おいでやす、冒険者体験ツアー御一行様
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月05日〜08月10日
リプレイ公開日:2007年08月12日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「‥‥はぁ‥‥」
京都冒険者ギルド職員の西山一海は、自分の担当スペースで大きな溜息をついた。もちろん勤務中である。
それを見ていた彼の友人、アルトノワール・ブランシュタッドが心配そうに声をかけた。
「あ、あの‥‥一海さん? ど、どうか、しましたか‥‥?」
「‥‥アルトさん‥‥さくら茶、飲みたくありません‥‥?」
「は、はい? 桜茶って‥‥も、もうずいぶん、季節はずれ、ですけど‥‥(汗)」
「桜茶じゃありません。さくら茶です」
「‥‥???」
「あー、気にするなアルト。これは一海君たまにが起こす病気だ」
「‥‥病気‥‥???」
ますますわけが分からず、アルトノワールは困惑する。
一方、アルトに注釈をした藁木屋錬術は、おもむろに一海の隣に座ると、諭すようにしながら説教を開始する。
しかし一海は全く聞いておらず、一人でブツブツと何やら呟いていた。
「はぁ‥‥あのバッテンがまた可愛いんですよねぇ‥‥。今頃は遠い空の下で、いい人でも作っちゃってるのかなぁ‥‥しくしく‥‥。早く帰ってきてくれないかなぁ‥‥」
「‥‥言って分からないやつにはこうだ」
口の端を引きつらせた藁木屋は、両拳で一海の頭を挟み、全力で捻りを加え続ける。
通称、ウメボシと呼ばれる荒業であった。
「あだだだだだだだだだだだっ!? はっ!? わ、私は一体何を!?」
「正気に戻ったかね?」
「は、割と。お手数おかけしました」
「‥‥ど、どんな会話、ですか‥‥」
アルトに一般的な感想を述べてもらったところで本題に入ろう。
「今回の依頼はですね、京都の観光協会の方々からの依頼です。最近、『冒険者体験ツアー』なるものを企画したらしくて、それに用心棒兼インストラクターとして本職の方々に手伝っていただきたいとかなんとか」
「また怪しい旅行だな‥‥」
「まったくで。主旨は単純、『冒険者を生業にする気はないけど冒険者っぽいことをしてみたい』という人たちを集めて、弱いモンスターをいじめ‥‥げふんげふん、退治してみようというものです。ちなみに今回は茶鬼退治だそうで」
「た、確かに、強くはない、モンスターですけど‥‥素人が戦うのは、やっぱり、危険‥‥ですよ‥‥」
「そのための冒険者のみなさんです。ツアー参加者にお手本を見せると共に、危なそうなら助けてあげてください。参加者には子供もいますので、もしかしたら後の後進を育てることになるかも知れませんし」
「ならばそういう名目で、冒険者を目指す人だけを募集すればいいものを。物見遊山の手伝いは色々どうなのだ?」
「チッチッチ、分かってませんね藁木屋さん。それじゃ商売的に儲けが少ないでしょう」
分かったような分からないような理屈だが、商売と言う観点から見れば正しいのかもしれない。
冒険者にハプニングは付き物だが‥‥このツアー、果たしてどうなることやら―――
●リプレイ本文
●ツアー開始
「ムーフーフーフー。未来のリトル冒険者に勇気と希望を与えるネ♪ ミーはチルドレンのアイドルネ〜♪ 未来のリトル冒険者にスマイルをプレゼントヨ〜♪」
「武器の扱いに不慣れだと、誤って自分自身が怪我しちゃうかも知れないし、戦い方が分かってないと、味方同士でぶつかり合っちゃうかも知れないからね〜。まずは説明を聞いてね」
