ある意味、宝さがし

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2006年07月26日

●オープニング

 クスター、16歳。だぶついた新品の防具から可愛らしい顔を出している新米冒険者である彼は頬杖をついたまま、酒場の隅でテーブルと一体化した置物と化していた。時折体が動いたのは、溜め息をつく為であった。
(「これから、どうすればいいんだろう‥‥」)
 クスターは、昨日の冒険者ギルドの情景を牛の反芻よりしつこく繰り返し、繰り返し思い出していた。

 場所は冒険者ギルド。クスターは、最近ようやく名前を覚えてもらった受付嬢に呼び止められていた。
「あ、クスターさん! 先月ジャイアントラット退治に行った村覚えてるわよね! あそこから、野良犬退治の依頼が来てるのよ! 顔馴染みの人が良いらしいの! 悪いけど、受けてくんない? ‥‥おーい、クスターさ〜ん!」
 クスターの視界の中の受付嬢の姿は涙でゆらゆらと揺れ、彼女の声が緩やかに遠ざかっていく。放心状態になったクスターは、今入ったばかりのギルドの入り口から、そのままふらふらと外に出て行った。

(「これが冒険者の仕事か‥‥?」)

 今年の6月に、クスターは冒険者になる喜びと不安に胸がはちきれそうになりながら、生まれ育った村を出てパリに向かった。
 未知なる地、息つかせぬスリル、満たされていく好奇心。(もしかして旅先でロマンスも有ったりして?)
 確かに、今となれば、そんな冒険者のイメージに囚われていた自分が恥ずかしい。
 でも、冒険者が初めて受けた依頼の仕事先が生まれ故郷って、なんなんだよ‥‥

 クスターは、他の冒険者達と行った生まれ故郷の情景を強制二倍速度で思い出していた。
 初めての依頼に浮かれて、向かう村の名前を聞いていなかった自分。いまさらキャンセルも出来ず、村を目の前にして、顔は強張り意識が遠のきかけた事。ふいに母親に襟を掴まれ、三食食べてるか、洗濯しているか、悪い女と生水には手を出すなとか色々言われた事。さっそく生まれ故郷だと他の冒険者達にばれ、村の英雄だなと冷やかされた事。村の子供達に、冒険者になる夢を壊さない為に、有りもしない冒険談をいっぱいいっぱいになりながら語って聞かせた事。笑いながら話を合わせる冒険者達に、顔を真っ赤にしながら‥‥ 今となっては苦痛にしかならない記憶‥‥

(「もうギルドに行きたくない‥‥ 冒険者辞めようかな‥‥ これからの生活どうしよう‥‥」)
(「未知なる地、行ってみたかったな‥‥ 先輩達と一緒に‥‥」)
 クスターは、はっと何かに気付き、顔を上げた。


 それから数時間後。冒険者ギルドに一人の依頼者が来た。

「はい。ご依頼をうけたまわります。どんなご用件ですか?」
 依頼者である男性は、フードを深く被り直すと、軽く咳き込んだ。
「わ、私は、最近、持病が悪化していまして、余命幾ばくも無い状態、です。昔から冒険者に憧れていました。あの‥‥無茶な依頼と思いますが、私を、未知なる地の冒険に一緒に連れて行っていただけませんか? 未知なる地で骨を埋める事になっても構いません。私の最後の人生を、あの‥‥」
「野良犬退治の依頼は後回しにするんですか? クスターさん?」
 意地悪く微笑む受付嬢を目にして、クスター、固まる。
「それで変装したつもり?」
(「最悪だ‥‥‥‥」)

 それからしばらくの間、クスターはギルドにたむろしていた暇な冒険者達の餌食となった。
「季節外れの五月病かぁ! ホームシックになるわけないしねぇ!」
(「違うんです‥‥ 自分の村の依頼を‥‥ あの‥‥」)
「気分転換に、俺がどこか連れてってやろうか? ははははは‥‥」
(「髪の毛‥‥ 撫で回すの‥‥ やめて‥‥」)
 クスターは、冒険者達に囲まれて、顔を赤くして固まり続けた。
 受付嬢は、すでに別の依頼の事務作業に集中している。
「あ、クスターさん。早く依頼片付けてね。同行者集めていいから。‥‥うーん」
 受付嬢は、耳の上の髪を掻きながら書類にペンを走らせている。

