お帰りなさい、私のマルグリット‥‥
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月12日〜01月17日
リプレイ公開日:2009年01月21日
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●オープニング
●マルグリットは語った
私がまだ小さかった頃、お父さんとお母さんは別れました。『なぜ、お父さん居ないの?』って聞いても、お母さんは黙って微笑んでいました。冒険者だったお父さんが居なくなって生活は苦しくなり、お母さんのお友達を訪ねる為に、私達はジャパンからパリに向かいました。
私はウォック家に住む事になりました。クスターお兄ちゃんと仲良くなり始めた頃、突然お父さんが現れました。私は戸惑いました。お父さんがお母さんからお金を貰ってすぐに去っていったと解ると、私は裏切られたと感じました。お母さんの元を勝手に去り、お金を貰う為だけに来た。お父さんは、そんな人だったんだと。私は、お父さんを嫌いになり、憎む事で、心の中にある寂しさを紛らわしました。でも、お母さんはそれを聞いても、困った様に微笑むだけでした。
お金に不自由したのが理由だったと思っています。私の事の方にお金を優先させていたとも思われます。ウォック家に私をたくし、お母さんは息を引き取りました。ウォック家はお父さんを数年の間出入り禁止にしました。
また今突然やって来て、『真実』を教えると言われても、私は正直、どうしたら良いのか解りません。助けてください。
●依頼人白雪貴助は語る
遠くの地ジャパンで冒険者として依頼を解決していた俺は、とある依頼でモンスターの群れを退治していた。ある森まで来た時、若い女性の悲鳴が聞こえた。同じ依頼の参加者の声だと解ったので、急いで音の聞こえた方に向かった。
そこには、モンスターに攻められ必死に身を守っている少女が居た。他の冒険者と離れ離れになったのだろう。単身、傷だらけの体で精一杯戦っていたが、それも限界の様子。俺は彼女を助けに入って、モンスターと対峙した。
それは、きつい戦いだった。俺達もモンスターも命の削りあいをしていった。決定的なダメージを与えるチャンスに、俺は思わず自分の命を賭けた。俺の肉を切らせ、モンスターの肉を斬る。そのつもりだった。だがそれは俺の慢心だったのだろう。モンスターの爪は、俺よりも彼女の肉を裂く方を選んだ。空を切る俺の剣の横で、彼女は声を失い目を見開いたまま地に伏した。激高した俺は、その後モンスターが倒れるまでの数分間の事を覚えていない。
俺は、顔一面を涙で濡らしながら、その場で彼女を応急手当した。意識の戻らない彼女を担ぎ、俺は街まで夢中で走った。彼女の意識が戻った瞬間、俺はさらに涙が溢れ出すのを止める事が出来なかった。俺は彼女の手を握り、『ごめんな』を何回も繰り返し言った。
その日から、俺は一日中、起き上がるのもままならない彼女の介護をするようになった。妻もそれを理解してくれた。
しばらくの休養の後、ある日、彼女は自分の出身地であるパリに戻って教会で静養するつもりだと言った。俺は、元に戻らない体にしてしまったのは俺のせいだからと、これからの彼女の世話を願い出た。数回の遠慮の後、受け入れられると、俺は妻と話し合った。そこで選んだ結論は、『妻は俺と離婚した事にし、俺は彼女の世話に専念する。ただし妻は知人の元を訪ねてパリに永住し、俺を資金面で支える』だった。それがマルグリットには、たまに家に帰ってきては金を無心するごくつぶしに見えたのだろう。
彼女の体が緩やかに治っていくと共に、彼女の誠意ある態度に次第に心引かれていった。妻が生きている内はもちろん、つい最近までそれを隠していた。
彼女に告白した時、最初はただ優しく微笑んで首を横に振るばかりだった。でも俺の気持ちは決まっていた。
今回パリに来たのは、マルグリットの誤解をとく事と、元妻『白雪きく』の墓に手を合わせ、彼女との再婚を報告する為だ。
依頼内容は『ウォック家の元妻の墓まで俺とマルグリットを連れて行き、マルグリットに真実を伝える手助けをして欲しい』となる。
考えるに、元妻を早死にさせたのは俺の責任なのかもしれない。どうしたら、マルグリットに俺の取った行動を理解して受け入れてもらえるだろうか?
