【異趣】あつ‥‥くさ‥‥
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月03日〜09月08日
リプレイ公開日:2007年09月12日
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●オープニング
「あ〜 暑っ‥‥う〜」
ここは冒険者ギルドの受付。受付嬢がテーブルの上に突っ伏して、完全にのびている。
夏の熱気は、ギルドの中までも埋め尽くしていた。久し振りに体に当たる弱い風に涼しさを期待すれば、充分に熱した空気が建物の外から送り込まれただけの事だったりする。
今の所、受付嬢は暇だった。最も暑い今時分、皆が体を休めている様で、ギルドの中は静かである。
とはいえ受付嬢は仕事中の身。顔を僅かに上げると、上目遣いに客が居ないか周囲を見渡し確認する。
少女が目の前に立っていた。受付嬢は自分が待たせたものと思い込み、素早く体を起こすと、さりげなく微笑み、表情を営業モードに切り替える。
「お待たせいたしました。受付は、こちらです。依頼を申し込まれますか? それとも依頼を受けますかって、あなた、マルグリット?」
「暑ぅ‥‥」
マルグリットと呼ばれた少女は、というかマルグリットなのだが、両手をテーブルに付け、前のめりに立って固まっている。
「お久し振りです、マルグリットさん。修行中だと聞いてましたが‥‥依頼の申し込みですか?」
「冒険者って、いつもこんな暑苦しい格好してるの?」
「先程から、少し話がかみ合っていないのですが‥‥」
受付嬢の営業スマイルが引きつる。
「あ、冒険者の登録、終わりました?」
「誰がですか?」
「マルグリット・シラユキ」
「え?」
「私」
「え? え?」
非番の時に申請に来たらしい。事情を知る為に、受付嬢は一旦奥に引っ込む。
詳細を聞いた受付嬢が戻ってきた。にっこりと微笑む。
「はい、マルグリットさん。冒険者デビューおめでとうございます。修行終わったのですね」
『ええ。修行を終えて、バードになっちゃったりしているのですよ』
「テレパシーの無駄使いをしないように」
『もう、動物達と会話し放題です。といっても、会話はほとんど成立しませんけれど。お腹すいたは解る様になってきました』
「現在は、ウォック家の娘、という事で良いのね?」
「受付嬢さん。先程から、少し話がかみ合っていないのですが」
「お父さんについて込み入った事情が有るのなら、聞かないから。色々有るのでしょうけど、頑張ってね」
「奴の話題には触れないように。噂をすれば影が、って言うじゃないですか。奴には一生会いたくないんです。私は、クスター・ウォックの妹、マルグリット。あんな『ごくつぶし』の男の子供じゃありませんので」
マルグリットは、心配そうに周囲をキョロキョロ見回した。
「で、今日は何の用でここへ?」
「依頼受けようと思うのです。お兄ちゃんの家でごろごろしていても、あっつくて! 汗だらだらで〜もう‥‥どっか、涼しい所、無い?」
「冒険者になったばかりのバードに相応しい依頼ねぇ‥‥あ、あれ有ったわ。ゴブリン討伐依頼の後始末という事で、ゴブリンが依頼者の周辺に潜んでいないか確認してほしいって依頼が出てるのよ。やっぱり、こんな暑い日は炎天下の野外を一日中歩き回るのが一番よね」
受付嬢は、悪戯っぽく笑う。当然何か返してくると思っていた彼女は、マルグリットが真顔で居る事に意外そうな顔をした。
「‥‥受けます」
「あ、はい」
受付嬢は、一瞬体をびくっとさせた。本来の受付口調に戻る。
「ねぇ‥‥同行する冒険者のみんなに聞けるかな?」
「なんでしょう?」
マルグリットは身に付けていたレザーマントを外すと、受付嬢の目の前に置いた。
なんか、使い古したとは違う傷み方をしている。それに、変な臭いがする。
「臭いの」
「そんな事言われましても‥‥」
受付嬢は、マルグリットが何かしてくるのをかわそうと、無駄な努力をした。
