依頼が成立した故に起きた災難

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2008年07月24日

●オープニング

 今から1年と2ヶ月前。パリから徒歩で1日半程かかる村に、ある事件が起きた。
 農産物の生産と取引で財を成した老人が雇っていた二人の男、アシャとコメルスが、財産を掠める目的で、モンスター襲撃を装い、老人を亡き者にしようとした。
 二人は、冒険者ギルドを利用した。参加意欲がわかなくなるような内容で依頼を提出する事で、依頼不成立を狙い、ダメージを負った老人にやがて訪れる死をギルドのせいにしようとしたのだ。
 しかし、狙いとは逆に、依頼は成立し、冒険者の活躍によってアシャとコメルスの企みは失敗に終わった。二人は捕まり、処分を受けた。老人が生存していた事、財産を元に戻した事などが評価されて、二人は殺される事は無かったが、それ相当の処分を受け、最後に村から永久追放された。
 そして今‥‥

 月明かりの下。木々の陰から遠く離れた村の様子をうかがう二人の男の姿が有った。アシャとコメルスだ。
「殺す‥‥」
 処分を受けていた日々が忘れられないのだろう。血走った目。荒い息。
「あいつと冒険者らのせいで‥‥」
「今度こそ、俺達の勝利だ。あいつを殺し、冒険者に恥をかかせる。あいつの財産は俺達の物だ」
「ああ。依頼不成立は失敗したが、『依頼失敗』で今度こそ、あいつの財産と共に雲隠れだ。依頼が失敗し、その結果依頼人が死亡する。依頼提出を引き継ぐ者がいなければ、その事件は立ち消えになり、俺達を疑う者は居なくなる。そうさ、今度こそ‥‥」
 憎しみに満ちた二人の目は、村から一時も離れる様子が無かった。

 2日後。村長に一通の手紙が届いた。
 村の老人の資産が気に入ったので、指定した日から3日以内に、その老人の資産を頂戴しに伺う。冒険者を呼んで妨害すれば、老人の命もついでにいただく事になるだろう。余計な事はしないように。
 手紙にはそう書いてあった。

 村長は熟考後、ギルドに依頼を出す事にした。冒険者達に村を守ってもらうのが一番安全だと判断したのである。

●今回の参加者

 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea3338 アストレア・ユラン(28歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

頴娃 文乃(eb6553

●リプレイ本文

●依頼1日目
 依頼を受けた冒険者達が、ギルドに集まった。
「あの依頼からもう1年たつのか、はやいね〜」
 ウィル・エイブル(ea3277)は、軽く腕組みをしながら、上体を反らし気味に唸った。
「あたいは依頼受けるんが1年ぶりで、緊張するわ。頑張って成功させよな〜」
 アストレア・ユラン(ea3338)は、落ち着かない様子で他の冒険者の周りをパタパタ周っている。
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)の傍に来た時に、ふと気付いて話しかけた。
「リンカはんも、この依頼受けた事あるの?」
 リンカは、依頼書に目を通しながら、眉をひそめている。
「あれはあたいも、駆け出しの頃に受けた依頼だ。村の名前を目にしたら、ふと懐かしくなって、依頼書に目を通してみた。そうしたら、思い出した。あの依頼で、老人の財産を狙った二人組をこの村で捕まえたんだ」
 リンカは、少し沈黙する。
「まさかとは思うが‥‥老人が狙われている事、村に届いた手紙の内容が稚拙な事から、気になるのだ‥‥」
「過去の依頼が関係してるって事?」
「判らないが、もしあの依頼の時の判断と処理に甘さがあったとしたら‥‥村にこれ以上迷惑をかけない為にも、禍根を残さない行動をしなければならない。そう思ってこの依頼に参加したんだ」
 リンカは念の為にと、過去の依頼の内容を皆に伝えた。
 本多文那(ec2195)は、過去の依頼の二人と今回の依頼の関係が気になっているようだ。
「やっぱりあの二人ってことでいいのかな? 処分は村に託されたみたいだから、更正を願ったりとかで穏便に済まそうとしたのが裏目に出た感じなのかな?」
 誰もまだこの段階で確信は持てなかった。
 リンカはギルドに二人の処分について聞いてみたが、知らないとの事だった。気になるリンカは、皆で相談して、セブンリーグブーツを履いて村に先乗りして、二人の処分について聞き込みをする事にした。

 リンカの出発後、他の冒険者達はそれぞれ準備を始める。
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は部屋の隅を仕切って、服装を変える。村の娘っぽい格好で冒険者らしさを消す為だ。
 最後に青いスカーフを巻いて、耳を隠す。
 ウィルは、パリの裏地図を見ながら、毒草をどこで調達しようかと思案している。
 手紙で指定された日は明日なので、ペットの馬、ウェントスに乗って後から駆けつける時間を差し引いて、調達にかける時間を決めなくてはならない。その間に、どこまで行けるか‥‥

●依頼2日目
「こんにちは〜」
 夕方になって、ウィルが村に到着した。毒草は結局入手できなかった。
 息の荒くなった愛馬から降りて、目の前の村人に挨拶する。
「はい。こんにちは」
「僕も依頼を受けた冒険者なんだけど、お爺さん居る?」
「ああ、あの時の。そうだな、あの人は今日から村長の家で保護されるそうじゃ」
 ウェントスを木につなぎ、ウィルは村長の家に向かった。

