お粥を作って食べませんか?
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月13日〜01月18日
リプレイ公開日:2008年01月21日
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●オープニング
ふとしたきっかけで知り合ったランティエ家に招待されたクスターとマルグリット。二人は十代半ばの兄と妹である。一応、二人とも冒険者ではある。
二人は、本来縁が無いであろうこんな豪邸に招かれる事が、約1年前に有った。ランティエ家の息子であり、マルグリットに密かな恋心を抱いていたオールにチャンスを与えようと、父親が招いた二人に『もち米』をプレゼントしたのだった。運び役のオールを付けて。
二人は用意された椅子に座り、家の主人と向かい合って、くつろいで会話している。
「いや、もうしわけない。本当にご無沙汰していましたな」
「いえ、こちらこそ。安くない物をいただきましたのに何のお返しもせず」
クスターがぺこりと頭を下げる。
「いやいや。邪魔なだけだったのでな。楽しんでもらえて良かった」
人形劇の悪夢が脳裏に浮かんだマルグリットが首を横に振る。
「おや?」
「いえ‥‥息子様との関係を疑われた悪夢が脳裏によみがえりまして」
「おやおや。オールと何もなかったのですか?」
(「あんたが『もち米』を餌に、彼をうちに送り込んだんでしょうに!」)
白々しく訊ねる主人と、微笑みながら睨むマルグリットの視線が熱くぶつかる。
そこへ、今まで部屋の入り口のドアの隙間からこっそりと事の成り行きを見守っていたオール君が登場して話に割り込んできた。
「あれ? クスターさん、マルグリットさん。いらっしゃったのですか。ご無沙汰しております」
腰の位置で両方の手を重ね、丁寧にお辞儀をする。
さっきからオールの存在に気付いていたマルグリットが彼を睨む。おろおろするクスター。
それに気付かぬ様に、オールが父親に話を切り出す。
「こんな時に何なのですが、お父さんに紹介したい人がいまして‥‥」
「ん? 何だ?」
予想していなかった息子の言葉に少し動揺している父親。
「シャルシーさん、入ってください」
小柄で細身な、15歳ぐらいの少女がおずおずと部屋に入ってきた。
髪は金髪。小振りな頭に可愛く上品な顔立ち。とびきりの美少女ではないだろうが、充分に魅力が感じられる。家柄はどうであれ、息子が結婚したいと打ち明けたら、頷くしかないであろう、そのぐらいに好感が持てた。父親は、明らかに動揺している。
「マル‥‥あー、いや。初めまして。息子がお世話に、えー、あの」
シャルシーの顔を見詰めながら、マルグリットの表情は固まっている。
少しの間シャルシーに見とれていたクスターは、ハッとしてマルグリットの様子を心配そうにうかがう。
シャルシーは、緊張に身を硬くしながら、オールの父親にぺこりとお辞儀をした。
「初めまして。ウイエ・シャルシーと申します。お目にかかれてうれしいです」
またぺこりとお辞儀をする。その様子に心ほだされて微笑んだ主人は、メイドに椅子の準備を指示した。
「どうぞ、くつろいでください。そうですか。息子がお世話に‥‥」
ちらとオールの顔をみたシャルシーは主人の方に向き直して顔を赤らめる。
「あ、いえ、そんな‥‥」
(「ここでそんな‥‥オール、何を考えてるのよ!」)
面白くないマルグリットは、むっとした表情でオール君を睨みつける。
元初恋の相手の熱い視線に気付いたオールは、すずしい顔で父親に尋ねた。
「そういえば、お二人は何の用で?」
「おぅ、そういえば、まだでしたな」
手を叩いてメイドを呼んだ主人は、何かを持って来させた。
「これをご存知ですかな?」
幾つかの菜が盛られているトレイの中を覗き込んだマルグリットは即答した。
「『ナナクサ』ですね。『ハルノナナクサ』」
「よくご存知ですな。両親がなにかジャパンの人だったりするのですかな」
マルグリットはそれには答えず、あいまいにお茶を濁した。
「で、これを?」
「ええ。お二人に差し上げようと思いましてな。例の農産物を扱う商人が、月道経由で仕入れた物だと勧めましてな。衝動買いをしたは良いが、私は食べ方が分からんのです。お二人に食べていただこうと」
「高かったのではないですか?」
クスターがおずおずと尋ねる。
「いや、それは構い無く。妻に怒られましたが、もう返せませんでな」