「汗かいたら、汗臭くなったの。さすがにこれは、と思って他の服と一緒に川で水洗いしたの」
「これ、皮製品ですが」
「うん。持って帰ってかまどの近くで干して乾かしたら、こんなになっちゃったの。それでも意地で使い続けたら、汗とも違う変な臭いになってきちゃって‥‥」
受付嬢は、無駄な抵抗を試みる。
「捨てて、新しいマントを買ってください」
「新しいマントに臭いを付けろという事ですか?」
「違います」
「で、先輩冒険者の皆さんに、ご意見いただければな〜と思うのです。この時期、汗臭くしていたら、変な話、良い出会いも無いでしょうし。皆さん、気をつけられていらっしゃるでしょうから」
「まぁ、汗を沢山かく夏だとはいえ、向かい合った相手がものすごく臭かったら、あまり良い印象与えないでしょうからね。先輩冒険者に身だしなみのテクニックを教えてもらうのも勉強の内でしょう」
「じゃ、参加受付お願いします」
「承りました」
受付嬢は、目の前のマントの臭いを気にしながらも、マルグリットの依頼参加を処理した。
●リプレイ本文
●始まりは爽やかに
依頼日初日。冒険者達は、冒険者ギルドに集合した。
「侍の鳳双樹(eb8121)です。皆さん、よろしくお願いしますね」
他の参加者達の顔を知っている事に気付いた双樹は、少し気が楽になる。
「餅つき以来ですな」
ケイ・ロードライト(ea2499)が微笑み、軽く餅をつく格好をする。双樹は、それを見て、思わず照れ笑いを浮かべた。
「皆さん、おはようございます。汗臭さのない爽やかエルフ、エルディン・アトワイト(ec0290)です。みんなで爽やかに、依頼を解決しましょう」
エルディンも髪をかき上げ、爽やかな笑顔で挨拶をする。
「ところで、マルグリット嬢は?」
まだ家に居るのではないかという事で、皆でクスター家に向かった。
●冒険者、ただいま参上!
ノックをすると、クスター家のドアが開き、マルグリットが顔を覗かせる。
「あ、行くの?」
「マルグリット嬢、お久しぶりです!」
数ヶ月振りの対面となるケイは、マルグリットと一緒に依頼を受ける日が来た事を思い、感慨深げな表情を浮かべ、彼女の右手を握り締めた。
「前にお会いした時は、バードになるべく弟子入りを目指していたのでしたな。もう、冒険者ですか‥‥努力の賜物ですな」
「努力? ‥‥えっと、もうすぐ支度終わるから待っててほしいのです」
『努力』の言葉の意味を知らないマルグリットは、すぐに話を変えた。
双樹がマルグリットに近寄る。
「なんだか『臭い』がどうとか聞きましたが、そこまで気にする程の事は‥‥」
双樹はマルグリットの服に鼻を近づけてクンクンと臭いをかいだ。
「臭う?」
「うーん‥‥」
双樹は、言葉を選んでいるのか、眉をひそめて宙を見つめ、うなる。
「マルグリット嬢の防具も革製品ですか。私も全身、革装備ですぞ」
ケイは自分の防具を人差し指で指す。
「でも、戦闘しないのだったら、レザーマント着る必要あるのかな? 普通に外歩く服でいいんじゃない?」
アフィマ・クレス(ea5242)が突っ込みを入れる。
「いや‥‥ひらりマントにあこがれていたのですよ。笑い声と共に颯爽と登場っていう‥‥」
「そこから認識を改めた方が良いと思います」
エルディンが爽やかに突っ込む。
「バードは前衛に出ることもないので、布で出来た防具で十分でしょう。ネイルアーマーにしてみては?」
エルディンは、エフェリア・シドリ(ec1862)の服を指差した。
「服、たくさん持ってきます。布切れもです。大変なことになったら着替えます」
エフェリアが照れた様に答える。
「服をこまめに着替えるのに加えて、心がけるのは身体をこまめに拭くことですね。『暑い』と思わず、常に平然としていれば汗は出難いでしょうが、もちろん全然汗をかかない事なんて出来ない訳ですからね」
双樹が話をつなげる。
「うむ。私もそう思いますな」
ケイが頷いて同意する。
●え?
