さようなら、マルグリット‥‥

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月03日〜12月08日

リプレイ公開日:2008年12月12日

●オープニング

 その依頼は、冒険者ギルドに突然、持ち込まれた。

 受付嬢は、その依頼内容を知ると、唖然とした表情で力なく呟く。
「マルグリットは、いつ亡くなったの?」
 依頼人の女性は、顔を見られたくないのだろう。うつむいたまま、周囲に聞こえない程の囁きで答える。
「2日前という事で‥‥す」
「どうしてこんな、突然‥‥」
 受付嬢は、顔を手で覆い隠すと小刻みに震えた。
「彼女が一昨日なんかよく分からない白い粉を入れて作ったパンを食べていたら、倒れられたそうです。そしてそのまま‥‥」
 受付嬢は、ふとありし日の『マルグリット腹痛騒動』を思い出して笑いかけたが、この場に相応しくないと思い真顔に戻した。
「今はどこへ?」
「一応、実家の方に送られているという事になっ‥‥だそうです」
 受付嬢がさりげなく聞く。
「引き取る人はマルグリットの父親でいいのね?」
 依頼人は、慌てて顔を上げて即答する。
「何聞いているんですか! お母さんに決まってるじゃないですか!」
「オール家のお母さん?」
 依頼人は、いったん伏せた顔をまた上げる。
「ウォック家! からかってるんですか!?」
「いえいえ。決してその様な‥‥」
 受付嬢は、すずしげな顔で答える。
「とにかく、わ、いえ、マルグリット嬢の追悼式を行ってほしいのです」
「協力者は、いえ、身内で参加するのは、お兄さんのクスターだけね。実家のお母さんは呆れてると。で、場所はお兄さん家」
「呆れてるは余計です。そこで追悼式を行って、マルグリット嬢の父が現れたら亡くなった事を丁寧に信じ込ませて、いえ、伝えていただきたいのです」
「そして、それを信じたお父さんが帰って行ったら、何事も無かった様にひょっこり帰ってくる」
「マルグリット嬢は不死身だそうです」
「ズゥンビも真っ青ね。それはともかく、お父さんからの手紙が来た翌日にこんな事になるなんて、マルグリット嬢はそんなに父親に会いたくなかったのかしらね」
 受付嬢は、白々しく視線をそらして片手を頬に添えると、軽く息を吐いた。
「違います。不幸な事故です。深い意味はありません」
「いえね、彼女が顔をしかめて『あんなごくつぶし』って言っていたのを思い出したの」
「愛情の裏返しですね。素直になれなかったのでしょう」
 依頼人がしれっと切り返す。受付嬢は、真顔に戻る。
「まあ、それは良しとしましょう。で、依頼内容をまとめますと、マルグリット嬢の父親がパリに滞在する間、彼女が亡くなった様に」
「『様に』は余計です」
「という事で、冒険者達に追悼してもらって父親に信じ込ませる」
「『納得してもらう』です」
「そして追い帰す」
「『父親の残りの人生を彼ひとりで全うしてもらう』です」
「そもそも何でお父さんはパリに来るの?」
「娘の顔を見に来るって書いてありましたが、遊ぶお金を借りに来るのが本当の所でしょう」
「金の無心? さすがごくつぶしね」
 依頼人はうつむいて呟く。
「ちょっとは父親らしい事してみろって‥‥だからお母さんは‥‥」
「ま、冒険者達の力借りましょ。結果がどうなるにせよ、何かやってみれば納得するんでしょ、貴方は」
 依頼人マルグリット・シラユキは寂しげに頷いた。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5641 メイフォン・メリィ(24歳・♀・ウィザード・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●まずは打ち合わせ
 依頼日初日。打ち合わせをする為にやって来たエイジ・シドリ(eb1875)とメイフォン・メリィ(ec5641)が並んで、クスター家のドアを叩く。中から返事が有ったので、ドアを開ける。
「方便とはいえ、生き死にを材料にするのは感心しませんぞ!」
 部屋の中ではケイ・ロードライト(ea2499)が正座をしているマルグリットに小一時間ほど前から説教をしていた。
「あ、依頼受けた方ですか? あたたたた‥‥こんにちは」
 体を崩してこっちを振り向いたマルグリットが、しびれた足をさすりながら、挨拶する。
 メイフォンがぺこりと頭を下げる。マルグリットの様子を見て、挨拶された雰囲気は解ったのだろう。合わせてエイジが自己紹介する。
「俺はエイジ・シドリ。よろしくな。こちらは、メイフォン・メリィ。ゲルマン語があまり上手くないが、そこは身振り手振りでなんとか補ってくれ」
(「少しでも助けになれる事を願っていますわ」)
 メイフォンがまたぺこりと頭を下げる。