 クスターは知らなかったが、ギルドに居た冒険者達は、この野良犬退治の依頼を酒場の話題探しの好機と判断した。冒険者デビュー当初から可愛く初々しいクスターの存在そのものが独身女性を中心とした冒険者達の酒のつまみになっていたが、さすがにそれも長くは続かない。その独身女性を目当てとする男性陣にとっても、クスターを酒場で末永く愛でる為に、ここは彼の故郷で情報収集(とモンスター退治)に励みたい所だった。
 小さな村なので、村人は皆クスターの事をよく知っているだろう。聞き出しがいが有りそうだ。
 受付嬢は、ペンを走らせながら、微かにニヤリと微笑む。冒険者達が彼の話題を持ち帰って来るのが楽しみでしかたがないようであった。

●今回の参加者

 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea8572 クリステ・デラ・クルス(39歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5698 三笠 流(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は、出発前、市場で野良犬餌付用の塩漬け肉入り樽と、クスターの母親への手土産用の食材を購入していた。購入後、その荷物を愛馬ダビデに積んでいるクスタ−にセレストが語りかける。クスタ−に荷の積みをやらせているのは、久しぶりに会った天津風美沙樹(eb5363)に抱き付かれ両腕が塞がっているからだ。
「竜や悪魔退治が出来る仕事も、それをこなせる冒険者も、一握り程度しか居ないわ。最初は良くてゴブリン退治、かなりの経験者でもゴミ整理や宴会盛り上げって仕事もやらなきゃいけないのよ。それでも受けた以上は、最後まで遂行するのが冒険者。やる気ない状態で危険な依頼に参加して大怪我したら大変だから、気を引き締めてね」
「‥‥はい」
(「村のみんなに会いたくないだけなんですけど‥‥」)
 セレストに涙を見せぬ様、心の中で泣くクスタ−であった。

 村へと向かっている最中、三笠流(eb5698)は、古傷から最新の失敗話まで色々と聞き出して、クスターの傷口を掘り返していた。
「‥‥そしたら、意地悪する人嫌いって‥‥僕は、あの子の気を引きたかっただけなんだ‥‥」
 ひとしきり話し終わるとクスターの顔に少し笑みが戻った。
「少しは気分が晴れた様だな。そのくらいの失敗なら、冒険者の先輩達にも腐るほど有ると思うぞ? 格好いい冒険談の裏には、それ以上の恥ずかしい話だって隠されているんじゃないか? そういうのを反省して笑い飛ばして前へ進むというのも、冒険者には大切なことだと思う」
「僕にも出来るかな?」
 流は頷く。
「ああ。自分から親の元を離れて冒険者になろうとしてるんじゃないか。正直、親父から放り出された俺からすれば、帰れる場所が有る分だけクスターが羨ましかったりもする」
 マート・セレスティア(ea3852)はちらりとクスターを見やり、思った。
(「表向きの依頼内容は野良犬を捕まえる事だけど、本当は心配した母親が息子を呼び戻す為に依頼を出したのかも? でも、まぁそんな事情なんか、気にしないけどね」)
 近からず遠からずといった推測であった。依頼の真相は村に着くと直ぐに解る事となる。

 出発してから2日後、目指す村に着いた。村の方から甘えた声を出しながらクスターに向かって駆け寄ってくる3匹の犬が見える。
「あ、ノワール! ブラン! グリ! 僕が村に居る頃飼ってた犬達なんです!」
「そのネーミング・センスはどうかと思うぞ‥‥」
 クリステ・デラ・クルス(ea8572)は呆れて呟く。
「それは兎も角、我は早速村長に面会を求めに行く。犬の容貌、数、見かけた場所、具体的な悪さの内容など、情報を入手する予定だ」
「それでは、僕達は村人達に尋ねて野良犬の情報を集めたりしましょうか」
 ガイアス・タンベル(ea7780)の提案にセレストが答える。
「あたしは、手土産持ってお母さんに挨拶しに行くわ」
「おいらは、罠作りしてるよ」
 そう言ったマートに、流が野良犬をあまり傷つけない様にとお願いをする。
「うん。殺傷能力無い、怪我させない、ただ単に捕まえる為だけの罠を作るつもりだよ」
「それじゃ、聞き込みに行きましょう」
 美沙樹はクスターの片腕をしっかりと抱え込むと、クスターを引きずって歩く。
「行きたくない? 無理矢理にでも連れて行きますわ。駄々捏ねたらグーでぶちますわよ。あたしのグーは結構痛いですわ」

