身の程知らず君、闘う!

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月11日〜09月16日

リプレイ公開日:2008年09月17日

●オープニング

 何時の世にも、可哀相な男の子が居る。
 パリにも、エッド君という16歳の男の子が居た。不幸な事に、この男の子は、同じ年頃の女の子にもてた。もてたと言っても、恋愛感情とはちょっと違う意味で。
 顔立ち、立ち振る舞いが、その手の女の子達のツボにはまったのだろう。彼は少女達に担ぎ上げられ、武術の稽古場に放り込まれたり、闘技場に参加させられていたりしていたらしい。
 彼女らに言わせれば、自分の置かれた状況に困った顔をしたり、苦労しながらも何とかそれなりの結果を残した後の疲れきった顔がたまらないとの事である。エッド君としても、そういう事を受けている限り、彼女ら数人が取り囲みちやほやしてくれる、これはエッド君の主観であり実際はいじられているだけにすぎないにしても、それは嬉しかった。少女達は皆可愛らしかったし、いつも笑顔で親身になって接してくれていたのである。彼女らのわがままに表面上困りながらも内心は喜んで受けていた。男性であれば彼の心理は納得してもらえるだろう。彼女らがエッド君を玩具にしか思っていない事にさえ目をつぶれば。

 エッド君は中堅の冒険者と互角に闘える程になっていた。もちろん冒険者となってから一度もモンスターを退治した事はない。というか、一度も依頼を受けた事が無い。
 少女達に囲まれてちやほやされたり、苦労しながら戦闘技術を磨くのみである。
 そんな日々の中、エッド君は多少、マンネリ感を感じていた。日々に満足していたが、新鮮味が無い。そんな事をエッド君がポツリと呟くと‥‥

「じゃあ、道場破りしない?」
 女の子の一人が突拍子の無い提案を始めた。
「道場? どこの?」
「もちろん、冒険者ギルドよ。看板をいただいて、冒険者の頂点に立つのよ!」
 エッド君、絶句する。
「じゃ、受付行って依頼出してくるね」
「ちょ、ちょ‥‥」
 エッド君は必死になって彼女を止めようとする。
 女の子はくるりと振り向くと、彼に顔を近づけて問いただす。
「わたしの勇者様は、敵に背を向けないわよね? もしそうだったら、わたし‥‥」
 女の子は涙ぐむかの様な表情をする。エッド君はたまらず答える。
「な、泣かないで。もちろん受けるから」
 途端に女の子は満面の笑みを浮かべて、彼に抱きつく。
「勇者様〜 嬉しい〜!!」
 エッド君にほんの少しの冷静さがあれば、周りを囲んでいる女の子達が誰一人嫉妬して『いない』事に気付き、暴挙を前に踏みとどまる勇気を持てたかもしれない。しかし、抱きつかれた少女に頬をスリスリされたエッド君は、頬を赤らめて脱力し、彼女らの玩具となる道から抜け出せなくなってしまったのであった。

 そんな感じで、冒険者ギルドに一枚の依頼書が張り出された。
 エッド君がこの依頼を受けた冒険者達と戦い、彼が勝ったあかつきには、ギルドを彼の物にする。
 そんな、たわけた内容の依頼書である。
 最後にギルドの受付の注釈が付け足されていた。
『遠慮いらない。ボコにしてやって』

●今回の参加者

 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ec0134 ルイス・フルトン(35歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec5199 重井 智親(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カルロス・ポルザンパルク(ea2049)/ ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ マラキム・ニカマ(eb7696