 打ち合わせを始める前に、ケイは部屋の中を見回す。
「そういえば、クスター殿はどうしましたかな?」
「逃げました」
「え?」
「この作戦に関わりたくないそうです」
「色々、聞いてみたかったのですがな」
 ケイはクスターに事情を聞くのはあきらめた。

 エイジがマルグリットに聞く。
「追悼式はどんなのが良いんだ? 西洋風とか、東洋風とか‥‥」
「うーん‥‥特に無いですね。無難にパリのらしく、そんな感じにしとけばいいんじゃないですか?」
「まあ、それっぽいのが作れれば良いか」
 エイジはメイフォンに冠婚葬祭について詳しいか、身振り手振りを交えて聞く。

●知人たち
 マルグリットは、今後はクスター家の様子がよく観察出来る近くの空き家に潜むと言って出て行った。
「私は、これからマルグリット殿の友人達に会いに行きますぞ。仕掛けが仕掛けなので、親しい方々に事前に知らせて置く必要がありそうですからな」
「俺もロウソクや釘などを買いに出かける。メイフォンは祭壇をデザインするそうだ」
 エイジは、そこら辺にあった布と筆記用具をメイフォンに差し出す。冠婚葬祭についてそれなりの知識を持っているメイフォンは、それらを受け取って頷いた。

 ケイは、最初にムエット師匠の家に向かった。家の人に聞くと、師匠は酒場に居るらしいとの事なので、その足で酒場に向かう。
 ムエット師匠は、まだ昼間だというのに酔っ払っていた。
 事情を話す間、師匠は、ただ静かに微笑んでいる。話し終わってからたずねると、自分はこの件に関わる気は無いとの返事だった。

 次にケイは、マルグリットの幼馴染であるウイエ・シャルシーの家に向かう。ウイエは家の中で忙しそうにしていた。ケイが事情を説明すると、呆れた様に息を吐きながら、両手は遊ばせずに作業を続けていた。
「‥‥という事なので、風の噂が聞こえて来ても、気にしないように」
「大丈夫ですよ。私も冒険者ですから、既に大まかな事情は知ってました。依頼書が貼られたその日の晩にマルグリットに会いましたし」
「そうですか」
 ウイエも大丈夫と思い、次はオールに会いに行く。

 ケイがランティエ家に向かう途中で、エイジと偶然出会う。エイジは、ちょっと考えて、ケイと一緒にオールに会いに行く事にした。
 応接室にて事情を話すと、オールは落ち着かない様子になった。
「それで、僕は何をしたら良いのでしょう?」
 エイジが提案する。
「追悼式に参加しないか?」
「でも、マルグリットさんのお父上が来られるんですよね。出会ったら、何と名乗ればいいか‥‥」
「マルグリットの恋人とでも名乗ればいいんじゃないか?」
「こ、こ‥‥」
 オール君、顔を赤らめて固まる。
「大丈夫。いくら話を作っても、マルグリットはつっこめないからな。今がチャンスだぞ」
 エイジが苦笑いをしながら誘う。
 さすがに大胆な提案だったらしく、この場ではオールは決断出来なかった。