 村長の家には依頼参加者が全員集まっていた。
 老人はウィルの顔を見ると、顔をほころばせて懐かしがる表情を浮かべた。
「ひさしぶりじゃの」
「お元気でしたか」
「あいつら二人の顔を見なくなってから健康そのものじゃ」
 周りは苦笑いする。

 先乗りしたリンカから情報提供を受けた冒険者達はそれぞれの行動を開始する。
 アストレアは二人組の事を聞きながら顔を覚えておこうと、村人一人一人に聞いて周っている。顔を覚えておけば、不審人物が判り易くなると思ったからだ。
 村の中で迷子になりながら何とか聞き込みを終えると、アストレアは村長の家に戻った。これからは老人の警護が主な仕事になる。
「お爺さん、ふつつか者やけど、しばらく宜しゅう頼みますわ」
「いや、気持ちはありがたいが、さすがにシフールは嫁には頂けんじゃろ」
 お爺さんの冗談に、へなへなと落下するリアクションで返す。

 ウィルは、村人から使い古しのロープや木片をもらうと、老人の家の周辺に、足を引っ掛けると木片がぶつかり合って鳴る仕掛けを設置した。
 冒険者や村人は、実際に罠を避けながら歩いて位置を確認する。
 アーシャは柴犬のセリムを村の木につなぎ、大切な依頼だから無駄吠えしないようにと諭していた。もっともセリムにしてみれば、飼い主以外全てが『初めて見る人』だったから何に対して吠えたら良いのか判らなかっただろう。セリムは落ち着き無く周囲の匂いをくんくん嗅いでいた。

 その日の夕方。
 冒険者達は村長の家で夕食を頂いていた。
 アーシャは、その席で『夜回り隊』を提案した。
 それについては、村の中でも気になっていたという雰囲気であった。腰が上がらない最大の理由は、村人は若い男でも冒険者ほど強くないので、大変な目に遭うのではないかという点だった。
「グループを組んで行動すれば良いでしょう。今後はともかくとして、今は我々がついています。こう見えても修羅場をくぐってきた猛者ばかりなのですよ。だから安心してください」
 そういうアーシャの姿が村娘的に見えるのは説得力にどんな影響を与えたのか判らなかったが、それはともかく、賛同する若い男数人が夜回り隊に参加する事に決まった。

●依頼3日目
 ウィルは家の屋根に登り、村の周辺を警戒する。その後、村の近くの林に入って見張りをする。日が傾く頃には村長の家に戻り、お爺さんの警備をした。
 アストレアは村長の家に忍び寄る者への警戒を怠らずに、放火などの騒ぎを起こされないように細々と対策していた。

 その日の夜、冒険者はアーシャ、リンカと文那、それに村人が3人参加して、村を見回る。
 時折、皆は立ち止まり、文那のバイブレーションセンサーで不審者を探した。

 見回り隊はリンカの提案で、村外れまで来ていた。アーシャは、独り、夜の闇を怖がる村娘を演じている。他の人達が少し離れてアーシャを取り囲む。セリムは連れて来なかった。少し離れてしまうとその姿はランタンの光の届かない闇に溶け込んでしまうからだった。

 アーシャの背後に、男の影が2つ、突然現れた!
 アーシャはか弱げな悲鳴を上げる。
 文那が即座に見回り隊の村人を安全な方に誘導する。
 二人の男が、それぞれの腕をアーシャの体に巻き付けようとしていた。
 しかし、金属がぶつかる音がして、一人は突然倒れこむ。短刀で男のダガーを払ってくるりと背後に回り込んだアーシャに腕を捻られて組み伏せられたのだ。男の握っていたダガーが地面を転がる。
 アーシャの持つ短刀が男の喉元に当てられた。
「いい加減に諦めたらどうですか? こんな事をすると、次は死刑になりますよ?」
 リンカの引かれた弓から覗く矢の鋭い先端がもう一人の男の喉元にそえられる。
「何とも愚かしい奴らだ。村人がせっかくくれた更生の機会を不意にするどころか、逆恨みで村を襲うとはな‥‥更生の見込みが無いのなら、いっその事、禍根を残さないように、ここで始末した方が良いのだろうな‥‥」
 殺気に満ちる女性の顔を見て、男は凍りついた。目の前に、一年前の敗北の光景が広がったのだ。
 アシャは、この女性に見覚えがあった。一年前、追い詰められて最後の抵抗を試みて組み伏せられた時に居た冒険者の一人である。
 しかし、アシャはここから復讐心を燃え上がらせる事が出来なかった。襲撃で人質を取り交渉を優位に進めようとした作戦は失敗したからである。既に状況はこちらに分が悪く、コメルスは文那によって縛られ始めている。
 アシャはガタガタと体を震わせ、膝を追って崩れ落ちた。

●依頼4日目以降
 縛られた二人が村人の前にさらされる。老人はもう顔も見たくないと言って、そのまま自分の家に帰っていった。
 二人は、冒険者に連れられてパリへ移動する。ギルドに結果報告すると共に、官憲に二人を引渡し、処分してもらう為だ。反省の色無しという事で、今度は更に重い処罰が待っていることであろう。