【練成】戦術I、L、J、D

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月03日〜04月08日

リプレイ公開日:2008年04月11日

●オープニング

 パリに住む人々に見捨てられた、辺隅の小さな空き地。良くない噂がこの地から人々を遠ざけた。一面に広がる伸びきった雑草に人の手は感じられない。
 月明かりもない真夜中。無人のはずのこの空き地に、湿った地面を踏み、雑草の葉を擦る複数の足音がする。一人が赤く淡い光に三度包まれると、三人の足音が広がっていく。

 空き地の中央に立った男が、男の前後に少し距離を置いて立ち位置を決めた二人の男に指示を出す。
「戦術I、始め!」
 仮にAと名づけよう、その男Aの発声をきっかけに、男Aの正面に立つ男、これをBとする、それと男Aの背後に立つ男、こちらはCとする、その二人が武器のロングロッドを構える。
「おりゃー!!」
 掛け声と共に、男Bが男Aに向かって駆け出し、接近するとロングロッドを右から振り下ろして男Aの胴に当てようとする。
 男Bの掛け声と同時に男Cも男Aに向かって駆け出し、男Bの攻撃とタイミングをわずかに遅くずらし、ロングロッドを右から振り下ろそうとする。それは、男Aの反応に対応する為であった。
 男Aは、武器受けを諦め、ロングロッドから遠ざかろうと斜め後方に移動して避けを試みる。
 男Cは、男Aが武器受けをしてくれれば、そのまま胴に攻撃を当てるつもりだった。男Aの移動開始を確認すると、若干下がり気味に立ち位置を修正しながら、ロングロッドを男Aのわき腹に当てる。ロングロッドに巻き付けた厚手の布が男Aのわき腹に食い込む。
「うむ」
 男Aは少し不満そうに頷いた。男Aのわき腹に当たったのは、男Cのロングロッドの手元近くだったからだ。これでは威力に劣る。
「むしろこの場合は、敵の背中に棒を当て付け、敵の動きを止め、正面担当が攻撃した方が良いな。そこで武器受けか回避なら今度は背後から攻撃だ」
 二人が頷く。

「戦術L、始め!」
 今度は、男Bが男Aの前方、男Cが男Aの向かって左横に立つ。戦術Iの正面・背後攻撃が、正面・側面攻撃に変わった形だ。
 男Bが男Aに向かって、ロングロッドを右から振り下ろす。男Aは左から来る武器を右に移動して避けたいが、右の男Cが武器を構えて圧力をかけている。男Cはロングロッドを左から振り下ろそうとしている為、後方にも移動出来ない。男Aは男Bの懐に入り込むがごとく、右斜め前方に移動して攻撃を回避しようとする。
 二人は同士討ちを嫌って、男Aにロングロッドを当てる事が出来なかった。
「うーむ。この逃げ道をどう塞ぐかだな。もっとも、この形は敵の背後を狙えるのだから、側面担当は引いて、正面担当が背後から追撃か?」

「側面担当が背後から追撃する形も試してみる。戦術J、始め!」
 攻撃開始位置とロングロッドを当てに行く方向は戦術Lと同じである。
 男Aは同じく右斜め前方に駆け出して攻撃を回避しようとする。今度は正面担当Bが後方に引き、側面担当Cが男Aの背後に回り込む。男Aが体を半回転させて相手の攻撃を認識しようとする隙に、男Cがロングロッドを当てに行く。
「どちらが避け移動した相手の背中を狙いに行くか、LとJで区別した方が良いな」
 相手の攻撃範囲から離脱する事を最優先にするならば、進行方向を向いて駆けるしかない。
「来る棒の方向を向いて後ろ向きに下がるのならば、そのまま当てに行っても間に合うだろうな」

 男Cが口を開く。
「どちらかが敵の注意を引けば、もう一方が敵の動きを見ながら攻撃出来るのではないか?」
 男Aは腕組みをして考える。
「今までは二人がほぼ同時に攻撃を仕掛け、どちらかが敵の動きに合わせていく形だったが、それを最初から役割を決めた形にするという事か‥‥」
 しばらくして男Aが頷いた。
「よし。戦術Dを試行する」

