留守中の惨劇! 奪われたペットを取り戻せ
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■ショートシナリオ
担当:猫乃卵
対応レベル:1〜5lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2006年09月12日
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●オープニング
クスター、16歳。故郷を離れ、パリで片手の指で数えられる程の冒険をこなして来た彼は、もう一人前の冒険者としてやっていけるのではないかという錯覚を覚える様になっていた。酒場にたむろする冒険者にとっては、まだまだ笑える話題を提供してくれる貴重な人材であって欲しかったのだが、最近の彼は、冒険者としてごく普通の生活を送っていた。
周囲が娯楽に飢えていたそんなある日、一人の少女がクスターに会いに来た。
「お兄ちゃん。私を呼び出して、何の用よ?」
「今度の依頼で数日だけど、家を留守にするんだ。その間、この子達を看ていて欲しいんだけど」
指し示す先に居るは、ノワール、ブラン、グリという名前の3匹の犬。クスターが故郷で過ごしていた時飼っていた犬達だ。訳有って、パリに連れてきた。
「ほら、前からパリ観光がしたいって言ってたじゃないか。数日パリに留まるついでに犬の世話もしてくれたらなぁって‥‥」
「良いわよ。犬は大好きだし。お母さんに、クスターがちゃんとやってるか見て来る様に言われてるし♪ その為に、わざわざパリまでやって来たんだから。で、お兄ちゃんの部屋に泊まれば良いのね?」
「僕の部屋をあら探しするなよ」
「あら? 見られたらまずいものでもあるのぉ?」
「無いよ! ほんとにマルグリットは昔から余計な事を‥‥」
ともかく、3匹の犬を妹に預けて、クスターは依頼を解決する為パリを旅立った。
そして、数日後。
自分の家に戻って来たクスターは、家の中の異変に気付く。
「マルグリットも、犬達も居ない? ま、まさか、誘拐された!?」
顔から血の気が引くクスター。部屋の中をうろうろ歩き回る。
「ど、どうしよう‥‥とりあえず、ええっと‥‥どうしよう‥‥ん?」
ベッドの上に置かれた羊皮紙に気付いたクスターは、慌ててそれを取り上げると読み始めた。
『お兄ちゃんへ
犬って不思議よね。犬とこうして接していると、遠い昔から私達は、犬と友情を交わしていたっていう事がしみじみ実感できるの。
でも現実は、危険なモンスターが人をパクッと食べちゃう事が有る様に、人に懐いた犬でも同様の被害は起こり得るし、だからこそ一般市民の理解を得るのも難かしいのにね。この子達も、周囲の人達から、そんな恐ろしい生き物をここに住まわせるな、いつ何時その牙を剥かれるか判ったもんじゃないって言われてきたんでしょ?
本当に、この子達が可愛そう。
この子達に、手の甲をペロペロなめられている内に、私は、気付いたの。
私は、私が好きな犬という生き物達を、この街でつらい目に合わせたくないって、事。
だから、私は、この子達を責任もって引取り、故郷で静かな余生を過ごしてもらう様にしたいと思います。
お兄ちゃんが帰って来る前に、私は旅立ちます。後は追わないでね? この子達は、私の物よ♪ じゃね♪
マルグリットより』
「マ・ル・グ・リッ・ト〜! ありえない理屈で僕の犬を持っていくな〜!」
その後、貯めたお金を持って、クスターは冒険ギルドの受付嬢と向かい合う。
「妹が差し向ける飼い犬達の攻撃をかいくぐり、3匹の犬を取り返す為、冒険者数名を求めます」
受付嬢は、依頼書にペンを走らせながら、微かにニヤリと微笑む。面白い兄妹喧嘩が見られそうだと思わずにはいられなかったのだ。
●リプレイ本文
オルフェ・ラディアス(eb6340)はクスターと向き合って話している。
「結局のところ、今どういう状況なのでしょうか?」
