【練成】冒険者抹殺計画 試行戦闘、始動
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月22日〜02月27日
リプレイ公開日:2008年02月27日
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●オープニング
薄暗く狭い路地を縫う様に進み、傷みの激しい粗末な小屋のドアを叩く。
男は、少し間を置いてから、ドアに寄り添い、一言ささやいた。
すると、ドアの向こうでカチッと小さな音がして、静かにドアが開く。
そのわずかな隙間に吸い込まれる様に、男は小屋の中に消えていった。
静かにドアが閉まる。カチッという小さな音を最後に、路地から一切の音が消えた。
農具が打ち置かれた小屋の隅に吊るされている縄はしごに足をかける。たどり着いた二階は、一層暗い。
「遅かったな」
男が、木のテーブルの上で頬杖をつき、酒をすすりながら、視線だけを小屋に入って来た男の方に向ける。入って来た男は、軽く頷くと、空いている壁に向かい、壁にもたれ掛かる。
「始めるか」
男は、小屋の中の人間達を見渡すと、残った酒を一気に飲み干し、立ち上がった。
「同志よ、よく集まってくれた。感謝する。皆の願いがいつか報われる事を願って」
男は目を閉じる。同志達は、皆、黙って男を見詰めている。男は目を開くと、テーブルを叩いた。
「冒険者を殺す! 我々は奴らを抹殺し、奴らにつぐないをさせる!」
同志達は、それぞれに賛同の声を上げる。
「実現する為には、入念な事前準備が必要だ。奴らの様な行き当たりばったりの行動は、失敗を生む。どの様に戦えば奴らを倒せるか、綿密な計画を立てる」
「どうやって?」
同志の女性がニヤニヤしながら尋ねる。
「そう、我々に足りないものは、戦術だ。戦闘の技量差を埋めて、確実に奴らを仕留める、戦闘の方法論だ。それをこれから練り上げていく。実践をもって」
「奴らと戦うんですかい?」
「方法論の不明な所をはっきりさせる為にな。実際に軽く戦ってみれば、色々な事が解ってくる」
男は、同志達を見渡した。
「何を知りたい? お前なら、何を試してみたい?」
少しの静寂の後に。
「一人を数人がかりで仕留める方法!」
「相手の背後を確実に取る戦法‥‥」
「後方支援を攻撃するには?」
「ポーションを使わせない戦い方」
色々な声が飛ぶ。しばらく目をつぶって腕組みをしてそれを聞いていた男は、突然目を開いた。
「よし、最初の実践のテーマが決まった。『集中攻撃』だ。実際、奴らの中には戦闘技術の高い奴も居る。それを仕留めるには、武器受けも回避も出来なくなるようにすれば良い。例えば、敵を四人で密着して囲み、四方から攻撃すれば、相手は身をかわす逃げ場が無くなる」
「その分、攻撃している方も隙が出来る。他の敵が背後から狙って来るぜ」
「そう。どの様に攻撃すればより良いのか、練る必要がある。拘束手段も考慮しておいた方が良い。現状、無策にほぼ一対一の戦闘を仕掛けても確実な勝利は得られない。戦闘技術の高い奴を潰す策はどうしても必要だ」
「しかし、いきなり強い奴を相手にするんですかい?」
「いや、弱い奴を標的にしよう。ゴブリン襲撃の対応願いをギルドに出せば、戦闘技術の高くない奴が集まるだろう。こちらを特定されない様に身を包めば、あちらには謎の集団としか解らん。あくまでも戦術の試行実験だからな。双方ダメージが必要な訳ではない」
頬の痩せた目つきの鋭い男が片手を挙げた。
「ゴブリン数匹、狩っておくぜ。餌与えないんだろ」
「そうだな。任せた。ゴブリンを放して逃げれば足止めにはなるだろ」
