自虐姉妹現る!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月18日〜07月23日

リプレイ公開日:2007年07月27日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 七月某日、曇り。
 だんだんと暑さを増していく京都も、日差しがなければ気温が大分違う。
 行楽するにしても仕事をするにしても、熱くもなく寒くもないこの陽気は歓迎すべきものであった。
 そしてそれは、ここ、京都冒険者ギルドにおいても変わらない。
「いやぁ〜、ちょっとじめじめしてますが、日差しに焼かれないと言うのはいいですねぇ♪」
 京都冒険者ギルドの職員、西山一海。
 今日も自分が担当するスペースで呑気に茶など啜っているが、これでもきちんと仕事はこなしているらしい。
「なんのッ! 心頭滅却すれば火もまた涼しッ! 暑さなど己の魂で扇ぎ飛ばすのみッ!」
「‥‥そんなことができるのは城さんだけです(汗)」
 一海の横に座り同じく茶を啜るのは、同じくギルド職員の大牙城。
 頭部をすっぽりと覆う虎の顔の覆面を常時着用している変わり者である。
 二人はここ最近噂になっているある人物たちについて話し合っているようだ。
「確か、若い女性の二人組みなんでしたっけ? しかも結構美人だって聞いてますけど」
「噂ではなッ! 蝗蹴(ホアング テイ)と蝗殴(ホアング ツォウ)という、華国から渡ってきた拳法家だというッ!」
「苗字が一緒ですね。姉妹さんでしょうか」
「らしいッ! 京都内を無計画に歩き、基本的に面倒くさがりらしいがそのときの気分で喧嘩をふっかけてくるようだなッ!」
「危なっ! 迂闊に声をかけると怪我じゃ済まないタイプですか。しかし、なんでそんな人たちが日本に‥‥」
 蝗姉妹の詳しい経緯などは不明だが、一般人にも怪我人を出すことがある要注意人物であることに違いはない。
 しかし、なんだかんだと面倒くさがりながらも人助けをしたりする辺り、根っからの悪人ではないのだろう。
 もしかしたら故郷の華国で何かあり、やさぐれてしまったのかもしれない。
「今回の依頼は、京都内のとある長屋の皆さんからです。その姉妹が長屋に住んでいるそうなんですけど、やっぱり噂が災いしてか出て行ってくれということになっちゃったんですね。しかし、二人はそれを拒否。長屋の方たちではどうしようもないので、冒険者の皆さんに追い出してもらおうということになったらしいです」
「むぅッ‥‥それはなんというか、いまいちやりにくいなッ!」
「そうですけど、噂を聞きつけて見物に来たり、報復に来たりした人たちと長屋内で戦って、他の民家に被害を出しちゃったりもしてるみたいですし‥‥。まぁ、蝗姉妹のお二人が悪いわけじゃないんですけどね」
「仕方あるまいッ! ここは一つ、引越しをしてもうことにしようッ!」
 翌日、蝗姉妹を長屋から追い出す旨の依頼が冒険者ギルドに並ぶこととなった。
 果たして、穏便に追い出されてくれるものかどうか―――

●今回の参加者

 ea0927 梅林寺 愛(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●間違いだらけ(いい意味で)
 郷地馬子(ea6357)‥‥。とっても逞しく男前だが、これでも花も恥らう乙女。
 その馬子は、‥‥今、長屋の姉妹の姉を前にし、
「‥‥な、なんという『乙女力の波動』だべ‥‥!」
 かつてない戦慄を覚えていた‥‥。
「わざわざ異国の地にきて、深い理由もなく周囲に迷惑をかける行動を取ることがある、か‥‥同じジーザス教徒が世を騒がしている身の上としてはあまり偉そうなことはいえない気もするが、わざわざ他国まできて騒ぎを起こすのは感心しないな」
 と、華麗に郷地をスルーするカノン・リュフトヒェン(ea9689)。
 勿論、この二人が嫌いあっているとかそういうわけではないのだが、ツッコミを入れて自分が郷地のワールドに引き込まれるのが嫌だったのであろう。
「噂によると少々変わった方とのことですが‥‥冒険者にも個性的な方は多いですから多少のことでは驚きませんよ」
 はっはっは、と軽快に笑うのは、神島屋七之助(eb7816)。
 新撰組七番隊組長の谷三十郎と仲のいい、珍しい陰陽師である。
「みゃあ。テイさんとツォウさんに、笑顔と新居をプレゼントなのですよ♪」
 頭には市女笠を深々と、顔にはくろやぎお面を被り、着物の上から薄絹の単衣を羽織った梅林寺愛(ea0927)。
 お面で顔は見えないが、極上のスマイルであろう事は声のトーンから容易に想像できる。
 そして、