●祭壇設置
 ランティエ家を出ると、ケイとエイジは、それぞれの準備の為一旦別れる。二人が荷物を持ってクスター家に戻って来ると、メイフォンから祭壇を描いた布を受け取って、祭壇の制作を始めた。
 ケイは持ってきた木材を床に広げる。二人は手頃な大きさの板を取り上げると寸法を取り始めた。

 次の日も作業は続く。エイジが彫刻刀で祭壇に飾りの模様を入れていく。ケイが組み立て、全体の出来上がりをメイフォンがチェックする。

 午後になって祭壇が出来上がった。それを部屋の壁に移動させる。オールに借りたマルグリット嬢の肖像画を添えて、メイフォンのアドバイスで祭壇の設置位置を決める。
 ケイがマルグリットの持ち物である大釜を部屋の隅から持ってくる。メイフォンはそれを不思議そうに覗き込んだ。ケイが身振り手振りでメイフォンに意思を伝えると、ケイとメイフォンは遺品の大釜を祭壇付近に設置した。

 準備が終われば、後はマルグリットの父親を待つばかりである。

●父、来る
 依頼四日目。ようやく昼になろうかの頃。
 力強くドアを叩く音がする。
「はい。どなたですかな?」
「マルグリット、居るか?」
 歳は三十代頃と思われる、男の若く太い声がドアの向こうから聞こえた。
「どなたでしょう?」
「マルグリット居ないのか? 俺だよ。貴助、キ・ス・ケお父さん」
 男は媚びる様な、甘い声を出す。ケイがドアを開けると、目の前の男の顔から照れ笑いが消える。
「マルグリット嬢のお父上ですかな?」
「‥‥ああ。えっと‥‥」
「マルグリットの知人で、ケイ・ロードライトと申します」
「そして俺がエイジ・シドリだ。俺の妹がマルグリットに世話になった」
「どうも。‥‥マルグリットは?」
「お父上にお伝えしなければならない事が有る。‥‥残念だが」
 エイジは祭壇に向かい、ロウソクに火をつける。貴助は怪訝そうな顔をしている。
「貴助殿。貴方のお子様、マルグリット殿は、つい先日お亡くなりになりました」
 メイフォンは祭壇の前で静かに祈りを捧げている。

「いまわのきわに、家族と一緒に暮らしたかった‥‥と言い残したそうです」
 ケイはそれだけ呟くと、前屈みになって細かく体を震わせながら、目を腕で拭う。
「僕が至らなかったせいで、こんな事に‥‥」
 祭壇の傍でオールがすすり泣く。

●記憶と未来
 その情景をいぶかしく見詰める貴助だったが、ふと何かに気付く。
「思い出した」
 貴助は右手の人差し指で頬をかく。
「あんたらは、なんか依頼受けたの? 依頼で人集めなきゃ、こんな事無理だよな‥‥」
 ケイとエイジは、その言葉の意味が解らず、何も言えなかった。
「あんたらは知らないだろうけど、この手法、2度目なんだよ。ウォック家の所で一度企んで、それは失敗したんだが、結局は強引に逃げ切ったんだな。で、ウォック家では無理でも、パリの中ではまた使えると思ったんだろう」
(「使いまわし、だったんかい!」)
 会話の内容が解らなかったメイフォン以外全員がため息をつく。
 エイジは、そっと玄関のドアを開ける。
「もういい。隠れてるマルグリットを連れて来るぜ」
「いや、いい。今日は俺は帰るわ」
 貴助はエイジの腕を取って引き止める。

「マルグリットとの対面は、正式に依頼出してあんたら冒険者に頼むわ。こういう事だったら、今無理に会おうとしても逃げようとして、話が出来ないだろうからな」
 メイフォンは貴助の寂しそうな顔を見詰めて思う。
(「別れて暮らす以外の選択肢がありそうならば、そちらの方向に行く方が良いのでしょうが。‥‥難しいとは思うけれど」)
「ありがとな。また会えたら宜しく頼むわ」
 貴助は手を振って立ち去った。
 ケイが貴助の滞在場所を聞いておいた事を、戻ってきたマルグリットに告げた。マルグリットとしては、今すぐどうこう出来ない様であった。