Qに捧ぐ

■ショートシナリオ


担当:猫乃卵

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月02日〜10月07日

リプレイ公開日:2006年10月10日

●オープニング

●依頼書内、依頼要旨全文
 まことに私的な内容で恐縮なのですが、人探しをお願いしたく、この依頼を提出させていただきます。
 探して欲しい方は、ジャパン出身の女性です。
 年齢は、多分20歳前後だと思います。
 名前は覚えていませんが、確か先頭がQ、ジャパンの発音では『き』、『く』、『け』のどれかだと思いますが、そんな感じで始まる名前で呼ばれていた様な微かな記憶が有ります。
 画力に自信は有りませんが、似顔絵を記した紙をこの依頼書に添え付けておきます。お使いください。

 私はパリで生まれ育ったので、ジャパンの風習に詳しい訳ではないのですが、今も武士道の修行中であれば、彼女は羽織袴と言われる姿で鍛錬に励まれているかも知れません。
 先日、武士道の修行中パリに寄られたジャパンの女性が居ると風の噂で聞きました。その女性が彼女だと嬉しいのですが。

 人探しをお願いする理由を説明致します。

 私は、2年前、パリで駆け出しの冒険者をしておりました。片手で数えられる程の依頼をこなしていた頃、その女性と一緒に依頼を受ける機会に恵まれました。
 その当時の彼女は、私からみれば、尊敬と畏怖の感を覚える存在でした。終始落ち着いた立ち振る舞いや、冷たくも凛とした顔立ちに、武士道において自分を律する、その意思の強さを見せ付けられました。今でも、彼女の澄んだ、しかし力強い目の印象を忘れる事が出来ません。
 モンスターとの戦闘においても、実力は彼女の方が上だったと思います。しかし、その当時、私は多少自惚れていた所が有り、実力差に気付きませんでした。その依頼も難なくこなせるものと信じ切っていました。
 その驕りが、私の将来を決める或る出来事を招いてしまいました。私の慢心から、私はモンスターの攻撃をまともに受けてしまい、深いダメージを負いました。彼女がとっさに私の援護をしてくれました。悔いる私は、私の為に必死でモンスターと戦っている彼女の姿をまともに見る事が出来ませんでした。私はうつむいて、早くモンスターが私に止めをさしてくれれば、彼女の無用な苦労が無くなるのに、とそれだけを考えていました。
 戦闘が終わった後、必死に私を励ます彼女の顔を見た途端、涙があふれ目の前が見えなくなると同時に、私は気を失いました。
 数日経って意識が戻った時、彼女の姿を目で捜しましたが、見つかりませんでした。自分の置かれている状況が理解出来る様になるにつれ、私は彼女にお礼が言いたくて、人に頼み彼女を捜してもらったのですが、会う事は出来ませんでした。

 あれから2年。ベッドから離れる事はもう出来ませんが、体調はかなり取り戻してきました。
 日々寝ながら考えるに、会う事に対する迷いが有るという事に気付かされたのでした。私の事はもう忘れているかもしれない。それならその方が良いだろう。自分の道を歩まれているのだろうから、過去のつまらぬ事に引き戻すべきではないのかも知れない。だが、私は、私の為に余計な危険に身をさらした彼女に、何も詫びていない。感謝も伝えていない。ただ時が過ぎるのに甘えているだけだ、と。

 『迷うのは、己の常です。しかし、迷いを断ち切るのも、己の業なのです。自分を信じてください』
 彼女がパリに来ているかもしれないと、噂から期待を抱き、彼女の言葉を思い出して、ようやく決心しました。

 改めてお願い致します。彼女を捜してください。それが無理であった場合は、彼女が無事に過ごしているか、彼女の近況の情報を入手してください。
 お願いします。

●今回の参加者

 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5456 早瀬 さより(28歳・♀・僧侶・河童・ジャパン)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb6532 精錬 亜粉(24歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb6918 シルフィ・ミコト(14歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb7368 ユーフィールド・ナルファーン(35歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528

