■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月28日〜08月02日

リプレイ公開日:2006年08月05日

●オープニング

●依頼書内、依頼要旨全文
 貴方は、5日前、ここから徒歩で2日かかる村でゴブリンの群れに殺された二十歳前後の若者の事を覚えているだろうか?
 村人の出した依頼により、冒険者達の働きでゴブリンは退治され、ゴブリンの襲撃という脅威は取り除かれた。村の安全は取り戻したが、全ての事が解決したわけではなかった。
 殺された若者の身元が判らなかったのだ。発見当時、何者かを示す物を一つも持ち合わせて居らず、冒険者の村人達への聞き込みもはかばかしいものではなかった。村人達は殺された若者が1、2ヶ月程前から独りで村に住んでいたらしい事は覚えていたが、互いに遠慮していたのか会話らしい会話も交わさず、親しくなって相手の事を詳しく知る程には至っていなかったらしい。そればかりか、名前も出身も知らなかったとの事だ。
 依頼を受けた冒険者達は困ったそうだ。勝手に処理するわけにもいかない。若者の関係者に死亡した旨伝えなければ、この若者は人々の間で永久に『行方不明者』という扱いになってしまう。どこかに住む両親が彼の帰りを待っているかもしれない。このままでは、彼を待つ誰かにいつまでも心労をかけてしまう事も有りうる。とりあえず彼の死体は、依頼に参加したクレリックが毎日アンチセプシスという魔法をかけて腐敗を防ぐ事になった。
 私は、私が若い頃を過ごした思い出の有る村で、この様な痛ましい事件が起きたという話を聞き、急いで依頼に参加した冒険者達から、上記の様な状況を聞きだした。冒険者達からの要請もあり、私の個人的感情からも、ここに私からの依頼を提出する。

 殺された若者の素性を調べて頂きたい。生まれ故郷は何処か? 何故この村に来たか? 彼は『誰』なのか?

 彼も、誰かの愛情を受けて育ち、何かに悩み苦しみ、それでも日々精一杯生きてきたはずだ。
 肉親も兄弟も知人も彼の死を受け入れるだろう。いつかはやって来ることなのだから。だが最悪こんな死に方で、皆が彼の存在を消し、彼が確かに生きていたという記憶を捨ててしまう事が有っては、非情過ぎると言える。死という節目を越えれば、その後は彼を求める誰かの記憶の中で生き続ける事、それは要求しても当然ではなかろうか?
 この若者に、彼を知る人達の胸の中で『第2の人生』を過ごさせて欲しい。強くお願いする。

●今回の参加者

 ea2284 鳳 玉麗(31歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3021 大鳥 春妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5338 シャーリーン・オゥコナー(37歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レオンスート・ヴィルジナ(ea2206

●リプレイ本文

 李雷龍(ea2756)は、最初にギルドから依頼主に関する情報を受け取った。依頼主に会い、詳細な経緯などを聞きに行く為だ。
 雷龍一人ではゲルマン語で依頼主と会話するのは不安なので、ゲルマン語が話せるシャーリーン・オゥコナー(eb5338)に同行してもらった。
 依頼主はパリの郊外に住んでいるらしい。ギルドに教えてもらった場所に向かうと、一軒の家が見えてきた。見た感じ、何かでそれなりに財を成した人が住んでいる様な印象を受ける。
 雷龍は、依頼主に面会する事が出来た。
 雷龍が簡単な言葉に身振り手振りを加えて依頼人と会話し、シャーリーンが補足して聞き取るという形で面会は行われた。
 依頼主は四十代の男性で、この家に妻と二人暮しだという。一人息子が居たらしいが、今はここには居ないとの事。
 依頼主は、農作物の売買で財を成したらしい。ゴブリンの襲撃を受けた村とも取引が有り、定期的に村の経済状況などを教えてもらっていたという。
 当然ゴブリンの襲撃という報告と共に犠牲者が出たという知らせも耳にした。聞けば、犠牲者は自分の息子と同じ年頃の男性だという事で、息子を持つ身として心情的に同情せざるを得なかった。身元が分からない故に、両親との再会も果たせない。だがそれよりも、『自分が誰であるか』を世に示す事が出来ない事が不憫に思われてならなかった。
 若者だから志半ばであった事は仕方ないと思うが、それでもそれなりには若者の生きた証を周りに知っておいてもらいたいとの思いから、先の依頼を受けた冒険者達から情報をまとめ、改めて依頼としてギルドに提出したのだと言う。
 その後、雷龍は、遺体の腐敗を防ぐ為に村に留まっているクレリックの名前や、依頼者と面識のある村人の名前などを聞いた。自分の名前を出して詳細を話せば協力してくれるだろうと依頼者は言った。

