【恐怖の大王】流星群の観測

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月22日〜07月27日

リプレイ公開日:2007年07月30日

●オープニング

●依頼書内、依頼要旨全文
 現在、星読みと言われる星座の位置関係から自分の居る位置や向いている方角を知る技術は、まだまだ未熟な状態にあると言えます。北極星は船乗りであれば誰でも知っている目印ですが、その他の星となるとあまり正確に計測されていないのが現実です。
 我々は、航海技術の向上の為、星座の正確な位置を求める事を目指し活動している団体です。好条件の夜に星座の位置の計測を行っています。

 過去の観測記録から、今月、つまり神聖歴1002年7月は流星群の活動周期に入ると考えられています。現在我々は、10日頃から始まっているこの流星群の観測と記録をパリ郊外にて行っています。
 流星雨を観た市民に、心理的動揺を押さえる為の情報提供を行う計画です。既に、市民の間では、流星雨と『天から到来する恐怖の大王』を結び付けようとする噂話が広まり始めています。この様な時にモンスターの襲撃などが起こりますと、更に市民の動揺は激しくなります。
 この流星群を観測して、市民の不安を和らげる手助けをしたいのですが、計画上、人手が足りなくなってきています。
 冒険者の皆様に、ご助力をお願いしたく依頼致します。

 冒険者の皆様にお力をお借りしたいのは、以下の仕事です。

 ・市民の流星雨に対する意識調査(日中)
 ・市民の不安を和らげる広報活動(日中)
 ・観測者の護衛(夜間)

 市民から流星雨についてどう思っているかさりげなく聞き出して頂き、その内容を良き方向に変えるべく、何らかの手段で市民を説得してください。
 流星は何故発生するのか、観測を重ねている我々にも解りません。流星を見慣れぬ市民の方々には、不気味な存在と思われ怖れられているでしょう。流星雨は多分安全な存在なのだという説得が出来れば、市民の心理的負担は少なくなります。我々はそれを望んでおります。

 依頼期間中は、我々が可能な限り連続して流星の計測を試みます。時間は、交代しながら、日の入りから日の出までとなります。日中は、休息を取ります。
 夜間我々が襲われる可能性の有るのは、モンスターだけとは限りません。不気味な流星雨を観測している得体の知れない集団という考えで一般市民からの妨害を受ける可能性も有ります。
 一般市民の抗議と攻撃が有った際には、ぜひ彼らの誤解を解いて頂きたく。

 流星雨の観測結果が集まれば、市民への広報活動に自由に使って頂いて構いません。

 流星雨の観測へのご協力、宜しく、お願い致します。

●今回の参加者

 eb1165 青柳 燕(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec3221 ルシカ・ロン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec3313 ピエール・キュラック(31歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 冒険者達は、依頼日初日の夕方、冒険者ギルドにて依頼人達と面会した。依頼人達は今起きたばかりらしく、少しぼぉっとした表情で挨拶する。
 青柳燕(eb1165)は、画家としての好奇心が押さえきれない様子だ。腕組みをしながら依頼人に話し掛ける。
「流星群とは、また珍しい現象ぢゃの。絵描きとして気になる画因じゃ」
「ほぅ、絵に描きたいのですか。あれは、あっという間に消えてしまうのですが」
「じゃが、心には残る。心に印象を残す、そして見る人にその思いを伝える、それが絵という物じゃろう?」
「なるほど」
 しばらく雑談をした後、一行は酒場で食事を取る。
 酒場のテーブルで、朝までの予定について打ち合わせを行った後、皆で観測場所へと向かった。

 3人の中で一番体力の有る燕が、ジュエル・ランド(ec2472)のペットからテントを下ろし、観測場所の近くに設置する。冒険者達の拠点が出来上がった。
 早速、燕がテントに潜り込む。続いてジュエルがテントの入り口に手をかける。
「ピエール・キュラック(ec3313)さん、夜間の護衛、よろしく!」
「ええ。任せてください」
 依頼人の観測員達は、日没に間に合わせるように、もくもくと観測準備を進めている。
 ピエール独りになると、少し寂しい心持になる。ピエールは観測員達の作業を静かに見詰めた。

 やがて、周囲が闇に覆われると、上空に光の点が幾つも浮かび上がってきた。ゆらゆらと揺らめいて見える。
 まだ僅かに明るさの残る空を見詰めていると、空を熱したナイフで切り裂くかの様に、細い光の筋が現れて消えた。
「あれっ?」
 観測員の一人がピエールに話し掛ける。
「それが流星ですよ」
 ピエールは、観測員の方へ動かした視線を再び空へ向ける。
「これが流星かあ‥‥何か願い事の一つや二つ叶えてくれるの?」
「ん? どうなのでしょうね。私達は『観測』員ですから。試してみたら如何ですか?」
 観測員が微笑みながら持ち場に戻っていく。今晩ピエールが流星に何を願ったのかは、本人だけが知っている。

 その日の夜は、帰路を急ぐ商人が一人通り過ぎただけで、何事も無く過ぎた。夜更け前、燕が起き出して来たので、交代する。
 しばらくして夜が明けると、ジュエルがテントから出て来た。
 ジュエルは、観測員達が休息に入る前に、流星雨の様子を尋ねた。出現間隔はややまばら、時折明るさの強いものが有ったが、大半は弱い光だったらしい。
「大した事ないやん」
 燕が頷く。
「それを市民がどう思っているかじゃな」
「じゃ、うちは、歌詠って安心させてくる」
「わしは、意識調査から始める。夕方集合じゃな」
 2人はそれぞれ、パリ市内の別の場所へと向かった。