 そして、冒険者数人(クスター含む)と犬3匹が村人の住まいに向かう。美沙樹に促されてクスターがドアを叩いた。
「‥‥こんにちは〜」
 出てきた村人は少し驚いた声で応える。
「クスター坊やじゃねぇか! パリから戻って来たんか? ああ! 依頼出してたんだったな!」
「さぁ、犬がどこに良く出没するのかとか質問しなさいよ」
 美沙樹がクスターの耳元でアドバイスする。クスターが口を開く間も無く、村人が3匹の犬に反応する。
「おぅ! 野良犬をもう捕まえてくれたんかい! 助かるよ!」
「え?」
 呆気に取られるガイアスらは、クスターに付いて来た3匹の犬を見つめる。
「これの事‥‥?」
「クゥ! 帰って来てたんかい! 自分の家に戻って来んとなに油売ってんの!」
 クスターの母親、登場。クスターを後ろから羽交い絞めにする。間も無く息子の片腕を掴んでいる美沙樹の存在に気付く。
「あらまぁ。気付かずに失礼しました。‥‥べっぴんさんですこと! ふつつかな息子ですが、末永く宜しくお願いしますわ」
「違いますから」
 苦笑しながら速答した美沙樹であった。
「あの、ところで野良犬の事なんですが‥‥」
 ガイアスが話を元に戻そうとすると、クスターの母親が答える。
「ああ。こいつらだよ」
「僕の犬〜」
 クスターは母親から逃れようと必死にもがく。
「何年か前、息子が野良犬の子供を拾って来てね。あたしは面倒みないからねって言ったんだけどね。パリに連れてかないもんだから、もう野良犬同然さね」
「僕の犬〜」
「あたし達に安心してお任せください。野良犬をしっかり退治致しますので」
 セレストが微笑む。
「僕の〜」
「そうかい。宜しく頼むわ。じゃ夕食作るから部屋で休んでおいてくれよ」

 部屋に戻った一行は、クスターを中心に据えて円座する。
 静寂の中、流が一言、言い放つ。
「引き取れ」
「すみませんでした」
 クスターが頭を下げた。打ち合わせはこれで終了した。

 冒険者達をもてなす為の村なりに力を込めた夕食は、クスターにとってはその味が分からぬものとなった。母親だからこそ知るクスターの恥ずかしい過去がマートらの手によって暴かれたからであった。マートらにとって、楽しみにしていた料理の味に勝るとも劣らない美味しいネタであった。

 そして、翌日。
 セレストが準備した塩抜き済みの塩漬け肉を持ったクスターが空き地に立っている。村人と美沙樹らが少し離れた所から見守っている。
「あたし達は、クスターさんに実際に捕まえる所までやらせたいの。それとなくヒントは出してあげるけど、正解は教えてあげません。クスターさんに自信を付けてもらいたいのよ!」
「はい」
 クスターは塩漬け肉を犬達の近くでちらつかせ、犬達をマートとガイアスの仕掛けた罠まで誘導する。犬達は罠にかかり捕獲された。
(「何故僕は自分の飼い犬にこんな事を‥‥」)
 クリステが犬の顔を覗き込む。
「ふむ。頻繁に人里に近寄る傾向あらば野犬ではないな。人に飼われた過去があると踏む。虐待されていたかも知れぬ。出来るなら誰かが人の愛を教える必要があろうが‥‥」
 ちらとクスターを見上げるクリステ。ガイアスが続ける。
「クスターくん。この村で犬を引き取ってくれそうな人の心当りはありませんか? 一緒にお願いしに行きましょう。番犬に良いと思います」
(「みんな、この状況を楽しんでるでしょ‥‥」)
 泣きたくなるクスター。クリステが追い討ちをかける様に迫る。
「主、今まで村の誰かに頼りにされた事があるか? ‥‥なかろう? 主、まずは己の弱さを認めよ。小さな他愛無い仕事を確実にこなして自らの行動に責任を持てる様になれ。とりあえずは相棒でも作り、そ奴に信用されるよう心掛けるのも良いな。そう、その犬なんかどうだ?」
「‥‥はい。僕が引き取ります」
 クスターは皆の拍手に包まれる。依頼解決の体裁を一応これで整えるという余興も無事終了した。

 その日、村人に見送られ、冒険者7名と犬3匹は村を後にした。酒場へのみやげ話をたくさん仕入れた一行であった。