●リプレイ本文

 冒険者一行は、まず冒険者ギルドに寄った。依頼人の情報を聞き出す為である。
 もちろん、この依頼は、病床を離れられない依頼人本人が希望したものではあるが、彼がギルドに持ち込んだ訳ではない。依頼を提出したのは、口述を伝え聞いた彼の妻であった。冒険者達は、その女性の住所をギルド員から聞き出すと、さっそくその住所に向かった。
 彼女は、パリの郊外に住んでいた。依頼人が収容されている教会からそれほど離れていない距離に在る。
 失礼の無い様に、彼女と会話するのは、冒険者達の中で最もゲルマン語に堪能なアリスティド・メシアン(eb3084)が担当した。他のメンバーでも簡単な日常会話は出来るのではあるが、より高度な言い回しの会話に対して心細いからであった。
 依頼を受けた事を告げ、依頼人と会いたいと願うと、彼女は依頼人が収容されている教会の名前と、依頼人の名前を冒険者達に告げた。今回の依頼の件は教会にも話を通してあるので、自分の名前を出せば依頼人に会わせてくれるでしょうと言った。
 彼女は元シスターで、依頼人の介護を続けてきたのだという。
 今でも依頼人の傍に常に居たい気持ちは強いのだが、生計を立てていかなければ二人が生活出来なくなってしまう。夕方には自分も彼に会いに行くが、今は用事が有る為同行出来ないとの事だった。

 彼女と別れ、冒険者達は教会に向かった。シスターの一人に尋ねると、依頼人の元まで案内してくれた。依頼人は、教会の奥の個室、元々は何かの目的で使われていたのだろう、療養するには充分な広さの部屋に居た。
 冒険者達を代表してアリスティドが、依頼人に依頼を受ける旨を伝えた。依頼人は寝たままでの非礼を詫びながらも、冒険者達に心からの感謝の気持ちを示す。自分はこの様な状態の為、人に頼るしかない。本来自分でやるべき内容の頼み事に快く協力してもらえるのは本当にありがたいと思っていると、依頼人はしみじみと語った。
 早瀬さより(eb5456)は、いたわりの言葉と共に、依頼人に秋咲きの薔薇の花束を渡す。依頼人は花を鼻に近付け、心を癒す甘い香りを楽しむと、近くに居たシスターに花瓶に生けてもらう様頼んだ。
 さよりは、依頼人の体の状況を尋ねた。皮膚の傷はほとんど目立たなくなる程治ったが、モンスターの攻撃を背中に受けて怪我したのが原因だったのか、その頃から手足の自由が利かなくなっていると、彼は答えた。誰かの補助が無ければ身体を起こす事も出来ない状態だと言う。
 さよりは、話題を変え、彼の意思を確認した。これから探す人が現在どの様な状態にあるか分からないが、依頼人はどのような状況も受け入れられるかどうかと。彼は、しばらく沈黙したのち、さよりを見つめ深く頷いた。

 冒険者達は、依頼者の妻が夕食と着替えを持って教会を訪れるまでの間、教会に滞在し細々とした事を依頼者から聞き出した。その後、ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)以外は冒険者ギルドへと戻る。ポーラは、クレリック独自のルートでの情報収集を始めた。
 ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)は、2年前大きな怪我をして戻って来た冒険者に覚えがないか、ギルド員に尋ねて回った。しかし、ギルド員の記憶は曖昧であった。以降に起きた出来事の強い印象が2年前の記憶を薄めてしまったらしい。
 ユーフィールドは、ギルド員に、依頼者から聞き出した『神聖暦999年8月』に行われていた依頼を取りまとめてくれる様頼んだ。
 通常の業務が終わってからの対応という事で、報告書を受け取るのは明日になった。ポーラが戻って来たのをきっかけに、冒険者達は、アリスティドを除き、それぞれの自宅へ帰っていく。アリスティドは、通りの端に座り、歌を奏で始めた。