●リプレイ本文
●出発
依頼日初日。依頼に参加した冒険者達と白雪貴助が冒険者ギルドに集まる。冒険者達から移動用に馬車を2台借りようとの提案があった。
「うーん‥‥。壊されたり借り逃げされたりを危惧する者は多いから、借りるのは難しいかもしれない。一つ、俺の顔がきく所がある。今回はそこへ行って借りよう」
貴助に先導されてケイ・ロードライト(ea2499)が付いて行くと、やがて見慣れた家の前に着く。
「ほう‥‥。ランティエ家に顔がききますか」
ケイはマルグリットの顔を思い浮かべながら感心する。
「一時期パリで依頼を受けていて、オールの誘拐など幾つか事件を解決したからな」
ランティエ家の主人は顔を綻ばせて二人を家の中に招き入れる。事情を聞いた主人は、快く2台の馬車を貸してくれた。さすがに、無条件という訳にはいかない。馬車2台分相当のお金と交換で貸し出す、馬車を返す時にお金を返すという事で決まった。
ケイが片方の馬車に自分の飼い馬をつなぐ。もう一方の馬車にはミシェル・サラン(ec2332)の飼い馬をつなぐ。そのミシェルの馬に貴助が乗った。御者を一人借りたいとのケイの提案に、俺が乗った方が手っ取り早いと、貴助は反対した。心理的に、見知らぬ男が加わる事に抵抗が有ったのかもしれない。慣れぬ手つきで馬車の先方に乗り込む。
「おぅ、ととと‥‥。この感じ、久し振りだな。俺はロワンタンを迎えに行けば良いんだな?」
「宜しく頼みます」
ケイは自分の馬の手綱を取り、クスター家に向かう。
ケイがクスター家のドアを開けると、マルグリットは部屋の中央で正座を始めた。
「?」
「ああ‥‥すみません。つい、条件反射で‥‥」
「皆も集まっているので、さっそく出発しますぞ」
「ああ‥‥ついにこの時が来たのですね‥‥はぁ」
ため息をつくマルグリットの肩をミシェルがポンポンと叩く。
「今は無理に仲良くしなくてもいいわ。行きましょ」
パリ郊外で、2台は合流した。貴助の馬車が止まると、貴助の補助をかりて、ロワンタンが馬車から降りてきた。
ミシェルがロワンタンに話しかけた。
「ロワンタン様。貴助様はウォック家では歓迎されないかもしれませんわ。貴助様を立ててフォローしていただけるかしら」
「わたしに出来る事がありましたら、よろこんで」
片手に握る棒を地面に突き立てて体を支えながら、ロワンタンは浅くお辞儀をした。
道中、ケイの馬車にマルグリットとミシェルが、貴助の馬車にロワンタンとエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)が乗る。ロワンタンの右腕側にエラテリスのバックパックを当てて支えとした。
●占いの結果
休憩時、エラテリスは、バックパックから木の皮で出来たタロット一式を取り出した。
「白雪さんについて占うね」
エラテリスは、よく混ぜ合わせたカードを一束にまとめる。何枚かめくってはカードを地面に並べて置いていく。貴助は解らないなりに黙ってその様子を見詰めている。
「『過去』は『魔術師』の正位置。『現在』は『皇帝』の正位置。『未来』は『世界』の逆位置。『白雪さん』は『運命の輪』の正位置。『相手』は『星』の逆位置。『鍵』は『正義』の正位置」
エラテリスはそれらのカードをじっと見て‥‥
「これまでの事を捨てて新しい生き方を選んだ白雪さん。それは運命だったのかもしれないね。相手を幻滅させる事だったけど、今は父親としての責任を果たそうとしている。未来は‥‥物事にはバランスが必要だから、全てが解決するわけではないかもね。‥‥そっか、これは試練なんだよ。ヴィーヴルさんを信じるように、娘さんも信じてって事だよ」
「マルグリット様は、貴助様のことは好きなのよ」
ミシェルは、クスッと妖しく笑う。
「それを自覚させるように、マルグリット様に少し手厳しいことを言うけど我慢してね」
●少しずつ
依頼初日の夜。宿屋に2つ部屋を借りた。宿屋の1階で食事をすませる。ケイが観察するに、まだ3人は意識しあっているのか、ぎこちない様子だった。会話らしい会話はない。