 男Aの正面やや離れて男Bと男Cが並んで立つ。
「てゃぁー!!」
 ロングロッドを正面に構え、掛け声と共に、男Bが男Aに向かって駆け出す。それを合図に男Cが男Aの向かって左の脇、視野の外を狙って回り込む。男Bが男Aの正面にロングロッドを当てに行く瞬間には、男Cもロングロッドを構え始める。
 男Aは向かって右の方向に横移動し避けを試みる。男Bはロングロッドをそのまま振り下ろす。それを見た男Cは、男Aとの間合いを調節しながら、右上から男Aの背中を狙って振り下ろす。
 背中の感触を確認した男Aは頷いた。
「武器のかち合い回避と間合いの調節に留意する必要が有るな。それと、敵が横から来る人間を狙うのならば、二人の役割を入れ替える、というところか」

 この者達は、高い戦闘技術を持つ冒険者を潰す戦い方を試行している。将来、冒険者を抹殺する為だ。
 三人は、元冒険者だった。しかし、素行に問題があったのか冒険者を続けられなくなり、その後、生きる糧を得る為に悪事に手を染めた。それでも繰り返す空腹に苦しむ彼らの前に食べ物をちらつかす、自分の手を汚したくない者達から、盗みや殺人などの作業を請けた。当然、被害者を通じて、その依頼を受ける冒険者と対立する様になる。彼らは、戦闘能力を持つ冒険者達と決着をつけなければならない。自分の命を守る為に。
(「あいつらを消さなければ、俺達は、いずれは捕まってどこかに引き渡されて殺される。俺達の目の前に立とうとする人間がいなくならない内は、こんな暗闇の中で息を潜めて生きていかなければいけないんだ‥‥」)

 同志の集う会議で、今回の試行行動の作戦内容が決まった。
 最初に、家族のある市民を無作為に誘拐する。適当な金額を要求し、適度な広さを持つ空き地を指定し、木の柱を立て、人質を縛り付ける。そこへ冒険者達に金を持ってこさせる。
 その場所で、戦術I、L、J、Dを試行する。
 いかなる時でも、負傷するか負傷する可能性が有れば撤退する。撤退する際には、人質を解放する。金は受け取らなくてよい。
 この戦闘は、2対1で確実に相手を潰す戦法の構築に結び付く結果を得る事を重視する。相手を負傷させる必要はない。

 そして、数日後。
 一人の男が、青ざめた顔で、要求文の書かれた布を握り締め、ギルドに駆け込んできた。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec0298 ユリア・サフィーナ(30歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●準備
 金の受け渡しの指定日。冒険者達は、依頼人に会いに行った。
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、依頼人から誘拐された人の顔だちを詳細に聞き出している。それを頭の中のイメージを通してファンタズムの幻影に落とし込むのだ。幻影の人間は、レティシアが依頼人から聞き出した言葉を元に、見た事の有る顔のパーツで組み立てて作り出した人物像なので、依頼人の記憶とは微妙に異なる。どこがどう違うか聞きながら、何度か作り直していった。
 修正が終わったところで、皆が幻影を見て人質の顔を記憶する。

 その後、冒険者達は依頼人に、事件の詳細を尋ねる。
 エイジ・シドリ(eb1875)は、犯人からの要求状を見せてほしいと依頼人に頼んだ。依頼人がテーブルに広げた要求状を皆で囲む。ユリア・サフィーナ(ec0298)はそれを読み、この誘拐事件の不自然な点を指摘した。
「要求文には『冒険者達に金を持って来させろ』とありますね。普通、指定するのは、誘拐された人の身内か、その人の住んでいる地域の代表といった感じの人ではないでしょうか? 冒険者をいきなり指名しているのは、不自然なところではありますよね」
 レティシアが加える。
「要求文に官憲・冒険者に通報するな、とも書いてないわね。何故冒険者を介入させたいのかしら?」
「犯人の真の目的は何でしょう?」
 ユリアの疑問に、陰守森写歩朗(eb7208)が提案する。
「共犯が考えられるな。今後の為にも、一人以上は捕らえて、目的等色々聞き出そう」
 レティシアも頷く。