 そして、次の日。
 ポーラを除く冒険者達がギルドに集まった。ポーラは、何らかの情報を得るべく今日も教会へと向かっていった。
 ギルドに居る冒険者達の目の前に、報告書の束が置かれた。依頼数自体はそんなに多くない。だが、それぞれの依頼毎に、どのような問題をどのようにして解決し、どのような結果を得たかを、何らかの問い合わせ等に応じられる為の充分な文章量で記述している為、全体としてはそこそこのボリュームがある羊皮紙の束になっている。
 まずは、さよりが聞き出した依頼人の名前の名前がある報告書を探す。報告の内容についてその正当性を保証する目的で、報告書には依頼の参加者の名前が記されている。手分けして、羊皮紙の束から依頼人の名前を探した。
 ほどなく、2つの報告書が抜き出された。
 その2つの報告書からジャパンの女性らしき人物の名前を探し出す。
 念の為ギルドにそれぞれの身元を問い合わせ、最終的に、候補は2人の女性に絞られていった。
 一方の報告書に書かれていた名は『ツルギ キク』、もう一方の報告書に書かれていた名は『クサノ コハル』。
 どちらの女性が求める人なのだろうか?
 アリスティドは2つの報告書を読み進めたが、依頼者が負傷したという記述は見つからなかった。依頼解決には影響しなかった為、依頼解決の為の行動の結果としては記載されなかったからなのであろう。
 ただ、報告書内にある日付の記述を見ると、依頼人が最後に会った人は『ツルギ キク』になると思われた。
 アリスティドが報告書を調べている間、さよりとユーフィールドは、ギルド員に袴姿のジャパンの女性に心当たりが無いか聞いて回っていた。しかし、数多くの冒険者を相手にする為か、各人と公平に接する為個々の印象は強くは覚えない為なのか、故にはっきりとした情報は得られなかった。
 しばらくして、ポーラが戻って来た。教会に依頼人を運び込んだのは体格の良い男性だったそうで、ジャパンの女性らしき人が教会に現れたかどうかは、はっきりしなかった。その様な話ぐらいで、有益な情報となるものは得られなかった。もっとも、教会経由で情報が得られるならば、教会に居る依頼人が先に消息を掴んでいるのだろうが。
 ギルドに、ここ最近の依頼書の控えを閲覧出来る様に頼んで、この日は解散した。

 翌日。
 渡された依頼書の控えに目を通す冒険者達。一枚の依頼書に目が止まる。
 殺人後逃亡した人間の拘束であるその依頼の参加者の名前の一つに『ツルギ キク』の名が有った。
 ギルドに確認すると、この依頼は、あと2日で終了する予定らしい。2日後に報告の為に『ツルギ キク』という女性が戻ってきたら、会いたい者達が居るので、ギルドで待ち合わせて欲しい、とその女性に伝える様にギルド員に依頼して、冒険者達は解散した。
 ポーラは教会に戻り、依頼人に状況を伝えた。依頼人の表情は、戸惑っている様な、それでいて喜びを隠し切れないものの様にポーラは感じた。

 そして、2日後。
 ギルドの隅でじっと待つ冒険者達を、ギルド員が指差した。その指の先を見た女性は、しとやかに歩き、冒険者達に近付いてきた。
 女性は冒険者達の目の前に立つと、無言で会釈をした。
「貴方は、ツルギ、キク、さんでしょうか?」
「はい」
「会っていただきたい人が居るのですが」
「ええ。承りました」
 剣 きくは、落ち着いた口調で受け答えし、終わるとただ静かに微笑み、ゆっくりとお辞儀をした。

 その日の夕方。
 アリスティドは、通りの片隅に座り、歌を奏で始めた。
「会えない人が居る。会わない人が居る。
 人は過去に生きるべきか。前を向いて生きるべきか。
 想いは前に進む力となり、捨てられぬ過去は思い出となる。
 心はただひとつ。出会えば、人は皆同じ。

 迷う人が居る。断ち切ろうとする人が居る。
 人は自省に生きるべきか、時の癒しを願うべきか。
 想いは求め人を呼び、癒しの心は巡り合う。
 心はただひとつ。刹那の出会いでも」