「僕からは心構えを。『カッコよく戦おう』なんて絶対に考えないでくださいね。駆け出しの人に多いんですけど、実力に合わない事を無理にしようとすると、逆にカッコ悪い上に怪我してしまうこともありますからね」
「はいはーい、御飯ができたわよー。屋外での自炊も立派な冒険者体験の一環よ」
某月某日、晴れ。
汗ばむ陽気ながら、絶好の行楽日和といった日和の中、冒険者体験ツアーは開催された。
直射日光がギンギンの下、丸ごと猫かぶりを着たサントス・ティラナ(eb0764)が参加者を纏める。
そして、本多文那(ec2195)が参加者に武器の初歩的かつ基本となる使い方を教授。
ツバメ・クレメント(ec2526)は茶鬼との戦いに備えての心構えの注意。ちなみに、彼女はシフールの女性である。
日下部明穂(ec3527)を筆頭に、2組居る家族連れの奥様方にも手伝っていただき、御飯も振舞われていた。
参加者たちは思ったより真面目に各講義を聞いており、和気藹々とした中で順調にツアーは進んでいるように見える。
しかし、一部の冒険者たちにとってはそれが逆に不安であった。
「‥‥(ぼそ)ど素人の面倒なんてぇ、見きれないってかんじぃ‥‥」
「中には楽しみたいだけの人もいるんだろうけど、そういう人達も含めて冒険って楽しいものなんだよって感じを示したいね。こういうことをきっかけに将来の冒険者が増えてくれるなら嬉しいな」
マアヤ・エンリケ(ec2494)の言うことはわりともっともである。とはいえ、トゥ(ec2719)の言うように新しい才能の発掘や冒険者の理解に繋がればそれはそれでよいのだが。
それよりも何よりも、参加者の誰もが気付いていない『ある事』が問題なのだ。
「‥‥彼等は分かっているのか? 自分たちがやろうとしていることは、一方的な虐殺であろう」
いつの間にやら偵察から戻ってきていた久喜笙(ec3500)が、木に寄りかかったままぼそりと呟く。
色んな意味でぎょっとしたマアヤとトゥであったが、一緒に居た建御日夢尽(eb3235)だけが冷静に切り替えした。
「‥‥言ってやんなよ。連中は楽しんでんだ。ついでに、教えてやってる4人もな」
「ちょっとぉ、虐殺ってどういうことぉ?」
「‥‥相手はさほど強くない妖怪である上に、こちらの方が数は倍近く、しかも本職の冒険者である我々が控えているのだぞ。これが人間相手なら虐め以外の何物でもあるまい」
「あ‥‥。で、でも、相手は妖怪だよ? 普段はあの人たちが虐げられる側なんだし‥‥」
「普段虐められているから、自分たちが強い立場になった時には虐め返しても構わないと? ふん、合理的ではあろうが、随分安い考えと言うものだ」
「だーかーら、やめとけってんだ。お前の言ってることは正論だが、今議論することじゃねえだろ」
「‥‥承知」
すっ、とその場を去る久喜。付かず離れず行動しながらも、きちんと参加者のフォローはしてくれるので問題あるまい。
やがて、昼食も食べ終わったツアー参加者と冒険者は、いよいよ茶鬼退治に向ったのであった―――
●ツアー本番
一行が茶鬼と遭遇するのに、そう時間はかからなかった。
茶鬼たちは2〜3匹で固まって行動しており、一行は1グループを倒したら次のグループに向うという手法を取る。
トゥ、ツバメ、姿は見えないが久喜の三人がそういう風になるよう予め茶鬼を分断してくれたからできるのだが。
「ミー自慢のシャイニングパワーでイチコロヨ〜♪」
「それじゃぁ、真夏の水芸いってみるぅ?」
「今だ! 小太刀組み、右の茶鬼に一斉攻撃! 遅れんなよ!」