 金の受け渡しに指定された場所をよく知っている人は居なかった。確かに、そう言われてみればパリの郊外にそんな場所があった様な気がする。しかし、そこは草木以外何も無い荒れた空き地だったはずだ。ちらりと目にした事は有るかもしれないと、皆思った。

 エイジは、外に出て、バックパックからスリングの弾用である石を3個取り出した。それらを地面の岩の上に置くと、地面に転がっていた硬そうな石で砕き始める。砕き終わると、石の細かな欠片を拾い集め、布の小袋に入れて小袋の紐でズボンの右側に括り付けた。

●接近
 準備が整った所で、一行は目的地に向かった。指定された場所が見えてくると、人影が何人か見える。
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)は近くまで来ると、デティクトライフフォースを唱えた。隠れている誘拐犯を探る為だ。魔法の届く範囲内には目視できる人間以外はいない様だ。もっとも、まだ誘拐犯から多少離れているので、誘拐犯の背後に誰かが距離を取って潜んでいても感知できないだろうが。魔法を使える者であれば、有効範囲は分かっている。範囲を外して潜むだろう。
 木に縛り付けられている人質の周りに、男が3人居る。魔法が使えそうな感じの男は居なかった。全員ロングロッドを持っていた。

 レティシアとエイジは依頼人の傍について依頼人を護衛する。
 パールのペットは近くの木に止まって待機している。
 森写歩朗のペットである二頭の忍犬も、少し離れた所で待機している。森写歩朗自身は、気配を殺して、近くの物陰に隠れた。
 そして冒険者達は、誘拐犯らと向き合う。

●標的
「金は持ってきたか?」
 誘拐犯の一人は、そう言うと、冒険者の一行を一通り見渡した。弱弱しい雰囲気を匂わせている男性が目に飛び込んでくる。本当はどうだか判らないが、ウィザードらしくしている様に見える。
「ぜぇぜぇ‥‥歩くのは苦手です〜。疲れました〜」
 演技で息を切らしていたリスター・ストーム(ea6536)は、杖に身体を預けながら体を休める姿勢を取りつつ、敵の数や動きを、目で観察していく。
(「相手が実力を読み違えてくれれば、隙も出来る。見くびってくれれば、嬉しいぜ。誘拐犯さんよ」)
 リスターと誘拐犯の一人である男の目が合う。男はリスターを品定めしていた。
(「本当にウィザードならば、これから戦いが始まろうとする時に、敵の目を引き武器攻撃を誘う雰囲気は出さない。ゆえにあの男はウィザードではない。ファイターであれば、軽装になるリスクは避けたい。切り合い時に敵が力を込めて振り下ろした刃物が与える体の痛みを少しでも解っているのならば、当然にな。いや、受けや避けてからの反撃で戦おうとする事もあるだろうが、集団での乱戦時に背後からくる攻撃などの、不可避の深刻なダメージを受ける相当の覚悟は必要だ。十中八九、奴はその二つ以外だ。ならば、切り合いの技術の低い奴を標的にするか? だが、罠を張って待ち構えているのならば‥‥」)
(「来いよ‥‥」)
 リスターと男が睨み合う。