四人組のジャパン出身らしい女性の内の一人が手を挙げた。
「私たちはちょうど四人居ることだし、その四人で囲んで密着しての攻撃を試すわ。ナイフで良いでしょ?」
「ああ。お前達をサポートする人間を選んで好きな様に使え。あまり多いと意味が無いがな。ついでに簡単な拘束手段も試してみてくれ。背後から首に刃を当てて硬直させるとかな」
「首を『軽く』絞めてみたりとか?」
女は上唇を舌の先でゆっくりと舐めた。
「任せた。今回の試行は、この四人をリーダーとする。指示に従ってくれ」
その後も相談は進み、今回の戦闘試行の手順がまとまった。
舞台はパリから歩いて1日程かかる小さな村。一人の男が戦闘技術のある人間として村に飛び込む。ゴブリンの襲撃に追われてここまで来たと説明した所で、狩っておいたゴブリンを1匹放す。それを男が倒し、残りのゴブリンが来ない内にギルドに応援を頼もうと提案。依頼を提出させると共に、男は偵察しに行くと言い姿を消す。
女四人は、ゴブリンを管理する男と共に村の近くに身を隠す。依頼を受けた冒険者達が村に入ったら、男一人が木に登り冒険者達の立ち位置・挙動を観察しながら、適切なタイミングを探す。
男の合図で襲撃開始。男は、冒険者一人を特定出来る合図、服の色、髪の色などを告げて合図とする。男はここで逃亡。ゴブリンを管理する男は待機。
指定された冒険者を取り囲み、集中攻撃を試す事を目標とする。いかなる時でも、負傷するか負傷する可能性が有れば撤退する。撤退する際には、ゴブリンを放し、食料の有る民家を襲わせる事で、足止めとする。
この戦闘は、その場における戦術のひらめき、臨機応変な対応を重視する。戦闘の方法論の検討に結び付く結果を得る事を最重要とする。
日が沈み、すっかり暗くなった頃、小屋はそれが当たり前であるかのように、放置された廃墟の姿に戻っていた。
●リプレイ本文
●暇なのです
「ボクはエラテリスって言うんだ。よろしくだよ」
体形のせいか年齢より幼く見える少女が、ギルドで独り、まだ見ぬ依頼同行者への挨拶を繰り返し練習していた。そうしないと、暇で、この手持ちぶたさを持て余してしまうのだ。
エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は、時折周囲を見渡し、こちらを見ている人がいないかチェックする。ここへ来てから何度となく繰り返した動作だ。エラテリスは、ゴブリン退治の依頼に参加した冒険者が現れるのを辛抱強く待っていた。
待つだけは、つらい。背伸びしたり、腕を回したりしてみるが、集団で談笑している他の依頼の参加者らしい冒険者達とちらと目が合って、ちょっと気恥ずかしくなったりする。
気分を変えて、エラテリスは独り、まだ見ぬ依頼同行者との会話を予行する。
「ボク? そうだね、ボクはみんなのサポートをするよ。味方と戦っている敵の背後に回って攻撃するとかだね。あとは‥‥」
今度は、しっかりと目が合った。両手を中途半端に広げたまま、固まる。エラテリスとあまり年の変わらない、だがしっかりと胸はある、若い女性冒険者が眉をひそめて怪訝な顔をする。何か言いたそうにしていたが、隣の知人に肩を叩かれて集団の会話に引き戻される。
エラテリスは顔を赤らめて、ギルドの受付の方へ、小走りで逃げた。
●極めて不可思議なハプニング
エラテリスの依頼同行者は現れたかの質問に、受付の女性は少し考えて、首をひねった。
「そういえば‥‥人集まったような、そうでないような‥‥あれ‥‥?」
管理していたはずの受付も、居たのか居なかったのか、エラテリス以外の参加者についての記憶がはっきりしない。それだけ彼らの存在が薄かったという事なのだろう。