●リプレイ本文

 依頼日初日。エッド君と冒険者達は、エッド君の自宅前の小さな空き地に集まった。
 エッド君は、冒険者達を見渡すと、武闘大会で見かけた事の有るルイス・フルトン(ec0134)に近付く。武闘大会経験者の彼ならば無難に依頼を処理してくれると思ったのだ。
「ル、ルイスさんですね。あの‥‥決闘させてください」
「きゃあ〜! エッド君、かっこいい!」
 取り巻きの女の子達がエッド君の腕に絡みつき、頬をすりすりする。
 ルイスはこめかみに軽く指を添え、軽く息を吐いた。
「愚かな少年に社会の厳しさを示すのも我々先達の義務です。お受けしましょう」
「あ、ありがとうございます。それで、決闘の方法なんですが‥‥」
 ほっとしたエッド君が話を進めようとすると、ルイスの背後からひょっこりと人が現れた。
 年は30手前の妖艶な女性だ。髪と服の漆黒が白い肌の美しさを引き立たせている。ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)の魅力を取り巻きの少女達と比べるのは、少女達に酷というものだ。
「あら、可愛い」
 高いナンパ技術を持つジルベルトは、エッド君を落とす為すっと彼に近づいた。微笑みながら顔を彼の頬に寄せる。
 とろり甘い吐息に乗せてエッド君の頬に口づけすると、彼の顔を見詰め、とろけたエッド君の表情に満足げに微笑む。ジルベルトは微笑と香りを残して立ち去った。
「何しに来たのよ、あの人!」
 女の子達が嫉妬丸出しでぷんぷん怒っている。
「心理作戦です。私は、エッド殿の挑戦を正々堂々と正面から受け止め、それを撃破します」
 しばらく皆が黙ってしまった。その後、ルイスが付け足す。
「場所はここでいいでしょう。決闘の方法は、オーソドックスな1対1です。いいですね?」
「は、はい」
 審判役を引き受けた重井智親(ec5199)が、すっと二人の近くに寄る。ルイスは右手に直刀、左手に短刀を持ち、身構える。エッドもショートソードを構える。
「エッド殿には、全てをなげうって護りたい女性が居るか?」
 ルイスの質問に、エッド君は口をもごもごさせて言葉を濁した。
「私には居た。神聖ローマで彼女を悪魔の魔手に渡さなかった事と聖なる母の身元に送らなかった事を誇りに思っている。もう彼女と逢う事は無いだろうが」
 エッド君は、今そんな事言われましても、という顔をしている。
 ルイスと智親の目が合った。智親が頷く。
「始め!」
 その掛け声と同時に、ルイスが目をそらした隙を狙って、エッドが突っ込んできた!
 ルイスは刃先を短刀で払うと、左の肩に直刀をポンと当てる。
「う! ま、まいりました!」
「これでチェッ‥‥」
「お強いです! 反省しました。ではこれで」
「あ、しょ、勝負あった。ルイスの勝ち!」
 赤っぽくにじむ左の肩を押さえ、そそくさと立ち去ろうとするエッド君の右肩を、エルディン・アトワイト(ec0290)がガシッと掴む。
「頂点に立つのでしょう?」
 本心が読み取れない微笑でエルディンがささやく。
「あ、いえ‥‥負けましたので」
「せっかくだから最後まで戦いましょう」
「え?」
「冒険者と1対1の勝負で、重井殿を除く全員に勝って下さい」
「は?」
「重井さんは何で闘わないのよ? 怖いの?」
 智親は女の子達の方を向いて答える。
「私の掟として、決闘の場合はどちらかが瀕死になるまでは刃を収める事は許されないのです。エッドさんがそれで死んでしまったら貴方達が殺した事になるのですよ」
 嘘と気付かれないように、幾多もの修羅場を潜り抜けてきた凄みを演出して語り聞かす。
「エッド殿の、その思春期の少年の熱い想いを、私は受け止めます」
 エルディンは、必殺技聖職者スマイルでエッド君に迫っていた。女の子達も、三番勝負での巻き返しを期待してあおる。エッド君は受けざるを得なかった。
 エルディンは、エッド君にリカバーの魔法をかけると、パリ市内の空き地を指定して言う。
「魔法を使ったので、私との勝負は明日にしましょう。楽しみにしてますよ」
 エルディンはエッド君の左の肩をポンポンと叩く。肩の赤いにじみは、更に濃くにじんだ。

 次の日。空き地に全員が集まった。審判役の智親を挟んでエッド君とエルディンが対峙する。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
 杖を手にゆったりと構えているエルディンに戦闘技術が有る様に見えない。
(「どうしよう。もし勝っちゃったら、次の人とも戦うの?」)
「始め!」
 無常にも智親の声が響く。
(「えーい! なるようになれ!」)
 目をつぶって突進するエッド君。エルディンは回避する素振りも見せない。その瞬間。
 カキン! ショートソードが何かにぶつかって、鋭い音を立てた様にエッド君には思えた。
 ショートソードが、突然エルディンの目の前の壁にぶつかり跳ね返されたのだ。
「‥‥あ、ホーリーフィールドですか」
 ほっとするエッド君。エルディンは何か唱えている様に見える。このままもたつけば『何か』してくれるだろう。
(「ほらきた」)
 エルディンの唱えたコアギュレイトがエッド君の体の自由を奪う。
「うわ〜!!」
 激痛に顔を歪めながらエッド君はバタンと倒れる。心配して駆け寄る女の子達。
「命がけの勝負に野暮なマネはしないで下さい!」
 激しく叱るエルディン。コアギュレイトでダメージは与えられない事を解っている冒険者達は苦笑いしている。
「このコアギュレイトに耐えたら、エッド君の勝ちを認めます」
 これ幸いと、エッド君は、多少耐え苦しむ時間を経てから降参する。
 智親が真剣な顔で試合を止める。
「勝負あった! 勝者、エルディン!」
 残念がる女の子達。まだけしかけてる子も居る。
「彼が死んでしまったらどうするのです? 冒険者は常に死と隣り合わせです。こんな結果で済めばよいですが、場合によっては人の形を留めない状態になることもあるのですよ。ま、もっとも、彼が一生懸命になる気持ちも分かりますよ。こんな可愛い女の子達に頼まれたらね」
 エルディンは聖職者スマイルで女の子達に迫る。
「どうです? 私に乗り換えてみませんか?」