 雷龍とシャーリーンは他の2人と合流し、皆で事件のあった村に向かった。
 依頼者から得た情報や行動の打ち合わせは、主にジャパン語で行われ、シャーリーンに対しては改めてゲルマン語と身振り手振りで伝え合うという、シャーリーンにとってはちょっともどかしくなる形で行われた。
 2日後、村へと到着した。早速、若者の住んでいた家へと向かう。
 元々その家は別の男性が長期滞在する際に簡易的に作った家らしいが、その男が旅立った後しばらく空家だったものを若者が村から只で借りた事になっていたらしい。若者は今もそこに居る。
 4人は若者の冥福を祈った。
 髪は血のこびりついた跡が残り、服は汚れ所々裂けていた。若者の顔は整えられ、今はただ静かに眠りについている。

 クレリックから事件当時の詳しい状況を聞く事が出来た。だが、その話の中には若者の身元につながる様な情報は含まれてはいなかった。
 シャーリーンは本当は、家の外に出てこの村に生えている植物を調べたいと思っていたが、クレリックの話すゲルマン語をしっかり聞き取り、3人に適切に伝える仕事に追われた。
 大鳥春妃(eb3021)は、家の中を見渡し、このあたりの土地にないものを探した。
 家の中は若者がつつましく生活していただろう事が想像できる状態だった。若者が生活に使っていた物は必要最小限程度の物しかない。無論それらの中に若者の身元を証明する物は無い事は既に確かめられていた。春妃は一応それらの遺品を手に取ってみたが、徒労に終わった。
 春妃は占いの道具を取り出し、家の中で準備を始めた。
 鳳玉麗(ea2284)は雷龍とシャーリーンと共に、村人達に若者の印象など心に残っている事の聞き込みを始めるべく、家の外に出た。
 シャーリーンは出かける前に、春妃に植物関係の手掛りが何処にあるかも占ってもらえる様、雷龍を通じて一応お願いしてみる。聞き込みの会話役が忙しくてなかなかそれどころではないだろうとは思ったが。
 春妃のタロット占いが始まった。
『逆位置の死神のカードと逆位置の塔のカードに挟まれて、彼自身を表す正位置の月のカードが曇らされている。そしてそれを支えるのが逆位置の審判のカード‥‥彼を彼足らしめる物は、変化の無い単調な繰り返しに在る‥‥』
 春妃は周りを見渡す。変化の無い単調な繰り返し‥‥
 しばらく宙を漂っていた春妃の視線は若者の遺体に注がれる。何かに気付いた様だ。

 シャーリーンの願った植物関係の手掛りは、占いからはあまり思わしい結果を得られなかったと、春妃の様子を見に行った雷龍から伝えられた。同時に、気になる事があるから切りの良い所で戻ってきて欲しいとの伝言が伝えられた。
「水の精霊よ、この幸薄き若者に慈愛を‥‥風の精霊よ、全てを見るものよ、この若者に近しいもの達の手掛りを頂けないでしょうか」
 シャーリーンは祈ってから、時間ある限り、この辺りの土地には無い草の欠片などないか目を光らせていたが、願った様な成果は得られなかった。
 パリの郊外に咲いている様な花もある。ただ、彼によって持ち込まれたのかは判断できなかった。