2人部屋に貴助とロワンタンを泊まらせ、5人部屋にミシェル、エラテリスとマルグリットが泊まる。ケイは馬の様子を見ながら野宿した。ミシェルはマルグリットの前で貴助の事を責め、マルグリットのフォローを待つという作戦をこつこつ続けていた。
次の日。同じグループで馬車に乗る。口数の少なくなったマルグリットは、貴助がこまめにロワンタンの世話をする様子を遠巻きに見ていた。
「貴助様のこと、嫌いじゃないんでしょ? 粗忽人形の死体を見たとき、悲しんでいたじゃない」
ミシェルは押したり引いたり、こまめに心理的に揺さぶりをかけていた。
この日の夜。2人部屋に貴助とケイが泊まり、ロワンタンは冒険者女性陣の方に泊まる。女同士でしか出来ない話が夜深くまで続いた。幼いロワンタンは歳の離れたきくや貴助と親しかった。『お兄ちゃんのお嫁さんになる』と言うのをきくは笑って聞いてくれたそうだ。
●涙の意味
次の日。一行は目的地に着く。
ケイはウォック家に向かい、事情を説明する。クスターの母親は、頬に手を当てて複雑な表情をした。
「幼い頃は、さすがに父親に会わせる事はなかったんですけどね。皆さんが動き出したのであれば、時が来たという事なのでしょうかね。心配ではあるんですが」
「貴助殿とロワンタン殿が結婚されても、マルグリット嬢はウォック家の『娘』であり、マルグリット嬢の居場所はウォック家である事。そして、家族が増える事は素敵な事である。マルグリット嬢にそれを伝えて安心させていただければ」
「わかりました。とりあえず依頼中は皆さんにおまかせしますので」
「ええ」
「墓の手入れ、ちゃんとしているのかよ」
貴助は苦笑いしながら周囲の草をむしり取る。
ロワンタンが懐から乾燥させたちっちゃな花束をささげる。
「きくおねえちゃん‥‥」
合わせた手の親指に、一滴涙が落ちる。複雑そうな表情でマルグリットがそれを見詰める。
その日の夜は、貴助とロワンタンとマルグリットが宿の3人部屋に泊まった。部屋の明かりは夜遅くまで消えなかった。
依頼4日目の夕方。宿に着く前の、最後の休息時。
ケイはマルグリットに、ロワンタンを家族として受け入れられるかそれとなく聞いてみたが、決めかねている様だった。
ミシェルは呟く。
「‥‥私、家族がいないのよ。両親の顔なんて知らない。ろくでなしだと思っても、家族と呼べる存在があるのは、羨ましいわ」
「お母さんが亡くなってから、両親はいないようなものだったから。ウォック家で充分だったし」
●月下の告白
「皆さん。今夜は、天気も良いですし、野宿してみませんか?」
ロワンタンの突然の意外な提案に、皆驚いた。
「大丈夫?」
心配そうに覗き込むエラテリスに向かって微笑みながら答える。
「私も、元冒険者でしたから」
「この感じ‥‥懐かしい」
ミシェルの寝袋に潜り込み、ミシェルを胸に抱いて寝袋で全身を包んだロワンタンは、マルグリットに語りかける。
「きくお姉ちゃんは貴助さんと付き合うようになってから私を避ける様になりました。私が貴助さんに恋愛感情を持っていると思い配慮したのでしょう。やがて、あなたが生まれると、二人は何も告げずにジャパンへ渡ったのです。私はそれでよかったと思っていました。それから8年後、ジャパンの地で、同じ依頼の参加者として、貴助さんと再会しました。貴助さんと親しくなり二人の中に割り込もうという気はもう全くありませんでした。だけど、皮肉な事に、その依頼で私は深手の傷を負い、貴助さんの介護を受ける身になりました。嬉しくもあり、お姉ちゃんにすまない気もあり‥‥パリに戻って二人から離れようとはしましたが‥‥貴助さんに付いて行くと言われてしまい‥‥それから今までずるずると‥‥」
「あなたのお母さんを奪うつもりはありませんでした。でも結果的には‥‥会える内に謝っておきたかった‥‥すみません」
マルグリットは寂しく微笑む。
「お母さんは納得していたんだろうから、謝らなくていいよ。貴助をよろしくね。お幸せに」
「マルグリットさん‥‥」
「私は、マルグリット・シラユキ。ただそれだけ。うん」
冒険者達を、夜風が優しく包む。雲の切れ間から月が覗いていた。