受付は、状況を把握しに奥に引っ込んだ。しばらくして戻ってくると、エラテリスに向かって微笑んで言う。
「とりあえず、依頼主に誠意は見せましょう。時間あります? 今後の行動を打ち合わせませんか?」
エラテリスにも、納得したくないが、自分の置かれている状況が解った。エラテリスは軽く息を吐く。
受付とエラテリスが小さなテーブルに向かい合って座る。
エラテリスの視線を避ける様に、何も無い空中を見ながら、受付は言う。
「言いにくい事ですが、事情により、今回の依頼は貴方一人に担当していただく事になりました」
がっくり肩を落とすエラテリス。受付は立ち上がり、エラテリスの両肩を手のひらで包むと、励ましの言葉をかけた。
「頑張って。一人、出来る事をやりましょう。依頼主も再度依頼を出してくれるかもしれないですし」
「村人に事情を説明しに行くの?」
「ですね。それを受けてどうするかは、村人達の判断になりますが。‥‥お願い。絶対にゴブリンとは戦わないでね。見つけたら早めに逃げてね。一人で送り出して危険な目に合わせたら、私‥‥」
受付は、再度エラテリスの両肩を手のひらで包む。より力を込めて。
「うん。大丈夫。やれるだけの事をするつもりだよ」
エラテリスは、受付を安心させるように微笑んだ。
●てくてく一人旅
エラテリスは、村に向かって出発した。乗れるペットもいないので、徒歩での移動だ。平坦な道をてくてく進む。人を見かけないがモンスターの気配もない。
ウェザーフォーノリッヂで確認してみても、晴天はしばらく続くようだ。ここ最近にしては比較的暖かい。陽の光を浴びて、体が温まるというか、眠くなる。
エラテリスは耐え切れず、一本の木の傍に寝転がった。
起き上がり背伸びをした頃には、太陽は低くなっていた。
「暗くならない内に村に着かなきゃ。よし、急ぐよ」
エラテリスは体をほぐすと、いきなり走り出した。体を撫でる風が気持ちいい。
●事情説明
息を切らせて村に突然現れた少女を見て、村人達は最初いぶかしがったが、エラテリスが自分は依頼を受けた冒険者である事、村長に事情を説明したいと言うと、エラテリスを村長の家に連れて行ってくれた。
村長は事情を聞くと、驚き、憤慨した。
「わしらにしてみれば、こういう事も脅威なんじゃ。依頼を受けた以上、手を抜かないでほしいものじゃ」
「すみません」
うつむくエラテリスを村長がなぐさめる。
「おぬしに罪はない。ご苦労じゃった。依頼を受けてる間、村でゆっくりされるがいい」
「いいんですか? ゴブリンを退治できませんが」
「あれから若い男衆が交代で見張りをしているが、今のところ、ゴブリンらしき姿はみていない。こちらに来るかどうかは分からん。見張ってもらえると助かる」
「わかりました。がんばります」
●村に届かぬ爆笑
翌日。村人と一緒に見張りをしているエラテリスの姿を遠くから眺めている集団が居た。
その集団は丘の茂みに姿を隠していた。女の一人がこらえ切れず笑い出す。
「だから冒険者って奴は馬鹿なのよ! 女一人でどうにかなると思ってる! お腹痛いわ!」
「しょうがないわ。盗みや殺しをするほどにはやる側の危機感が必要じゃないもの。堕落してるのよ」
「で、どうするの? 殺す?」
ゴブリン管理担当の男が答える。
「いや。その必要はないだろう。ここで殺してもたいした意味は無いしな。少し遊ぶくらいでいいんじゃないか?」
「ゴブリンは?」
「必要ないだろ。こんな状態では」
男が笑う。
「こんな遊びも、たまにはいいかもね」
女は、上唇を舌の先でゆっくりと舐めた。
●試行
エラテリスは極力村人と一緒になる様に行動していた。本来は、それは冒険者であったはずなのだが。