 やがて三人が家に戻ると、春妃は若者を見つめていた。
『人間にとって、変化の無い単調な繰り返し‥‥睡眠に使われるこのベッドに何か手がかりが有るかもしれません』
 ゴブリンの襲撃を解決した冒険者達にとってもベッドは盲点となっていた。既に事切れている若者をいつまでも床に放置する訳にもいかず、保存している間はずっとベッドに寝かせていたのだ。
 若者を移動させシーツの下を調べると、羊皮紙に書かれた手紙らしい物が出てきた。
 中身をシャーリーンが読み解くと、自分の息子が新しい土地で仕事が出来る様に協力して欲しいと、知人のつてを求めて書かれた物だった。
 若者が村に向かう際、親に持たされた物なのだろう。まだ持っていたという事は、何らかの理由で使えなかったに違いない。
『しゃべり方や服装から気付いた事がなかったか尋ねて周ったけれど、あまり成果なかった。これは知人の名前が書かれているし、誰が書いたのか記されていないけど、これをその人に見せれば有益な情報が得られるんじゃないかな』
 鳳 玉麗の提案に、皆が同意した。

 最もゲルマン語が話せるシャーリーンを先頭に、一行は知人の家を求めて周った。やがて知人の家に辿り着く。
 手紙に名前が記されていたその男性は、手紙を見つめると、手紙を睨みながら何かを思い出そうと唸っていた。
「これは、あいつからの手紙だよな‥‥うーむ‥‥これは誰の事を‥‥」
 4人が男性を食い入る様に見つめる。
「そうか。思い出したぞ。二十年か前、あいつに子供が出来たっていう話を聞いた事がある。この手紙が殺された若者のベッドに有ったと?」
「この手紙を書いた人を教えていただけないでしょうか?」
 教えてもらった名前は、意外な名前であった。

 4人はパリへと戻った。そしてその足で依頼主の家に向かう。
 導かれて4人は、依頼主とその妻と向かい合って椅子に座る。
「で、どうでした? 若者の名前とか分かりましたか?」
「はい。お亡くなりになった若者の名は‥‥」
 シャーリーンが若者の名を告げると、依頼主の妻は泣き崩れた。
「‥‥つまり、貴方の息子さんです」

 沈黙の後、依頼主が語る。
「息子は、農作物を扱う私たちの仕事を見て、農業を通して商売の道を見つめてみたいと言って1、2ヶ月前にこの家を出て行った。手紙を持たせてあの村に行くよう薦めたのは私だ。古くからの知り合いが居るのでな。その知り合いから何の返事も来ないという事は、息子の気の弱さが災いしているなとは思ったが、そのまま息子を信じて放任する事にした。
 だが、突然ゴブリンの襲撃で犠牲者が出たらしい事を聞かされて不安になった。私一人聞き周る内に確信した。それは私の息子だと。それと同時に覚悟を決めたが、割り切れないのは、このまま自分の息子が誰にも知られず盛られた小さな土の山に変わるのかという思いだった。確かに私の息子は何も成していない。誰の心の中にも住んでいない。依頼を通してなければ誰も心動かされぬ死だ。親としては、そんな孤独な死が不憫で仕方がなかったのだ。だれも居ない暗闇の中に息子を置いておけない。‥‥そんな私のわがままに付き合わせて済まなかった」
「私たちにも弔いを手伝わさせてください」
「いいのか? 済まない‥‥これから私たちは息子を引き取りに行く。出来るだけ早くもどってくるので、花を手向けてやってくれないか」
 シャーリーンが頷く。これから3人にも身振り手振りを含めた会話で伝える事になるが、異論は無いだろうと思った。

 しばらく後、若者が埋葬された場所に、6輪の花が添えられていた。