(「‥‥子猫っぽいな‥‥」)
(「子猫のようですね‥‥」)
(「まるで子猫だべ‥‥可愛いべなぁ‥‥」)
「みゃ? みなさんどうしたのですよ?」
 妙に小動物っぽく、周囲を和ませる雰囲気を持った女性であった。
 閑話休題。募集された人数よりも大分少ないが、戦わずにすまわせても問題ない依頼なのでなんとかなるだろう。
 一行はそんな風に考えながら(不安を誤魔化したとも言う)、件の長屋へと到着した。
 見回してみると、ごくごく普通の庶民的な長屋である。
 子供が駆け回り、その母親らしき人物が洗濯をしていたり、井戸で水を汲む若い女性等々‥‥。
 話を聞いていなければ、ここに問題となりそうな住人がいるとは思えないくらい、和気藹々とした長屋だった。
「すまないが、冒険者ギルドからの依頼で来た。例の、ホアング姉妹の家はどこか教えてもらいたい」
「あーあー、あんたらが。おーきになぁ、ウチらホンマ困ってますのんよ。まぁねぇ、あの娘らも悪い娘らやちゃうんやけど、長屋全体の評判に関わる問題やおまへんか? そうそう、この間もな、よその長屋の奥さんが‥‥」
「あ、あのー。申し訳ないんだべが、場所だけ教えてくんねぇべか。あんまり騒ぐと困るんだべよぅ‥‥」
 カノンが話しかけた気風のよさそうなおばさんは、想像通り人懐っこい笑顔で応えてくれた。
 しかし、早く本題に入って欲しい4人に対し、とりとめのない話題が続いてしまいそうだったので郷地が止める。
 下手に騒がれて、ホアング姉妹に警戒されても困るのだ。
 とりあえず姉妹が長屋にいることと、彼女らの家の場所だけ教えてもらって、一行はおばさんと別れた。
 呑気な長屋の住民たちは、お世辞にも困ったようには見えないのだが‥‥まぁ、切羽詰らなければならないほど厄介な人物ではないということはなんとなくわかる。
 何人目かの住人とすれ違い、会釈をした頃、ようやくホアング姉妹の家へと辿り着く。
「ここのようですね。お二人は‥‥中にいらっしゃいます」
「じゃあ早速お伺いするのですよー♪」
「待って下さい。まずは私に御挨拶させてください」
 そう言って、神島屋が戸をノックすると、中からゆっくりとした足音が聞こえる。
 ゆっくりというか‥‥かったるそうな感じと言った方が正解か。
 すーっと戸が開き、長い黒髪の女性が顔を出す。
「お初にお目にかかります。長屋の方々の代理としてまいりました。つきましては御相談したいことがありますので一席設けさせて頂けないでしょうか?」
「‥‥‥‥」
 いきなり戸を閉めるような真似こそしなかったが、その女性は神島屋とその後ろの3人を見比べ、軽く溜息をつく。
 すると、戸口に立っている女性と色違いの武闘着を着込んだ女性が奥から出てきた。
「あんたたち、冒険者だね! 長屋の連中、冒険者ギルドに依頼を出してまであたしたちを‥‥!」
「‥‥いいわよねぇ、あなたたちは‥‥。私たちと同じような生活してるくせに追い出されたりしないものね‥‥」
 いきなりネクラなオーラ丸出しの表情と発言に、4人はちょっと引き気味である。
「のっけから危惧したとおりか。お前たちな―――」
 カノンが何か言ってやろうとしたのを、郷地が制した。
 真面目な表情で、冷や汗まで流しつつ‥‥ホアング姉妹と相対する。
 流石のカノンも、その緊張感に黙るしかなく‥‥やがて重い沈黙を破るように、郷地が呟く!
「‥‥なんて悲しみと憂いを湛えた瞳をしているんだべ‥‥。ハッ、まさか! この人が伝説の乙女真拳の継承者なんだべか!?」
「どんだけなのですよー!?」
「と、とにかくですね、私たちは手荒な真似をしに来たのではないのです。ほら、その証拠に人数も4人だけですし」
「みゃ? それはただ単に集まりが悪―――もがもが」
 梅林寺が余計なことを言いそうだったので、カノンがその口を塞ぎつつフォローする。
「そういうことだ。立ち退きの要求をするからには引越し先も目星を付けてあるし、酒の席も用意した。せめて話だけでも聞いてもらいたいものだな」
「ぷはっ! 私達の一芸、御覧になって欲しいのですよ〜♪」
「お酒、たくさん用意したべさから、飲みながら話しさすっべよぅ」
 4人の申し出に対し、ホアング姉妹の反応は対照的だった。
 即ち‥‥反抗と諦め。
「ふざけないで! なんであたしたちがあんたたちなんかに施しを受けなきゃなんないのよ!?」
「‥‥いいじゃない。私たちはどうせ闇の住人‥‥堕ちる所まで堕ちたのよ。断る理由もないわ‥‥」
「う‥‥ね、姉さんがそう言うのなら‥‥」
 かくして、計画通り場所を移して酒の席が持たれる事となった。
 ホアング姉妹‥‥このまま素直に立ち退き要求を受け入れてくれるといいのだが―――

●賭けてみる?
