メロディー劇場 プレオープン!

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月24日〜06月29日

リプレイ公開日:2008年07月03日

●オープニング

 先月、一人の少女が風に乗ってパリに来た。最低限必要な荷物を詰めた小さなバックパックを背負い、自分で作った歌を歌いながら。
 彼女の名はシャンテ・サンパティー。パリ出身の若き吟遊詩人である。愛用の竪琴一本で、世界各地を歩いて旅をしている。
 手持ちのお金が無くなってパリに帰ってくると、しばらくの間、パリに留まる。留まっている間、手頃な大きさの空き家か小屋を借り、お芝居を見せてお金を稼ぐのだ。

 彼女が芝居をするのではない。彼女が依頼した人達が芝居をする。
 そこまでなら、まだありふれた話かもしれない。しかし、この芝居は、一風変わっている。
 彼女は、芝居の内容に合わせて歌を歌う。呪歌だ。
 芝居の幕が上がる前に、この芝居について彼女の説明が入る。まだ知らない初見の方々に対して了解してもらう為である。
 後になってみれば、感情を操られた感じを受ける。それを良しと思わなければ楽しめないだろう。

 彼女が芝居の最中に使うのは、精霊魔法メロディーだ。
 深窓の娘のかなわぬ恋で涙を流し、死んだ親友との別れを乗り越えて前に進む姿に励まされ、討ち取った宿敵が恋人の兄であった男の落胆に共感し、修行しに旅立つ息子の姿を見詰める父親に必ず大きくなって帰って来ると励まし、恋心を伝えられない若者にやきもきし、主人公の姿に誠意が人との関わりにおいて重要なのだと気付かされたりする。
 さめた目で芝居を見ようとしても、呪歌が精神を揺さぶる。常連客は慣れたもので、その感情のたかぶりを芝居を楽しむ道具にする。故に、他の小屋の芝居と比べて、客が騒がしい。泣くし、声援を送るし、忠言する。メロディーの力が、芝居内容との一体感を生み出すのだ。
 彼女と演じる者にとって一番難しいのは、思わず舞台に上がって芝居内容に干渉しようとする客にアドリブで対応する事だったりする。

 近日、久し振りの幕が上がる。本格興行の前に、まずは試し興行を行う予定になっている。
 今回初めて、冒険者ギルドに演者募集の依頼を出した。
 旅行するのが楽しくて依頼を受けるのをさぼり続けているだけなのだが、元は冒険者であった彼女がふと思いついた趣向だった。普段臨機応変に対応している冒険者達にこの芝居を頼んだ方が面白くなりそうと思ったのだ。
 芝居内容は自由。客が内容を理解出来て楽しめるものであれば何でも有りである。

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●開演前
 開演数十分前、冒険者達は芝居の準備に専念していた。
 ミシェル・サラン(ec2332)は、デビルの角を演出する為、うさ耳バンドの上から黒い袋状の布を被せている。
 ジュエル・ランド(ec2472)は、そのミシェルの顔にデビルぽく見えるような工夫をしたり、他の出演者の顔に化粧したりと忙しくしていた。
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)はシャンテに、作ってきた歌詞を見せていた。
「よろしければ」
 シャンテが歌詞を読み始めると同時に、クァイは竪琴を奏で歌い出す。
「今、力与えよ〜。さあ舞い降りたまえ〜。光る力目覚めるがいい〜」
 歌詞を読みながら、それを聞いていたシャンテが微笑む。
「使う場面が有ると良いですね」
 反応は微妙であった。

●開演
「では。芝居『星振る夜をQに捧ぐ』を開演致します!」
 予定開演時間に、シャンテが告げた。
 ジュエルが観客の頭上、やや舞台よりに、ファンタズムの魔法で流星が流れる夜空を表現した幻影を作る。
 シャンテが竪琴を奏でながら、語り始めた。
「時は、神聖暦1002年7の月。流星雨がパリの空を染め、人々がノストラダムスの預言に不安を覚えていた頃。パリに一人の冒険者が居りました」
 舞台の袖からエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)が、ネイルアーマーに身を包み、頭に青いリボンを着けた姿で現れる。
「ほっ。ほっ。しゅっ。しゅ、しゅっ、っと。うん。今日もパンチに切れがあるなぁ」
 エラテリスは軽く走りながら、ナックルを着けた拳でパンチを撃つ練習をしている。
「ボクの拳なら、デビルなんて木っ端微塵だね。ふふん♪」
 そこへミシェルがデビルの姿で現れる。
「あら、こんな所に人間が。おほほほ。わたくしを捕まえられるかしら?」
「現れたな、デビルめ! お前なんてボク一人で充分だ!」
「デビルに戦いを挑む冒険者。しかし、華麗に舞うデビルに拳を当てる事が出来ません。そして、とうとうダメージを負って倒れてしまいました。冒険者は大ピンチです」
「きゅ〜‥‥」
 バタンと倒れたエラテリスを横目に、ミシェルは笑って喜ぶ。
「待て! 私が相手だ!」
 エラテリスとは反対側になる舞台の袖からクァイが現れる
「冒険者のピンチに現れしは、若き女性剣士クァイ。あっという間にデビルを倒します」
 シャンテは詠唱の準備を始めた。
 クァイがエラテリスに向かって攻撃する仕草をすると、ミシェルはよろめいて、パタリと倒れる。
「やられましたわ‥‥」
 シャンテが歌う。
「女性剣士クァイの助力によって〜、パリの平和は守られました〜。助けてくれた女性剣士を見詰めます〜。彼女の強さ〜その姿の凛々しさに〜、頬は赤く〜染まるのです〜」
 エラテリスは両手を合わせてクァイを見詰めている。
「ああ、お姉さま‥‥素敵♪」
 観客の中の、若い女性数人が頬を赤らめている。クァイの名を呼ぶ黄色い声が上がる。
 興奮した若い女性が、舞台に上がってアプローチし始めた。
「私はそういうのは‥‥あなたとはお付き合い出来ません〜」
 クァイは、デビルを脇に抱え、小走りに退場する。若い女性は観客席に戻される。
「あ、あの‥‥お姉さまの連絡先を教えて‥‥」
 エラテリスが請うが、既にクァイの姿は無い。
「偶然に出会った素敵なお姉様。しかし連絡先が分かりません。冒険者は今後会うすべを失ってしまったのでした」