「そういう事でしたら、ありがたくいただきます。ありがとうございます」
マルグリットは懐から大きな薄い布を取り出した。
「なぜ、そんなものを‥‥」
「こんな事もあろうかと思って」
マルグリットは折り畳まれた布を床に広げながら、クスターの呟きに答える。
せっせと菜を布に包むマルグリットの手が、突然止まる。
「そうだ。オールさんと、ウイエさんも『ナナクサガユ』を召し上がりませんか?」
マルグリットが二人に向かって微笑んで誘う。
「『ガユ』ですか?」
まだ幼いオールには、マルグリットの真意までは測りかねた。
「去年いただいた『もち米』がまだ残っていますから、それで粥を作って、冒険者の皆さんをお呼びして、『ナナクサガユ』を一緒にいただこうかと、今思いついたのです」
「それは良いですな。ぜひシャルシーさんも参加してくだされ。都合が良ければですがな」
「は、はい。喜んで」
マルグリットに微笑み返すシャルシー。空気を読めるクスターだけが、ただおろおろと二人を交互に見ている。
ランティエ家からの帰り道。
「ななくさなずな、とうとう鳥が」
歌っているマルグリットに、クスターが小声で訊ねる。
「いいの?」
「なにが?」
涼しげな顔で問い返すマルグリットに、クスターは思わず困惑する。
「マルグリットは別にそうじゃなかったかもしれないけど‥‥」
「遠まわしに言う必要ないけど?」
クスターは出来る限り、思い切りよく言ってみた。
「オール君はマルグリットの事が好きだったんでしょ? 心変わりしたんだろうけど、だから、その」
「別に気にしてないから」
「そうなの?」
「しつこい。‥‥気にしてないってば。食事会、楽しみね。まさかそんな、冒険者達と組んで二人の関係壊してやろうとか、思ってないから」
「やっぱり‥‥」
「1年前はあれほど好きになってくれていたのに、もちろん私はその気無かったけど、よくもまあ1年で心変わりしてくれたものねぇ〜 なに、あの態度。もうマルグリットには興味ありませんって‥‥あー! 頭にくる! そりゃ、ウイエさん、魅力的だわ。でも、勝手に捨てられた女の恨みは、あの二人を別れさせなきゃ収まらないわよ。絶対奴に思い知らせてやる! ‥‥という風には思ってないから」
「マルグリット‥‥」
(「自分が好かれるのは満更でも無かったから、新しい彼女に乗り換えられたのは相当面白くなかったんだろうな‥‥」)
自分がその気無かったのなら誰と幸せになろうと構わないんじゃ‥‥とつっこみを入れたかった気持ちを抑え、本音がぽろぽろ漏れるマルグリットを見詰めながら、食事会で何が起こるのか不安になるクスターであった。
次の日、ギルドにマルグリットが出した依頼が張り出された。
クスターの家で、『ナナクサガユ』を作って楽しく食事会をしましょう。『ナナクサガユ』の知識不問。料理の技術不問。材料、大釜、燃料は揃っています。持ち込み可。他の参加予定者は、オール・ランティエと、ウイエ・シャルシー。お二人の幸せな将来を祈って、お二人をいじるの可。オールの心変わりを責めるの可。ただし、マルグリットとオールをくっつけようとするのは不可。という事で宜しくお願いいたします。
という内容であった。
●今回の参加者
ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
ea7865 ジルベルト・ヴィンダウ(35歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
ec4047 シャルル・ノワール(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
●サポート参加者
カルロス・ポルザンパルク(
ea2049)/
マラキム・ニカマ(
eb7696)/
ルイス・フルトン(
ec0134)
●リプレイ本文
食事会当日。午前中に、冒険者達はギルドにいったん集まった。
ケイ・ロードライト(ea2499)はギルドの受付に寄ると、一人の受付嬢に声をかけた。
クスター兄弟の依頼を幾つか受けた受付嬢を食事会に誘ってみようと思ったのだ。
「ごめんなさい。今日は泣けるほど忙しくて‥‥ぅぅ」
受付嬢は、ペンを持つ手を止めずに、書類に目を落としたまま答えた。
受付嬢の後方少し離れた所に、上司が腕組みをしてこちらを向いて立っている。厳しい目で上司に睨まれては、さすがに、遅れている仕事を後回しにして遊びには出かけられないだろう。