サントス、マアヤ、建御日が戦闘補助及び指揮を行い、今のところ怪我人も出ていない。
やはり本職の冒険者が一緒と言うこともあり、ツアー参加者が茶鬼を恐がる様子もないのは僥倖である。
参加者たちは所詮素人で、建御日たちから見れば危なっかしいには違いないが、思ったよりはよく戦っていた。
「心配していたほどじゃなさそうね。子供もよく頑張ってるもの」
「そうだね。楽‥‥とは言わないけれど、やりがいのある仕事かも」
日下部と本多は、各々薙刀やライトロングボウで補助に回る。
こちらからやりすぎず、茶鬼に手を出させすぎず、程よく参加者にヒーロー気分を味わってもらっているようだ。
「さっきの話じゃないけど、このツアーで変に自信をつけて、『自分は茶鬼なんて楽に倒せるんだー』なんて考え出す人、出ないよね? あたい、ちょっと心配になってきたよ‥‥」
「一人くらいいるんじゃなぁい? この楽勝ペースはぁ、あたしたちが気を配ってるからだぁってわかってる人ばっかりじゃないでしょうしぃ。ま、終った後のことなんてぇ、しったことじゃないってかんじぃ」
「さ、最後にもう一回、釘を刺すことにしますね。それで死んじゃう人が出たりしたら、教えた意味ないですから‥‥」
マアヤ、トゥ、ツバメは、順調過ぎるくらい上手くいっているこのツアーに不安を感じ始めた。
これは勿論、事前にしっかりプランを立て、フォーメーションなどを話し合った冒険者たちの功績に他ならないのだが、上手く行き過ぎた故の『人の慢心』まではどうしようもない。
「‥‥その歳で命を奪うことを覚えるか。さて、それがよい学びとなればいいのだがな‥‥」
木の陰から手裏剣などを投げて参加者の少年をフォローする久喜。
大人同伴とはいえ、まだ十歳程度の子供が刃物を持って戦うのはあまり感心できるものではなかった。
「オゥ、ボーイ! 中々スジがいいヨ〜♪ 頑張ればミーのようなグッドな冒険者になれるアル〜。ムーフーフーフー」
「つか、ほんっと怪しいよなおまえは!? その格好はなんとかなんないのかよ、緊張感ねえな!」
「ノンノン、セニョリータ夢尽。『ますこっと』の存在は重要アル。バトルの雰囲気をライトにするヨ〜♪」
「そのライトってぇ、『明るい』んじゃなくて『軽い』って意味じゃなぁい?」
「ヒジョーにキビシー! アル!」
悪い方向にばかり考えるのもよろしくはない。
良くも悪くも、サントスの存在は周囲に明るさをもたらしており、ある意味マスコット的な存在と言えなくもない。
まぁ、外見は非情にアレだが。
「その一匹で最後だよ! 最後まで油断しないのも冒険者の心構えだから、しっかりやろう!」
「あたいが撹乱するから、ロッドとかの長物持ちの人、よろしくね!」
そして、恙無く茶鬼の撃破は終了する。
怪我人もなく、ツアーは大成功といっていいだろう。
冒険者諸氏には物足りないかもしれないが、こういう仕事もあるということである。
‥‥と、必ずしも綺麗に纏まるとは限らない。
予想だにしないハプニングは、一行のすぐ傍まで近づいていたのだった―――
●ハプニング
「‥‥何!? 気をつけろ、大月輪熊が出た!」
「オオツキノワグマって、ノルマン語で言うと何ですか?」
「オゥ、ジャイアンとベアー! あれは結構ストロンガーヨ〜!」
「区切る場所間違ってない? そんなことより、速くツアー参加者を下がらせて! 補助しながら戦える相手じゃないわ! 建御日君、トゥ君、前に出て! 罠があるほうに誘導するから!」
「作ったけど結局使えなかったあれだね。お任せだよ!」
久喜が森の奥から真っ直ぐ近づいてきた大月輪熊を発見し、一行に伝える。