(「本気にするなよ‥‥」)
 この日、唯一の負傷者が出た。痛そうに顎をさするエルディンにルイスが笑いながらリカバーを掛けてあげた。ついでに、まだぐったりしているエッド君にも。

「という事で、三番勝負負け越しですよね。これでおしまいですよね?」
 エッド君の微かな期待を三人目の対戦者が打ち砕く。
「負けたのにあそこのお嬢さん達、真剣に悲しんでいませんよ。そんなことではよくありません!」
 愛馬にまたがり現れしは、騎士試合に憧れている神聖騎士ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)。
 ヴィーヴィルは馬上からエッド君を見詰める。
(「あ、ちょっといいかも‥‥」)
 包容力は無さそうだが、優しそうで少しヘタレな感じに、頬を赤らめる。ちょっと好みのタイプらしい。
 はっと我に帰って口際を手首でぬぐった。馬を下りて、日本刀を構えて微笑む。
「大丈夫。刃を落として切れなくしてありますよ。‥‥勝負です」
「始め!」
(「僕の意見は‥‥?」)
 若干涙目になるエッド君の周りで、取り巻きの女の子達が対戦相手のお姉さんをライバル視している。エッド君を励ますと共に、彼と一緒に闘おうと思っている様だ。
 ヴィーヴィルはちょっとムカッときた。
「貴方達! 大怪我したり、死んじゃったらどうするのですか!」
 しかしそれで怯む女の子達ではない。突然出現した恋のライバルを力いっぱい睨み返す。
 勝負は、あっという間についた。予定通り左の肩を赤くにじませて地面に伏すエッド君。しかし女の子達の闘志は衰えない。
「ヴィーヴィルの勝利です! 勝負は終わりました! 君達、落ち着いて! 君達の為にエッドさんは命を掛けて戦っているのですよ!」
「分からず屋! 貴女達も闘いの危険にその身を晒せばいい!」
 ヴィーヴィルは思わず持っていた日本刀を一人の女の子に投げ渡す。
 スカートを広げて受け止めた女の子は、驚いた顔で日本刀を見詰め少し考え込んでいたが、やがて顔を上げて微笑んだ。
「うちのお母さん、包丁足りなくて困ってたの。頂きます。ありがとう〜!]
「少女達! 実力者の集う冒険者ギルドに只の人間が喧嘩を売るという事がどれだけ無謀か、それが解りましたか? ‥‥って」
「勇者様、また明日ね! 気が変わらない内に持って帰ろっと!」
 智親の言葉むなしく、少女はあっという間に走り去っていった。それに従う様に、取り巻きの女の子達は手を振って一斉に去っていく。
「おーい‥‥無謀‥‥」
「‥‥エッドさんは包丁に負けたのですね」
 ヴィーヴィルはまだ呆然としている。
「7人姉妹だそうです」
 役目を終えたエッド君が呟く。
「それでは一人に決められないな」
 ルイスが頷く。

 エルディンはエッド君の右肩をポンポンと叩き、意見する。
「彼女達によい様に扱われる現状を打破するには、もっと視野を広げるべきです。今晩良い所に連れていってあげますよ」
 その夜、二人は、とある大人の社交場に居た。
 酔っ払っているエルディンはポケットの中の30Gを気持ちよく散財していた。
 お酒の飲めないエッド君は、顔を真っ赤にして女性従業員のおもちゃにされている。
「ん?‥‥あぁ、君はもう少し女性に慣れたほうがいいですよ‥‥」

 そんなエッド君を呆れた様子で見ながら、一人の女性がエルディンに近付いていく。
 エチゴヤで日本刀を買い直して来たヴィーヴィルだ。彼女はエルディンに耳打ちすると、彼は頷いた。
 それからヴィーヴィルは、店の女性からエッド君を引き剥がす。
「私が心神を鍛えてあげます。騎士になって、彼女達を見返しましょう!」
 エッド君にそうささやくと、彼をひきずって帰っていった。

 夜が明けてから、取り巻きの女の子達がエッド君が行方不明になったと騒ぎだす。
 依頼最終日までヴィーヴィルがエッド君を自分の家に連れ込んで何をしていたかは、彼女しか知らない。