それからまもなく、一行は依頼人の元に向かった。依頼人から詳しい説明を受けた後、ゴブリン探しが始まる。
アフィマは、魔法を使って、依頼人の居る場所の周辺からゴブリンを探ってみる。
アフィマに敵対心を持つゴブリンは見つからない様だ。どうでもいい事だが、ふと、マルグリットをからかって敵対心をあおったら彼女の体も青白く光りだすのかなと戯れに思ったりもした。
そう思ってしまうくらい、周囲に危険な存在は確認できない平穏な時間が過ぎていく。
「じっとしていても暑い‥‥」
アフィマは、保存食の魚の塩漬けの欠片をしゃぶりながら呟いた。
エフェリアと双樹は、マルグリットと一緒にテレパシーを使って、動物達から情報を聞き出そうとしていた。
三人は動物さん達からゴブリンを見かけたか尋ねようとするが、そのゴブリンを説明するのが難しい。用意してきた絵を見せてみたが、動物さんがそれを生き物の姿に結び付けられない様だった。動物さん達には絵を描く習慣が無い為だろう。
川の場所は簡単に聞き出せた。
「川に水浴びに行きませんか?」
陽は傾き始め、暑さは和らぎだした。そろそろ一日分の汗を洗い落としたい所である。一行は川に向かった。
●詳細はご想像ください
川に着くと、ケイは飲み終わった発泡酒の入れ物に水を詰める。アフィマも水袋の中身を詰め替えた。
その後アフィマは、汗を拭いた布を川の水に泳がせて洗う。それとは別の乾いた布と着替えを用意する。
女性陣は、ゆるゆると水浴びの準備を始めた。
「肌を出すのはあまり好きではありません」
エフェリアの呟きに振り向いたエルディンは、女性陣の視線が自分に向けられているのを感じる。
四人は、乾いた布と着替えを丸めて抱えて立っていた。
彼女達の無言のメッセージに気付いたエルディンは、爽やかに答える。
「水浴びをやりたいのでしたら、どうぞ。私は、よからぬ者が近寄らないようにケイ殿と見張っていましょう。安心してください。私は下心持っていませんから。私はもっと成熟した女性の方が‥‥」
四人から別のメッセージのこもった表情で睨まれている事に気付いたエルディンは、一言を残し、そそくさとその場を離れる。
「十年後を楽しみにしています‥‥」
四人は茂みを衝立に、川に入り、水浴びを楽しんでいる。
アフィマの声が弾ける。
「水浴び、気持ちいいよ〜!」
エフェリアの声が聞こえる。
「水や湯につかるのは、好きです‥‥でも、女の人でも、見られるの少し苦手です‥‥」
見張りをしていた男性陣には、時折、笑いあう女性達の黄色い声が風に乗って微かに聞こえてきたらしい。
●歴史は繰り返す
アフィマが脱いだ服を川でごしごし洗った後、ケイとエルディンも一日分の汗を洗い流した。さっぱりした一行が一箇所に集まる。
マルグリットは、ほのかに良い匂いがする。双樹が調香した香りを少し付けてもらった様だ。
野営地は、湧き水か川の在る場所の近くが良いというエルディンの意見もあり、開けている場所を見つけると、一行はそこにテントを張った。
食事も済み、夜も更けて。アフィマがたき火にあてて干している服がパタパタとなびいている。
ケイはテントの脇にマルグリットと向かい合って座り、色々と話をしていた。
「それで、師匠の弟子入り条件は、どうクリアしたのですか?」
「師匠を罠で捕まえる試験の事ですか? 単純ですよ」
マルグリットはニヤリと微笑むと、左腕を伸ばし、近くに張ってあった糸に触れ、それを外す。糸の端は上空へと吸い込まれていく。
ぼふっ。
目の前が真っ暗になったケイの脳裏に、懐かしき記憶が甦った。
「私は大釜落下の罠にこだわり、それを貫き通す事で師匠に認められたのですよ」
「な、なぜに、いつの間に、私への罠を仕掛けていたんですか!!」
まだ大釜を被りながらも小一時間説教をしようと詰め寄るケイと、それを引き止めようとする双樹の姿を見ながらも、得意げな顔をするマルグリットであった。
そんな感じで五日の依頼期間は過ぎていった。皆でくまなく調査したが、最終的にゴブリンの存在は確認出来なかった。依頼人にその旨を報告して、無事に仕事は完了した。