クスター、腕組みして、うなる。
「うーん‥‥何と言ったらいいか‥‥妹が、一歩野望に近付いたという感じ?」
「は?」
「妹は獣使い、ペットを従わせて戦わせるとかいう者になりたいだとか、どっから仕入れて来たんだかっていう夢を持ってて‥‥」
「聞いたこと無い職業ですね」
「妹が勝手に言ってるだけですけどね」
「でも、ペットを従わせるとなると、危険なペットを人間に襲い掛からせるなんて事も出来てしまうのでしょうか?」
「よくは解らないですけど、ありえないと思います。動物に社会の仕組みや人間の理屈なんかを充分理解してもらうなんて無理でしょうから、結局は動物本人の理屈で動く、腹減ったから狩る、攻撃してきそうだからこちらも攻撃する、縄張りの中に入って来たから撃退するみたいな、そんな単純な理屈でしか行動できないんじゃないかと。こちらの都合よく動いてくれないと思うんですけどね」
「じゃあ、妹さん、飼い主といえども、下手すると危険な目に会うんじゃないですか?」
オルフェは身を乗り出してクスターに尋ねる。
「大丈夫です。妹が飼っているのは、犬6匹だけのはずですから」
「気性は?」
「とても人懐こいです。餌をもらえれば今初めて会った人間でも付いて行きます」
オルフェ、力が抜け、がっくりと肩を落とす。
「その犬達と戦わなくてはいけないんですか?」
三笠流(eb5698)が話に加わる。
「まぁ、戦わなくても良いんじゃないか? 俺は犬達を引き付ける囮役をするつもりだ。オルフェはどうだ?」
「私もですね‥‥」
ともかく、一行は出発した。
道中、保存食を買い忘れた事に気付いたオルフェが、余分に持っていたクスターからエチゴヤ価格で4食分購入した。オルフェより1回多く依頼をこなしただけのクスターが満面の笑みで先輩風を吹かしていたのは、オルフェにとってちょっと屈辱的であった。
一行はやがてクスターの故郷の村に到着した。
村の広場では、マルグリットが犬達を従えて仁王立ちしていた。犬達は見慣れぬ来客達に向かって吠えている。
「待っていたわ。お兄ちゃん‥‥兄弟の雌雄を決するこの時を!」
「マルグリットさん。兄弟喧嘩は止めませんか? 何故あなたはお兄さんと戦うのです?」
クリス・タリカーナ(eb5699)がマルグリットに問い掛ける。
「決まってるじゃない。お兄ちゃんイコール、踏み倒すライバルでしょう? お兄ちゃんを倒さないと私の夜明けはやって来ないのよ!」
「なんだそりゃ‥‥」
うなだれた流は、しかし気を取り直して、マルグリットの説得を始める。
「とにかく、犬達が周囲の人から嫌われているなんて事は無いんだ。クスターに犬を返してやってくれ」
「やだもん。犬を返すのは負けた時よ。ありえないけど」
「パリに限らず、犬なんかメじゃないペットも飼われていたりするが、皆仲良く静かに暮らしている。クスターの犬だってそうなんだ。だから‥‥」
「あ、あれの事? あの手紙に書いたのは、この子達をもらう為に作った理由付けよ? 本気でそう思ってないから。だから、あれでお兄ちゃんがおとなしく引き下がってくれていれば、妹に踏み倒される事もなかったんだけど‥‥」
流は、あきれて言葉を失う。
「ともかく、可愛いこの子達を奪い返す気なら、あなた達も私のライバルってことね。獣使いマルグリット、受けて立ちましょう!」
マルグリットはしゃがみ、犬達全体を見渡すと号令をかける。
「可愛いお前達よ。お前達の主マルグリットが命じる‥‥侵入者を排除せよ!」
マルグリットの声に驚いた犬達は、それをきっかけとしてバラバラに散った。ノワール、ブラン、グリはクスターに駆け寄り、クスターの顔をペロペロなめる。
「飼い主の顔を忘れてなかったんだね!」
クスターは感激して3匹の犬達を抱きしめる。
3匹の犬達の回収は無事成功した。特に誰が何をした訳でもないが。
「頼りにならない犬達だったのね。いいわ。そうくるなら、倒すべき相手は、貴方達の方。お兄ちゃんを恨まないでね‥‥」