 燕は、朝早くから活気付いている市場の中や、住宅街の通りの人込みの中に入り、会話の内容に聞き耳を立てる。
 雑じりあった会話の中から流星雨に関するものだけを取り出すのは容易な事ではない。
 それでも何とか聞き耳を立てていると、流星雨の話題は出ていない様に思えた。
 燕は、適当に市民をつかまえて、絵になる風景を探していると説明した上で、流星雨について『あまりよくしらないのじゃが』風に尋ねてみた。
 市民の反応から、街中で話題にならない理由が解った。これは声をひそめて話す話題なのだという事を市民の表情は伝えていたからである。
 ほとんどの市民は、暗くなる頃には眠る。流星雨は、姿を見た事が無い怪しい存在なのである。故に勇気を出して見ようとはしない。もし見たとしても、理屈の解らない普段ならざる現象に安心感を覚えるはずもない。
 流星雨は、それ自体は何だか良く解らないが、最近パリに起きている事件などに関係が有る『よくない存在』なのではないか。災いを更に呼ばない為にも、軽軽しく話題にしない方が良いのだ。
 市民はそう思っていると、燕は理解した。

 一方、ジュエルは街角に立ち、竪琴を鳴らして歌を詠っていた。
 事前にメロディの魔法をかけておく。聴いた市民にまずは元気を出してもらう為だ。
 ジュエルは、明るい張りのある声で、『不幸なんか吹き飛ばせ!』といったメッセージが込められた歌を詠う。
 市民は、得体の知れない脅威を不安に感じながらも、最も大切な『今日一日を生きていく事』に専念している。
 不安を隠し、普段通りの表情をしながらも、ジュエルの歌を聴くと、市民達はより明るい表情になっていく様だった。
 好むだけジュエルの歌を聴き、仕事に戻っていく。

 その日の夕方、皆がテントに集まった。
 燕は、聞き込みの結果をジュエルに話す。色々と周ってみると、場所によって流星雨に感じている印象が違う。特に良くない印象が多い地区はどこかを伝えた。ジュエルは頷く。
「それじゃ、明日行ってみる」
 打ち合わせ終了後、燕とジュエルはテントの中に入った。

 その日の夜、ピエールが観測員達の護衛をしていると、観測場所の周囲に巡らせたロープに取り付けられた鈴が鳴った。
「誰?」
 鈴が鳴った方向にピエールが声をかけると、人間の男性2人が細い木の棒を構えながら近付いてきた。
「お前たち、ここで何してるだ?」
 観測員達が手を止めて男達に説明を試みる。燕とジュエルもテントから出て来た。
 ジュエルがランタンに火を点ける。
 男達は武器を降ろしたが、まだいぶかしげな表情で冒険者を見詰めている。
「夜に皆で星を眺める事がそんなにおかしい事なのかい? 日中じゃそんな事できないでしょう?」
「夜は寝るものだぁ。こんなに夜遅く起きて訳の解らない物見るのは変わってるだ。商人の旦那も気味悪がってた」
「皆さんのご迷惑にはなりませんから」
 燕が話に割り込む。
「正体の解らん物は、解らんから不安になるんぢゃ。その皆の不安を取り除くべく、わしらは頑張っちょるのでの。理解してもらえんか?」
「うちらの街襲う事ないな?」
「誓って有りません」
 男達は、納得したのかどうか解らないが、帰っていった。

 やがて、夜が明けた。準備を済ますと、ジュエルは昨日教えられた場所に向かった。
 まずは、メロディ入り『不幸なんか吹き飛ばせ!』の歌で、人を集める。

 程よく人が集まった所で、広報を開始する。
「ところで、皆さんは流星雨の事が気になりはる?」
 流星雨の単語を聞いて、引き締まった表情で無言で頷く観衆。
「実は、あれはな、『精霊の道』、エレメンタル・ロードって言うんや」
 少し声を落として観衆の耳を引き付ける様にジュエルは語る。『精霊』の単語に首をかしげる人もいる。
「月道ほど有名やないけど、精霊界との行き来の際に開かれる特別な道で、この世界と精霊界が接近した時にしか見られへんのや。あの精霊光が見られるなんて、皆、運がエエな」
 少しためらいながら、観客の男性が手を上げる。
「あの〜 精霊って何です?」
「ほ〜。そこからやのん? よし、今日は大サービスや。とことん、説明するさかい、よ〜聞いてな。そうやな、シフールやないけど、うちらみたいな姿した臆病な精霊見た事ない? あれが一番身近にいる精霊なんやけど、精霊っていうのはな‥‥」
 観客を離さないように注意しながら、広報を続けていった。いずれこの広報が市民の間に何らかの効果をもたらしていくのかもしれない。この噂が人々の間で広まる事で、流星雨の正体がはっきりする安心感を生み出す事をジュエルは願っていた。

 そして、そんな感じの行動を繰り返して依頼期間が終わった。人の心の問題故、成果は計り辛いが、市民の心に少なからず影響を与えた感触を冒険者達は感じていた。