走らせれば今夜中には着くだろうと、先行はウィルが志願した。
駿馬と普通の馬では走る速度が違う。駿馬が普通の馬に足並みを合わせるのは時間の無駄なので、先行して村に向かうのはウィル一人という事になった。
ウィルが出発する直前、ルネがウィルに保存食を一個手渡す。
「食事が出来ない状況では、ご存命でも相当衰弱されている事でしょう。これで少しでも回復されると嬉しいのですが」
「ありがとう。ご老人はきっと生きてるよ。明日皆が着くまで、必ずご老人を護るからね」
準備を済ませ、ウィルは駿馬に乗って駆けて行った。
●保護
ウィルが村に着く頃には、すっかり日が暮れていた。
灯り用の木材を用意し、畑に向かう。
「お爺さ〜ん! 大丈夫ですか〜 救助に来ました〜 どこにいらっしゃいますか〜」
灯りをかざし呼びかけながら、農具小屋へと向かう。畑にはいない様だ。
農具小屋の扉を叩くと、中から弱弱しい声が聞こえてきた。
「そんなに大きい声を‥‥聞こえてるわい‥‥ここじゃ‥‥」
ウィルは小屋の中に入る。備え付けのランタンを見つけ、火を点ける。
老人の姿が照らし出される。老人は体をロープで雑に縛られていた。
「お爺さん! 大丈夫ですか? 今解きますね」
手足が自由になった老人は、深く息を吐いた。咳き込む。
「まず、水をどうぞ。ゆっくり飲んでください」
水と非常食の提供を受けた老人は、気が幾分楽になった様だ。
感謝の意を示した老人とウィルはしばらく会話していたが、適当な所で切り上げて眠る事にした。
老人の希望で、眠る場所はここ、小屋の中になった。
「ゆっくり休んでください」
ウィルは夜が明けるまで老人の状態と外の様子を見張っていた。
日が昇り明るくなった所で、小屋周辺に罠が仕掛けられていないか調べたが、何もなかった。モンスターの気配は無かった。
●決着
日が高く登ろうとしている頃、ルネ、ヴァレリア、リンカがやって来た。
ウィルの報告を受けて、これからどうするかを話し合う。
一晩経って老人の体力も幾分回復してきたので、村に帰ってしっかり休養しようという事になった。
村に帰る老人にはルネが付き添う。
ウィル、リンカとヴァレリアは、老人の小屋や畑などに犯人の残した痕跡が無いかを調べる。
リンカは、老人に襲撃時の様子を尋ねた。
その襲撃時の状況を元に足跡や土を弄った後など怪しい所がないか調査する予定だ。
それぞれの役割分担が決まり、行動を開始しようとしていた時だった。
アシャとコメルスが近くの林の茂みから飛び出て、冒険者達に襲い掛かろうとする。
二人は昨日ギルドを出た後、企みがばれるのではないかという不安感がとても強くなり、その後寝ずに移動して早朝には村に着いていた。
不安は的中した。老人は救出され、現場の調査もこれから行われる雰囲気になっていくと、不安感は頂点に達する。
老人が縛られて居た事。モンスターを使って老人を襲撃させた痕跡。何かしらの証拠は見つかってしまうだろう。今から逃げてもいつかは捕まる。ならば‥‥
二人は青ざめた顔を見合わせ、最後の抵抗を決意したのである。
戦闘技術の劣る一般人が戦いを挑んだ所で、勝ち目が有る訳では無かった。だが、この時点で心理的に追い詰められた二人には理性的な判断は出来なかった。
あっという間に、二人は倒され、地面に押さえつけられた。
拘束された二人は、この事件を企てた事を認めざるを得なかった。
二人の身柄は村に引き渡された。二人をどの様に処分するかは、これから村が判断するとの事であった。