時折、村に戻る。村長への報告と、これはサービスだが、ウェザーフォーノリッヂで雨の予測をして村人に伝える為だ。特に干し物の取り込みには重宝された。
そんな風に村に戻って来ると、遠くで『銀』と言う声を聞いた様な気がした。周囲を見渡してみたが不審な人物は見つからなかった。また歩き出そうとすると‥‥
「助けてください!」
土で汚れた服を着た四人の女性が、おびえながらこちらに向かって走ってくる。
エラテリスは四人の突然の出現に驚いたが、女性達は何かに追われている様だと解ると緊張で身を硬くした。
「どうしたの?」
立ちつくすエラテリスの傍まで来て、女性は応える。
「ゴブリンに襲われて逃げてきました! 冒険者の方ですか? 助けてください!」
「じ、じゃ、村の皆に知らせてくるよ」
女性はエラテリスの襟を掴み、顔を近づけて必死に懇願する。
「お願いです! どうか私達に協力してください」
女性の話し方が、じょじょにゆっくりに、そして妖しさを増す。懇願の表情が微笑に変わる。
「‥‥こんな風に、私達四人がかわいい貴方を攻撃出来る様に‥‥」
エラテリスの頬を滑らせた吐息が、ナイフにすりかわる。四つのナイフがエラテリスを四方から狙う。エラテリスは四人の女性に取り囲まれていた。
「ひっ!」
まさかここで自分が襲われる事になろうとは、予測できるはずもない。助けてくれる冒険者も居ない。エラテリスは、頬に当てられた刃に動けないまま、引きつった表情で上ずった声を出す。
「大丈夫よ。ちょっとチクッとするだけ。慣れたら気持ち良いかもよ?」
正面の女性の笑みが不気味さに満ちる。エラテリスは、それに強い悪意を感じて、身震いした。
すぐにそれは苦痛のもだえと変わる。左右のナイフが肩や腕を、背後のナイフが背骨付近を、正面のナイフが頬を、刃の先端でごく軽く突付き始めたのだ。頬にわずかに血がにじむ。
エラテリスはナイフを身に付けていたが、恐怖心が上回っていてナイフを構えての戦闘態勢を取れない。それに一度に四人を相手できる自信が無かった。防御するにしても、左右も背後も、身を守るすべが無い。密着するかのごとく取り囲まれているので、逃げ場も無い。
エラテリスに出来るのは、大声を上げて助けを呼ぶ事だけであった。
エラテリスの叫び声を聞きつけて村の若者が集まってくる。
「そろそろお別れね。楽しかったわ。また会いましょ。貴方をもっと気持ち良くさせる様に準備しておくわね」
正面の女性は、血でにじむエラテリスの頬の傷に、そっとくちづけた。
村の若者が集まった時、独り地面に手を付いて号泣するエラテリスの姿があった。エラテリスを村長や村民が心配そうに取り囲む。
●謎は残るけど、依頼は完了!
エラテリスの受けたダメージは、かすり傷程度のものであった。走って転んで皮を擦り剥いた時の方がより出血していただろう。頬の傷も跡が残る様なものではなかった。
精神的ダメージも翌日には回復した。許すもんかという怒りもあったが、どこにもぶつけようがない。とりあえずは、村民と仲良く見張りを続けるだけだ。
四人組の襲撃は、誰にとっても謎であった。そもそも最初にゴブリンの襲撃に追われて来た男も、その後行方不明である。
これはゴブリン襲撃を語った愉快犯の仕業じゃないかという考えが、次第に村民の間に広まっていく。ゴブリンが来るかもしれないという緊張感は薄らいでいった。
依頼最終日、村長は、実際にゴブリンの姿を見るまでは村人達の見張りで警戒していくとし、エラテリスに村の依頼が完了したと告げた。
その夜、村長の家に、村人と一緒に村の踊りを楽しく踊るエラテリスの姿があった。