騒ぎを聞きつけたのか、茶鬼の血のにおいをかぎつけたのかは不明だが、とにかく予定外の強敵の登場である。
日下部の音頭でフォーメーションを組み直し、サントスがツアー客を下がらせようとする。
しかし、茶鬼退治で自信をつけたのか、何人かが手伝うなどと言い出した。
「っざけんな! ありゃあ素人がいたら足手まといにしかならねえ相手なんだよ! 死にたくなきゃ下がってろ!」
「そうです、『ヤバくなる前に退け』って建御日さんに教わったでしょう!? 後は僕たちに任せてください!」
ツバメも、その小さな身体で霞小太刀を持ち、大月輪熊に突撃する。
相手の攻撃は意外と鋭く、ツバメやトゥでも回避には細心の注意が必要。
無用な怪我を控えたい一行は、じりじりとクマを罠地帯に誘導する。
本当は茶鬼を引っ掛けようというつもりでトゥの音頭で作ったのだが、意外な相手にしようすることになりそうだ。
「まずい、クマの足って意外と速いんだ! 日下部さん、狙われてる!」
「えっ!? くっ、速い!?」
本多の忠告を受けて振り返った日下部は、どんどん距離を縮めてくるクマに戦慄を覚えた。
もうそろそろ罠を張った地域のはずだが、そこまで逃げ切れない!?
「仕方ないわねぇ。季節外れのぉ、吹雪ってどぉ?」
「ポイントアタック‥‥突撃!」
「‥‥援護する。ツバメ殿、当たるなよ」
波状攻撃でクマの速度を鈍らせ、また走り出す一行。
やがて目的の地域に到達した一行は、頷きあって散開する。
「ムーフーフーフー。シャイニングパワーをユーにもお見舞いするアル〜♪」
直進して逃げたサントスを追う事にしたらしいクマだったが、途中に儲けられた浅い落とし穴に足を取られて何度も転ぶ。
茶鬼であればかなり行動が制限できたはずだが、クマ相手では術発動までの時間稼ぎくらいにしかならないようだ。
もっとも、サントスの頭の上に置かれたライト(何故か妙に眩しい様な気がする)で、クマはかなり怯んだ!
「悪いがとっとと退場願うぜ‥‥!」
スマッシュでの攻撃を叩き込んだ建御日であったが、クマはまだ動く。
反撃しようと爪を振り上げるクマの前に、ツバメが割り込む!
「させません! っきゃあ!?」
なんとか霞小太刀で受けはしたが、あまりの体格差で弾き飛ばされてしまう。
木に激しく叩きつけられ、頭から血が流れる‥‥!
「ツバメさんはあたいが助けるよ!」
「‥‥援護する。本多殿クマを狙ってくれ」
「了解だよ! マアヤさんもお願い!」
「いいけどぉ、巻き込まれないようにぃ、前衛は離れなさいねぇ」
「建御日君、私が攻撃した後に追撃をお願いね。あなたが一番攻撃力があるんだから!」
「任せな! 次でぶった斬る!」
やがて、山に大月輪熊の咆哮が木霊し‥‥そして、聞こえなくなった。
●家に辿り着くまでがツアーです
「という風に、冒険者は常に危険と隣り合わせです。皆さんも、決して自分は強いんだなんて慢心せず、怪我をしないように生活してくださいね。僕からのお願いです」
頭に包帯を巻いたツバメの言葉は、ツアー客にしっかり受け止められたことだろう。
特に、一人の少年にとってはこのツアーが大きな人生の転機になったとか。
「ぼく、おおきくなったらおねえちゃんをまもれるようなぼうけんしゃになるよ!」
「くす‥‥頑張ってくださいね。期待して待ってますよ」
この少年が、シフールのツバメが小太刀を自由自在に振り回していたことがどれだけ稀有なことだったかを知るのに数年かかるわけだが‥‥それはまた、別の話。
兎にも角にも、冒険者体験ツアーは大成功であった―――