「いや〜負けました(苦笑)。え、あの程度の技を見切るのは造作もないと!? 悪いことは言わないからおやめなさい、身ぐるみ剥がれても知りませんよ?」
「だ、誰が! 武闘家の動体視力を甘くみないことね!」
「さぁ、それでは勝負なのですよ♪」
 ざわ‥‥ ざわ‥‥
 最初は居心地が悪そうにしていたホアング姉妹だったが、4人がフレンドリーに接するので次第に緊張を解いていった。
 とはいえ、それだけでは転居をする理由には至らないと踏んだ神島屋と梅林寺は、イカサマ博打を仕掛けてホアング姉妹を任し、言うことを聞いてもらおうと画策する。
 冷静な(というか気だるい)テイの方は引っかからなかったが、沸点の低いツォウはあっさり誘いに乗ったのだった。
 神島屋はわざと負けて見せ、ツォウを勝負に引っ張り込む役であり、お金はちゃんと後で返してもらうのだが。
 梅林寺の目の前に置かれた2つの球と3つの器。彼女の持つ隠密としての能力を総動員し、時に死角に潜り込ませ、時には2人の注意を一点に集中させ、器の中に隠したと思い込むように思考を誘導する。
 要は2つの球の場所を言い当てるのだが、その2つの球は器の中には両方ないということだ。
「むー‥‥一つは横に置いてある市女笠の中なんだけどなぁ‥‥もうひとつは‥‥うーん‥‥」
 梅林寺にしてみれば、片方見破られただけでも驚きである。
 これでもう一つ当てられてしまったら、いくら宵越しの銭は持たない主義の梅林寺であってもさくっと素寒貧なのだが、元来の素質か性格の割りと博打に熱くなるタイプらしい。
「何なのですよ‥‥この感覚‥‥。やっぱり、博打はヒリつかなきゃ嘘なのですよっ‥‥!」ざわ‥‥ざわ‥‥
「ぐっ‥‥! 馬鹿なっ‥‥! なんで分からないっ‥‥! なんでこのあたしが見破れないっ‥‥!?」ぐにゃあ〜
 二人の間にだけ妙な空間が展開され、それはさながら賭博の真剣勝負。
 他の面々はもちろん、けしかけた神島屋も入り込めやしない。
 一方、テイの方は‥‥。
「乙女真拳の継承者が、なんでこんなところで燻ってるんべさよぅ?」
「‥‥何よ、乙女真拳って‥‥」
 酔って泣き上戸が入った郷地に詰め寄られ、溜息を吐いていた。
「‥‥まさか、失恋。失恋なんだべか!?(涙ぐむ)」
「話を聞きなさい」
 ごっ!
 あまりに鬱陶しかったので、座ったままの状態から器用に蹴りを放ち、郷地を撃沈する。
 悪意は感じられなかったので、カノンも取り立てて止めなかった。
「‥‥で? 結局お前たちはどう生きたいんだ? 生い立ちなど知る由もないし知りたくもないが、不幸など所詮『不幸どまり』だ。『運が無かった』を言い訳に実力で幸を取りに行かなかった己の問題点を見据えない理由にはならないと思うが‥‥少なくとも、今回の引越し話は己の振る舞いから出た錆だろう? そういう難癖をつけられない身分になってしまえばいいだけのことだ」
 一緒に呑んでみて分かったが、テイは何でも悪い方向に考えがちだが、全く道理が通じないわけではないらしい。
 それを悟ったカノンは、神聖騎士として、ストレートに道を説く。
 彼女等の曲がった性格を考えると、返ってこういう風に直球でものを言ってもらった事がないのではと踏んだのだ。
 ちびちび酒を煽りながら聞いていたテイだったが、不意に先ほど郷地に見舞ったような鋭い蹴りを放つ!
「‥‥私たちが何も努力しなかったとでも? 運なんてはなっから信じていないのよ、私たちは」
「‥‥だが、お前は蹴りを止めた。これで耳に痛い話をする私を蹴り倒すようならお終いだと思って避けなかったが、中々どうして。闇の住人というわりに案外可愛いところがあるじゃないか」
「‥‥‥‥本気で蹴るわよ」
「ふ‥‥冒険者にでもなってしまえばいい。同じ気ままでも、こちらの方が幾分か気楽に生きられるぞ」
「‥‥‥‥考えておきましょう」
 体勢を戻し、再び酒に戻るテイ。
 カノンも微笑んで、撃沈したままだった郷地を起こす。
「で、あなたがたはいつまでやっているおつもりですか?(汗)」
(「勝つっ‥‥! 勝つのですよっ‥‥! 例えイカサマであろうとも、勝てばよかろうなのですよっ‥‥!」)
「落ち着けっ‥‥! やつの思考を読めっ‥‥! どうすればあたしをハメ安いとあいつが思うかっ‥‥!」
「呑むべ呑むべ! 呑んでぱーっと失恋なんて忘れちまうべよぉ!」
「‥‥もう一度蹴り倒してやろうかしら」
「‥‥勘弁してやれ‥‥」
 かくして、とある夏の夜は過ぎていく。
 数日後、ホアング姉妹の冒険者街への引越しと、二人が冒険者になることが決まったと報告があった。
 ねじ伏せるだけが冒険者ではない。
 勿論、力を行使しなければいけない場面はいくらでもあるが、そうしない努力も必要である、と。
 そう学んだ4人と、ホアング姉妹であった―――