マルグリットがシャーリーン・オゥコナー(eb5338)の方を向く。
何匹の犬達はシャーリーンの方に駆け寄っていた。尻尾を振りながら、一応吠えている。
「あたしを襲うのなら、水をぶっ掛けますの。えい!」
シャーリーンはクリエイトウォーターを犬達の頭上にかけた。魔法によって空中に湧き出した水が犬達に降り注ぐ。
新鮮な水のシャワーを浴びた犬達、とても喜んでいる。
「気持ち良さそうですの‥‥」
新鮮な水をたっぷり身体にかけてもらう事なんて、滅多に無い贅沢な事なのである。犬達は尻尾を思い切り振って喜びを表現している。
「ふっふっふっ‥‥その魔法には重大な欠点が有るわ。お前達、反撃の時よ! 行け! 犬魔法・ぶるぶる・ウォーターボム!」
マルグリットの命令の効果は有ったのかどうか定かではないが、水浴びし終わった犬達は、濡れた身体を思い切り素早く震わせて水気を周囲に飛び散らす。一匹のぶるぶるが他の犬の連鎖を生み、とうとうシャーリーンの周囲を囲む犬達全部が身体の水気を飛ばし始めた。
「わわわ‥‥やめて! 服濡れますの!」
「降参する?」
別にそんな事で相手にダメージを与えられる訳は無いのだが、勝ち誇った顔をして仁王立ちしているマルグリット。
「まだまだですの。‥‥ごめんね、犬達」
シャーリーンは、ウォーターボムを犬達に当たらない程度に離して放った。手から放たれた水の固まりが高速で地面にぶつかる。
(「あ! まずい!」)
先程のクリエイトウォーターで湧き出させた水で、地面は水浸し、ぬかるんでいる。ウォーターボムで放った水の固まりが地面にぶつかって、水気を含んだ泥が跳ね上がった。
更に、また水浴びさせてもらえると思った犬達が駆け寄り、泥だらけの足をシャーリーンの足に乗せ、おねだりをする。
そんな訳でシャーリーンの服と顔が所々泥で汚れてしまった。その泥をクリエイトウォーターで洗い落とす為、シャーリーンはやむなく前線から離脱。
シャーリーンとマルグリットがそんなやり取りをしている最中、クリスは、マルグリットの側面から近付いて、そぉっと背後に周り込んでいた。
突然、声が出せなくなるマルグリット。音も聞こえない。目を見開いて驚いたまま立ち尽くしている。
クリスがマルグリットの肩を叩き、微笑むと、そっと耳元でささやく。
『マルグリットさん、あなたの負けです。‥‥あ』
当然、聞こえない。
仕方なく数分待つ間、周囲を見渡すと、泥を落としているシャーリーン以外は皆、じゃれる犬達と仲良く遊んでいた。
『マルグリットさん。先程も聞いた事でしょうが、私たちの住む冒険者街では、モンスターに属すペットが人間と共存しています。そういった場所に住んでいる人達から犬は危険だとか言われて迫害される事は、まずないのですよ。相当な犬嫌いの方はいらっしゃるでしょうけれど。見てください。これが人間とペットの本来あるべき姿なんですよって、まだ私の声、聞こえてませんね』
クリスは苦笑した。マルグリットはおとなしくクリスの横で座っている。
「ぷふぁ! やっと声出せた! ねぇねぇ! 今のサイレンスっていう魔法でしょ?」
「その前に、言うべき事が有るのではないですか?」
シュンとするマルグリット。皆に聞こえる様に大声を出す。
「皆さん! 本当にすみませんでした! ご迷惑かけた事、謝ります! 二度とお兄ちゃんの犬を盗んだりしません! 誓います!」
マルグリットの肩を叩き微笑むクリス。
「で、私、お願いがあるんですけど。獣使いを廃業するので、あの‥‥魔法使いになる為に必要な知識を教えて欲しいんですけど‥‥」
微笑みながらうなずくクリス。
その日の夕方。クスターの実家に泊まる予定の一行は男性、女性別々に割り当てられた部屋でくつろいでいた。
『男は入るな!』と書かれた札が掛けられているマルグリットの自室から、時折黄色い笑い声が漏れる。
男性陣は、何の話で盛り上がっていたのか知りたがっていたが、女性陣の言う事は『それは秘密よね』の一点張りであった。