●試行
「よし! 銀、男にI、始め!」
 誘拐犯はエイジを選択した。男2人がエイジに左右から襲い掛かり、叫んだ1人が人質の傍に残る。
 パールは、上空に離脱した。
 エイジは片方の男の方を向く。男はロングロッドを右斜め上に構え、駆け寄っている。エイジは素早くサイドステップを踏み、ロングロッドを構えている方向に動く。ロングロッドはエイジの背中の上を空振りする。
 エイジの背中から迫っていた男は戸惑った。エイジが後退してこちらに来ると思っていたのだ。仲間を間に挟んでは、その場の追撃も難しい。二人とも武器の振りを止め、エイジから離れた。
 エイジはナイフを投げて反撃する。
 レティシアは、人質の傍に居る男にファンタズムで作った眩しい陽の光が差す晴れた空の光景をぶつけたいと思ったが、それには男に接近する必要が有った。これから男の3m以内に駆け寄るのは、充分危険な行為だ。その間ずっと男が他の人に注意を向けていてくれれば良いのだが‥‥ レティシアは、断念した。
 ユリアもホーリーフィールドをエイジの支援の為に唱えたがったが、同様に彼らの3m以内に駆け寄るのを危険な行為と判断して断念した。
 レティシアの判断と同時に、レティシアとテレパシーでつながっている森写歩朗が、微塵隠れで自分の周囲に軽い爆発を起こす。3mより遠く離れているので、誘拐犯にも人質にもダメージは無い。人質の傍に居る男は爆発音に驚き、音のした方を見る。その男の背後に森写歩朗は現れた。人質の傍に居る男は驚きの声を上げて飛び退く。
 森写歩朗は、その隙に人質のロープを切り、救出する。
 次の指示を待っている誘拐犯の二人は、距離を取ってエイジと対峙する。撤退の隙をうかがっていた。リスターが素早く杖を誘拐犯の急所に当てる。誘拐犯は気力で耐え、後退していく。気絶しかかった時は、もう一人が腕を引っ張って倒し、地面に打ち付けて正気に戻した。
 そこへエイジの石の欠片が降り注ぐ。視界を奪われた二人は防戦一方となった。

 パールは誘拐犯の隙を見つけては、近付いてビカムワースの魔法を試みていた。
 しかし、思った様な結果は得られなかった。問題は、効果範囲の狭さと成功確率の低さにあった。3m先までしか届かない。ロングロッドの攻撃範囲を考えると、詠唱中の安全を確保する為には相手とぎりぎりの距離を保つ必要が有った。高速詠唱を使えば詠唱中の危険を回避出来るが、成功確率が更に低くなる。相手が抵抗に成功するのも半々というところでは、高速詠唱無しで2回、有りで3回の魔法の使用で1回ダメージを与えられる程度である。大抵はダメージを与える前に反撃されるか逃げられてしまう。
 それでも1回、人質の傍に居た男にダメージを与える事が出来た。

●始末
 続いて、ユリアのコアギュレイトがダメージを負って弱った男の自由を奪う。
 森写歩朗は、男に駆け寄り、即座にロープで縛る。男の懐に逃走用の刃物などを隠し持ってないか確認する。
 縛られた男の様子を見ていた仲間の一人が、リスターとエイジを引き付けて逃げる。もう一人が地面に落ちていたナイフを拾うと男に駆け寄り、勢い良く男の背中に突き立てた。すぐに全力で逃げる男を森写歩朗が追う。
 うめき苦しみながらも体勢を保とうとする男の顔面のすぐ目の前に、小さな炎が突然出現する。近くの木の陰に潜んでいた火の精霊魔法使いがクリエイトファイヤーを唱えたのだ。
 炎は、目鼻以外を覆って隠していた布に引火する。多分、布にあらかじめ油でも染み込ませていたのだろう。ユリアが毛布で消火しようと準備している内に、火は勢いを増していく。男は上半身を折り曲げる様にして倒れた。
 リスターは、すばやく木の陰の物陰に迫って行く。リスターの勘が当たる。そこに居たのは、ジャパン出身ぽい30代の女性だった。
「おっ! イイ女♪」
 喜びながら近付くリスター。女はニヤリと微笑むと、右手に持ったナイフでリスターを指差した。
「狼になりすぎると、いつか火傷するわよ?」
「おわっ!?」
 リスターの目の前に小さな炎が上がった。炎が消え、落ち着いたリスターが女の居た場所を見ると、女の姿はすでに消えていた。
 リスターの様子を見ていたレティシアは炎が上がった時ムーンアローを構えたが、対象を選ぶ時間が無く、女に矢を当てる事が出来なかった。

 男は絶命した。残りの2人は逃げていった。
 こういう事態も想定済みだったのだろう。敵の手に落ちた時、殺してもらう事と顔を焼いて身元を判らなくしてしまう事をあらかじめ決めておいたのだ。絶命した男も元は冒険者である。顔さえみれば彼が誰であるか思い出せる人はギルド員や冒険者の中に居るだろう。そこから同志の身に迷惑が及ぶ事を嫌ったからであった。