●第二幕〜エチゴヤにて
 背景がエチゴヤ店内の情景に切り替わる。
「ある日の夜。女性剣士クァイはエチゴヤを訪れました。次の依頼の準備をする為です」
「きゃーっ! お姉さま見っけ〜。今日こそは私の想いを受け取って〜」
 純白のドレスに身を包んだクリス・ラインハルト(ea2004)がクァイに突進する。
「く〜ん! お姉さま、今日も良い匂い!」
 クリスは子犬の様にクァイにまとわり付く。
 そこへ、更にミシェルが登場。
「お姉さま〜、今日も素敵ですわ〜」
 クァイの周りを飛び回りながら、熱っぽく賛美する。
 がっくり肩を落としながら、クァイは誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟く。
「ああ、何故にわたしは女の子だけに慕われるの? わたしだって、彼氏が欲しいのよ〜!」

「そうしている内に、偶然、冒険者もエチゴヤにやって来ました」
「想い人を捜索できる魔法のアイテムなんてないかな〜」
「冒険者は、向こうの騒がしい集団が気になりました。そちらを見てみると、クァイの姿が目に入ります」
「わ! お姉さまだよ〜! 周りは‥‥取り巻きさんかな?」
「冒険者は、最初、遠くから女性剣士を見詰めていましたが‥‥」
「遠目から見てるだけ‥‥なんて我慢できないよ!」
 エラテリスは、どんどんクァイに近付いていく。
 ミシェルはクァイの周りを飛び回りながら力説している。
「お姉さまの手にかかれば、ドラゴンだってちっちゃなトカゲよ! 尻尾をぎゅっと掴んでぶんぶん振り回して、どっかんどっかん地面に叩きつけるの!」
 ミシェルは、何かを掴んで振り回すようなしぐさをする。
「お姉さまの強さはまるで、恐怖の大王! ‥‥あら、もしかしたら預言の大王ってお姉さまのことだったのかしら?」
「違〜う!!」
 エラテリスが体当たりでミシェルにツッコミを入れる。
 大ダメージを受けたミシェルは、床でピクピクと、弱り具合を演技で表現する。
「だ、大丈夫?」
 クァイが少しかがんでミシェルの様子を心配する。
「キー! お姉さまが他の女を見てる〜」
 それを見たクリスがハンカチーフを噛んで悔しがる。
 そんな中、ミシェルが突然跳ね起きて復活。エラテリスに宣戦布告する。
「ふん! 力は大した事ないわね。あなたみたいなひよっ子にお姉さまは相応しくないわ! わたくしに勝ってみなさいよ!」
 でもまた負けて、床でピクピクするミシェル。
「ああ〜ん、くやしい〜。いつだって、わたくし、お姉さまの事を慕っているのに〜」
 クリスも負けずに主張する。
「私だって〜! 負けてないわ〜!」
 息を吐き、疲れた様に肩を落とし前かがみになるクァイ。意を決した様に、はっきりした声で宣言する。
「わたしは、皆のことは仲間として、友達として大好き。でもね‥‥乙女として、彼氏の腕の中に身を委ねたい、そういう思いもあるの!」
 シャンテがメロディーを込めて歌う。
「女性剣士クァイは〜内に秘めた思いを口にします〜。慕ってくれる〜人達も大事〜。でも乙女には〜男の人に恋する心〜恋心への憧れを持っている〜。いつか〜愛する人の〜腕の中で幸せを〜感じたい〜」
 観客の女性達から拍手が起こる。
 クリスとミシェルはがっくりと肩を落として退場する。
「冒険者は気付きました〜。相手を想い尊敬することは〜尊い〜。でも相手の思いを配慮する気持ちが大事〜。自分の気持ちを無理やり押し付けずに〜相手の気持ちを〜尊重しよう〜」
 微かに、観客の鼻をすすり泣く音が聞こえる。

●ラスト
「大切な事が解ったよ。さよなら、お姉さま」
 エラテリスがうつむいて立ち尽くす。心の奥にこの場から立ち去りがたい気持ちが有るのだろう。
「がんばれ〜」
 観客の声援が飛ぶ。
 エラテリスは顔を上げ、観客の方を向いて微笑み、無言で頷く。
 そこへエチゴヤの店員としてクリスが登場。
「お客様。想い人を捜索できる魔法のアイテムをお持ちしました」
 クリスが持ってきた器の中には、お湯が入っていて、ジュエルが気持ちよく浸かっていた。
「いい気持ち〜♪」
 ジュエルは温泉気分を満喫している様だ。
「若いぴっちぴちのシフールの女性のエキスがお湯にたっぷり溶けています。男性を引き寄せる事、効果てきめんでございます」
「か、買おうかな‥‥」
 微妙な苦笑いを浮かべながら答えるエラテリスであった。
 観客から拍手と笑い声が起こる。

 初芝居としては、まずまずの客の反応だった様にシャンテは感じた。今後の芝居を磨いてより質を向上させていこうと思ったのであった。