ケイはなぐさめの言葉をかけて、受付から離れる。
その後、クスターがギルドに現れる。
スズカ・アークライト(eb8113)が、買い物の協力を口実に彼を呼んだのだ。
スズカとクスターがパリの街へ、残る冒険者はクスターの家に向かった。
道中、ケイは皆に、クスター兄妹とオールについて知ってる限りの情報を話した。
テレパシーが使えるバードである事はどうでもいいとして、大釜の罠には気をつけろが、ケイの一番力説した部分であった。
触っちゃいけないポイントとかは、ケイは特に思い出せなかった。マルグリットとオールの関係は、一年前の食事会で思い切りネタにしていたし、マルグリットの父親の件は、この時点では、まだあまり表面化していなかったのである。
一方、スズカとクスターは。
「で、ぶっちゃけ、貴方はどう思ってたりする?」
スズカはクスターに今回の騒動について聞いてみた。
「これで縁が切れてくれるとありがたいです。二人の動向は気にはなっていましたが、マルグリットを変にあおったりはしたくなかったですし。気を使うのも何だかなとは思うのですが」
「貴方も苦労してるわね〜」
スズカはクスターの頭をなでなでしてあげた。
「あ‥‥それほどでも、というか恥ずかしいというか‥‥」
冒険者達がクスターの家の中に入ると、ケイの提案で招待したマルグリットの師匠、ムエット・カプリスが居間の中央で酔っ払っていた。
師匠は、朝早くから来たはいいが、暇なので『師匠専用』と書かれた壷に張り付き、壷の中の酒を汲んでは飲んでいた。既に出来上がっている。
酔うと女好きになる師匠は、シャルル・ノワール(ec4047)に絡んで遊び始めた。
(「ひーん‥‥」)
マルグリットは、かまどの方で、器の中の米を水で洗っている。
その様子を横から覗き込んだケイが尋ねる。
「もち米だけのお粥で大丈夫ですかな? 麦とか混ぜたほうが‥‥うむ、スズカ殿がジャパンの事情に通じていらっしゃるな。後でスズカ殿に相談しましょう」
「スズカさんは今居ないの?」
「買い物を終えたら、こちらに来ますぞ」
会話が切れた所で、ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)がマルグリットに話しかける。
「お招きありがとう。あたしは、ちょっと用事でジャパンから来たばかりなの。ここパリで七草粥を食べられるなんて思わなかったわ。よろしくね」
ジルベルトは優しく微笑むと、そっとマルグリットの頬に手を添えて耳元でささやく。
「お礼に忠告するわ。判っていると思うけれど、オール君は貴女に嫉妬して欲しいのよ。彼の作戦に乗るのもいいけど、程ほどにね。やり過ぎると彼、しょんぼりしちゃうから。恋は、適度な駆け引きが大切よ」
ジルベルトはマルグリットの頬から手を離すと、再び微笑む。
「彼を懲らしめるのは私たちに任せてね。あと、落ち込んだ彼を慰めるのを忘れちゃダメよ」
頬を染めてぼぉっとしていたマルグリットが、はっと我に返って慌てて言い返す。
「違ぁぁう!! そういうんじゃないって言ってるのに!!」
そうこうしている内に、スズカとクスターがやって来た。
「マルグリットちゃん? 初めまして。よろしくね」
「こちらこそ。何買って来たの?」
「適当に、色々とね。あ、よろしければ、ムエットさんも、お酒のおつまみにいかがですか?」
スズカは師匠の前に、適当に買ってきた色々な軽い食べ物を並べる。
シャルルは、師匠の酒の肴役からやっと解放された。
「スズカ殿、お粥に何か入れた方がよろしいですかな?」
スズカは顎に指を添えて少し考える。
「そうね‥‥新巻鮭を焼いたりするのもいいわね‥‥」
スズカは、バックパックの中から新巻鮭を一本取り出した。
「それは香ばしくなりますな。それなら私も提供しますぞ」
ケイも懐から新巻鮭を取り出す。
それを見ていたクスターは、道理で、スズカさんのペットの犬が、ケイさんの懐も匂いを嗅いで気にしてた訳だと気付いた。
犬は隙あらば鮭をかじろうと、喉を鳴らしながら二人にまとわり付いている。シャルルがなぜかそれに巻き込まれている。
二人が鮭の切り身を焼き始めると、いっそう犬と彼は切ない声を出した。
夕方近くになって、オールとウイエ・シャルシーが連れ添ってやって来た。
ジルベルトは二人に気付くと、オールに声をかけた。
「あら、こんにちは。はじめまして。私はジルベルト。よろしくね。こちらは、可愛らしい方ね。貴女の恋人かしら。紹介してくださいな」
「あ、はい。こちらが、シャルシーさんです」
「恋人‥‥マルグリットさんと付き合っていたわけじゃないにしても‥‥それは‥‥酷いです‥‥」
シャルルがよよよと涙を流しながら、3人の脇を通り過ぎる。
ウイエがジルベルトに挨拶をしている脇で、オールがちらと、マルグリットの方を見る。マルグリットは、3人の会話が聞こえているのかどうか、振り向く事なくお粥のしたくをしている。
「オール君は、ファーストネームじゃ無くてファミリーネームで彼女の事呼ぶのね。本当はそんなに親しくないのかしら」
ジルベルトは、にっこり微笑んで追求する。
「あ、い、いえ。親しき仲にも礼儀ありですから」
「でも結構呼びなれた感じねぇ〜。 親しい事は親しいのだけれど、ちょっと違う感じね」
オールの目が泳ぎ出し始め、動揺を隠せない様子だ。
「恋人じゃ無いのかしら。どうなのオール君?」
「オール君‥‥君は‥‥その‥‥人が人に恋するという事を‥‥だめです〜」
シャルルが頬を染めて、恥ずかしさのあまりオールの傍から小走りで立ち去る。
「いえ。私達、お付き合いしていますの。今晩は宜しくお願いしますね」
シャルシーは、ちょっと強い口調で助け舟を出した。
「こちらこそ」
会釈をしたジルベルトとシャルシーの視線が激しくぶつかる。
先日の印象とちょっと違うなと感じたマルグリットが、ちらりと二人を見やる。
「マルグリットさん、ごめんなさい〜 僕には無理です〜」
シャルルはマルグリットに駆け寄って、おろおろしている。
「何しに来たんですかぁ?」
マルグリットは小首を傾げている。
日が暮れ始めた頃、マルグリットの幼馴染であるウイエがやって来た。ウイエもケイの提案で招待されたのだった。
「マル、ごめん。遅くなった」
ウイエは、オールの彼女に気付くと、近付き、挨拶を始めた。
「初めまして。ウイエ・シャルシーと申します。宜しく」
何気ない挨拶を装うオールの彼女の顔が引きつる。
「オール殿の彼女と同姓同名なんて、面白いですな」
ケイの一言が、止めをさす。
(「あの時僕の頭の中にこの名前が浮かんだのは、どっかで一度聞いたからなの!?」)
オールは、完全にうろたえている。それをさりげなく制しようと、オールに肩をぶつけるオールの彼女の方のウイエ。
しかし、オールにはうまく伝わらなかったようだ。オールの彼女の方のウイエは、オールに耳打ちをする。
「こういう時は、『偶然の一致』で切り抜けるの!」
しかし、彼女も冷静さを失っていたのだろうか、多少声が大きかった様だ。
「どういうことかしらね?」
二人を取り囲む冒険者達を代表して、スズカが追及する。
しばらく固まっていたオールの彼女の方のウイエ。だが、とうとうきれた。
「ああ、そうよ! 私はオールの姉のラシーヌ・ランティエよ! お父さんと弟の悪巧みに乗ったわよ! 当て馬役出来るの、私ぐらいしか居なかったもの! しょうがないでしょ! 悪いのは、こいつ、安直にマルグリットさんの友達の名前を拝借した弟の方よ!」
オールがすまなそうに白状する。
「すみません。ちょっとマルグリットさんの気持ちを確かめたくて、つい‥‥」
ケイがオールの肩に手をかける。
「お粥を楽しみながら、今宵、ゆっくりとその事について皆で語り合いましょうかな」
ジルベルトは、優しくラシーヌの肩を叩く。
「貴女も大変ね。同情するわ」
マルグリットは、先ほどから焼いた鮭の切り身を細かくほぐす作業を、無表情で黙々と続けていた。
「マルグリットさん‥‥」
シャルルが、おろおろしながらマルグリットを見詰める。
「あー。ウイエって、ウイエ・シャルシーだったの。そうね。すっかり忘れてたわ」
マルグリットは皆の方を振り返り、にっこりと微笑む。
「大丈夫よ〜。 私、怒ってなんかないから」
誰の目にも、とっても怒っている様に見える。シャルルはあわあわしている。
「まあまあ、マルグリットちゃんの気を引きたかっただけだったんだし‥‥」
「マルグリット殿、あくまでも穏便にな」
スズカとケイがマルグリットをなだめる。
「ええ、ええ。穏便に問い詰めましょうね」
ジルベルトが優しく微笑む。
そんな感じで食事会の準備が済むと、シャルルが酔いつぶれていた師匠を起こす。
またシャルルに絡んだ師匠を彼から引っぺがして、楽しい食事会が始まった。